極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第23話 私情で行動するのはお互い様だな。だから今は関係ないんだよ

 

コズミック・イラ70年2月14日の深夜、ザナドゥ代表・クシーは度重なる心労により倒れた。

 

付き人であるベラ、否、ヴェラ・バリーナ・トルスタヤはこの事実を伏せた。

主人は心労で何時倒れても可笑しくなかった。それでも倒れぬ不屈の意思で耐えて来た。

ザナドゥ代表・『クシー』という偶像が、心労で倒れる事を我が主は許さなかった。

それ故に、ベラは断固たる意思で隠し通した。これは主からの命令であった。

……最後のトドメが親友の母親の死というのは素の少年らしい。

主の意思が固かったとはいえ無理を押し通すのを止めなかった己を恥じた。

 

ベラとしてではなくヴェラとして己の主の状況に対処する事にした。

一先ず、主を寝室に運んでいた。これ以上無い程に心労の原因は有り過ぎた。廃人になっても可笑しくはない。

それでも主は最悪に備えていた。……主が自分が可笑しくなった時の為にと用意していた資料は使える。

 

事案Xへの対応マニュアルは主、ザナドゥ代表・クシーが廃人になろうが引き継ぎ出来るようになっていた。

回復するまでこれで持たせろという指示書である。回復する気があるのが主らしい。

とはいえ、ベラではなくヴェラとしては……。

 

予定ではティモテに代行させる事になっている。主が決めていた事である。この場合の裁量はヴェラに託されていた。だからこそ介入する余地があった。

ティモテ・エペーが選ばれているのは立場は勿論、能力的にも経験や年齢的にもあった。

だが、ティモテ個人のクライン派とのコネクションがやはり大きかった。

僅かな関わりとはいえプラントとのコネが無いよりは良かった。ザナドゥは慢性的に人材が不足している。

クライン派とのこれまでの関わり、開示される内容はヴェラも全容は把握していない。

 

ラクス・クラインと秘匿回線で遣り取りする辺り、大分親密ではある。

当然だがティモテは知らない。卒倒しかねないが遣って貰う他ない。

南アメリカ合衆国のヴィクトリア・シュティーフェルを呼び戻すかも情報が開示されたティモテが決める事柄になる。

 

 

だが、ティモテにはクシーを強制的に休ませたと説明する。

主は未だ遣る気だろうが無理矢理にでも下がって貰う。ティモテでは『クシー』に押し切られる。

臨機応変に対応出来る能力が求められる。……長期間になればティモテでは心許ない。

ヴェラは能力だけ見れば長期的な代行は主の姉であるシグネ・アペッナ・リューリクの方が役に立つと考えた。

ティモテでは対応が難しいブルーコスモスへの対応も可能だった。

 

最早この状態の主を、弟を暗殺するなど言い出したらシグネは永遠に負けである。

シグネの事を主かそれ以上に分析出来ていたヴェラは状況を見て引き継ぐべきかと思案した。

最悪、シグネならば使い潰しても……と考えた所で状況が変わった。

ヴェラは自身の行動が間に合わなかったと悟った。

 

主を置いた寝室からヴェラの居る部屋にテレビ電話があった。

どうやら主が目覚めた様である。流石に早過ぎた。

……これでは主を隠居させられないではないか。未だ根回しも済んでいない。

 

 

『ベラ、ティモテへの引き継ぎを直ぐに撤回しろ。……姉を使い潰すとか考えていたらそれも止めろ。ちょっと頼みたい事が出来た』

主はベラに何時も通りに声を掛けて来た。……無理をしているのは明らかである。だが、『撤回しろ』と命令して来た。

……これでは逆らえない。そう最初に約束したのは自分だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

私はアスランからのメールを読んで気を失った。……失態である。

気が付いたら15日の0時になっていた。どうなったかと思えば寝室に運ばれていた。

……未だ其処まで時間は経過していないとベットの温もりで分かる。

私の体温から換算しても寝室に運んだ人物が移動してから其処まで時間は経過していない。

 

最悪の目覚めだ。私はレノアさんの訃報を知って様々な事に思いを巡らせた。

……あの人の事をプラントの最右翼、過激派の領袖であるパトリック・ザラの最後の歯止めと考えてしまった。

政治的な意味合いで友人の母の死を考える自分に気が付き絶望した。気付けば記憶が無い。

 

友人として悲しむとか労るとか其方が出て来なかった訳では無い。

……私は戦争に脳が支配されていた。ブルーコスモスの過激派と変わらないではないか。

 

 

「……戦争を止めると言いながら私はどうしてこうなった?」

私は深く溜め息を吐くのを自覚する。流石に参ってしまっていた。

 

何時もの様に切り替えが出来ない。思考が回らない。だが、現状を確認する必要があった。

 

「ベラが私の現状を見ている。今ならば余計な事を企みそうだ。……最初に私の手足となるとか何とか自分から言って来ておいて」

私は此処最近のベラは私に従っているが本心ではないと悟っていた。

……ベラから最初に約束したからだ。それを反故にする事を彼女自身が許さない。

だからこそ信頼していた。それ故に今の状況は不味かった。

 

「長期間の監禁か、クーデターか。長期的に見ればティモテではザナドゥは保たないだろう。であれば能力で考えると……姉を招かれると不味いな。私の代行が出来るとか言われたら否定し切れない」

私は『クシー』を封じようとするベラの行動を考えた。

今直ぐベラに声を掛けるが少し考える必要があった。私が倒れたのであればベラは隠れて遣る。

 

私はベラが姉と仲が良いと知っている。何だかんだで波長が合っている。

だから家を出る時に姉の事を頼んだのだが、ベラは私に着いて来た。

 

 

……だからこそ私は姉への遺言をベラに託さなかった。本来ならば元家令であるベラは最適な人材だった。

……遺書が漏れ出た今となっては意味が無いのだが。姉への遺言を託していたロリコンは未だ実家から脱出出来ないらしい。

頼みたい仕事も増えて来たのでそろそろ脱出して来て欲しい。能力ある人間を腐らせておく暇は無い。

姉があの糞を幾ら拷問しても出る物は無い。何なら遺言の詳細も知らない。

吐かないのではなく、奴に吐く情報がある程、私から信用されていないと姉も気が付いて欲しい。

あのロリコンは拷問されても変態だから問題ない。心置きなく使い潰せる逸材、無敵である。

奴は少なくとも、キラの事は絶対吐かない。アスランの事は覚える気が無いので覚えていない。

キラが18歳になったら平気で吐くだろうからその時はどうにかしないといけない。

……そういう意味では信用している。酷使しても私から今更逃げないし。

 

「フフフ……普段は糞みたいな奴だが役に立つではないか。キラは間もなく16歳だ。本気で危ない」

私は昔を思い出して少し気分が和らいだ。

 

キラに直接会わせない為にロリコンを地下牢へブチ込んだ思い出。

少女への盗撮で警察に捕まった糞をそのまま刑務所に入れておかないかとザナドゥ初期メンバー達で多数決を採った思い出。

国連事務総長の孫娘にストーカーを働いた糞をミサイルに括り付けてテロリストの拠点にぶち込もうとした思い出。

私が保護した、泣いていた孫娘を見た国連事務総長は本気で糞野郎を殺そうとしていた。

世界樹で政府高官の娘を口説いて何故か上手く行きそうになった結果、ザナドゥ結成前に外交問題になった思い出。

 

……碌な事しねぇな、アイツ。やっぱり処した方が良かったかもしれない。

コペルニクスで亡くなったザナドゥ初期メンバーのユーリはロリコンを殺したがっていた。

 

 

「……パトリック・ザラはアスランの父だ。プッツンだし、私に常に殺意剥き出しだし。……ナチュラルに寛容なレノアさんが居なければどうなるか分かったものではない」

私は政治的な意味合いではなく、アスランの父親としてパトリックが心配になった。

 

レノアさんの事は悲しいし、アスランも心配だ。

だが、あの後退するハゲである親父は妻を心から愛していた。

であるからこそ憎しみに囚われる事は必然である。

 

……何とかして止めなければレノアさんが悲しむ。私はキラより関わった機会こそ少ないが彼女の人となりくらいは知っている。

レノアさんには申し訳ないが流石に私にそれが出来るかは限りなく無理だ。

正直、内心でもプッツン親父を止められるとは約束出来ない。

……他人の私の言葉は恐らく殆ど届かない。最悪、遣り過ぎれば悪化する。

息子の友人として哀悼の意は送るが恐らく駄目だろう。パトリックの息子のアスランに期待する他ない。

 

……あの二人がガチで喧嘩すれば推測にはなるが或る程度改善すると見込んでいる。

時期や一線を超えれば思想的に殺し合いになりかねないが、悲しみを共有出来る今ならば未だ通じる。

……パトリックと深い仲では無いが既に沢山の仲間を失って来た私には近い感情は理解出来た。

……だからこそレノアさんの想いとは別に行くハゲ親父を何とか止めなければと思ってしまう。

私は初志貫徹している方向が平和だが、パトリックはそうではない。

だから其処は理解し合えないだろう。そもそもナチュラルである私では駄目だった。

 

私はパトリックとアスランへ哀悼の意のメッセージを送る事にした。

……パトリックは恐らく憎しみで私を核を撃ったナチュラル共の一人としてしか見ないだろうが。

アスランへは父親を見てやれという内容を送っておこう。

 

その為にはザナドゥ本部の施設が必要だった。

無線通信が未だ出来るのならばプラントにバレずにバックドアを使って一方的にではあるが、二人にメッセージを送れる。

 

「これでは私が倒れる訳にはいかないではないか。……ザナドゥとか抜きにしても」

私はベラに通信する事にした。クーデターとかするなという話だ。

 

余計な事を深刻に考えているのだろう。それをされては私が困る。……私人としてもである。

私はアスランの友人として先ず行動する事にした。

 

世界の破滅を憂う心はあるが、それは一旦置く事にした。

……そうしなければ今の私は駄目だった。

 

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