極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月15日、ユニウスセブンへの核攻撃は世界中に衝撃を与えていた。
ザフトによる核報復が現実味を帯び始め、地球では終焉の時の様にパニックになっていた。
核ミサイルを撃ち込んだのは誰だと騒ぐ者も居れば、この機に強盗を働く者も居た。
それは歴史的に見れば世が混沌とした時と同じであった。
世紀末や時代の節目に陰謀論が流行り出すのに状況は似ているが今回は現実である。
核で地球が焦土と化す事も十分有り得た。そうなると当然のように売れる物があった。
……核シェルターである。当然だが、戦争になろうとも其処まで備えている者はほぼ居ない。
富裕層の上澄みは当然の様に確保している。
然し、富裕層でも大多数は核シェルターを持っていない。
コズミック・イラの最後の核の誓いはそれ程重かった。
この状況で核シェルターを手放す者は居ないに等しかった。
一応、旧時代の核シェルターは未だ残っており販売されていた。最新でも70年前、その期間放置されていた廃墟手前である。
核シェルターの跡地で資料館や博物館と化していた物まで売買の対象になっていた。これらは整備し直せば未だ使える物もあった。
だが、それらは過去の再構築戦争を基準にすれば到底防げない様な物である。だからこそ放置されたり資料館や博物館と化していた。
ザフトの核報復が本気であれば、これらは核シェルターとして機能しないに等しい。
それでも核シェルターとしての原型が残っていれば即座に売れていた。廃墟でも一から作るよりは改修して又使えるようになる余地があるだけマシだった。
……そんな核シェルター未満の廃墟ですら庶民が何回人生を繰り返したとしても足元にすら届かない金額で取引されていた。
そして、この機を待っていたかの様に救いの主(詐欺師)が舞い降りていた。
『我々は過去、核戦争を生き延びました。それが今、この様な事態を招いています』
シグネ・アペッナ・リューリクはオープンチャンネルで地球上の国々、世界へ呼び掛けた。
シグネは富裕層から現状では正当な対価で金を巻き上げていた。
今、世界中の誰もが欲しい核シェルターだ。
その時が来れば、殺してでも奪うのが当たり前の何が何でも確保したい物である。
……彼女は最低ラインの核シェルターを世界中に築いていた。
弟と別れ、何年も前から名声を稼ぎ、売り飛ばす為にである。彼女はこの時を狙っていた。
粗製濫造という程ではない水準である。この場合、生きられるならば文句は言えなかった。
富裕層の中には未だ核戦争に間に合うと思い込み、土木業者を酷使して核シェルターを作成している者も多い。今後、労災が多発すると思われる。
それでも間に合わない場合の予備にと思っていた。実際、シグネが販売する核シェルターは独自に作れる財力を持つ者でも欲する程度には状態が良い物だった。
最低限の生命維持装置が稼働し、核ミサイルも理論上は耐えられる核シェルターである。
後に考えても正当な対価であり、騙された者も騙されたと気が付かなかった。
……本物の詐欺師の手口だと彼女の弟は称賛した。
その一部は市民向けにと解放していた。応募による抽選であるとはいえ無料である。
……その後の混乱までは対処していない。其処まで面倒見切れないという正論で押し切れた。
この時、リューリク家・当主であるシグネは世界各地から救いの女神として讃えられた。
核戦争の危機が去っても核シェルターと呼ぶにも烏滸がましい代物を売り付けていた者達と比較して評価は然程変わらなかった。
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私はザナドゥ代表・クシーとして現在、稀代の詐欺師である我が姉と会話していた。
「……これだから年増は」
身内の恥であるロリコンは姉へ暴言を吐いていた。……仕置が足りない様である。
「……愚弟よ。この者は要るのか?要らないならば処分するが?」
姉は私の様子を見て提案して来た。……困った事に魅力的な提案過ぎた。
「私だとそれなりに情が湧くからねぇ……」
私は本気で考えた。姉が18歳になった途端にこれである。
「恋のシンデレラとか上手い事言った気なのも気に入らない」
私はポツリと溢した。ロリコンの常套句である。
恋する対象の期間が短いのを例えているらしい。少し上手いのが本気でムカつく。
「待ってくれ!私はキチンと仕事をしたのだぞ!……後、カナードは何処だ?」
ロリコンはグラサンを外して自分を弁護する。
序でにカナードが居ない事を尋ねて来た。
……そういえばコイツはコペルニクスの悲劇からずっと私の実家に監禁されていたのだから知らなかったのだと私は今更ながらに気が付いた。
「今は戦場だ。後、彼女は一応別組織の傭兵だぞ」
私は姉が変な事を言う前に客観的事実を挟み込んだ。
ベラはクーデター未遂により現在謹慎中である。居たら面倒だった。
「ベラに呼び出されたかと思えば謹慎とは……今、私をあの女に会わせるのは不味いと見た」
姉はベラが居ない理由が気になるらしい。
カナードに関して追求するよりも其方なのはホッとした。やはり仲が良い。
「クーデター未遂で仕事は振っているが謹慎。其方こそ青瓢箪が居ないではないか」
私は状況を端的に説明しつつ、姉の方も実家の現在の家令が着いて来ていないのを指摘した。
「あの者はどう見ても病気だから休ませた。因みにあの者の妹が可愛い子でな……」
ロリコンが糞どうでも良い情報を言って来た。……青瓢箪の妹さんが心配で仕様が無い。
「何かあれば使い潰す気でいたが……無駄に優秀だな。この変態」
姉はロリコンを秘書代わりに使っていたらしい。実際、無駄に優秀だから困った。
「もうコイツはどうでも良い。……今、核シェルターを粗製濫造していた人員が余っているならば貸して欲しい」
私は姉に本題を切り出した。色々考えるのが面倒だった。
「面倒だからこのロリコンが姉の秘書を遣っていれば良い。その代わり人が欲しい」
私はやや正常では無い。だから簡潔に物申す事にした。
今、姉による暗殺があれば私は些か不味い程度には不安定である。チャンスだぞ?
「……其処までか。お前が私を素直に頼るなどと……ベラが居ない訳だ」
姉は私の様子を察したらしい。姉は何故か凹んでいるが無視である。
……無性に腹が立つが、丁度良かった。
私は怒りを堪えた。怒りというのもエネルギーが要るので中々続かないので楽だった。
「どうしたんだ、何時もの坊ではない様ではないか。……それと、この年増に回されるなど冗談では無い!」
ロリコンが煩いが無視である。コイツの希望が聞ける程余裕はない。従って、現在拒否権は機能不全である。
「今後、姉の抱えている核シェルターの技術者達は買い叩かれるだろう。労働条件も相応に考える。……姉が必要ならば一定期間が経過すればそれ以降は引き抜いても良い」
私は姉の抱える技術者達の今後を心配して言った。
これから核戦争にならなければ、起こりうる対策の為だ。
原子力発電停止及び通信網途絶があり得る。
それに向けた最低限の対策にはなりふり構わず一人でも最低限以上の技術者が欲しかった。
単純な人手は用意していた。ブルーコスモスのムルタ・アズラエルの元には暴れるような奴が沢山居た。
ザナドゥの治安維持活動で犯罪者として捕まえていた奴らを労働させる根回しはある程度済んだ。……後は技術者だった。
……これは私にもどうにも出来ない。才能ではなく数で対処する他ない。
実家の規模であれば数は居る。更に姉は世界中に売る為に核シェルターを作っていた。
現地でのノウハウを備えた人材だ。素晴らしい。
条件を良くして派遣先で少し変えた仕事をして貰うだけである。無理にとは言わない。
「この変態、確かに能力だけは使える。……今、手元に居る技術者達が他で使い潰されるよりは……」
姉は考え込んでいた。一人の優秀な人材と多く抱える技術者達と比較しているのだろう。
核シェルターを作成出来る技術者は今後高賃金で使い潰される。
姉は核シェルターを建造し終えていた。……現状、仕事が無いならば他で引き抜きがあるだろう。
この世情である。再起不能レベルで使い潰されると私は断言で来た。
「良いだろう。今のお前を相手にしてもつまらん」
姉は私の提案に同意した。……余計な一言である。
だが、
「助かった、有り難う」
私は素直に感謝した。今、機嫌を損なわれても困った。
普段ならば喧嘩の一つでも売るかもしれないがそういう気分にもなれない。
「……おい、変態。愚弟を休ませろ」
姉はロリコンに命令して来た。この私を休ませるとは何たる理不尽か。……私はキレた。
「……了解。悪く思うなよ、坊。君の姉君が悪いのだよ、姉君がっ!……」
私を捕縛しようとした恩知らずを間髪入れずに叩きのめした。
「体術の練度が甘い。姉の所で弛んでいたな?」
私はロリコンを足蹴りで飛ばして吐き捨てた。1分も持たなかったとは不甲斐ない。
「……何故、そういう事で元気になるんだ、お前は」
姉は私がロリコンに活を入れる様子を見て苦笑していた。
取引が成立したのだからセーフである。私は兎に角、眼の前の恩知らずをシバく事にした。
「ちょっと待て、坊!止めろ、元気なのは分かったから……何で元気に笑顔で殴るのだ、このサディスト姉弟が!」
ロリコンは理不尽な目にあったかの様に私と姉に呪詛を吐いていた。
……テメェを救い出すのにどれ程掛かったと思っているのだ。