極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月16日、月面基地プトレマイオスに地球連合軍が帰還した。
プラントとの緒戦が大敗北に終わっただけでなく、地球連合軍のMA母艦ルーズベルトは核ミサイルを使用した。
然もその対象は軍事施設でもなく只の農業用コロニーである。
軍の一部はブルーコスモスであり、その影響を受けた者も居る。
宇宙での核使用、コーディネイターを憎み、後先を考えない行動をする者達が居た。
それでも地球連合軍の大多数はブルーコスモスではない真っ当な軍人であった。
……この緒戦で戦死した者達は特にそうであった。
ブルーコスモス・過激派は自らの同胞を優先して撤退させていた。
他の派閥の主だった者達は緒戦、戦局において役に立たなかったとはいえザフトの攻勢に耐え、最後まで戦っていた。
……核ミサイルをユニウスセブンに発射されたザフト相手にである。
ユニウスセブンの件の知らせが来る頃には怒りのザフトが彼らを狩り尽くしていた。
緒戦においては無能だったとしても間違いなく勇敢ではあった佐官クラスの軍人の大半が戦死した。
彼らも教育を受けた佐官である。……ザフトの形振り構わない攻勢の原因を知っていたら撤退していた。
地球連合軍はこの戦争によって主流派と呼ばれた派閥が壊滅した。
MA母艦ルーズベルトのサザーランド大佐達、ブルーコスモス・過激派は緒戦に敗北した。
だが、自分達にとって厄介者を排除する第二プランは成功した。プラントが刈り取ってくれた。
……徒に味方を殺すという軍人に有るまじき作戦であった。
「不味いぞ。これは……」
デュエイン・ハルバートン准将はプトレマイオス基地に帰還した。将校用の個人部屋で詳細を把握した。
……この戦いの被害状況を確認して思わず口に出していた。幸いにも聞かれてもこれは問題ない。
「佐官が軒並み戦死したとあっては……」
地球連合軍・第8艦隊の司令官であるハルバートン准将は現状を嘆く形で誤魔化した。
ハルバートン准将から見ても主流派は『G』計画に反対するような無能だった。
然し、主流派は無能とはいえマトモな脳内、思想の持ち主だった。……その有力者がほぼ消し飛んだ。
これからの地球連合軍の軍事行政等を考えるとハルバートン准将は頭が痛くなった。
「佐官は軍隊の要だ。これからはますます大変になるな」
ハルバートン准将は脳内を整理して切り替えた。
今回の指揮は最悪だったが、上層部の軍政が原因である。ハルバートン准将からしたら人災に等しい。
佐官は最低限の指揮能力が保証されている人間だった。正規の訓練を受けた者達が消し飛んだ。
「唯一救いがあるとすれば、尉官は生き延びた者が想像していたよりも多い事か……」
ハルバートン准将は切り替えた頭で考え直した。幸いな事に正規の尉官教育を受けている者達が生き残っていた。
……少しでも才能があれば佐官として取り立てる様に働き掛ける事にした。
この際、ブルーコスモスでなければ自派閥で無くても良い。
「取捨選択の痛みはあるが、それでも必要な事だ」
ハルバートン准将は地球連合軍全体の為に自分の派閥の利を捨てる事を決意した。
その分、『G』開発に協力して貰う様に便宜を経って貰う。
戦争に勝つ為の兵器と軍内での政治で予算を取り合うのが地球連合軍の派閥だった。
ハルバートン准将はどうしようもない現状に溜め息を吐いた。
「然し、モビルアーマー『アルカ』か。メビウスパイロットの尉官達を助けたのがメビウスの開発者とは……惜しい事だ……」
ハルバートン准将は残念そうに溢してその場を後にした。
内心の憤激は言葉にする事で自分の中で収める様に努力していた。
……指揮官の一人として敗戦の後に政治を遣らなくてはならなかった。
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『G』開発に協力してくれる出資者達はハルバートン准将達に非常に協力的だった。
だが、ザナドゥ代表・クシーの参加だけは却下していた。
ハルバートン准将はクシーと一度だけ話した事があった。
地球連合軍以前、議会でMS開発が否決される前だった。
ハルバートン准将はその会話からクシーがコーディネイターのMSという偏見が欠片も無いと知った。
そして、クシーがMA至上主義でも何でも無いと理解していた。これが一番大事だった。
ハルバートン准将としてはMA作成に拘らない研究者が欲しかった。
世論においてザナドゥ代表・クシーは死の商人などと言われている。
だが、准将ともなれば政府や軍が彼の能力から無理矢理関わらせていたというのも知っていた。
ザナドゥ代表・クシーは唯ひたすらに戦争の被害を減らす為に動いていた。……その為ならばMSの開発もするだろう。
出資者達にMS開発には彼も参加してくれる筈だとハルバートン准将は説得したのだが、クシーのその姿勢が駄目だという。
……要するに『G』の出資者達は利益が出なくなるなら自分達は手を引くという事だった。
ハルバートン准将としても彼一人の為に協力出来ている現状を壊す訳にもいかなかった。
そして、今回ザナドゥ代表・クシーが開発したMAアルカは活躍していた。
……もうこれでは『G』への協力は申し込めない。ハルバートン准将は漸く諦めた。
尉官達は戦艦等の被害で見るとあり得ない程多く助かっていた。
アルカが保護した敗残兵達は撤退する戦艦に輸送されていた。
この為、メビウスのパイロット達、尉官が多く助かっていた。
だが、アルカは軍の制式採用ではない。制式採用を却下されたアルカは軍上層部からは『ゴミ箱』などと言われていた。
『言い方が酷くなるがゴミ拾い……敗残兵の回収が目的だ。つまり、だ。……今「ゴミ箱」という名前で認可したよな?良いから持たせろ、作らせろ』
当時のクシーは軍上層部にこの様な暴言を吐いたらしい。
クシーが量産中止命令が出る前に勝手に作ったアルカを地球連合軍関係者に無理矢理持たせたという話だ。
……地球連合軍の最後の生命線、尉官達の生存はほぼクシーの個人技の成果だった。
ハルバートン准将個人としては生き残らせる事に特化したMAとして評価していた。
だが、アルカは装甲をひたすら厚くして武装がほぼ皆無な箱物であった。一応、その巨体に見合わず速度はあった。その為、あっても邪魔にはならない。
ハルバートン准将も開発目的は賛同するがこれでは却下されると納得してしまった記憶がある。
軍上層部が無理矢理依頼したというクシーによるメビウスの追加改修も緊急脱出装置だと聞いている。
ハルバートン准将から見てクシーはパイロットを生き残らせる事を最優先で考えていた。
だが、彼、クシーはそれだけではなかった。
ハルバートン准将は撤退してから詳細を知ったが、クシーはメビウスのリニアガンの性能も上げていた。
リニアガンだけに絞って改修させた結果、戦争に配備されたメビウスの7割が改修済みだった。
既存のメビウスの量産ラインを弄らずにそのまま使用出来る様にされていた。
そんなリニアガンだったが、上層部は上手く活かせなかった。
……パイロットではないとはいえハルバートン准将にすらマトモに伝達されていなかった。
これでは改修させた意味が無いと軍内政治にハルバートン准将は激怒した。
ハルバートン准将が部下である数人にリニアガンの活用法を研究させるだけでパイロット達はもっと活躍出来ていた。
リニアガンが強化されたと知ったベテランパイロット達はそれまでの成果と経験から有線ミサイルを主に使っていた。
リニアガンではなく有線ミサイルの弾数を増やしてくれという事を言っていたらしい。
然し、新兵達は改修されたリニアガンの性能を活かした狙撃でそれなりの戦果を上げていたと報告されていた。
戦争を最も反対していた彼がそれでも被害を減らす為に施した改修や提案は成果を上げていたものの、軍内の政治によって邪魔されていた。
……本来ならばもっと活躍が出来ていた。
ハルバートン准将としてはこれでは彼に対して余りにも不誠実だと怒りを覚える。
……下手に接触すると出資者達を怒らせかねないので、彼がどう考えているかは仔細は分からない。
だが、ハルバートン准将としては現場で血を流す兵士達を救えたと感謝の一言くらいは言いたかった。
……戦争の早期終結を図る為にはプラントと妥協しても良いという考えの者達は軒並み戦死した。
ハルバートン准将からすれば地球連合軍はブルーコスモスの影響下に入ったに等しくなっていた。
然し、生き延びた者達も居た。本来ならば軒並み戦死していた真っ当な軍人達は、方舟を意味するアルカによって生き延びていた。
軍内政治に関与できる佐官ではなく尉官ではあるが、それでも生き残っていた。
戦争を忌避し、被害を減らす事に尽力したザナドゥ代表・クシー。
思想の異なる味方を敵として考えて排除する事を考えている地球連合軍の身内よりも遥かに貢献していた。
……この事実は皮肉以外の何物でもない。大人として情けないとハルバートン准将は憤っていた。