極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月16日の夕暮れ時、白髪の老紳士然とした男が護衛を伴って傭兵組織サーペントテールを訪問しようとしていた。
ジェントルマンに相応しいシルクハットに黒のジャケット、杖は間違いなく一本の木を丁寧に削った一品に漆の様な加工が施されていた。
その人物は出来て数ヶ月も経たない傭兵組織であるサーペントテールに依頼しに来たらしい。
身の熟しは格好だけでは無い。完全に服装に馴染んでいた。自分で言うのも何だがこの様な場に似つかわしくない程の気品をロレッタは感じた。
……彼はサーペントテールにとって大口の客になり得る人物だとロレッタ・アジャーは感じた。
ロレッタは飲んだくれの元地球連合軍・士官のリード・ウェラーを一旦引っ込ませた。彼の様子を見ておく様に6歳になる娘の風花に頼んだ。
何だかんだで情報源として頼りになるリードだが今は飲んだくれである。
間もなく遣って来る老紳士について知っている情報があれば吐かせたいが、リードとかいう飲んだくれ親父は揺らせば吐きそうであった。
腕は確かなサーペントテールではあるが未だ零細の傭兵組織。顧客とのファーストコンタクトが大切であった。
ロレッタとしては叢雲劾は頼りになるし、仕事も実直に熟す一流の傭兵だ。
だが、良くも悪くも劾には傭兵としての誇りがあった。
その為、各員の腕や仕事の達成率等に対してサーペントテールは未だ無名に等しかった。
何れ件数を熟して行けば間違いなく世界有数、いや世界一の傭兵組織になり得るとロレッタは思っている。
つい先日加入したイライジャも未だひょっこではあるが見込みがあるとロレッタは思っている。
15歳のイライジャ・キールはコーディネイターではあるが、ザフトに付いて行けずに逃げるように傭兵の世界に入った者だった。
イライジャは何も出来ないコーディネイターと自嘲するが経験して行けば良い。
自分に自信の無い者でも物事を経験して強くなれるとロレッタは自分の経験で知っていた。
そうこうしている内に老紳士が護衛を下げて此方に向かって来た。帽子を取って会釈までしている。
……距離からすると数百メートルはある。然も店内に居るロレッタの視線に気が付いた様だ。
劾はその様子からやや警戒したが、老紳士が此方に害意が無い事を示す為の誠意だと察した。
劾はあの老人が相当な修羅場慣れをしていると気が付いた。
傭兵として数々の戦場を体験して来たがあの様に自然体で振る舞えるのは優秀な同業者だ。
……にしては様子が可笑しいと劾は察した。だが、劾にもこの違和感が分からなかった。
イライジャはサーペントテールとして当然だが居合わせていた。
パッと見た印象であるが老人の振る舞いから孫の遣らかしを謝罪しに来ている様に見えた。
飽くまでイライジャの印象ではある。風花に軽く溢したらそんな訳あるかとドツかれた。
騒がしいガキ二人のじゃれあいで酔いから覚めたリードは脳の機能が回復した。
……そして、少し遠目ではあるが見えた老紳士の顔から情報を思い出した。
不味い。非常に不味いかもしれないと慌てた。然し、先にそれをロレッタや劾に伝える前に老紳士が先に入って来た。
「……失礼、ミズ。ミスタ。此方がサーペントテールで間違いないでしょうか?」
老紳士はロレッタと劾に声を掛けた。その振る舞いは優雅であり気品に満ちていた。
リードは地球連合軍の元士官である。クソッタレな地球連合軍をお然らばしてサーペントテールに入った。……だからこそ知っていた。
「はい、こちらサーペントテールです。御依頼でしょうか?」
ロレッタは客人として老紳士に声を掛けた。
老紳士の雰囲気に当てられたのかどうにも傭兵らしくないとロレッタは思った。劾は特に何も言わない。
「おいおいおい……いや、まぁそうなるのも仕方が無いけどよ」
リードは変な緊張感に少し和らいだが、ヤバい組織の偉いのが来たと悟っていた。
地球連合軍がザフトに対抗出来ている理由の一つである主戦力のメビウスの産地、世界各地に拠点を構える新興組織のザナドゥだ。部屋を隔てた先に居る老紳士はザナドゥのNo.2であるティモテ・エペーであった。
「何故、ザナドゥのNo.2が此処に……」
リードは完全に酔いから覚めていた。劾の腕は信頼しているし、ロレッタや風花も信頼している。
イライジャも……まぁ一応信頼している。これからである。 だが、若しも、ザナドゥと利害が対立したらと思った。
リードから見てザナドゥと敵対すれば非常に厄介だった。ザナドゥは治安維持活動といい、実際その通りに活動している。
「風花、少し其処で大人しくしていろ。イライジャも」
リードは二人に向けてそう言い、席を立った。リードと軍内の一部はザナドゥの脅威に気が付いていた。
……ザナドゥは世界中に最低ラインの軍隊を派遣する事が出来ていた。これは地球連合軍ですら無理であった。ザナドゥはあのパクリ野……オーブ連合首長国にまで合法的に存在している。
大昔からある様な組織ならば兎も角、ザナドゥは十年足らずでこれを成していた。
そんな今まで見た事が無い程に真剣なリードから異様な物を感じ取った二人は沈黙した。
だが、
「この度は……この度は、うちの代表が皆様に御迷惑を御掛けして申し訳御座いませんでした!」
老紳士、ティモテはサーペントテールの面々へ全力で謝罪した。それはもう教本になるくらいの謝罪であった。
「は、はい?」
ロレッタは老紳士の全力の謝罪に呆然とした。というか何かあっただろうかという感じである。
「失礼を。……私、ザナドゥ本部長のティモテ・エペーと申します」
老紳士ティモテは優雅な礼をサーペントテールの面々にした。
呆然とする彼らの様子を見てやや誤解したティモテは言葉を続けた。
「内の代表がサーペントテールに依頼の電話をした所、風花・アジャー様という方にお叱りを受けたから謝罪するようにと言伝されておりまして……本当に、何を遣らかしたのか……」
ティモテは本心からの謝罪と自分が謝罪した経緯を説明した。
クシーは風花というサーペントテールの職員に正論で説教されたので代わりに謝って欲しいとの言葉を残して北極へ旅立って行った。
つい先程、クシーはホッキョクグマ達を従えて彼らが何かを引き摺っている写真をティモテに送り付けていた。
『戦利品』というメールの題名から何かとんでもない物を持って帰る気なのが分かる。
サーペントテールからすれば風花は6歳の子供である。……自身にとって最愛の娘である風花が何か遣らかしたのではないかとロレッタは動揺した。
リードは何か思ったのと違うと拍子抜けした。バカバカしくて酒を飲みたくなった。普段と変わらない。
イライジャは自分が正しかったと6歳の風花を煽り、風花はあの馬鹿みたいな電話が本物だったと漸く気が付いた。風花は真面目に悪戯かと思っていた。
……子供にもそう思われる依頼をしたクシーが一番悪いのだが落ち着くまで時間が掛かった。