極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月16日、ザナドゥ本部・環境対策研究所管轄のベリコリスキー基地に私、ザナドゥ代表・クシーが来訪し、機密物資が運ばれようとしていた。
傭兵部隊Xと正規軍のザナドゥのシンパがMAアルカを『うっかり』北極へ投下した。
アルカは回収した敗残兵の生命維持に特化しており、大気圏から落ちても大丈夫な様に設計されていた。
大気圏に落下したアルカはオートプログラムで地上に軟着陸した。
……アルカは再構築戦争で荒れた北極の環境でも正常に動いていた。
これでアルカを採用してくれないかなと私は思った。……その場合はもう少し改良する。
私は緒戦は地球連合軍が敗北すると確信していた。アルカは敗残兵を回収する方舟だった。……その為だけに特化し過ぎていた。
私としても時間が無いから装甲を分厚くして機動力を特化した。武装に使うエネルギーを速力に振り切った。
私としては良くない使い方ではあるが質量と硬さと速度のあるアルカは体当たりでジンを倒せなくもない。更に武器弾薬、その他の輸送用にも使える代物だった。
戦場に雑に放り込んでも下手な戦艦よりも生存能力は高い。硬くて速いから有効に使ってくれと軍上層部に主張した。
其処までしたのだが、軍上層部からはアルカをゴミ箱とか言われて罵倒された。当時の私はついカッとなった。
お前らが負けるから最終手段として用意したゴミ箱だ、バーカみたいな事を言った記憶がある。
……当時の私は遣りたくもない兵器開発で疲れていた。
アルカを地上モードに切り替えて地上から少し浮かせた。中身だけで何十トンもあるジンだ。
どれだけの状態のジンが入っているかは機密性の高いザナドゥの工廠に着いてから確認する予定だった。
……私がアルカを弄っている間にホッキョクグマ達が運搬用の機材を玩具にして破壊した些細な事件が起こった。
私が自然の摂理をホッキョクグマ達に叩き込んだら言う事を聞いてくれる様になった。
体長3メートル超、体重1トンもあったボス熊を私が躾けたら群れの連中も手伝ってくれた。環境も狂えば生態も狂うのか、ホッキョクグマ達は群れる様になっていた。
人間よりも熊の方が優しいと私は感謝した。何処ぞの聖なる大地も見習って欲しい。
ボス熊は今は亡き飼っていたジャンガリアンハムスターのパンジャンドラム2世から名前を拝借し、パンジャンドラム3世と名付けた。
私はパンジャンドラム3世達の勇姿をティモテに見て貰おうと写真を送った。
ティモテは見てくれただろうか。風花という職員に謝罪はしてくれたか気になる。
メールは送付出来ても北極の環境では電話は難しかったので諦めた。
再構築戦争の所為で電波障害が頻発していた。まぁ、だからこそ北極に落としてと依頼していたのだが。アルカの有用性の検証と鹵獲したジンをコッソリ回収出来る。一石二鳥だった。
……問題は回収に遅れ過ぎると誰かに気付かれる可能性だが、此処北極まで進出している者は居なかった。
再構築戦争のせいである。本当に戦争とは碌でもないと私はため息を吐いた。
「ああ、違う違う。パンジャンドラム3世。君達が何かした訳ではないんだ。……早く運ばないといけないのは確かだが」
私はホッキョクグマのパンジャンドラム3世がビクついたので言葉を掛けた。
私の溜め息が怖かったらしい。人に慣れていないのだろう。
「グォ……グォオオ(ボスはお怒りだ。……皆の者、食われたくなければ急ぐのだ!)!」
パンジャンドラム3世は群れの熊達を落ち着かせようと声を掛けていた。
私はホッキョクグマの言葉が分からないがそうだろう。
……ホッキョクグマ達の行軍速度が何故か上がったが、まぁこれはこれで良いかと思った。
アルカは浮かせているので快適な北極探検だ。
嘗ての探検家達は犬ゾリにて北極や南極を探索したという。
彼らもこんな気分だったのだろうかと私は心を踊らせていた。
……私の場合は犬ではなく熊だが些細な違いである。
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ザナドゥ管理下のベリコリスキー基地はユーラシア大陸の北東方向にある北極海のアンジュー諸島ベリコフスキー島にある。
ベリコリスキー基地は表向きにはザナドゥの気象観測施設だ。北極圏の雷等の自然災害が頻発する地域でもある。
現在、公的には旧国連時代の取り決めにより発令された法文に基づいた観測施設が稼働しているのみだ。
自然発生的に電子パルスが起こり、落雷による被害や火災等が頻発して非常に危ない。
当然だが観光客は絶無である。航空機等も北極上空は飛ばない。
戦艦ならば辛うじて無事だろうが、それは国際法違反であった。
ザナドゥの基地があるベリコリスキー島は元は無人島である。
旧暦からずっと無人島であり、環境は過酷で人類は対策無しでの生存は困難であった。
公式的にはベリコリスキー基地は北極の気象観測施設として運用されている。
……実際に気象観測『も』されていた。
気象観測データは今は無き国連広報とザナドゥ公式に3ヶ月に一回掲載され、報告されていた。
旧国連時代からの観測施設以外は存在しないという事になっている。
北極や南極に関しては国際条約で基本的に不可侵という取り決めがなされていた。 ……というよりも現代では宇宙から観測出来た。
更に地上でも当時の観測技術程度の観測データならば観測出来る様になっていた。
ザナドゥが現在も行っている定期報告のような精度は無いが。
皮肉にも北極の重要性は再構築戦争による環境破壊によってほぼ無意味と化していた。
南極ならば未だ大陸という側面から活用法があり、現在も利害関係が発生していた。
北極は再構築戦争での被害から敬遠され、活用の見込みも薄い。過去に行われていた資源開発もおおよそ枯渇していた。
しかも北極の上空や海そのものはユーラシア連邦やスカンジナビア王国等の利害対立になりかねない。
現在の北極は政治的には面倒極まりないのに利益は無い。
北極にまで進出する理由も余裕も今の人類には無かった。
ブルーコスモスは環境保護団体が下地である。 この現状を嘆く老齢の重鎮達も居た。
そんな中、ザナドゥ代表・クシーは環境保護活動として最低限継続していた。
人は無くとも、金だけはあるとクシーが自称していたのは伊達ではない。
旧国連で再構築戦争前からある既存の設備の管理維持や従来の雇用継続等の手は打っていた。
利益が薄い環境保護活動への進出からブルーコスモス・環境保護派の重鎮達はザナドゥを支持していた。
環境保護派はもう何もしない、出来ないに等しい隠居老人達の集まりではある。
然し、盟主であるムルタ・アズラエルも無視は出来なかった。
それでも過去の人物と割り切っていた。本来ならば老人達からの主張は一応は聞くがなあなあで済ませられる程度でしかなかった。
それでも彼らの主張がザナドゥ代表・クシーにより実現、実行されれば老人達の声も大きくなっていた。
コズミック・イラ15年より前からブルーコスモスは存在していた。
コズミック・イラ15年にブルーコスモスはコーディネイターへの反対活動組織に転換した。
その前から在籍していた老人達である。現在80歳や90歳になる彼らは未だ存命だった。
ザナドゥ代表・クシーがブルーコスモスの老人達、環境保護派と結託したとアズラエルが思うのには十分過ぎた。
実際、クシーは環境保護派の老人達とは普通に仲良く接していた。
老人達の若い頃の武勇伝を聞いて育った彼は立派なテロリストハンターと化していた。
ザナドゥ代表・クシーは間違いなくブルーコスモスから発生していた。
……但し、時代が80年前のブルーコスモスであった。
老人達が辛うじて生き残っている絶滅危惧種から生まれたのだから既存のブルーコスモスとは最早別種であった。
……ザナドゥ代表・クシーが過去の遺産を引き継ぐとして北極関連等に関して姉では無く未だ彼がリューリク家の当主だった頃から関わっていた。
故に国連の北極関連の事業に追加で投資しても物好きとしか思われなかった。
クシーとなる前からそんな具合なので怪しむ者は居なかった。
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ザナドゥが管理している北極海の島にあるベリコリスキー基地であるが、当然だが旧国連がしていた活動以外の事を行っていた。
情勢が変わったとザナドゥ代表・クシーはブルーコスモスの環境保護派の老人達にも説明していた。
ザナドゥ代表・クシーが企画した何時ぞやの映画に参加したジャミトフ役やイゼルカント役だったりした老人達はそれに賛同した。
クシーには北極を汚すなと念押ししつつ、その裏工作に協力していた。彼らとしても地球を守るのであれば協力した。
ブルーコスモスの重鎮として環境破壊を引き起こす戦争に反対しているが、悔しい事に体がもう動かなかった。
彼ら環境保護派の声もアズラエルの小僧やジブリールの若造に掻き消されていた。
映画に出演したジャミトフやイゼルカントはクシーに託していた。
自分達の遺産を使えるなら使えと老体に最後の鞭を打っていた。
自分が体験した核戦争の再来など冗談ではなかったが、その後を考えている若者に託した。
ザナドゥ結成以前から北極の回復を目論んでいたクシーは環境保護プロジェクトを推進していた。
……結果的には無理だったが、その跡地は有効活用されていた。
ザナドゥの兵器工廠としてだ。最後のブルーコスモス・環境保護派であるクシーは老人達の遺産を使っていた。
ベリコリスキー基地、工廠にはユーラシア連邦に見せたくない兵器の試作品が転がっていた。
水中用のボールみたいなMAには魚雷と試作段階のフォノンメーザー砲が取り付けられていた。
MSジンはこの工廠で解析される事になる。軽く見たが既存技術で作られていて想像よりも模倣は容易い。
……問題はOSであった。キラが成長していれば多分ナチュラル用OSの開発も出来るだろうが流石にクシーには其処までの技能は無かった。
精々がクシーが使い易い様にOSを少し書き換える程度である。散々動き回っている身では勉強する余裕が無かった。
ジンに乗せてみて直ぐにある程度動かせる才能のある一部のナチュラルならば兎も角、大多数のナチュラルに合わせるとなると難易度が桁外れになった。
取り敢えず目的のジンを工廠の技術者に託した。クシーはベリコリスキー基地を後にした。
未だ未だ遣る事が多かった。MSの解析に関わっている余裕は無い。
17日までに戻れるか心配になって来た。後、サーペントテールが聖なる大地をボコしたか確認しなければならない。
気分を切り替えたザナドゥ代表・クシーは船舶の操作を構成員に任せて軽く眠る事にした。
……因みにアルカの中にはほぼ無傷のジンが三機収納されていた。
これは本当にザナドゥに送って大丈夫なのかと頼んでいた筈のクシーも若干心配になった。
カナード達は緒戦の詳細を知らないクシーの想像を余裕で超える大活躍をしていた。
大混戦で彼らが手に入れたジンは12機だった。撤退支援で持ち運べないからとアルカに一時的に味方から預かったジンもあった。……故に三機程度ならば問題なかった。
とはいえ、ほぼ無傷で鹵獲出来た三機のジンを渡して良いかは別であった。他を見れば多かれ少なかれ損傷しているが状態は良い。……ならばほぼ無傷で鹵獲したジンでも問題ないと開き直った。
開き直ったカナード達はバレない内にさっさと北極の目的地へ投下した。
彼女らからすれば核を防げなかったという思いもあった。
とても代わりにはならないが彼女らも何か代償行為を求めていた。
ジン程度ならば何機でも落とす勢いだった。
……流石に共に地獄を体験した味方の鹵獲した成果であるジンまでは落とさなかったのが最後の理性であった。