極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ55年、遺伝子改変禁止に関する協定条約、通称トリノ条約が締結された。
これは地球でのコーディネイター処置が禁止されたものであった。
…正確にはコーディネイター処置はコズミック・イラ16年に一度禁止されていた。
しかし、あってないような中身である先の条約に対してその条約は強い拘束力をもたせたものであった。
条約締結の理由に関して綺麗事は並んでいるが、ナチュラルのコーディネイターへの憎悪が反映された結果だった。
同年6月、コーディネイター処置を基幹産業としていたコロニー『メンデル』がブルーコスモスに襲撃され関係者が殺戮されるテロが発生した。
同様の事件が世界中で多発し世界の構造はナチュラル、コーディネイターとをますます溝を深めて分断していく。
…その中で生まれ出た異物は双方から存在そのものを無視されていった。
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コズミック・イラ63年3月、地球ユーラシア連邦の某所にて。
ユーラシア連邦はプラント建設の際に資金を拠出したプラント理事国の一つである。
所謂プラント利権により地球圏でも突出して栄えていた国であった。
しかし、プラント独立運動を端に発する利害関係の衝突からブルーコスモスを利用する形でプラントでのテロを支援しているのが公然の秘密となっていた。
そのブルーコスモスの”穏健派”とやらの呼びかけに応じて集まっていた者達は戦々恐々としていた。
…あたしもそうであるがここへ集まって来た者はもう後のない者達であった。
プラント理事国に住むコーディネイターは海外に伝のあるもの達や富裕層はとっくに出て行った。
今なお堂々とこの国に住めるのは既得権益とうまく折り合いできた隠れコーディネイター達であった。
偶に勘違いされるがコーディネイター処置そのものは中間層が少し無理をすれば届く範囲である。才能を複数持つような子どもにするには高額になるのだ。
はっきり言ってプラントにいるようなコーディネイター達は上澄みも上澄みである。
…人類総数およそ80億人、コーディネイターの総数五億人の中で厳選された6千万人と言って良い。
伝もなく厳選から弾き出されたコーディネイター達はたとえ死が身近なところであろうがそこに住む他になかった。
病気に強い子にしたい、一つでも確実に才能を持たせてやりたい。そんな子どもへのギフトとして願われた子らは今や世界の敵となっていった。
更にいえばその子の子、ナチュラルと変わらない生活をしていたコーディネイターとナチュラルとの間に生まれたハーフコーディネイターと言われる存在。
それがあたしである。能力は片親であるコーディネイターよりも劣り、片親であるナチュラルよりは優れている。要するに中途半端。
…融和の象徴などと平時では言われていたハーフコーディネイター。
中途半端な存在は今ではナチュラルからもコーディネイターからも排斥されるようになっていた。
その地獄の元凶たるブルーコスモスの一派であろうが、あたし達には最早すがりつけるのならばすがりつくしかなかった。
『国のお墨付きで公的な立場が保証される』
2年程前にあたし達の間で広まったのはとある噂だった。
曰く、ブルーコスモスの穏健派の大物が政争に破れた。
曰く、再起を賭けてとあるプロジェクトを始めた。
曰く、あのブルーコスモスの盟主アズラエルが黙認を決めた。
そのような曖昧な政争と曖昧な組織の噂、マトモな者達は無視を決め込んだ。
…だが、もう後がない者達はそれにでもすがりつくしかなかった。
会場の外ではユーラシア連邦の軍服を着た者達が私達を守っている。
言いがかりで私達を殺戮する側の人間達がその殺戮から守ろうとしている。
この十年程で嫌でも身についた感覚がそれは本心であるとわかってしまう。
…外にいる軍人はコーディネイターやハーフコーディネイターに差別感情を表に出さない程度には訓練されている。
裏にいる者がそれだけ手を回せるのだということは確実だった。
いったいこのような場に誰が来るのか。あたしはそればかり気にしていた。
1000人入るであろう場内はそれ以上の数が入っていたが、ようやくそれに気が回る程には急かされていた。
だが、それは裏切られた。
「えっ…これは…」
突如、会場に映し出されたのは『Xi』という文字だった。
…当然であるがあたし達程度には教えられないということか。
それはわかっていた。しかし、何時でも切り捨てることが…
そう思っていた。そして、再度それは裏切られた。
「総員、敬礼!!!」
場内にいるナチュラルの軍人全てがその文字に対して敬礼を捧げていた。
否、コーディネイターの親よりも視力が上という点だけは秀でていたあたしにはわかった。
場外の、どう考えても場内が見えない軍人もが心酔を隠さずに敬礼していた。
あたしは旧世紀の世界大戦の与太話を思い出した。
思想が違う者、人種の違う者すら妖しく惹きつけた天賦のカリスマ。
混沌とした世に現れる善悪問わない才の持ち主の存在。
「初めまして未来を担う方々。私はクシー。…Xanadu(ザナドゥ)へようこそ」
それは男か女かわからない中性的な声だった。
Xi、クシー。
Ξ(クシー)、14番目のギリシア文字を意味するそれは手書きにするとアジア共和国やオーブ連合首長国で使われる文字の”王”に見える。
声が加工されているのかされていないのかあたしにはわからない。
だが、すがるしかない私達にとってはその声は救いの主に他ならないように感じられた。
神なき世と言われる現代において神に比肩し得る存在に感じられた。
…それは錯覚だと思いつつもそう思いたくないあたしもいた。
月面都市コペルニクスにいる少年の感想
「なんだこの行き場のない人々の弱みに漬け込んで洗脳しているカルト宗教みたいなのは…」
解説
『ブルーコスモス穏健派』
本編に出てくる蒼き正常なる世界のために核ぶっ放すような奴らは過激派である。
一応設定上はいる存在であり、主要人物でいえばフレイの父親がそれに該当する。
宇宙で勝手にやっていろバケモノめ!から混血してコーディネイターが消えれば良いんじゃないとか言うのまで幅広い。
勘違いされやすいがブルーコスモス所属のコーディネイターもいる。
どんな形であれコーディネイターを抹殺しようぜ!というなら差別せずに同志足り得る懐の深い組織。それがブルーコスモスである。