極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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コズミック・イラ70年2月18日 喪服の独立宣言/シーゲル議長による積極的中立勧告

 

コズミック・イラ70年2月18日、沈黙していたプラントが公的に動き出した。

血のバレンタインの犠牲者達の国葬から始まる式典が催された。

 

 

「ユニウスセブンに居た24万3711人は戦争とは何の関係も無い無辜の民だった……」

シーゲル・クラインは公式に声明を発表した。

血のバレンタイン、地球連合による核攻撃によりユニウスセブンにいた民間人24万3711人が亡くなった。

 

「奇跡的に生き残った子供達は非武装のコロニーの外壁修復用の重機に乗り込んでいた。たった9人。それ以外は皆、亡くなった……」

核攻撃の悲惨な状況をシーゲルは語った。……本来ならばそこに1人が加わるはずだったがそこは伏せた。

子どもたちを救ったボールのような機体を動かしていた操縦士は現在意識不明であった。

プラント在住のコーディネイターなのは確かだ。だが、非武装のボール型の機体等プラントでは運用していない。……地球連合のMAではないかという意見もあり、操縦していた彼女は地球連合のスパイではないかと疑われていた。彼女を知る者は死亡したに等しい。調べようがなかった。

 

「我々は生きる為に地球連合と戦う事をここに誓う!犠牲を生まぬ為に我々、プラントは独立を今ここに宣言する!」

シーゲルは蛮行を成した地球連合への徹底抗戦を発表した。同時にプラントの独立を宣言した。

 

同時に地球連合非参加国には優先的に物資を提供するという積極的中立勧告を発表した。

地球連合が主張するワンアースを否定する矢が放たれた。オーブ連合首長国のウズミ・ナラ・アスハ代表の中立宣言は既に行われていた。

だが、シーゲルの主張はそれ以上の積極的中立勧告だ。困窮する非プラント理事国がプラントに味方するに等しい勧告だった。

 

……地球連合の当初の目論見であったワンアースが完全に破綻した。

とはいえ、プラントの積極的中立勧告によって無差別に核報復される可能性は低くなったと地球連合軍の一部では安堵の声もあった。

地球と宇宙の境目、カーマン・ライン及び大気圏内の制空権を確保していればプラントは核攻撃するにしても味方に等しい中立国を巻き込みかねない。

地球連合加盟国に核報復されれば地球全土に被害が出るだろうが、人類絶滅は避けられるとブルーコスモスではない軍人の一部は安堵した。彼らはプラントの見境が無くなる事を恐れていた。

だが、事前に中立宣言をしていたオーブ連合首長国等は例外としても今回のプラントの勧告に乗ればそれは地球連合にとっては敵に等しい状況となった。

 

ロゴス及び大西洋連邦は南アメリカ合衆国がシーゲル・クラインの積極的中立勧告に乗れば見せしめとして主権を剥奪する事を決定した。

……大洋州連合はすぐには対処出来ない立ち位置にいた。大西洋連邦以外の地球連合加盟国も南アメリカ合衆国がどう動くのかに注目した。

 

ユーラシア連邦や東アジア共同体等は仮にも国家である南アメリカ合衆国の主権剥奪までは考えていない。

だが、プラントの中立勧告に乗ればパナマのマスドライバーは大西洋連邦の国家戦略にヒビが入ると認識していた。

故に仮に中立宣言をした場合にそれを撤回させる圧力をかける為に奔走していた。

……地球連合と戦争をしたいのかという具合である。大西洋連邦のようにいきなり戦争を仕掛ける気はなかった。

 

大西洋連邦以外の地球連合加盟国はプラントと戦争しているのであって、地球の国家と戦争しているのではないと認識していた。大西洋連邦は自国に反する奴は敵として認識していた。

大西洋連邦は加盟国の配慮を無視して自国が地球連合の盟主であるとして振る舞っていた。

……大西洋連邦のボス気取りの余波に巻き込まれる側は堪ったものではなかった。

 

 

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大洋州連合は即断即決でシーゲル・クラインの積極的中立勧告に合わせて中立宣言を発表した。

地球連合よりも親プラント派だった大洋州連合は海に囲まれたオーストラリアやニュージーランドのオセアニア地域だった。

 

元々中立宣言をしていたオーブ連合首長国にも近いので非常に攻めにくかった。

国としてコーディネイターを公的に積極的に活用している。その為か優秀な人材の登用が進んでおり、非プラント理事国でも安定していた。

……反コーディネイターである地球連合とはそもそも相容れない立ち位置となっていた。

 

「我々は『最後の核』の誓いを忘れていませんし、そもそも戦争に反対しています。……戦争以外ならば協力も考えなくもなかったですが。とはいえ、この状況で中立である事を示す事は我が国では議論するまでもありません」

広報担当に任命されたラッセル議員は中立宣言に関してそう語った。

 

……個人的に含みのある発言をしたもののプラントの中立勧告に従って大洋州連合の中立宣言を公的に行った。

大洋州連合は非プラント理事国で、プラントが各国に行った制裁での経済的被害は殆ど無い。それに地球連合にとって攻めにくい土地である。

逸早く輸出入の規制を失くして自国の回復に勤める事は明白だった。

 

 

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その頃、南アメリカ合衆国政府では政府内でどうするか揉めていた。

 

……飴どころか鞭しかない地球連合に味方したくはない。

プラントとの貿易が再開すれば間違いなく、南アメリカ合衆国の経済は回復した。

それ以外にも優先的に配慮してくれるならば様々な恩恵があった。

心情的にはプラントの積極的中立勧告に従ってしまいたいと思っている。

議会は民衆の本心か現実かで揉めていた。幸福なのは議論が出来ることだった。

 

本来であれば国が困窮状態の為、プラントに中立宣言をして大西洋連邦に滅ぼされていた。

まだ余裕が辛うじてあるから南アメリカ合衆国は保っていた。

……ダウングレードとはいえスピアヘッド等を持つ南アメリカ合衆国は軍備が改善されていた。

国力差を考えれば南アメリカ合衆国を攻め滅ぼせるだろうが、被害を考えればしない方が良い。大西洋連邦は南アメリカ合衆国の決定を待つだけの躊躇をさせていた。

本来であれば国際的な森林保護を強制されている南アメリカ合衆国は国力差のみならず力をつけない為に細工されていた。

ザナドゥの事業で南アメリカ合衆国は国力にやや余裕が出来ていたが、プラントの制裁で減退した。

……それでも回復した国力がなければ大西洋連邦から問答無用で滅ぼされていた。

 

大西洋連邦の大物であるムルタ・アズラエルは軍事的な分野での才能において桁外れなクシーを見出していた。

クシー本人は望まない才能だが、戦略戦術武器兵器開発まで出来る傑物だ。

ロゴスと共にクシーが嫌がるのを無理やり『説得』して軍事産業に関わらせていた。

……ザナドゥの軍事産業進出がここに来て仇になるとはとアズラエル達は嘆いた。

 

とはいえ、クシーがいなければ今頃になってもMAミストラルが主戦力で戦う羽目になっていた。……ミストラルはカミカゼしたとしてもジンに効果はほぼない棺桶である。

MSジンの登場前までは主戦力で問題なかったが、ミストラルは今では民間の運搬用重機となっている有様だ。

クシーが不在ならばメビウスは完成していても主力に出来る程の量産はプラントの緒戦には間に合わなかった。総合的に見ればメリットの方が遥かに上回った。

 

ブルーコスモス・過激派の軍人ですらザナドゥ及び代表・クシーを評価せざるを得なかった。

同時にあの狂犬に首輪を付けている様に見えるブルーコスモス盟主・アズラエルに心酔していた。

大西洋連邦軍の分析によれば南アメリカ合衆国を攻め滅ぼす事は余裕である。

しかし、流石にそのような事をすれば自軍にも被害は出るだろうと予測されていた。

南アメリカ合衆国で警戒すべきはエドワード・ハレルソンとその部隊くらいである。

南アメリカ合衆国に駐屯しているザナドゥの部隊は戦争には関与しないと宣言している。

もしも敵対されれば非常に厄介だが、それはない前提で分析されていた。

 

 

そんな現状の南アメリカ合衆国ではプラントの積極的中立勧告を巡って激論が為されていた。

……大西洋連邦は滅ぼす気満々だが、彼らの中ではまだ何とかなると思っていた。

 

「国連の最後の公式通達では中立を明確にすれば間違いなく攻め込まれると警告されている!」

中立宣言反対派の議員は旧国連の資料を元に反論した。

南アメリカ合衆国政府は軍部と意見をすり合わせていた。当然だが、大西洋連邦との国境を最大限に警戒させていた。

 

「我が国にもスピアヘッドや潜水艦がある。持ちこたえればプラントの援軍は……」

中立宣言賛成派の議員は軍備の状況を持ち出した。プラントの援軍だよりである。

彼は中立宣言をして地球連合軍の攻撃から持ち堪える気であった。流石に地球連合軍がいきなり攻め滅ぼす事はないだろうと考えていた。

 

「「大統領!」」

両派閥は拮抗していた。……奇しくも南アメリカ合衆国の運命は大統領に託された。

 

「少し……30分程待って欲しい。だが、もしも。今すぐに大西洋連邦が侵略してきたら迎え撃つ。国を滅ぼす敵として、だ。南アメリカ合衆国の誇りをかけた戦いとなるだろう」

ピアソラ大統領は両派閥の意見を聞いた上で判断をしたいと一時休憩を申し込んだ。

ピアソラ大統領は気高く美しい女傑だった。国を憂いて行動してきたが万策尽きた状況だった。

 

南アメリカ合衆国はプラントの制裁と従来の国際的な森林保護の維持費により困窮状態だった。

それでもピアソラ大統領は国民に寄り添い続け、まず話し合いで解決しようとする姿勢から国民からの支持は絶大だった。

地球連合ではなく大西洋連邦が攻めてくると発言した。……もう方針は決まっているのだろうと議員や国民は察した。30分という時間が自分達の運命を分けると悟り待つ事にした。

 

 

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南アメリカ合衆国大統領執務室。自国の運命を決めると宣言してピアソラは人払いを済ませていた。

 

 

「はぁー……」

ピアソラ大統領は重圧から一時解放され、ため息を吐いた。

ピアソラ大統領はジャズを流した。作曲者はザナドゥの代表である。

ラテン・ジャズの明るい曲調、歌詞内容はややギャグテイストである。

国家の一大事を決める場に合っているかと言われれば場違いだった。……だが、ピアソラ大統領の脳内的には合っていた。

 

「どうにかならない?真面目にどうにかならない?中立宣言したら確実に死ぬとか言われてもさ、国民が二分されるってこれ!?」

ピアソラ大統領は曲を作詞作曲した相手に形振り構わずに泣きついていた。

その相手は当然のように大統領執務室に入り込んでいた。

 

「だから前から地球連合よりの中立にしておけと言っていたでしょうに」

ザナドゥ代表・クシーはピアソラ大統領に呆れて言った。クシー的には最適解を提案した。

しかし、ピアソラ大統領は良くも悪くも文化人であった。まだ話し合いで何とかなると色々先延ばしした結果であった。

 

「……血のバレンタイン以降、国民感情では地球連合に擦り寄る選択肢は消し飛んでいたでしょう。何とかするにしても時間が足りません。……正直、どうにかしろと言われても困るんですけど……」

クシーはピアソラ大統領が無茶苦茶を言うと指摘した。だが、クシーにはピアソラ大統領を見捨てる選択肢は無い。放置すれば碌でもない事になるのは目に見えていた。

徹底抗戦にしろ、地球連合に迎合するにしろピアソラ大統領が決めていれば、クシーも放置出来たがこの有様である。

ザナドゥのヴィクトリア以外には秘密だが、南アメリカ合衆国にはクライン派の隠れ里がある。

そこが消し飛べばシーゲルのナチュラルへの回帰プランは崩壊する。最悪パトリックだけでなくシーゲルも暴走しかねない。だからこそ最悪にならない程度に干渉していた。

 

「良くも悪くもカリスマがあったんでしょうね。今、貴方の決断で全てが決まりますよ」

クシーはピアソラ大統領をゴミを見るような目で見下しつつも評価した。

ピアソラ大統領は言葉だけは上手いのだ。平和な時代ならば間違いなく名を遺せただろう。

今は言葉だけでも想いだけでも駄目な時代だから最悪を引いたが。

ザナドゥが国防を強化した。聞く必要は無いがクシーの提案に乗っていれば今頃は地球連合に寄りつつもプラントの利益も受け取れるコウモリ外交が出来ていた。

……今の状況でも国民に被害を出す覚悟があれば国が無くならないように最低限の立ち回りは出来た。

 

「あー!あー!」

ピアソラ大統領はラテン・ジャズの曲のちょうど良いタイミングで発狂した。

タイミングがバッチリで合いの手に聞こえる。クシーには断末魔に聞こえる。

こう見えてもロゴスが支援していた大統領候補を打ち負かして大統領になった偉人である。

ロゴスからすればこの際、攻め滅ぼすしかないと決めてしまうのもわからなくもない実績の持ち主だった。クシーは歪な援助でロゴスの関与を悟っていた。勝ったのにこのザマである。

何だかんだでこの土壇場で30分間クシーと最後の相談が出来る余地を残していた。……能力はあるが現状と噛み合わない。

 

「こっちも忙しいんですよ。貴方個人の破滅ならばともかく、国民まで巻き込まれるから相談にも乗りますが。後20分ですが、今更私の言う事を聞くんですか?この段階で?」

クシーは駄目人間と化したピアソラ大統領に念のために確認した。

もうこうなると自分で何とかすると言われても困った。クシーの提案を大統領が自分で決めたと思い込ませる事にした。無理やりの無理やりを押し通す策である。……8割は上手くいく。

 

「…………国を滅亡させた大統領と永久に責め続けられるのでなければ悪魔だろうがなんだろうが乗るわ!」

ピアソラ大統領は悪魔の囁きに乗った。ピアソラ大統領も流石に自分の理想を貫いてまで国を滅ぼせなかった。

 

「では……国連に加盟しなさい。そして、地球連合に南アメリカ合衆国は国連加盟国ですが同盟できますかと提案して蹴られなさい」

クシーは滅茶苦茶な提案をしてきた。存在しない国連に加盟しろという。更に地球連合からその提案を却下されろとまで言ってきた。

 

「ちょっと待って!ねぇ待って!地球連合は国連の後継というスタンスよ!普通に喧嘩を売っているわ!?」

ピアソラ大統領はクシーの滅茶苦茶に流石にヤバいと判断した。……無理である。絶対無理である。

それでもクシーは言葉を続ける。ピアソラ大統領の意思表示を完全に無視していた。

 

「そうなったらプラントに擦り寄る姿勢を見せなさい。数日で良いから駄々をこねて騒いで時間を稼ぎなさい」

クシーはピアソラ大統領に出来る唯一無二のプランニングをしていた。

もう滅茶苦茶であるが一国の大統領が暴走すればアズラエルやロゴスは真意を探る。

……無意味な国連加盟というブラフで一時は時間が稼げる。

 

「ザナドゥとしては名前を勝手に使うなと言いつつ加盟には喜ぶ姿勢を見せます。間違いなく世界は一瞬とはいえ混乱するでしょう。……貴方の望みを最大限に叶えるならば、そこを突くしか無い」

クシーはピアソラ大統領の暴走で片付けると宣言した。

勘の良い者にはクシーの提案だと気づかれるかも知れないが公的には関係を完全否定する方針だ。

アズラエル達も責めづらい。認めればザナドゥの主張する国連を認めたことになる。

 

「……それって、貴方は全く損しないけど、私は恥を晒す事にならないかしら?」

ピアソラ大統領はクシーの提案を飲み込み始めた。

クシーは地球連合の大義名分を破壊しない範囲で国連傘下だったザナドゥの影響力を高めている。

……南アメリカ合衆国の国民はピアソラ大統領の醜態を見せつけられる。

 

「ピアソラ大統領の下で中立は無理だと南アメリカ合衆国の国民全員に知らしめなさい」

クシーはピアソラ大統領が取れる最適解を述べた。ピアソラ大統領の尊厳を犠牲にすれば何とかなった。

 

「それって国を滅亡させた大統領って言われないだけじゃない!?」

ピアソラ大統領は叫んだ。大真面目に国は滅びないだけである。ピアソラ大統領が責められるのは変わらない。

 

「後、10分。選べ。国が滅ぶか醜態を晒しつつ南アメリカ合衆国の名前だけでも存続させるか」

クシーはピアソラ大統領に選択肢を突きつけた。戦争しても勝てないし、今更地球連合に加盟するとか言っても国民が国を破壊する。

覚悟があれば国を破壊せずに出来ただろう。ピアソラ大統領は良くも悪くも国民を弾圧しない優しい大統領である。……そこだけはクシーも評価していた。

 

「……あー!!あー!!」

ピアソラ大統領は発狂した。だが、地球連合加盟に反対する国民勢力を武力で弾圧するよりは自分の醜態でクシーが根回しして収まるのであればと考えた。

 

……悪魔だ。悪魔の取引だった。ピアソラ大統領は自分の愚行を棚上げして悪魔の取引を持ち掛けられたと脳内で罵倒した。

 

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