極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月17日の夜、審査会でベラよりも叱られたザナドゥ代表・クシーは凹んでいた。
審査会で議論されたベラのクーデター未遂はクシーの働き過ぎを心配した物だと受け止められた。
審査員クラスの幹部としては、かなりのやらかしだが心情的には納得出来る。
彼女はクシーの提案通りに許されて身柄を解放された。しかし、別件でのクシーの問題行動は責められた。
クシーの問題行動とはガン研究のデータの流出である。しかも意図的に誰かに与えた。
核戦争間近でザナドゥが必死に取り組んでいる状況である。
赤の他人に丸投げしたとか組織人としてあるまじき行為だと叱られた。
……叱られただけで済むのはこれがクシー個人の研究が始まりだからである。
審査会の面々はメンデルから盗ってきたデータを見ていない。一部の審査員の中にはデータを見た者が居なくもない。
審査会のメンバーで不在の1割はメンデル関係が原因で休んでいた。それ以外は仕事である。
南アメリカ合衆国に居るヴィクトリアも最近は審査員に成っていた。南アメリカ合衆国内の混乱の鎮圧で忙しいので今回の審査会は欠席である。
メンデル関係で休んだ1割は全員コーディネイターである。
クシーがメンデルの探索を依頼した者達だった。
生まれについて葛藤のある彼らにはメンデルの資料はキツすぎた。
投薬や催眠療法での記憶の消去をしないでおきたいというのでクシーは少しでも彼らを休ませていた。
そんな結構ヤバいメンデルの研究も含まれているガン研究である。
それそのものはクシー個人とそれを補助するような形で研究者等で取り組まれていた。
クシーも忙しくなり多額の費用や人材が注ぎ込まれているプロジェクトは従来よりも停滞していた。今ならばヒト・モノ・カネが揃っていた。だが、戦争の危機は待ってくれない。
ならば他の誰かに託したいというクシーの思考は理解出来た。何より医薬学部門担当のミケランジェロがギリギリ許した。なのでクシーは叱られるだけで済んだ。
クシーに勝るとも劣らない才能を自負するミケランジェロですら、このままの状況では進まないと理解していた。
研究はクシーの異常発達した勘により最短で進んでいた。
尋常ではない速度で研究で発生した課題や問題を解決していけた。
今、クシーはそれどころではないので研究はあまり進まない。
クシーとミケランジェロは研究の過程にある膨大な選択肢をある程度絞った。
今後の研究は総当りすれば行けるだろう。もはやそれは才覚ではなく人海戦術になった。
ミケランジェロとしても可能ならば他に任せるのもありかと考え始めていた。
「だからと言って勘で何かあると感じた相手に研究資料を丸投げしたとか許されないのだけれどもね。……いや、本当にここだけにしてちょうだいな。外にチクる奴が居なくて助かったわ、本当」
医薬学担当のミケランジェロはクシーの問題行動に関して言うのをそれだけにした。
ミケランジェロは男性だが、口調がオネェと呼ばれる人種である。
別に同性愛の気があるわけではない。育った環境で口調がそうなっていたらしい。
別に深い意味はないという話なのでミケランジェロにオカマとか言うのは絶対NGであった。
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ザナドゥ代表の執務室に戻ったクシーはベラを傍に置いてパソコン越しに誰かと話していた。
絶望仮面というハンドルネームの相手である。
ベラが傍に居るが、ガンの研究資料を誰に渡したのかと聞いてきたので仕方がない。行為そのものには特に意味が無い事をぶっちゃける為に置いていた。
「というわけで研究の協力者には散々に叱られた。誰それに渡したとかは言っていないから安心すると良い」
クシーは絶望仮面と通信していた。クシーがチャットではなく通話機能を使う事は滅多にない。今回は実際に声を聞きたくなったというのがある。
絶望仮面曰く、今ならば通信出来るらしい。クシーの想像以上に深い所に居そうなザフトの軍人である。声を聞く事で情報や印象は変わる。今回は大事な話なので通話にした。
クシーはゲーマーのマイケル君から絶望仮面が散々騒いでいたのを報告されていた。
マイケル君は最近通信が上手く行かないからと言う理由で物凄い大金をザナドゥに提供してきた。
「マイケル君にも感謝して欲しい。彼からの報告がなければ忙しすぎて後回しにしていた」
クシーは現在17歳のマイケル君から聞いたから絶望仮面の相手をしていた。
本名でザナドゥのゲームをしているサムエル家の長男である。
マイケル君にはあの規模の額をつぎ込んだら大変な事になると警告したのだがもう殴られたからいいやと開き直っていた。クシーはマイケル君をある意味世界最強の男だと思っている。
『ああ、彼には私も感謝しているが……ってそうではない。真面目にあれに深い意味はないのだな?』
絶望仮面はクシーに自分にガン研究の資料をぶん投げて来た事について尋ねていた。
今更であるが絶望仮面が相当な軍人だとクシーは察した。
14日に血のバレンタインがあっても休暇を貰えるのは非常時に頼りたい軍人だからだとしても、17日現在まで時間が取れるのは相当無茶をしている。
……コネを総動員して時間を取ったようである。絶望仮面にとってあの研究はクリティカルだったらしい。
「断言するが深い意味はない。……ただ慌てようから推察するに研究を託すには良かったようだ」
クシーは意地悪い声で絶望仮面に言った。
無茶苦茶大変なのに絶望が世界に撒き散らすようなことが起こる度にこの仮面は散々煽ってきた。これくらいは許されても良いだろうとクシーは思っている。
「クックックッ…とか嗤い出しそうな悪役していますよ」
ベラはクシーへ突っ込んだ。悪人みたいな行動しまくるし、悪人みたいな言動をしまくる主だと思っていた。
それでもあからさまに表に出すとは件の人物と主は存外仲が良さそうである。ベラは純粋に驚いていた。
『……誰かいるのかね?まぁ、この規模の漏洩があったらお目付け役の一人や二人は当たり前だろうが』
絶望仮面は今更だがベラの存在を察して言った。別に聞かれても困る範囲で話してはいないので問題ないと互いに認識している。ザナドゥのゲーム公式ファン交流サイトは秘匿性とセキュリティが凄まじい。何ならクシーですらわからない程だ。
例えば利用者がブルーコスモス内にいるが周囲の殺意が凄いとか愚痴ってもどこの誰かわからない。管理者権限を持つクシーともなれば発言履歴を辿れるので推測はできるが、管理者としてできるのは行き過ぎたヘイトスピーチを止めるくらいである。
「……私が同じ事しても黙っているよね?」
クシーはベラに確認した。多分、ベラならば止めるがやらかしたらクシーが誰かに打ち明けるまで黙っている。
「決まっているでしょう。誰がそんな面倒臭いことをしなければならないのですか?」
ベラは主の問いを肯定した。なるべく止めるがそんな事態が起きたら面倒臭いにも程がある。
『……君の所にはマトモな人間は居ないのかね?まぁ、それはそれで好都合なのだが』
絶望仮面は呆れてため息を吐いた。絶望仮面は友人であるギルバート・デュランダルからの質問を纏めた資料を転送した。
……同時に絶望仮面のアカウントではない第三者のアカウントを提示してきた。
『失恋男』とある。凄まじい自虐だとクシーは思った。
『君が忙しいように私も忙しい。私の友人が偶々君のゲームアカウントを持っていた。友人のアカウントに質問の回答を送って欲しい。……友人は君の研究分野に近い天才だ』
絶望仮面はクシーにそう伝えた。ギリギリ間に合ったとクルーゼは安堵した。
明日は喪服の独立宣言がプラントで行われる。……流石のクルーゼもそれは欠席できなかった。
「……なるほど、わかった。明日にでも送っておこう」
クシーは絶望仮面から送られた質問資料を読み、相手が専門職の天才だと悟った。
質問が的確で無駄がなかった。テロメアに関しては他の研究が混ざっていないか等良く読んでいると感心する。
クシーもそこはメンデルの資料から引用していた。
クシーが考え込む様子を察したクルーゼは安堵した。取り敢えず要件を自分の用意出来る期間内に上手く済ます事が出来た。
デュランダルは出来ればクシーと話したいらしいが、それはクルーゼとしても忙しくなるので今は無理だ。
幾らクルーゼに私的な繋がりがあろうが、場を調整するのはやや厳しい。
クルーゼは研究者としてならば彼と会話出来るだろうとデュランダルに言った。
匿名アカウントでやり取りすれば良いとクルーゼはデュランダルに提案した。
クルーゼからするとデュランダルとクシーは致命的に相容れない一点があった。距離を置いて話す方が都合が良かった。
……クルーゼは無意識だが、自分よりもレイの事を優先していた。
世界の憎悪はあれども一時棚上げした。出世よりも休暇でレイの将来を考え、クシーの捜索を行う程度には愛があった。
……それを当たり前だと思い込む事でクルーゼは無意識にダブスタを取っていた。