極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第32話 裏で蠢く者共

 

コズミック・イラ70年2月18日、大西洋連邦軍による南アメリカ合衆国侵攻が止められた。

 

 

ピアソラ大統領が大西洋連邦軍が侵攻直前と主張し、その後ザナドゥ代表・クシーの『元テロリスト』達の再雇用の映像が映し出されていた。

大西洋連邦と南アメリカ合衆国の戦争を止める為に二人が繋がっていた事は明らかだった。

だが、ザナドゥ代表・クシーは頑なに大西洋連邦軍を元テロリストとして扱った。

地球連合であるユーラシア連邦に本部を構えるザナドゥである。

地球連合と交戦した事実を認めると国家反逆罪になりかねない。クシーはその最後の一線は超えなかった。

逆に言えばクシーはここまでしてでも南アメリカ合衆国の国辱の危機から救っていた。

南アメリカ合衆国の国民はクシーにより国難から救われたと認識した。まだ安堵は出来ないがピアソラ大統領が交渉してくれている。

 

南アメリカ合衆国の国民は公にこそしないがザナドゥに救われたと感謝した。

南アメリカ合衆国でもマスコミがザナドゥ代表・クシーへの憎悪を煽っていたが、直接救われた者が多い土地柄であったので無意味だった。

ロゴスにより作られた憎しみに囚われるよりも救われた恩の方が他の諸国よりも上だった。……今回は世論を動かそうにもかき消せなかった。

 

 

ロゴスは地球連合へのヘイトを躱す方向に切り替えた。クシーは彼らに言い訳できる逃げ道を用意していた。

大西洋連邦の独断である事実はそうだが、ザナドゥの公式見解は飽くまでもテロリストである。

南アメリカ合衆国との交渉のテーブルも丁寧に整備されていた。ここから無理やり軍事行動を取るよりも損は小さい。

……ギリギリ何とかなるがクシーにおもちゃのように振り回されたロゴスの面々は疲れていた。もうここまでやられると仮に排除できても問題になった。

クシーに直接核ミサイルをブチ込んでやりたい気持ちもあるが、ここまで用意周到に立ち回りされると自分達の方が消されるかもしれないと思い始めてきた。

……それは流石にあり得ないと理性ではわかっていた。ロゴスが滅びれば地球の経済を崩壊させる事になる。それはクシーだからこそ出来ない事だと認識していた。

 

「何なのだ、アイツは!?」

ロゴスの重鎮は思わず叫んだ。何故、世界を裏から支配しているロゴスが個人に振り回されなければならないのか。

……アズラエルが何故か自分達を微笑ましい者を見るような顔で見てくるのが怖い。

奇しくもロゴスはアズラエルがブルーコスモスに振り回されている状況と似始めていた。

 

「……」

アズラエルはロゴスの老人達がクシーに振り回されているのを見て微妙に親近感を覚えた。

アズラエルは大西洋連邦軍に同胞である地球の民に刃を向けるのかと強い批判をされていた。

デモンストレーションとして用意した侵略用兵器に欠陥があるとクシーから報告が来たので落とし所としてギリギリ許容した。クシーから送られたデータはこれ以上無い飴だった。

……アズラエルとしてもクシーの行動を知ってここまでするかと思った。

だが、現地の軍が南アメリカ合衆国へ領土侵犯するというミスがなければこうならなかった。現地の軍が悪かったとアズラエルは認識した。

ザナドゥは正式には大西洋連邦軍と交戦していない。何一つ破っていないので黙るしかない。

批判した上に作戦を台無しにした大西洋連邦軍に八つ当たりするくらいしか出来ない。

アズラエルはブルーコスモス・過激派にキチンと軍内統制をしろと厳命した。

アズラエルはクシーの動きを封じていたのに現場の粗を突かれたと素でキレた。

 

ブルーコスモスの過激派達は至らぬ身で申し訳ないとアズラエルに謝罪した。そして、盟主への忠誠心を高めた。

盟主が素でキレた結果、狂犬どころではない奴を枠内に嵌めていた事実を過激派は知った。

……盟主であるアズラエルがいなければ自分達はコーディネイターを滅ぼす前にあの怪物に狩り尽くされていたかもしれないと身震いした。

 

大西洋連邦はザナドゥ及び代表・クシーを処罰しようとすれば世界中から非難される。

内々に警告するにしても下手に刺激して事実を公開されでもしたら地球連合はともかく大西洋連邦は大変な窮地に陥る。

大西洋連邦からすれば今回の事件は国辱物だった。だが、ザナドゥに手が出せなくなった。

大西洋連邦・大統領は自分に命令してきたロゴスまでザナドゥに手を出すのを止めろとまで言う事実に驚いた。

大西洋連邦・大統領は聞いた時、耳を疑った。ロゴスが巫山戯ているのかと思ったが事実だった。

 

大西洋連邦・大統領は表の世界の最高権力者である。

それを裏から牛耳るロゴスがザナドゥないしクシーを罰しない。

 

……大西洋連邦・大統領はこの事実でザナドゥ代表・クシーに恐怖した。

大西洋連邦の大統領が特定個人を恐れていると知られてはならない。クシーに気取られないように今後は気をつける必要がある。

世界最高権力者である自分をすげ替える事すら造作もない連中を敵に回しているのに何のお咎めもないというのは恐ろしすぎた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

南アメリカ合衆国は旧暦時代から延々と続く風土病に悩まされてきた土地である。

その事実を誰もが知っていたが、見てみぬ振りをされてきた。

……南アメリカ合衆国の豊かな自然は国民にとっても誇りである。その自然が地球を生かしていると知っていた。

しかし、その維持を国際社会に強制されていた。強制されれば維持に注力しなければならない。

南アメリカ合衆国としても地域の末端にまで割く余力がなかった。自然を保護しつつ病気を根絶する。

南アメリカ合衆国にはその為のインフラ整備のノウハウも長期的な活動を継続する人材も欠けていた。

南アメリカ合衆国ではインフラ整備の人材を育成するための資金や研究する暇があるならば他に使われていた。

 

そこにザナドゥは世界的なインフラ整備事業を掲げてやってきた。

ザナドゥのインフラ整備は自然破壊にならないかと疑問を呈される事が初期にはあった。

ザナドゥはそれらへの回答として、審査会で顧問にブルーコスモス・環境保護派のイゼルカントを招いていた。

……ブルーコスモスの環境保護派がザナドゥの事業内容を保証しているならばこれ以上無い。

環境保護派の方針としては自然に人が入らないのが一番ではあるが例外もあった。

環境保護派は地球全土が汚染された再構築戦争後の自然の回復に努めた者達であった。

ザナドゥのインフラ整備事業は自然保護派のノウハウを活かした技術であった。

南アメリカ合衆国のインフラ整備も風土病対策も自然への影響を最低限で進められた。

 

結果、コズミック・イラ68年11月のペルー州を皮切りに各地で汚染された水道等が改善されていった。

これは旧暦以前でもなかった快挙であり偉業であった。

世界が戦争への闇に包まれていなければ祝福されていた事は間違いない。

ザナドゥはコーディネイターを多く雇用しているが、インフラ整備はとにかく多くの人間が協力しなければならなかった。

ナチュラルもコーディネイターも関係なく偉業を成した事を祝福されるべきだった。

だが、それはあってはならないとして握り潰されていた。

一族という存在に無意識に操られていたロゴスはあってはならないとした。

それが今、一時的に揺り戻しされようとしていた。

 

 

ザナドゥ本部の医薬学研究施設では一族の動きを警戒する者がいた。

 

「……特殊情報部隊が動き出してきそうだわ」

ザナドゥ医薬学部門担当のミケランジェロは世情の動きから推理していた。

……クシーが一族について気がついているのかわからないが、警戒するように仄めかすくらいは良いだろうと判断した。

彼、ミケランジェロは他の場所では『サー・マティアス』と呼ばれていた。

偽名だろうが関係ないで人材を発掘してくるザナドゥ代表はアクティブ過ぎた。

 

「もしもし、クシー。私だけど今大丈夫かしら?」

ミケランジェロはクシーを友人だと思っている。だから医薬学程度ならば協力していた。

自分を追放した一族に今では未練はないが、友人が不味い状況なのは放置できない。

人類の新しい可能性である彼を死なせるならば一族の方が滅びるべきとすら思っている。

 

だが、

「……えっ、大丈夫?地球連合には手を回した?……あら、そう」

ミケランジェロはクシーに自分の警告を先読みして言われた。

……これ妹に勝ち目がないのではないかとマティアスは思った。当主である妹は一族を継ぐ素質以外は自分よりも能力が下である。

 

「フフフ……何だか馬鹿らしくなってきたわ」

マティアスは言葉を漏らした。……リューリク家の今代であるクシーは突然変異種である。

マティアスは妹にバレないように一族の過去のデータの一部を抹消していた。

表舞台から消えていたはずの家系の一つ程度だ。わからないだろうが念のために行っていた。

 

「まぁ、まだ警戒は必要だわ。……領域がオカルトだから仕方がないのだけれども」

マティアスはクシーがまだ一族の全容は掴めていないと察した。……まだ勘で対処している。

恐らくはクシーは自分の才能を理解出来ていないのだろう。わからなくても仕方がない。

それでもクシーの勘は研ぎ澄まされていた。クシーは勘で対処してマティアスの反応で答え合わせをしただけだ。

クシーはマティアスではなく友人のミケランジェロとして接したいらしい。マティアスもミケランジェロの方が気が楽だった。

 

「しっかし、自分の宿題を投げる奴がいるかしら?……これ多分デュランダルよね?」

ミケランジェロはクシーに頼まれた依頼を見て言った。

クシーもおおよそは記載していたが急いでいた。査読して欲しいとミケランジェロに投げていた。

 

その依頼は事細かく研究に対して質問がされていた。……ここまですぐに研究を理解して質問できるのはこの時代ではデュランダルくらいであった。他にはユーラシア連邦に居るアウラ博士もそうだがアレは思想が論外過ぎた。

マティアスがクシーが一族の全容を把握していないと推測した状況証拠の一つでもある。

ギルバート・デュランダルは未来のプラント最高評議会・議長である。

デュランダルと関わりのある資料を自分に渡してくる時点でかなり危ない。

一族とはほぼ切れているミケランジェロならば問題ないが、仮にまだ一族だったなら未来への影響を考えてしまう。

 

「研究の協力者としてはこれ以上無い逸材だけど……本当にどこから繋がりを得たのかしら?」

ミケランジェロはクシーがデュランダルと繋がりがあるとは思えなかった。

恐らくは誰かの経由で伝わったというのはわかる。ミケランジェロはそれに関しては全く推理出来ずに困惑した。

 

……マティアスはラウ・ル・クルーゼとクシーが機会がある度にレスバしているとは思わなかった。

マティアスにとってクルーゼはどのような場合でも世界に絶望して滅ぼす手前までやるような男である。

クソゲーにドハマリしてクシーと日々レスバしているとは想像も出来なかった。

……マティアスは下手な人物よりもクルーゼの事を知っているからこそ推理出来なかった。

 

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