極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月19日、大西洋連邦の南アメリカ合衆国侵略未遂事件の翌日。
本来であれば南アメリカ合衆国は19日に大西洋連邦軍によって国土が蹂躙され国の主権も尊厳も何もかも奪われていた。
だが、それは完全に破綻した。大西洋連邦の目論見は防がれた。
宣戦布告もなく国境侵犯した大西洋連邦軍の一部がザナドゥにテロリスト認定された。
飽くまでも元テロリストとしてザナドゥで雇用されていた。
……正規軍ではないという主張は大西洋連邦からすると屈辱だが助かってもいた。
大西洋連邦は一応は南アメリカ合衆国に地球連合として宣戦布告をする事で諸々の問題を踏み倒す計画だった。
結果を見れば国際法を違反し、地球連合加盟国の面子も潰しただけになってしまっていた。
となればテロリストとして扱われている現状はまだ問題が起きていないと開き直れた。
地球連合としてもテロリストである方が侵略者の汚名を被らずに済んだ。
……事実は明らかでも明言していなければ違うのが政治だった。
南アメリカ合衆国は事実をなかったと黙認する代わりに譲歩を引き出せた。
流石にこの状況でプラントの宣言を受け入れますとは言い出せない。
地球連合はそうさせないために南アメリカ合衆国に圧力をかける気ではいた。
軍事的にも政治的にも南アメリカ合衆国のマスドライバーは不味かった。
眼の前に大西洋連邦を滅ぼす前線基地が出来るような物である。
更にプラントが地球侵略の為に必要な物資も貿易という形で得ることが出来た。
プラントは何でも作れると評される程の技術力がある。
南アメリカ合衆国の経済を回復させるついでに物資を確保できた。
これでは地球連合としても南アメリカ合衆国がプラントの宣言を受ければ許容値を超えた。
ピアソラ大統領が言うように『まだ何も言っていない』状況だったのは大きかった。
プラントの中立勧告を受け入れていれば地球連合としても武力行使はあり得た。
地球連合と南アメリカ合衆国は国力差が余りにも大きく、助けてくれる国も無い。
強いていえば国際社会は非難してくれる。……これで戦うには無理だった。
南アメリカ合衆国の国民も国が本気で滅びる手前だったので理解させられた。
ピアソラ大統領と地球連合の話し合いはそこまで長くはならなかった。
話し合いの結果はその日のうちに発表された。
・南アメリカ合衆国は地球連合に加盟する。南アメリカ合衆国の主権は維持される。
・パナマにあるマスドライバーは地球連合と共に管理する。
・南アメリカ合衆国軍は自国のマスドライバーや本土防衛を最優先で行う。
・戦争に必要な物資を南アメリカ合衆国で製造・輸出することで経済を回復させる。
南アメリカ合衆国は出来得る限り最良の条件を勝ち取った。事実上の南アメリカ合衆国への経済支援を得られたのは国民としては有り難い。
……マスドライバーは事実上地球連合に取られたし、地球連合に加盟することになり、主権も制限されたに等しい。
マスドライバーの関係でプラントに攻め込まれる可能性がある。
だが、これ以上は南アメリカ合衆国では無理だった。
戦争の参加もほぼ防衛であると明言されていた。それならばと南アメリカ合衆国の国民は納得した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ザナドゥ代表・クシーは今、ザナドゥ・南アメリカ合衆国支部に居るが本部での業務もこなしていた。
国際的な有線通信はまだまだ時間がかかっていた。無線通信がまだ使えるから良いが危うい。
絶望仮面とのやり取りで気がついたが特定のレーザー通信ならば電波妨害でも通信出来た。
……これもまた旧時代の遺物である。グレイブヤードで僅かに生産しているが趣味の範疇である。
とてもではないが量産出来ない。今からでは対策に使うのは難しい。
ザナドゥの人工衛星の設定を弄って試したが、旧時代のテクノロジーを防諜対策に使っているザナドゥの支部くらいにしか繋げられない。後、ザナドゥのゲーマーの一部に繋がった。
グレイブヤードで生産されている旧時代の遺物をゲーム大会の賞品として送りつけていた。
『粗大ゴミを入賞賞品にするなんて頭がイカれているな』と皆から大好評だった。
グレイブヤードの旧時代の遺物は規格が古い。高い癖に役に立たないと評判の品である。
そのような物好きは滅多にいない。今から量産するのは無理である。 間に合わない。
一部のレーザー通信ならば可能だと把握しているであろうザフトが対応する事は間違いない。
事が起きればザフトによって地球侵略前に地球連合関係の人工衛星は破壊される。
ザナドゥも一応は地球連合に本部を置く組織だった。……つまり無意味に等しい。
ザナドゥは宇宙に太陽光発電を作っていたが、このままだと破壊される。
……中立国の大洋州連合の有力者にザナドゥと共同で所有してもらえないか交渉することに決めた。
既存の人工衛星は無理でも中立国経由の太陽光発電なら人道支援でギリギリいける。
宇宙にある太陽光発電を買い取って貰うには適正価格が高すぎる。完全に大洋州連合の所有にしてしまうとザナドゥの活動に使えなくなる可能性が高い。
ザナドゥとしてはエネルギー不足のところに送電するだけだが、下手をするとザフトの横槍で邪魔される。正直、一々それを証明するのも面倒臭い。
……マイケル君から送付された資金ならば余裕で買い取れるが彼は大西洋連邦である。
本当は中立国のオーブに頼みたいがサハク家と次期当主の双子は信用できない。
……原子力を封じられるだけでも厄介なのにザフトはとんでもない代物を作っていた。
こうなると旧時代のテクノロジーを詰め込んだグレイブヤードが重要になってきた。
世界樹のコロニーであるのでこれ以上の改築や増築は無理だ。……下手に騒ぐとコペルニクスの時のようになりかねない。
グレイブヤードが世界樹から分離すればもはや無敵に等しいがまだ早い。
先程グレイブヤードに報告したところザナドゥ芸術部門の面々は総力を挙げて取り組むつもりだと回答が来た。
ゲームの通信だけは何とかなる。……それ以外は詳細がわかるまでは壊滅である。
私は複雑怪奇な現状を打破しようと考えたが、煮詰まってきていた。
「クシー、休憩しましょう!」
ヴィクトリアが私に声をかけてきた。椅子に座り仕事をして途方にくれていた私を見下ろす形になっていた。
……元テロリスト達は兵隊として訓練を受けているので業務は楽に任せられた。
今、大西洋連邦に戻れば彼らはトカゲの尻尾として処分される。
交渉するから少しでも待遇を良くさせたくなるようにしたければ働けと彼等に私は言った。
「そういえば、彼らはどうだった?」
私は大西洋連邦軍のコスプレ集団について尋ねた。
ヴィクトリアの顔が近いので少しそらす。……年頃の女性が無防備である。
休む意味でコーヒーを飲む。ペルー産のコーヒーはマイルドであり、南米特有のナッツの香りがする。
味覚は回復していた。私がストレスに慣れたのもあるが多分暴れてスッキリしたのだろう。
「それも仕事ですよ。……そういえば私、マッケンジー少佐からザナドゥに亡命できないかと相談を受けたのですが……」
ヴィクトリアは私に小言を言う。非戦闘員であるベラは危ないので今回は連れてきていない。
……ヴィクトリアは最近、ザナドゥ審査会のメンバーに成った所為か自覚が無い。
「ヴィクトリアの権限で私に申し込んで欲しいという意味だろう。審査会の面子ならばそれくらいはできる」
私はヴィクトリアに言った。実績的に南アメリカ合衆国の担当として幹部に引き上げたが早かったかもしれない。
……先程ザナドゥのシンパの報告で知ったが、カナードが凄まじい戦果を挙げていた。
傭兵部隊Xは外部団体だが、ザナドゥ幹部でもある審査員に成る事は可能だ。
問題はカナードは16歳、最年少で昇進みたいになる。まだ早い気がするが能力も高く実績も伴っていた。
「ヴィクトリアに任せているアレを広範に適応するような物だ。マッケンジー少佐も君の肩書きを見て相談した訳だ」
私は腑に落ちないヴィクトリアにもっとわかりやすく説明した。これ以上言わせないで欲しい。
ザナドゥも偉くなったもので幹部クラスになると国の高官くらいは動かせた。それだけ世界が荒れているという証拠でもある。
……世界中の国が混乱している中で副業である治安維持活動の実績は大きかった。
「……えっー!?ちょっと待ってください、今の仕事で精一杯なんですけど!?」
ヴィクトリアは滅茶苦茶驚いていた。弱小組織だった頃のザナドゥの感覚でいたようである。
今では裏でコソコソしているロゴスだろうが振り回せる。……自分で言うのも何だが私以外がやれば確実に死ぬ。
「私はヴィクトリアを評価しているぞ。南アメリカ合衆国での活躍を見れば大丈夫だと思っている」
私はヴィクトリアに冷静になるように肩に手を置いて目を見て言った。
ヴィクトリアとも何だかんだで7年近い付き合いである。年下のカナードに叱責されたりしているが十分過ぎる程に働いてきた。それくらい信頼している。
「……ええと、これは夢かな?」
ヴィクトリアが変な雰囲気になってきた。……不味い。修正しなければならない。
「……まぁ、今のザナドゥに人手がいないのも多少あるが」
私はヴィクトリアに実情を伝えた。嘘ではないがあまり他者を下げる言い方は私としても不本意である。
……ヴィクトリアは軍指揮の才能もあった。ヴィクトリアはハーフコーディネイターであるが、親はそのような遺伝子操作は受けていないという。
インフラ整備をしつつ、テロリストを鎮圧していたら何時の間にか身についていたヴィクトリア自身の才能である。 ザナドゥだと程度の差はあれど良くあった。
聖なる大地の代表だったヌエバは国の高官を誑かす才能だけでなくトイレ掃除の才能があった。ザナドゥ専属のトイレ掃除夫として頑張って貰いたい。
「それにヴィクトリアは今回も寡兵で正規軍相手に完封していたのだからマッケンジー少佐も勘違いしてもおかしくない」
私はうっかり言葉を続けた。……ここまで言うつもりはなかったのだが少し疲れているらしい。
「クシー……何か悪い物でも食べられましたか?」
ヴィクトリアは私に不安そうに溢した。哀れな者を見るような目である。
何だ、私が人を素直に褒める事がそんなに悪いというのだろうか。
私は10分後に地球連合と南アメリカ合衆国のピアソラ大統領の交渉結果の速報が入るまでの間、ヴィクトリアを叱りつけた。