極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月19日、地球連合軍では騒動がありつつも軍政改革が行われていた。
言うまでもなく騒動とは南アメリカ合衆国とザナドゥの件である。
しかし、それらは『テロリスト』という事で済んだ。
古参のザナドゥのシンパ達は地球連合軍で浮いていた。彼らは大体いつもの事なので気にしなかった。
これを機に派閥に染まっていないマトモな尉官を洗脳…もとい勧誘している有様である。
ザナドゥのシンパや関連組織である傭兵部隊Xは先の大戦で多大な軍功を挙げていた。
だが、隊長のカナードがコーディネイターかつ傭兵なので正規軍の立場が無くなってしまう。
したがって、カナードを始めとした傭兵部隊Xの戦果は表沙汰には出来ない。
カナードにはザナドゥで出世する野心があり、隠さずに言えばクシーに褒めて貰いたいと思っている。
カナードとしては地球連合の方針には一応納得しつつも正当に評価されないのは不本意であった。
……見かねたザナドゥのシンパの一人が秘匿回線でクシーにカナードの戦果を報告した。
ザナドゥのシンパはクシーがカナードを凄く褒めていたと彼女に伝えた。カナードは見て分かる程に機嫌が良くなっていた。……更に追加で良いことがあった。
「オルテュギアか……悪くないな」
カナードは宇宙母艦を見上げて感嘆を溢した。
今後の戦いで自分達の母艦になるアガメムノン級宇宙母艦『オルテュギア』である。
オルテュギアにはカナード達、傭兵部隊Xとそのシンパが放り込まれていた。 指揮官は佐官相当の権限を付与された尉官である。だが、緊急時はカナードが指揮権を代行できるとあった。
……戦争という常に緊急時であるという本来の指揮官の詭弁により実質的にカナードが指揮官となっていた。
地球連合軍は扱いに困る面倒臭い者達をオルテュギア等に隔離していた。それでも最新鋭に等しい軍艦であった。
「……可愛いな、カナードちゃん。将来の夢はお嫁さんとか思ってそう」
マッド中尉、もといマッド大尉はカナードの変わりように言葉を溢した。
マッド大尉は政治的立ち回りを評価され、中尉から大尉に昇進した。
マッド大尉は政治的な視野と弁舌、兵士の指揮をこなせる有能な人物でありハルバートン准将が求める佐官の適正があった。
その為、MA母艦であるオルテュギアの指揮官の権限を与えられていた。
……マッド大尉が許可しないとカナードに権限が譲渡出来ない。
トチ狂ったとはいえ、マッド大尉が軍人としての誉れである艦長の椅子をカナードなんかに渡せるものかと上層部は考えていた。
だが、マッド大尉は権限をほぼ全てカナードに明け渡していた。推し活である。
地球連合軍の離反工作は無意味と化していた。上層部はマッド大尉の推し活を舐めていた。
ここ最近のカナードはずっと不機嫌であった。
ところが想い人の言葉一つであの変わりようである。マッド大尉は尊いので良しとした。
マッド大尉は緒戦の敗北による指揮官の不足から才能のある尉官を昇進させるというのは理解した。
だが、大尉に軍艦を任せるとか巫山戯ているのかと思った。一応、自分が大尉になるのは喜んだが、おかしいとわかった。
マッド大尉としては貰える物は貰うが、それで魂まで売り渡すつもりはなかった。
オルテュギアは本来ならば大佐相当が指揮官となるレベルの宇宙母艦である。
……マッド大尉が緊急措置とはいえ艦長となるのはどう考えてもおかしかった。
しかし、カナードへの推し活に使えるならば問題なかった。
軍上層部のおっさん共はどうでも良いがカナードへのスパチャならば全く問題ない。
この推し活狂いにトチ狂ったかと思われる上層部だが、彼らは正常な思考で動いていた。
……マッド大尉の経歴を誰よりも把握している上層部からすれば想定外にも程があった。
マッド大尉、彼はカナードと出会うまでは自身の境遇や容姿へのコンプレックスの反動から上昇志向が極めて強い人物だった。
上層部は上昇志向が強い豚…もといマッド大尉の野心に火をつけ、カナード達と離反させる算段を立てていた。
マッド大尉の活躍によっては昇進させつつ、自分達の派閥に迎えるつもりだった。
ところが、豚…当時のマッド少尉はカナードと出会い、蹴られ、罵られて覚醒した。
カナードの蹴りや罵りにはマッド大尉が知る悪意が一切無かった。……カナードは蹴りたいから蹴り、罵りたいから罵っていた。
カナードは10歳の時にザナドゥとクシーに助けられてからその無茶苦茶振りを大体見てきた。
2年間は画面越しでの会話だった。当時のザナドゥは秘密結社であった。規模に見合わぬ無茶苦茶をしていたトップはカナードよりも狙われていた。
それでもクシーはカナードと会話していた。カナードは初めて出会ったクシーが自分と同年代であったのが忘れられない。
クシーは誰であろうが差別しない。クシーは誰でも彼でも蹴るわ罵るわと滅茶苦茶だった。
実験体であるカナードを捕縛しに来たユーラシア連邦軍の大佐に熱した鉄板の上での土下座を強要しようとした。
そんなクシーは正当な理由が無い限りは悪意を持たない人間だった。
……クシーはカナードに色目を使うロリコンを殴るが別に嫌いではなく、殴りたいから殴っていた。
カナードはクシーの行動言動を良くも悪くも学んでいた。
そんなカナードだからこそ、悪意に敏感だった当時のマッド少尉の琴線に触れた。
軍上層部の傭兵部隊Xとマッド大尉を切り離す目論見は知らないうちに崩壊していた。
本当に些細な事であったが、マッド大尉にとって自分に悪意なく接する存在は大きかった。
命をかけた戦いを通して戦友としても気高く、死地を切り開く姿も見てきた。
もう推すしかないだろうと戯言をほざいているマッド大尉はガチ勢であった。
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カナードのクシーへの想いを知って脳破壊された当時のマッド中尉は自分の中で折り合いを付ける事で時間と共に徐々に回復していたが、大尉に昇進した事で完全回復していた。そして、再び推し活を始めていた。
現在、マッド大尉は上層部に反抗して独房にブチ込まれていたカナード親衛隊『孤高の姫騎士』派閥と抗争中である。
姫騎士派閥は佐官が戦死し、指揮官が足りない影響でマッド大尉達とは別の艦に放り込まれていた。
彼女らもまたカナードのクシーへの想いを知って脳破壊されたが微妙に現実から目をそらしていた。
派閥の長であるマリーヌは艦を任せられている。尉官であったが佐官に取り立てられていた。
……孤高の姫騎士派閥の艦長であるマリーヌはマッド大尉より現在の階級が上であった。
本当に地球連合の宇宙軍に人材が居ない所為である。それでもマリーヌは近い内に佐官へ昇進する予定があったのでまだマシだった。
佐官が軒並み戦死したので多少性格に難があろうとも才能があれば佐官に任命されていた。
孤高の姫騎士派閥の長であるマリーヌは大尉から少佐に昇進していた。
マリーヌ少佐はドレイク級宇宙護衛艦『ナイアデス』の艦長になっていた。
ドレイク級は少佐や中佐相当が適正なのでマリーヌ少佐を艦長に任命した上層部の判断は間違っていない。
だが、上層部としては傭兵部隊Xのカナードの影響を排除する気で分断しようとした。
……マリーヌ少佐もマッド大尉と同様に全くブレないので上層部は困っていた。
マリーヌ少佐はカナードに蹴られてはいないが、傭兵の身でありながら戦場を縦横無尽に駆け巡る気高き姿を見て以来、崇敬の念を抱いていた。
孤高の姫騎士派閥の長であるマリーヌ少佐はカナードが喜んでいるのは地球連合軍内でアガメムノン級宇宙母艦『オルテュギア』の指揮権を事実上得たからだと主張していた。 但し、傍から見れば彼女らがそう思い込みたいだけなのはバレバレだったが。
マッド大尉が率いるカナード親衛隊の主流派は、想い人から褒められたから喜んでいるとした。
マッド大尉達はそれに比べたらオルテュギアの件は些事であると主張していた。
オルテュギアの全権をカナードへの推し活にスパチャしたマッド大尉自身が些事と暴言を吐いていた。
……マリーヌ少佐はマッド大尉にお前、本当にそれで良いのかと素でツッコんだ。
マリーヌ少佐はマッド大尉よりは軍人としての自覚があった。
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カナード親衛隊(自称)の内輪喧嘩は他のマトモな者達からは馬鹿だと思われている。
そんな彼らはザナドゥのシンパや傭兵部隊Xに救われた恩義もありカナード達の味方側にいた。
多くの尉官達を救ったMAアルカは軍上層部から却下されていたのをザナドゥ代表が独断で押し込んだと知ったので好感度が更に加算されていた。
彼等はクシーの現場で戦う兵士達の命を最優先で救う行動理念に賛同していた。
カナード親衛隊とは一緒にされたくない。正直、距離を取りたいが段々周囲から同胞として扱われてきて困っていた。
……上層部は声の大きい豚や姫女子ではなく彼らに離間工作をするべきだった。
今ではマリーヌ少佐やマッド大尉達は上層部の離間工作と見抜いて彼らにも警戒するように伝播していた。
マトモな者達も上層部の思惑を知り、恩義を踏みにじる行いと唾棄していた。
しかも、親衛隊のクソボケ共を優先して取り立てたと悟った。
彼らの大部分にとって恩を仇で返すよりも屈辱となっていた。
結果として今後予定されている上層部の離間工作はほぼ無意味となっていた。
貰う物は貰うが芯はブレない。それがプラント戦役以降に増加した新規のシンパ達の特徴だった。
マトモな彼らはザナドゥ関係派閥として緩い繋がりを築いていた。
カナード親衛隊ではない彼らは広く緩い繋がりによって情報を共有することで分析出来ていた。
プラントとの戦いで凄惨たる敗北を経験した兵士たちは不安になったりPTSDを発症したりしていた。
かつては才気に満ちていた尉官達も精神が壊れかけていた。
他には活躍により佐官となっていてもおかしくないムウ・ラ・フラガ中尉等の一部は佐官相当の軍政は面倒臭いと昇進を蹴っていた。
フラガ中尉を始めとした彼らには軍上層部への不信感が芽生えつつあった。
それらに比べれば元気なカナード親衛隊(自称)はマシであった。
ある意味で壊れているが地球連合軍全体を考えて最善を尽くしている。……ただカナードへの推し活を最優先としているだけだ。
カナードの推しであるザナドゥは推しの推しとして親衛隊はザナドゥシンパとも協調できていた。
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そんなカナードはザナドゥの幹部枠である審査会の審査員に成る条件を満たしていた。
ザナドゥ代表・クシーはカナードを評価しているが、少しだけ心配だった。
……かつて最高のコーディネイターを作り出す計画があった。その過程で生まれたカナードはまだ引きずっていた。
クシーとしてはキラはキラでカナードはカナードであると思っているのだがカナードはやたら気にしていた。
クシーはカナードと話してからにする事にした。カナードが審査会の審査員に成りたがっていたのは知っている。
それは別に良いがカナード本人と話がしたかった。……クシーは物凄く忙しいが超人機関の双子達の様子を見に行くついでに時間が取れないか考えた。
クシーはカナードに連絡を入れる事にした。そろそろユーラシア連邦に一時帰還しても大丈夫だろうと提案した。
カナードは帰還すると即答したので慌てないで気をつけてとクシーは念押しした。
カナードのあまりに素早い回答に軍上層部とのイザコザがストレスだったのかとクシーは自身の行いを奇跡的に反省した。
いや、ちげぇよとベラは内心でツッコんだ。またやってらぁと微妙なすれ違いを適当に見ていた。
ベラは主の姉であるシグネも呼ぶか悩んだ。面白いことになるだろうが面倒くさくなる可能性もある。
ベラはコンプレックスの塊であるシグネは超人機関から拾ってきた双子を気に入るだろうと思い、連絡だけ入れた。
ベラも連絡しただけでシグネが何時来るかわからない。
ベラは主のスケジュールに支障がないようにだけ気をつけ、後は天に任せる事にした。