極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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閑話 聖女と糞女

 

コズミック・イラ70年2月20日、ザナドゥ代表・クシーが自身への暗殺者を尋問して色々懐柔している頃合い。

 

本部に併設された特殊孤児院では代表の姉であるシグネが来訪していた。

弟を暗殺に来るシグネであるが、子ども達の前ではそのように振る舞わず、まるで聖女のように振る舞っていた。

隙あらば殺そうとする聖女がいるかと弟はツッコむが、ツッコむ者は誰も居ない。

ベラは姉に何も言わず、孤児院の冷蔵庫を漁っていた。

ベラは孤児院の職員から朝食を食べる前の子ども達の前でお菓子を食べようとするなと叱責されていた。

 

リューリク家当主であるシグネ・アペッナ・リューリクは特殊孤児院の子供達と共に簡単な料理をしていた。

孤児院の朝食は簡素なものである。

高名なシグネに失礼ではないかと職員は思ったがシグネの方は気にしないで良いと言葉をかけた。

……弟にもそういう気遣いが出来ないからあんな事になるんだよとベラは思った。

 

 

シグネは調理の過程で変化がある度に子ども達に理科を教えていた。

職員の邪魔にはならない程度を見極めてやっているので無碍に出来ない。

寧ろ子ども達が興味を持つことは良いことだとしてシグネのやることを見守っていた。

 

クシーにシグネの相手に行かされたはずのベラはシグネを放置して再度冷蔵庫を漁っていた。

トマトジュースと黒酢を混ぜて飲むなど適当にしていた。

……不味い。もう一杯も飲む気にならないとベラは思った。子どもに感心が向いているならばそれに越したことはないのでベラは割と暇だった。

 

ベラから今日のカナードの凱旋を聞いたシグネは昼まで孤児院で時間を潰す気らしかった。

小姑としてこんなめんどくさい奴がいるのだぞとベラは思った。……それを唆したのは誰だ。

 

そんな畜生な事を考えていたベラは放置され、子ども達とシグネは料理の最後の仕上げをしていた。

料理の盛り付けは終わり、お湯を沸かしてスープの素と混ぜるだけである。

 

 

「雲は雲粒子と呼ばれる小さな水や氷のつぶてで出来ています。色々ありますがこのやかんの湯気もそうです」

シグネはお湯が湧いたやかんを子ども達に見せて言った。

 

「やかんの口の近くは目に見えないですね。沸騰した湯が口から水蒸気となって外に逃げます」

シグネはやかんの湯気に触ろうとした少年の手を取って離した。

そして、やかんの口の近くは沸騰した湯で熱い事を注意した。

 

「逃げた水蒸気はやかんの口から少し離れると、周囲の空気と混ざりあって冷やされます」

シグネはやかんの湯気の辺りを指し示して言った。

子ども達はやかんの口から少し離れると白い湯気が立ち上っているのを改めて見て確認した。

 

「冷やされると水蒸気が集まって水の粒になります。水の粒が光を反射して白く見えるのが湯気の正体です」

シグネはそういって簡単な解説を終えた。理科、気象学の基礎である。

やかんの湯沸かし一つからでも学べると子ども達に示していた。

 

「雲って空に浮かんでいるものだけではないんだ」

実験体から開放された時に空を見上げた少年は言葉を溢した。

身近なところに見上げた空にある物と同じ物があったと知り、少し考えていた。

 

「さぁ、皆。沸かしたお湯を入れてスープを作りましょう。……スープから立つ湯気も水蒸気から水滴になって目に見える雲ですよ」

シグネはそういって子ども達のところで順繰りにお湯を注ぎに行った。

考え込む少年にスープも同じと伝えて食事に視線を戻させた。子ども達には自分の椀に粉末スープの素を入れさせていた。

パンとスクランブルエッグ、シーチキンとレタスのサラダに温かいスープという簡素な食事である。スープは何種類かの中から好きな物を選ばせていた。

 

「では、皆いただきましょうか」

シグネは孤児院内で細かい作法がないか職員に確認を取りつつ、自分も子ども達と一緒に食事を取ることにした。

シグネはマリーとソーマという超人機関の双子を姉妹の優劣無しに素晴らしく気に入った。

……それはそれとして食事の場では子ども達に差をつけることなく振る舞っていた。

 

「……私の分は?」

ベラはシグネに尋ねた。既に朝食を取っていたがあればあったで食べる気でいた。

 

「皆、聞きなさい。アレが働かない者はどうなるかという見本です」

シグネはベラに向かってそう言った。シグネはベラにお前に食わせる朝食はないと暗に言う。

ベラはそれはそうかとコップに余ったスープの素を注いで余ったお湯で混ぜた。

 

「……改めて、いただきましょう」

シグネはベラを食事の席から除け者にするのもどうかと思い直した。

ベラは飽くまでもまだ居座る気であった。スープくらいは良しとした。

職員はシグネの振る舞いを見て代表は滅茶苦茶だが、姉は真っ当な素敵な人だと感じた。

……当然だが大部分は思い違いである。シグネはマリーとソーマの双子を知り、大分機嫌が良かった。

 

孤児院の子ども達は違法研究所で逆らえば死という状態で管理されていた。

シグネの気分を害するような行為をしなかったのも大きかった。

ベラは一応様子を見ていたがシグネはここでは無害なので放置していた。

 

多分、この後は双子をシグネの味方につけて主を殺すように誘導するくらいである。カナードの件は知らない。ベラはシグネに事実しか言っていない。

少なくともザナドゥ本部に併設された特殊孤児院”は”平和であった。

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