極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月20日9時、ユーラシア連邦軍からの大口の注文が入る。
……嫌な予感がするのにこういう時に限って仕事が入ってくる。
断りたかったが純粋な国防意識から来る問い合わせなので無下にできなかった。
断ると碌でもない事になりかねない事情もあった。
大洋州連合から地球連合へ強い非難声明が出されていた。更に防衛力強化という話であった。戦争しなくても対応しなければ国の面子に関わるという話だ。
「……地球連合としては誰かさんのせいで政争で大変なんだ。いや、この場合は良くやってくれたというべきなのだが」
ユーラシア連邦で名目上一番偉い人は誰かさんに溢した。
大西洋連邦軍による南アメリカ合衆国侵略を防げたのは良しとしても、その後の処理で大変らしい。
「大変ですね」
私はテロリストを鎮圧しただけである。
断固として大西洋連邦軍なんて知らないし、マッケンジー少佐というあだ名の軍人も知らない。
「はぁ……宣戦布告まではいかないが警戒はしなければならない。我が国も原子力潜水艦の大部分を南太平洋に派遣することになった」
大統領は国防機密をぶっちゃけた。隠す気ゼロである。
「……君の話を信じたわけではないが。原子力が使えなくなるとしても、地球に住む者ならば受け入れられないのだよ」
大統領は複雑そうな顔で私へ告げた。
……ザフトが原子力を封じられるという私の仮説を一応は懸念してくれていたらしい。
「現状、予備戦力となっている陸軍の一部を君のインフラ整備に協力させても良い。だから、太平洋に派遣した数の潜水艦、ザナドゥの非核動力潜水艦を我が国に最優先で作ってほしい」
大統領直々に私に取引を持ちかけてきた。……手間は掛かるが悪くはない。
軍事産業部門は開発部は非常に忙しいが既存の兵器を作る製造部は回せなくもない。
「オーブの方が安く済みますよ」
私は大統領がどこまで本気なのか確かめる事にした。
……オーブのモルゲンレーテ社がザナドゥに糞ムーヴをしてきていたが、私を完全には信じてないならばそちらでも良いはずだ。
「オーブ連合首長国では君のコピー品を大量に売りさばいているようだが、それで良いのか?……ザナドゥならば我が国にあり正規品で性能も良い。長期的に考えるならばオーブは無しだ。……大西洋連邦は粗製濫造の品に飛びついているがどうせ後で痛い目を見るのだろう?」
大統領は仮定に仮定を重ねてだが、長期的な戦略で判断を下していた。
……原子力潜水艦よりは非原子力のバッテリー潜水艦の方が安い。原子力発電用の燃料は海で幾らでも収集できるが、それを維持するには製造コストがかかった。
近海を守る程度ならば潜水艦はバッテリー式の方が安上がりだった。ザナドゥの潜水艦は非プラント理事国含めて売れていた。
今は地球連合加盟国以外への新規製造販売に制限がかけられていた。輸出出来なくもないが低コストという利点が欠けるようになっていた。
「それに民間で良質なバッテリーを製造し始めたそうじゃないか?……軍用のバッテリーも向上しているはずだ。ならば多少の手間と馬力を除けば原子力潜水艦とほぼ変わらず安価に手に入る方が良い」
大統領は私に賭けていた。ユーラシア連邦はプラントとの戦争で一部地域では独立運動が過熱していた。
そして大西洋連邦の暴走だ。……私の妄言を思い出して賭けてみる精神状態になったらしい。
証拠がない私の言葉以外の予防線も張っているが、このような賭けに出るのは国家のトップとしては良くない傾向であった。
だが、予防線を張れる程度には最低限の理性はあった。そして、私には少しでも人手がいる状態だった。
「……わかりました。限界はありますが、どの程度作れば良いですか?」
私は申し出を受ける事にした。核動力をどの程度止められるかはわからないが、億単位で人が死ぬ事になりかねない状況である。
最悪の賭けに大統領が勝ててしまえば億を超える人が死ぬ事になるので私は最悪である。
負ければ私の妄言に乗ったユーラシア連邦・大統領が八つ当たりでキレるだけで済んだ。
「……現在の潜水艦の八割だ」
大統領は狂った事を言い出した。……そんなに送ったら国防死ぬだろうと私が言えば徐々に太平洋に派遣するつもりだとか言うつもりだろう。
「はい、八割ですね。……必ず”代金”は用意してくださいよ?」
私は無茶苦茶な大統領に陸軍、最低限の技術持ちの人材を派遣するように言質を取ることにした。……負ければ八つ当たりで殺されるだろう。
「どうせ、核動力が停止したら国防の危機だ。インフラの維持に軍隊を派遣せねばならなくなる。……賭けに勝てば問題ない」
大統領は狂った賭けに勝つと宣言した。……私としては有り難い。素晴らしい。
「再選するなら私も投票して挙げますよ。独立運動を阻害するのはどうかと思いますが」
私は大統領の政策に反対なので一言添えた。将来の有権者の声を聞いて欲しい。
「私の任期が終わる頃には君はまだ未成年だ。……残念だったな?」
大統領は獰猛な笑みを浮かべて言い切った。どうせならばもっと早く覚醒して欲しかったものだ。
「頼もしい限りだ。……大洋州連合と無意味に戦争しようとすれば無駄にある海軍力で地球連合軍総体を止める事になるかもしれない大統領がまさか満期で勤め上げる予定だとは」
私は大統領に笑顔で返答した。……政策も方針も何もかも違うが、大統領には利害が一致する限りは付き合って貰う事にした。