極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月20日12時過ぎ、カナード・パルスはクシーと会話していた。
邪魔な者達はベラと副官のメリオルが引き離していた。
……シグネは最後まで抵抗していたが、アイスクリームがないので立腹していると勘違いした双子からアイスを渡されそうになり引き下がった。
ありがたいことなのだが、カナードは何だか気恥ずかしくなっていた。
「カナードの活躍は聞いていた。本来ならばキチンと祝いたかったがこの情勢で……それだけでなくアレはすまなかった」
クシーは先程の件を謝罪した。情勢は緊迫していた。
カナードも即日帰投なので時間の許せる範囲でしか会えない事を残念に思っていた。
「……いや、ああ」
カナードは気にしないで構わないと言うつもりが言葉に詰まった。……メリオルが気を使ったせいで余計に調子が狂っていた。
「正当に評価されないのは辛いと思うが、仲間に恵まれたようで何よりだ」
クシーはカナードの取り巻きの地球連合軍将校を引き合いにだした。
クシーは眼の前の戦功などではなく他者、仲間を見るようにカナードに常々言っていた。
傭兵部隊Xの面々、特に副官のメリオルもそうだが、豚…もといマッド大尉達もカナードを理解し支援してくれていた。
……親衛隊とか言われるのは若干キモいがカナードとしてはそれだけ自分に着いてくる者達だと前向きに捉えるように努め、気を配るようになっていた。
「正直、地球連合軍、コーディネイターを敵視する傾向の組織に行かせるのは不安だった。……だが、現場のナチュラルの士官達と友好な関係をカナードは築けている。少し変だが良い仲間と巡り合ったようで何よりだ」
クシーはカナードに今更な懸念を溢していた。カナードも覚悟はしていたが、現場指揮官……地球連合軍はずいぶん酷かった。
……何か知らないうちに自分に着いてきている者が増え、無下にはできなくなった。そういう意味では周りを気にして独断専行は控えるようになっていた。
……クシーはカナードのもっと根本的な部分、最高のコーディネイターについても気にしているのだろう。カナードはクシーがあえて言葉にはしない配慮を感じていた。
「それは……確かに」
カナードはクシーの言葉に同意した。……秘められた言葉も込めてである。もし、出会ったら冷静でいられるかというと自信があるとは言えないが、周囲の状況は流石に気にする程度は自省が出来る……と思う。
だが、自分の親衛隊を自称する奴らは少し変どころかキワモノ過ぎてまともな者達からは浮いていた。カナードは些細な事でクシーを心配させたくなかったので言わないことにした。
「仲間や部下を思いやるのは良い事だ。……私も周囲に迷惑をかけている自覚はあるが、それでも部下にやり過ぎないように気にしているんだ。私人としては好ましくてもザナドゥ代表としては口煩く言わないといけなくなったりもするが……すまない。これでは私の愚痴だ」
クシーはカナードの同意に安堵したのか、段々愚痴を溢し始めていた。
クシーは自分の愚痴に気がついて止めたが、カナードとしてはそこまで言われるくらいに成れたのだと実感していた。
「……地球連合軍そのものはともかく、着いてきてくれる者達に恥じないように勤めるつもりだ…です」
カナードはクシーに宣言した。……敬語に慣れていないので最後は何とも締まらない事になってしまっていた。
「ハハハ!……なら、ザナドゥの審査会に取り立てても問題ないよな?」
クシーはカナードの締まらなさを軽く笑ったが、その調子でとんでもない事を提案してきた。
『審査会』とはザナドゥの最高意思決定機関である。
外部の専門家がそのオブザーバーになるだけでもザナドゥの資産や資材の一部を権限内とはいえ使える破格の待遇であった。ザナドゥの外部でも審査員に成れるが、ザナドゥの大元であるはずのブルーコスモスにですら環境保護派の重鎮に一席設けているだけである。
最近だとザナドゥ構成員のヴィクトリアが審査員に成ったが、南アメリカ合衆国の歴史的偉業という実績と詳細不明の特殊任務によるものだとカナードは把握していた。
「傭兵部隊Xは外部団体であるし、世間一般で叩かれているザナドゥ色が強くなるのが嫌なら断るのも選択肢として有りだと思うぞ?」
クシーはカナードが呆然としているのを探るように見つつ言葉を述べた。
カナードは審査員に成りたがっていた。だが、いずれ成ると考えていた。それが今成れると聞いたら動揺もした。
「い、いや……そう言う訳ではないのだが……」
カナードは確かに軍功を挙げたが地球連合にもみ消された。
その代わりとして渡された宇宙母艦のオルテュギアはユーラシア連邦軍の船籍だ。
そして、マッド大尉が本来の指揮官である。……何故かあの豚、カナードにその権限を気軽に譲り渡してきていた。
カナードはクシーが軍艦に興味があると考え、整備の名目でザナドゥ兵器産業部の者達を密かに呼んでいた。既に構造その他を解析しているだろう。……それが出来る立場に成ったと思えばカナードもクシーが判断したものが少しはわかったような気がした。
「カナード達は地球連合軍での功績が十分あるわけだし、完全に独立しての傭兵業を考えるならば審査員だとザナドゥに忌避感を持つ依頼主はかなり避けるようになるだろう」
クシーはカナードの言葉を聞き、一拍置いてからデメリットを説明しだした。カナードが保留ないし拒否出来るように配慮していた。
……クシーはどうもカナードが独立して活躍するのを期待しているような節があった。だが、今回ではっきりした。クシーはカナードの能力を評価していた。
審査会に入れたいのはクシーの組織人としての側面であり、ザナドゥという厄ネタから離した方がカナードの為になるのではと考えているのが私人としての側面だと悟った。
「そのような輩はどうでも良い!……だから、その」
カナードはクシーに誹謗中傷する輩への配慮等いらないと断言した。
……カナードにはもどかしさがあった。こういう時に何と言えば良いのかわからない。
「……ありがとう」
クシーはそんなカナードに対して感謝の言葉を述べた。心からの感謝だとカナードは理解できた。
カナードはそもそも審査員に成りたかった。クシーの申し出を受け入れると告げる事を決めた。
……クシーの側にいたいとカナードは口に出せなかった。
彼女は宇宙軍に帰投後、はっきり言えば良かったと後悔した。……そんな事を言う自分を想像して恥ずかしくなった。
とてもじゃないが部下達には見せられないと思ったカナードは気分が落ち着くまで部屋に引き籠もった。
どうでも良いが、カナード親衛隊『孤高の姫騎士』派閥はカナードの引き籠もり事件により再度脳破壊をされた。
……マッド大尉達主流派は彼女は何をしても尊いという姿勢を崩さないのでダメージはない。彼らは無敵だった。
姫騎士派閥も軍人なので敵が来ると想定し、訓練や点検に取り組む事で現実逃避していた。
姫騎士派閥のマリーヌ少佐達は22日の世界樹攻防戦においてドレーク級宇宙護衛艦『ナイアデス』で獅子奮迅の大活躍することになった。
ザナドゥ代表・クシーはカナード及びカナード親衛隊に手土産としてメビウスの改良機やアルカの改良機等を持たせていた。
……手土産というには随分な物であると新造兵器の報告を受けた地球連合軍将校達は思った。
クシーは自身が知らない内にアガメムノン級宇宙母艦『オルテュギア』の機密をカナード越しに貰ってしまった。……その辺りの罪悪感が全く関係ないと言えば嘘にはなる。
地球連合軍内の人事改革の余波で地球連合軍工廠での量産は間に合わなかった。
だが、命じられる前に先んじて改良した生産機を最適な人材に持たせる事に成功していた。
今回はザフトからの攻撃、その防衛戦でありザナドゥのシンパ達に機体を届ける時間的余裕はなかった。クシーが送れたのはオルテュギアに積める分だけであった。
……世界樹攻防戦で地球連合軍はまたしてもザフトに敗北する事になるが、クシーの渡した兵器はザナドゥを警戒する者達によって死蔵されなかった。
確かに少数ではあるが活躍は見える形で現れる事になる。