極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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閑話 鉄屑艦隊創設と地球連合の惨状

コズミック・イラ70年2月22日、マルセイユⅢ世級改装護衛艦ボイエンが必死に伝えた暗号通信は地球連合軍に最低限の防備を固める時間を与えていた。

 

地球と月の橋頭堡である世界樹が崩壊すれば、月面にあるプトレマイオス基地の物資輸送にも支障が出る。そうなれば今後の宇宙軍の行動に多大な影響が出るだろう。

地球連合軍側の防衛戦であり世界樹を守り切れれば勝ちだ。だが、敵は『踏み荒らす』程の数が来ているという事だった。

 

……現状の地球連合軍では世界樹を守りきれないと薄々気づいている者もいた。

それでもやらなくてはならないと地球連合軍は防衛戦に燃えていた。

何故ならばこの戦いで負けた場合、地球に核がバラまかれる危険性が飛躍的に上昇したからだ。

まだ月面のプトレマイオス基地等はあるが、その橋頭堡である世界樹が崩壊すれば補給物資の運搬も難しくなる。

 

地球連合軍・第13艦隊ペルミノフ少将らは仲間の最後の通信がこの時間を稼いだと喧伝した。

そしてそれに応える為に第13艦隊は奮起していた。

これには第13艦隊内ではそれまでやや部外者扱いであったザナドゥのシンパも同調した。

 

彼らは第13艦隊内でマトモな艦を保持していた。メビウスの熟練パイロットも多い。

第13艦隊は構成の三分の一が改良した旧式艦だろうがやってやると戦意に満ちていた。

同時に第13艦隊の運用に関してコーディネイターであるカナードを始め、傭兵部隊Xの者達も招いて考えていた。

旧式艦であるのでやれることは少ない。逆に言えばやれる事がわかっているので練度は高かった。

彼らにとって釣り野伏せからの集中砲火は基本戦術だった。治安維持や輸送で邪魔になる宇宙海賊を相手と同じ旧式艦で戦ってきていた。

第13艦隊は従来の任務を広範にしたものだと解釈した。それ以外は考えない。下手に考えれば余計に混乱すると判断した。

 

結果、彼らは遊軍として最適な軍隊となっていた。……ナチュラルの旧式艦だからこそザフトは侮ってしまう事になる。

第13艦隊に対してカナードは何時までも同じ手は通用しないと警告した。要はバレるなという意味である。

クシーは手の内をバラしてもどうしようもない状況に追い込むだろうがカナードはそこまで思いつかない。

第13艦隊側も宇宙海賊に何度も同じ事をしていれば対策されるのでそこはわかっていると返していた。

……ナチュラルやコーディネイターという括りなど関係ない絆がそこにはあった。

 

 

……そんな第13艦隊だが、開戦前の地球連合軍からは戦力として数えられていなかった。

そもそも本来の意図としては地球連合軍再編成までの間の仮設艦隊であった。

輸送任務に従事する第13艦隊を本気で戦わせる気はなかった。

ペルミノフ少将が懸念したように輸送を軽んじていたわけではない。

だが、他の艦隊がおおよそ壊滅していたので上層部的には一時的な間に合わせであった。

従って、再編成で戦力が確保できた段階で地球連合軍参謀部としては後方に下げようとしていた。

後に地球連合軍内で『鉄屑艦隊』と呼ばれる事になる第13艦隊が活躍するきっかけは政府と軍部の失敗だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

地球連合軍は2月14日の血のバレンタインで核ミサイルの反応を観測した。……同時に地球連合軍の大敗も把握した。

 

……報復ですぐにでもザフトが攻めてくるのを恐れていた。

11日にプトレマイオス基地を出発し、14日には地球連合軍は行軍できていた。

ザフトも3日あれば余裕で地球連合に攻め込めた。

 

ザフトがすぐにでも地球連合に報復に来たら不味かった。

……勿論、軍艦はあるが敗戦で指揮系統は壊滅していた。

軍隊としてはボロボロである。地球連合の軍隊という組織はこのままでは烏合の衆であった。

軍艦があってもどこの誰が指揮するという軍政は必要であり、最低限明確でなければならなかった。

 

地球連合軍はザフトのように兵士がその場の状況で判断できるような体制ではない。

寧ろ、歴史的に見れば明確な階級がないザフトは異質な軍隊であった。正直、テロリスト寄りの組織形態である。

 

何故あのような組織で破綻しないのか地球連合軍参謀部としては不思議だった。

正直、ザフトに階級がないのは捕虜の扱い一つにしても困る。

地球連合軍はザフトの捕虜の扱いは名目上は現地の義勇兵として扱う事にしていた。だが、ブルーコスモスの影響下にある者はテロリストとして扱うべきだと主張していた。

地球連合と軍部はプラントと調整したかった。

……プラントの徹底抗戦の宣言により、大規模な戦争が長期化する見通しである。

既存の取り決めよりも広範に決めなければならない事態になっていた。

 

地球連合は宗教界の大物であるマルキオ導師ややたら裏道が出来るようなザナドゥ代表・クシーに頼んでいた。

特にクシーにはどうせプラントとも繋がりあるだろうとせっついていた。この際、多少は目を瞑るから吐けと地球連合はクシーに懇願していた。

……ザナドゥのシンパが緒戦でそれなり以上のザフトの捕虜を確保していた。地球連合に明確な規則がないからとザナドゥは自分達で捕虜と認定して管理し始めていた。

 

過激な方のブルーコスモスにかぶれた者達は具体的な取り決めのないコーディネイターを捕虜とする余裕はないとしていた。……奴らは基本的に現地で処分していた。

どこにも証拠もないのでザフトにも追求はされないが、このままでは取り決めも何もないので暴走しかねない。地球連合内のマトモな者達にとっては非常に不味かった。

……地球連合軍としてはどちらのブルーコスモスも厄介だった。

最近はザナドゥをブルーコスモスにして良いかわからなくなってきたが、厄介なのは変わりない。

 

 

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血のバレンタイン直後の地球連合軍は再編成をするにも口実が必要だった。

14日に輸送艦が主体であった第13艦隊を呼び寄せた。

先ずは非常時の間に合わせとして配置していた。第8艦隊等、そのまま残っていた艦隊も防衛の為に配置していた。

後に帰ってきた、大部分が生き残り、緊急時の指揮系統も最も組織立っていたザナドゥのシンパ達を戦力の足りない第13艦隊にねじ込んだ。

 

そして、地球連合へ最低限軍が機能していると報告した。……要は形だけ作って政治家達を誤魔化した。

第13艦隊というハリボテ艦隊を置いてでも早急に地球連合軍の再編成を進めた。

 

……血のバレンタイン当時は政治的に揉めている余裕はなかった。揉めたのはその後である。

揉めた末に軍の再編成が完了して配備し、間に合わせの第13艦隊はほぼ用済みになったので元の輸送任務に戻らせようとした。

 

この段階ならば事後報告になるが敵を騙すには味方からという理屈で第13艦隊のペルミノフ少将も軍の再編成の為には仕方がないと納得させられただろう。

……第13艦隊には改装したとはいえ旧式の輸送艦で戦えという無茶苦茶な事を強いていた。当然ながらそれ相応に配慮がなされる予定だった。

 

ところが、

「何故、宇宙の化け物達が世界樹に攻めてくるとわかっているというのに防衛戦力を減らすのですか?」

大西洋連邦政府筋から抗議がきた。……政府筋と言いつつブルーコスモスの盟主・アズラエルである。

この言葉に地球連合の加盟国政府の高官も同調し始めた。地球連合の政府高官達も何故戦力を減らすのか理由がわからなかった。……ユーラシア連邦・大統領や東アジア共同体の中国・国主等の一部は察して影響下にある者達を黙らせたが疑問を抱く者が多すぎた。

高官達は第13艦隊があるから再編成する余裕があると言っていたではないかと理由の説明を求めた。

 

「再編成の為に旧式艦も集めていた第13艦隊ではザフトに有効打を与えるのが厳しいのです。他と足並みを揃える戦力として数えるにはやや不足しています」

地球連合軍参謀部は現状に即して説明した。

……声の大きい無知な地球連合内の政府高官達を黙らせておく為だったとは口が裂けても言えなかった。

 

「再編成が完了した現状だと第13艦隊は遊軍として運用できます。しかし、他よりも遥かに損耗するのは目に見えています。本来の任務である物資輸送等の任務に戻した方が……」

地球連合軍参謀部は軍事的に無駄なのだと理解を求めた。彼らは政府に嘘をつかない範囲でギリギリ軍を立て直していた。

第13艦隊は遊軍として運用出来なくもないが、それなら本業に戻した方が良い。もしくはマトモな軍艦を与えてからである。

ペルミノフ少将は地球連合軍参謀部の無茶な扱いにキレていたが、彼らとしても輸送を軽視しているわけではなかった。……緒戦で活躍した傭兵部隊Xやザナドゥのシンパにこれ以上の活躍されても困るという側面も多少はあった。

 

だが、

「……第13艦隊はマトモに活躍できない?そんな艦隊などいらないではないか」

ブルーコスモス・過激派の領袖であるジブリールがそんな事を言ってきた。

地球連合軍からすれば仮にも正規の艦隊をそんな理由で減らされてたまるかと抗議しようとした。

 

「第13艦隊はコーディネイターの息のかかったゴミ溜めでありますし、この際纏めて処分する方が良いでしょうな」

大西洋連邦軍のサザーランド大佐もジブリールの言葉に過激な補足をした。

……地球連合軍参謀部は身内に裏切られた。

参謀部の誰も知らないがサザーランド大佐はユニウスセブンに核ミサイルを撃ち込んだ張本人である。

 

「……旧式艦の艦隊とはいえ遊軍としてなら使えるのですよね?有効的に使った方が良いと皆さんも言っていますから……ねぇ?」

アズラエルはまるで引きつったような笑みでそう言った。

悪魔の笑みとはこういうものなのかと地球連合軍参謀部の者達の背筋が凍った。

……自分達が政府高官に配慮した言葉によってアズラエルに言質を取られてしまっていた。

 

アズラエルはブルーコスモス・過激派の意見と地球連合軍の軍事に無理解である高官達を纏めていた。

地球連合軍参謀部はどちらか片方ならばともかくこの二つを同時に退ける事は出来なかった。

 

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