極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月22日、宇宙コロニー世界樹攻防戦が開戦していた。
当初の予想ではニュートロンジャマー、NJを使うまでもなく勝利出来ると考えていたザフトは早々にその予想を裏切られていた。
最前線では激戦が繰り広げられた。ザフトも早々にNJを起動させた。
地球連合軍の核動力戦艦は軒並み動力を停止し、ただの箱になってしまった。
……それでも地球連合軍で戦う兵士達からすれば世界樹を突破されれば核の脅威が現実になる。
愛する者、地球に住む人々を守るという軍人は最後まで抗う意思を見せていた。
「……武装はまだ生きているな?使える有線魚雷やミサイルを手動、マニュアルで放つ。狩られる前に、装甲が持つ限り敵に向かって放て!……サエル中尉は最低限の人員を選抜、必要無い人員と共に脱出しろ!」
核動力戦艦『パウエル』の艦長であるジミー中佐は乗組員に命令した。
……核動力戦艦はザフトの戦略が核を封じる事ならばやがて艦として成り立たなくなる。
ジミー中佐は理論も何も無いような当時のザナドゥ代表の警告を一蹴したが、血のバレンタインを見てからは脳内にあった。プラントは核ミサイルを持つ地球連合軍に対して徹底抗戦を選択した。核動力を一時的に封じられる可能性が今、現実となった。最低限の人員は残すが棺桶と成り果てるのならば逃がす決断が出来ていた。
「このまま狩られるだけの箱に成り果てる前に固定砲台として運用する。……機能している通信で周囲に伝えろ。我が艦が完全に機能しなくなれば敵への盾として使えとな!」
ジミー中佐は動ける艦隊やメビウスに自身を盾にしろと言い放った。
どう足掻いても艦と共に死んでくれと同義である。
ジミー中佐は心の内で艦に残る事になる部下達に謝罪した。だが、そうでもしなければ地球を守れないと非情な覚悟を決めていた。
「中佐!私も残ります!」
脱出する乗組員の中には手伝うと言って、残る事を進言した者も居た。
「馬鹿野郎!メビウスが出払った以上はお前らが手伝っても邪魔なだけだ!……早く脱出しろ!」
ジミー中佐は気概だけはある部下を叱り飛ばした。
……マニュアル操作なので力仕事もある。若干助けにはなるがそれを言うのをジミー中佐は避けた。
「……次は無いだろうが、お前らは生き残って鍛え直せ!」
パウエルに残った整備兵、エマエル軍曹は未熟な部下達に最後の言葉をかけた。
……正直、逃げたいし出来ることならば変わって欲しい。だが、脱出する方も死ぬ確率が極めて高い。
「それならば友軍を守る為に命を賭ける。……皆、敵に花火を上げて派手に逝こう!」
エマエル軍曹達は艦と共に沈む覚悟を決めた。
他の残った者達もエマエル軍曹の言葉で死ぬ恐怖を紛らわした。
核動力戦艦パウエルの乗組員達はいつものノリで、だが普段とは違うマニュアル操作で武装を動かし始めていた。
「撃てるぞ。儂もこの艦では初めてだがな」
年老いた整備士であるオオツカ伍長はエマエル軍曹に報告した。
パウエルはやや型式の落ちる核動力艦であるが、マニュアル式のロートル艦を運用していた者もいた。
オオツカ伍長は経験を頼りにエマエル軍曹をサポートしていた。
……最後に自分の経験が生きた事に安堵しつつ、まだ若いエマエル軍曹達が逝くのを悲しんだ。
だがそんな事を思うのは皆の覚悟に対して無礼にも程がある。オオツカ伍長はそれを決して表には出さなかった。
オオツカ伍長もまたいつものように仕事をして、いつものように笑っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
MAアルカはNJにより機能停止した核動力戦艦へ向かっていた。
アルカの存在は地球連合軍内に知れ渡っていた。核動力戦艦からシャトルで脱出した人員を収容出来ていた。パウエルから脱出した乗組員達もアルカによって保護された。
……固定砲台及び盾になると覚悟を決めて艦と運命を共にする者達の収容は不可能であった。
軍人として彼らに敬礼をし、アルカに乗った者達は脱出していた。
「逃がすかよ!……ナチュラルのゴミ虫なんざ一匹たりとも生かしてたまるか!」
初陣であるワンダはMSジンを操り、脱出したシャトルを収容するアルカに狙いを定めていた。
アカデミーを卒業したばかりの若い兵士が多かったが、それ以外もいた。
彼らは血のバレンタインの復讐を大義名分に暴走していた。
「相手はもはや武器も持たない者達だ……やり過ぎだ!」
ザフト側にもワンダ達を叱る者もいたが激戦の為に直接止める術がない。……声は届かなかった。
だが、
「このゴミ箱を舐めるなよ……頭のおかしい奴が頭のおかしい装甲を作ったんだからな!」
武装を捨て装甲に全振りしたアルカは固かった。ジンの機銃掃射を浴びながら強引に突破した。
ロドニー少尉はアルカに乗っているがザナドゥシンパではない。
ロドニー少尉、彼は血のバレンタインの大敗北によるトラウマでまともに戦えなくなったメビウスのパイロットの一人であった。エースとは言わないものの熟練のパイロットである彼はアルカというキワモノを最前線で活躍させていた。
「『戦えないなら救う道を選ぶか銃を下ろして働け』と言われたらなぁ!男が廃るんだよ!」
ロドニー少尉は聞こえていない誰かに向けて叫んだ。
ザナドゥ代表・クシーは地球連合軍・上層部にただでさえ製造数の少ないアルカを提供する代わりとして2つの要望をしていた。
メビウスに乗れなくなったパイロット達を優先的に配備する事、その際に自分のメッセージを送って欲しいと伝えていた。
ロドニー少尉はそのメッセージを聞き再起できた。……自分もアルカによって救われた命だったからだ。
後方でパイロットとしての腕を腐らせるよりはゴミ箱、アルカで救って見せると決意していた。
……優れたパイロットであるロドニー少尉は最小限のダメージでその場を切り抜けた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アルカの有効性を宇宙軍の尉官達の命で証明された地球連合軍はザナドゥにある分を出せと命じた。
クシーはそんなに気軽に出せたら苦労しないと言いつつも取り敢えず手元にある分を軍に提出した。
……軍上層部はもっと金を出すからアルカをもっと寄越せと命じた。
後は未完成品しかないとクシーは情報を開示して見せてやった。
潜水艦の製造ラインで優れた者を引き抜いて作っていたが、アルカという在庫を抱える事になる。ザナドゥもそこまで人員と資源の余力は無かった。
クシーは保管できる場所くらい寄越せと制式採用を却下した軍上層部にクレームを入れた。
制式採用を却下されたクシーは輸送が主任務だった第13艦隊のペルミノフ少将に意見書を書いていた。量産するにはペルミノフ少将の派閥が動いてくれると助かった。
ちなみに軍上層部に提出していなかった未完成品は改良を施されてカナード達に送られた。
……軍にも送っているので文句は言わせない。
地球連合軍から制式採用を却下され、量産出来る施設も無いアルカはそこまでの数はなかった。軍上層部はアルカを量産する価値があるか悩んだ。
必要な分にはまるで足りない。だが、量産する程には必要ではない状況に陥っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうしたパイロットに運用されたアルカは戦場から脱出していったが、ジンの兵装である無反動砲を使用されて撃墜されるケースも発生した。
……戦艦も沈む兵装である無反動砲をマトモに喰らえば流石のアルカも沈んだ。そのアルカはギリギリで内部のシャトルを放出し、一部のシャトルは腕利きのパイロットが操る他のアルカに回収されたが大部分のシャトルは流れ弾で戦死した。
無抵抗のアルカ、味方への攻撃に激怒したメビウスにより無反動砲を使う隙を見せたジンは撃墜された。
……アルカの意味不明な重装甲は逃げるだけの時間を稼ぐ機能をしていた。
前線に送られたアルカは全てズタボロになりながらも核動力戦艦の乗組員達を救う事に成功していた。NJの被害からすれば全滅していてもおかしくなかった。
軍艦に備え付けられた脱出用のシャトルは機銃の1発で沈む可能性のある代物だ。激戦区の流れ弾で本来は死んだ。
……流れ弾どころか機銃斉射で沈まないアルカは艦に一つは欲しいと望まれる事になった。
ザフトからすると幾ら倒しても地球連合軍が回復してくる厄介な代物になりつつあった。
世界樹攻防戦は良くも悪くもMAアルカの存在を知らしめる戦いとなった。
……血のバレンタインでは混戦過ぎて評価されたのは地球連合軍の上層部と実際に救われた尉官であり、ザフト側はまだ把握しきれていなかった。
そんな激戦を生き残った者達……逃された者達はその経験を糧としていた。
「ジミー中佐、エマエル軍曹、オオツカ伍長……俺は何で未熟なんだ!!」
核動力艦パウエルから脱出した整備士見習いは勉強してこなかった自分を恥じて叫んだ。
彼は世界樹攻防戦を生き残り、後に他の艦に配属される事になる。その時には主任整備士並の腕を持っていた。
……緊急時にはマニュアル操作で自艦の兵装を操れるまでに詳しくなっていた。
整備士ならばそこまで必要ないという声は当然あった。それは否定できない。だが、彼にとって過去の自分へのケジメだった。