極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月22日、宇宙コロニー世界樹攻防戦は地球連合軍の物量の脅威が遺憾なく発揮された防衛戦となっていた。
そうなると当然主力同士がぶつかる最前線を支援する為に迂回するような部隊も出てくる。
特にザフトは大筋は決めて後は優秀なコーディネイターの判断で臨機応変に対応する軍隊だった。
ザフトの艦長は基本的に自艦にあるMS6機の指揮権を有する。
だが、クルーゼ隊のように艦長ではなく部隊長が前線で戦いながら指揮するようにもなっていた。
寧ろ、MSという兵器は臨機応変さが最大の武器である。
ザフトでは徐々にではあるが艦長よりも優秀なパイロットでもある隊長が指揮する事が多くなった。だが、コーディネイターは優秀とはいえ万能ではない。
……学校の成績表は優秀でも全体を俯瞰できる視野があるかは別だった。
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最前線ではなく迂回し、敵を奇襲する判断をしたナスカ級戦闘艦を含めた艦隊は分散していた。
コーディネイターは現場判断に優れている。士官アカデミーの段階でナチュラルの熟練の佐官クラスの能力が保証されていた。……理論的にはそうだった。
分散したが当然、一隻になる愚は侵さない。
ザフトのナスカ級戦闘艦ネヴィル、ローラシア級FFMウォールの二隻はMSジンを6機ずつ積載していた。二隻合わせて12機運用出来るMS母艦である。
MSジンは1機でメビウスを3〜5機は同時に相手に出来る。一時的に分散するが二隻あれば十分な戦力であった。
その際、ローレシア級ウォールはマルセイユⅢ世級改装護衛艦の艦隊を発見した。
戦力にならないから遊軍扱いなのか、はたまた警戒していたのかはわからない。
地球連合軍はNJにより通信が上手くいかない状況ではあるはずだった。
マルセイユⅢ世級が居るこの宙域は前線からやや遠い。今頃は何故、前線と通信出来ないのかと困惑しているのだろうと艦長の二人は推測した。
それでも取り逃して迂回する他のザフト艦の存在を報告されては不味いと判断した。ローレシア級ウォールはそちらを狩る為にMSジンと共に艦隊を追いかける事にした。
ナスカ級ネヴィルは同意し、ウォールに深追いしないように警告した。誘い込みの罠の可能性もあるのでその際はネヴィルのMSも合わせて食い破る手筈を整えていた。
しかし、二隻ともに判断を誤ったとすぐに悟る事になる。
ローレシア級ウォールが大分離れたところでナスカ級ネヴィルは地球連合軍の砲撃を受けた。
慌てて引き返そうとしたウォールは目をそらした隙に小天体の影から砲撃を受けた。
こうなるとウォールはネヴィルを救援する前に障害を排除しなければならなくなった。
ウォールの指揮下にあるMSジンを3機、砲撃の方向、小天体の影に向かわせた。
だが、ウォールの指示を聞く前に残りが逃げていったマルセイユⅢ世級を追いかけて行った。
マルセイユⅢ世級の艦隊は散り散りに逃げたが一隻だけ離れて行動していた。
……艦隊はともかく旧式の一隻が狩れる。それを逃がす事は若いコーディネイター達のプライドが許さなかった。
彼らは士官アカデミーを卒業したばかりのコーディネイターであった。
ローレシア級ウォールの艦長は自分達は迂回して攻撃するので艦の周りを警戒して大人しくしていろと命令していたのだが、彼らは頭に血が上っていた。
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マルセイユⅢ世級の一隻が限界ギリギリでジンの攻撃を躱していた。
装甲は最低限あるとはいえ、ジンの機銃がマトモに当たれば間違い無く撃沈される。
マルセイユⅢ世級の乗組員達はガチの逃亡であった。……不慣れな新人が気が付かないのも無理はない。
「逃げるな!ナチュラルの廃船風情が!」
士官アカデミーを卒業したばかりのコーディネイターが操るジン3機はそう叫んだ。
自分達の母艦であるウォールが砲撃を受けている事に気が付かずに深追いしてしまっていた。
「おいおいおい……これに引っかかるとかマジかよ」
地球連合軍のドレイク級エウメネスの艦長であるオオムラ中佐は釣れれば御の字の考えで控えていた。
NJの効果範囲外なので電磁誘導兵器類が使える。オオムラ中佐はドレイク級の兵装であるミサイルを使う事にした。
有線魚雷は確実に当たるがNJ範囲内に入った時の為に温存しておく。……若しくはこの3機のジンの母艦に使う。
「敵は機動力のあるジンとはいえ、これに引っかかる奴には当たるよな?……12連装ミサイルランチャー目標、ジン3機。放て!!」
オオムラ中佐はミサイルをジンに向けて発射した。電磁誘導兵器の働くミサイル12発のみだ。
ドレイク級は火力は豊富である。何ならミサイルも48発一気に放てるが12発で足りると判断した。
「……特殊ミストラル部隊、出番だぞ。嬢ちゃんから貰った戴き物だからって勿体ぶるなよ?」
オオムラ中佐はミサイルを大分ケチった自分への罵声を聞き流して言い切った。
……ペルミノフ少将がカナードから譲り受けた特殊弾が装填された改良型ミストラルと改造した通常弾の改良型ミストラルだ。
第13艦隊は輸送任務が主なので主力となりうるメビウスパイロットは不足していた。
特殊弾の攻撃が効かないなら攻撃しなければ良いというザナドゥ代表の発想は気に入っていた。
「糞!卑怯な!」
新参者のジン乗り達は一人は小破、二人が中破してしまっていた。
彼らは案の定、ミサイルをマトモに食らっていた。一人は気がついてミサイルを撃ち落としていたので軽微であった。
そこに改良型ミストラルの部隊がやってきた。……数は12機。改良型ミストラルなど本来ならジンの敵ではないが、流石に中破した状態だと万が一もあった。
「オオムラ中佐ももう少しミサイルを撃てよな……。本当にケチなんだから、あの人」
改良型ミストラルの部隊長であるエノキ少尉は愚痴を溢した。……倍のミサイル24発も撃てば確実に沈められた。
とはいえ、こいつらの母艦にぶち込みたいのも理解できた。輸送任務で資源を削減されまくった癖が抜けないのもわかる。
……だからこそ、ペルミノフ少将は改良型ミストラルの部隊を余計に寄越したのだと悟っていた。
今回の手法は釣れれば御の字。ならばドレイク級の火力で本来十分だった。
「じゃあ、皆。嫌がらせの時間だ。中破したジンは通常弾の6機、小破した奴には特殊弾の6機だ」
エノキ少尉は中破している素人の2機のジンには通常弾で対応させた。
ザナドゥ代表が自ら改良したという改良型ミストラルは通常弾でもほんの少しだけ火力が高かった。
「改良してもこの程度なのよね……」
改良型ミストラルに乗るパイロットは思わず愚痴を溢した。
ぶっちゃけ中破以上はしていないとジンにダメージが与えられない。
「……こんな雑魚にやられてたまるか!」
中破したジンはミストラルの解析データを知っていた。士官アカデミーで習っていた。
だが、ここは戦場である。改造された火力は知らなかった。……彼らはここでの体験を報告出来なくなる。
「こんな物、効かないというのにコイツらは巫山戯ているのか!?」
小破したジンのパイロットは四方八方を飛び回る改良型ミストラルに向かって叫んだ。
場所を知り尽くしているのか改良型ミストラルは小天体やデブリを利用してジンの機銃を躱す。
ジン乗りでも彼は特に操縦に自信があった。ミストラルとはいえ躱す奴らの腕前をみて一応は警戒していた。
ミストラルの攻撃を何度か霞めたと思っていたらジンの装甲に何かがくっついていた。
「ああ、マトモにやったら当たるけど効かないからね……知っているよ」
小破したジンは特殊弾を装備させた改良型ミストラルが対応していた。改良型ミストラル6機でジン1機を襲っても小破した程度ではジンに勝てるわけがない。
……改良型ミストラルの特殊弾とは粘着弾だった。当たれば敵の攻撃を鈍らせる事が出来るだけ。だが、それで良かった。自分達は隠れながら当てれば良い。
相手の腕が良かろうが第13艦隊、鉄屑艦隊は宇宙海賊相手のゲリラ戦を散々経験していた。……輸送物資を狙う屑共である。そいつらから地形の利用は学んでいた。
「敵を知れば百戦危うからずというけどさ。ペルミノフ少将は輸送のエキスパート。宇宙海賊がどうするのか徹底的に叩き込まれたなぁ……」
特殊弾を放つ改良型ミストラルのパイロットはその教えによって隠れ潜みながら攻撃を当てていた。
……圧倒的格上のジン相手にしていて死なないと感謝していた。幾ら腕が良くとも鈍らせた相手の機銃はもう当たらない。
「……マルセイユⅢ世級も戻ってきたな。ああ、いつもの奴だ。皆、狩るぞ?」
改良型ミストラルの部隊長であるエノキ少尉は皆に宣言した。
……自分達の母艦であるはずのドレイク級エウメネスは既にジン達の母艦の方へ行っていた。
小天体に隠れていたザナドゥシンパのドレイク級と挟み撃ちにされればMS3機があれども現状の母艦は沈むだろう。オオムラ中佐も流石にケチらない。……有線魚雷は残しそうだが。
ともあれ、敵は腕は良いとしても動きが鈍ったジン1機、ほぼ瀕死の2機である。マルセイユⅢ世級の火力支援で十分沈んだ。
「見たかね?若いの……本来ならばジン1機で余裕で死ねる我々の実力を?」
エノキ少尉は場を代表して宣言した。本来ならばMSジン1機で自分達は死んだ。
どうすれば勝てるか?……改良型ミストラルとマルセイユⅢ世級の攻撃を有効にすれば良い。
「少尉、あたしの艦はミストラルより火力は上だぞ!」
マルセイユⅢ世級護衛艦ザコの艦長であるイタミ少佐は抗議した。
……鉄屑艦隊の鉄屑の象徴であるマルセイユⅢ世級でもジンにダメージは与えられた。
「そこのジンに告げる。残念ながら貴方の仲間である二機はもう駄目みたいだが。……こちらは貴方を捕虜として迎える準備がある。……冷静に考えてくれ。投降を推奨する」
ザコの艦長であるイタミ少佐はジンのパイロットに降伏勧告を出した。……憎むべき宇宙海賊が相手でも鉄屑艦隊はそいつらを皆殺しにしない。
ザナドゥ側もなるべく殺さない方針であるという。イタミ少佐はシンパシーを感じていた。
「……ナチュラル風情が!!」
ジンのパイロットは士官アカデミー同期の仲間達が死んだ事実に激高して機銃を向けた。
「……そうか、残念だ」
イタミ少佐は敵方の若い声に対して言葉を溢した。今後、自分達が死ねば地球連合軍でもこういった若い奴らが出てくるのだろうと考え、一瞬だけとはいえ沈黙した。
「総員、攻撃開始」
イタミ少佐は総攻撃を命じた。……流石のジンもこれまでの粘着弾により機動力が低下していた。冷静になれたとしてもマトモに戦えるわけがなかった。
「さて、皆。合流するよ。……エウメネスに万が一があっても君たちは大事な戦力だ」
イタミ少佐は改良型ミストラルの部隊に告げた。
オオムラ中佐は上官であり、彼らの母艦に対して些か失礼だと思ったイタミ少佐は補足することにした。
「心配しなくてもカナードのお嬢ちゃん達の方でも敵を撃沈しているだろうが、次の狩りには合流しなければならない。……鉄屑艦隊の囮は一隻では意味がないのを理解してね?」
イタミ少佐は改めて命令した。第13艦隊の三分の一を占めるマルセイユⅢ世級等の旧式艦隊は囮役であるが、纏まれば火力となる。
改良型ミストラルの火力すら頼りにしているのだから作戦が完了した段階で即座に味方と合流するのは打ち合わせ済みだった。
ドレイク級エウメネスはカナード達と再度合流した際に自分達の火力に組み込まれる。
エウメネスが消費した弾薬や物資は改良型アルカによって補給物資が運ばれてくる。
……元々が輸送艦隊だった強みを彼ら鉄屑艦隊は存分に活かしていた。