極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月22日、世界樹攻防戦は第1次連合・プラント大戦でザフトが初めてNJを使用した戦いとなっていた。
本来ならば地球連合軍は理由も分からずにパニックに陥っていただろう。抵抗等到底無理であった。
だが、世界樹の防衛を任されていたのは地球連合軍・第1、第2、第3艦隊というエリート達であった。
再編成の中でなるべく時間を掛けて選抜された彼らはザナドゥ代表・クシーの論ずるに値しないとされている仮説が書かれた論文である『自由中性子阻害による核分裂停止と兵器利用』も読んでいた。
……その論文の扱いはゴシップ誌並だったが選抜されたエリートである艦長達は一応目を通していた。
当時は論外として彼らの中では結論が出た。だが、後の血のバレンタイン以降は仮説が脳裏にはあった。
皮肉にもこの扱いの低さによりザナドゥ内のプラントのスパイもクシーの仮説を把握していなかった。
世界樹攻防戦までニュートロンジャマー、NJはザフトの最重要機密だったので味方でも価値を見いだせるかは別であった。
結果論ではあるが、地球連合軍・第1、第2、第3艦隊は自分達の陥った状況を早々に理解出来ていた。
流石にNJによる電波妨害までは予測していなかったが、EMPか何かだと判断して既存の通信を試す中で解決した。EMP、電子パルス等の通信障害は普通に知っていたのでその応用で対処した。
近距離通信は可能なので戦闘を続行出来た。NJ予測が無ければ2つの相乗効果により現場は大混乱して核動力の艦で構成された艦隊は抵抗も出来ず、そのまま壊滅していた。
戦艦に残る人員を選抜し、他をシャトルで脱出させる事も不可能だった。
クシーによる『自由中性子阻害による核分裂停止と兵器利用』と題された論文未満の仮説は地球連合軍の艦隊で証明された。
……最悪だったがそれにより核動力戦艦が軒並み機能停止した状態に陥った事で彼らは艦を固定砲台や盾として運用する決意が出来ていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
クシーはメビウス等の兵器開発や家電製品の主流であるラプラシアン・システムを開発していた。
だが、軍内に提出していた資料は三流科学誌程度の権威であった。要は気にする者は気に留める程度である。
余裕があればクシーの妄言を小規模で再現してみる程度であり、現在の地球連合軍では軽んじられていた。
MAアルカもそういう経緯でクシーが独自で作って何とか量産した物を地球連合軍に送っていた。
「打ち出の小槌じゃないんだからもっと早く評価しろや。場所も足りないから余剰在庫も置けやしないんだよ」
クシーは軍上層部にキレた。不要だのゴミ箱だの言ってこの有り様である。
この頃のクシーは第13艦隊、元が輸送艦隊の司令官だったペルミノフ少将に資料を直接送付していた。
現状、地球連合軍に一番貢献しているのって自分ではないかとクシーは思い始めていた。
……確かにかなり貢献しているが、地球連合に迷惑かけているのもクシーなのでザナドゥ内部ですら賛同する者はいない。
ザナドゥ内部ではクシーの地球連合軍への貢献に同意すると理不尽にクシーがキレると知られていた。
戦闘に従事する現場で一番貢献しているのは正直クシーだよなとシンパから思われている。
ザナドゥ代表・クシーは基本何でも出来た。だが、そんな巫山戯た存在だと気が付いている者は意外と少なかった。
ザナドゥ代表・クシーは15歳という若さ故にナチュラル社会では評価が低かった。
……15歳という事実を無視するダブスタがあった。
世界中からバッシングされたりヘイトスピーチされたりしているがクシー本人の表現の自由という大義により見逃されていた。
そんなクシーですら目に余るような所業を行う者に対しては背後関係を調べ上げたり、雑コラを拡散されたりしていた。
クシーは捏造だけは細かく確認し、その都度ザナドゥ側の広報等で訂正していた。
過去にザナドゥを捏造により追い詰めようとした情報のエキスパート達は捕縛され、現在ではザナドゥの報道機関で働かされていた。
彼ら捏造のエキスパート達は自分が現役ならばしないような杜撰な捏造に苛ついていた。
同時にクシーもザナドゥも怖い。彼らは極めて真っ当な対応をする職務についていた。
クシーは赤道連合でアナウンサーの主導で捏造報道された際、ザナドゥでも特にキレ易いフェイ支部長を宥める等の面倒な事をしていた。
特出した才能があっても一つか二つのナチュラル社会においては自分達が理解出来る範囲でクシーの所業は情報として消化された。
……異物過ぎてマトモに考えると消化不良を起こす。分かりやすい範囲で認識されていた。
クシーは専門分野を部下達にも頼っていたので外から見ればザナドゥという組織の成果と認識されていた。
……それも間違いでもない。ただ世間は15歳の少年が全てに関わっているとは思わない。ザナドゥ内部にいるザフトのスパイですらクシーにそう思わされている。
ザナドゥの幹部でもごく少数だけがクシーは基本的に何でもやれる才能の怪物だと把握していた。……クシーとは何でも代用可能なジョーカーだった。
そういう存在がザナドゥという組織のトップに立っていた。それによってクシーは見る者によって認識が違っていた。
一般的には民間の技術者及び組織の経営者として評価されていた。
テロリストや過激派からはデストロイヤーとして恐怖されている。
ロゴスからはもうアイツはコーディネイターよりもヤバい化け物なのではと疑われている。
直接関わりでもしない限り、分野違いではほぼ評価されていなかった。NJに関しても、科学理論と技術者は求められる才能がまるで違った。
諸悪の根源、ファーストコーディネイターのジョージ・グレンが提唱した『新人類』とはクシーの事を指すと古参のザナドゥのシンパは考えていた。
No.2のティモテもそうだと仮定していた。
……ティモテの場合は頻繁に誰かしらに迷惑をかけるクシーの所業を謝罪する立場でもあるので手のかかる孫のようにも思っていた。
新興宗教の信徒に近い彼らの思想は当の本人であるクシーからドン引きされている。
クシーは過去にいたジョージとかいう変人の電波妄想に付き合っていられるかと憤慨していた。
しかし、表現の自由を尊ぶクシーは言論弾圧という手段が取れない。出来なくはないがしたくなかった。
そのため、自分が失言することで相手を幻滅させる手法を定期的に行っていた。
南アメリカ合衆国支部にいるヴィクトリア等はクシーから良くやられていた。
ヴィクトリアが変な思想に染まってクライン派と関わったら碌でもない事になりかねないので徹底していた。
……最近のヴィクトリアは別な方向の感情が表面化してきていた。このままだと再会した時にラクスから何か言われないかと思っている。
これ以上面倒臭い事をしたくないクシーは気の所為だと誤魔化していた。
……クシーは異性を幻滅させるだけの本人的には簡単な日課が滞ってしまう程に忙しすぎた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後世で万能の天才としてレオナルド・ダ・ヴィンチが語られる事は多い。
だが、ダ・ヴィンチの生きていた当時はラファエロ、ミケランジェロ等の並外れた才能を持つ傑物が先に語られていた。
勿論、生前からダ・ヴィンチの評価は高かったが誰もが口を揃えて万物の天才とまで言われていなかった。
ザナドゥ代表・クシーはそれに近い状況であった。
どれ程の先見の明から警告をしていても歴史の当事者は自分の常識で理解出来る相手に考えが及んだ。
ブルーコスモスの盟主・アズラエルが組織内で尊敬を集める事が出来るのは、持ち前の能力もあるが常人に理解出来る形に落とし込む事が抜群に上手かったからというのもあった。
……能力のあるアズラエルですら理解出来ない電波を垂れ流すクシーはブルーコスモスの過激派にとって理解不能の怪物である。
彼らにとって脳を汚染する毒電波を受け入れる事は無理だった。
……ザナドゥの幹部として働き、直接接していればクシーがどれ程ヤバい奴なのかは察せられるが人間が関われる範囲は限られている。
聖なる大地の元代表にしてザナドゥ本部のトイレ掃除担当係のヌエバは良くも悪くも理解出来てしまっていたが、今更自分の所業を悔いたところで掃除夫くらいしかやれない。
ヌエバは自身が持つ政治的コネと過激派テロ組織のノウハウをザナドゥに全部ぶち撒けていた。
自分の生きる道としてトイレ掃除をしているが、テロ組織関連の政治的文脈を読み解く際に呼びつけられたりもしていた。
このような異物であるクシーが提出したNJの存在を論じた仮説を本気で懸念した者はほぼ居ない。
地球連合軍内では主流から外れた第8艦隊所属のマリュー・ラミアス大尉くらいであった。
キラともアスランとも出会っていない幼少期のクシーと一度だけ関わった事のあるラミアス大尉はその異常さを察していた。
ラミアス大尉は後のアークエンジェルの艦長であり、PS装甲の生みの親であった。
更に戦闘能力はコーディネイターの特殊部隊を上回る才能の傑物だった。
だからこそマリュー・ラミアスはクシーの異常さを一目見て感じ取っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2月22日、世界樹攻防戦の末期頃。
地球連合軍・第8艦隊にてマリュー・ラミアス大尉はデュエイン・ハルバートン准将に極秘作戦に関して相談があり、面会していた。
「……ハルバートン提督。以上の理由からザナドゥ代表の懸念は考慮に値するかと」
ラミアス大尉は地球連合軍の現状が非情に危ういと進言した。
ラミアス大尉は彼の論文『自由中性子阻害による核分裂停止と兵器利用』を携えていた。
鹵獲したMSジンを解析し、バッテリー駆動で核動力を使っていない理由を考察していた。
……核動力にしないのはプラントの資源不足や安全性の問題ではなく核動力を使わない戦術だからではないかと進言していた。
「……ここだけの話だ。噂話として聞いてくれ」
ハルバートン准将は世界樹攻防戦の状況を電報で知っていた。……もう既に核動力艦隊は停止したらしかった。
……ラミアス大尉は極めて優秀だと再確認したハルバートン准将は彼女を新造艦アークエンジェルの副艦長にする事を決めた。技術士官を副艦長にする等、人事の慣例も吹き飛ばした特例の人事である。
だが、この瞬間にも新技術が続々と戦場に投下されていた。新造艦アークエンジェルの機構も複雑であった。……まだ詳細はわかっていないが、間違いなく士官が世界樹攻防戦で更に激減しただろう。
副官に技術士官であるラミアス大尉を置くくらいしないと十分な性能が発揮できなかった。
……新造艦の運用ノウハウを積む事が目的とでも上層部を言いくるめて彼女を配置する事をハルバートン准将は決意した。