極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第41話 世界樹攻防戦③ 悪意の一手

 

コズミック・イラ70年2月22日、大激戦となっていた世界樹攻防戦。

 

MSジンという兵器の質とコーディネイターの素質、更にNJの投入ともなればザフトが勝利していた。

唯、相手にしたのは地球連合軍・第1、第2、第3艦隊というほぼエリートで構成された艦隊とメビウスパイロット達であった。彼らはプラントに攻め込んだ有象無象の群れではなかった。

 

世界樹の防衛に地球連合は練度を重視し、政治的に妥協をした。

……これで駄目ならば地球連合側もブルーコスモス・過激派が唱える再度のプラント侵攻計画、短期決戦は不可能と大部分が諦めも付いた。

 

地球侵略や核報復の未来を無くす為にザフトに世界樹を壊させないという意思は固かった。

地球連合軍・第1、第2、第3艦隊はザフトによるNJ使用の時点で薄々分かっていたが、もう目に見えて限界に近付いていた。

遊軍という名の別働隊に等しい第13艦隊はザフトの艦隊を食い止めていた。

第13艦隊、鉄屑艦隊は半数近くが旧式の艦隊とは信じられない程の壊滅的被害をザフトの迂回していた艦隊に与えていた。

だが、彼らの活躍を持ってしても敵艦隊が主力に再度合流しない様にするだけで精一杯であった。

 

 

世界樹攻防戦の総指揮を執っている第1艦隊・司令官にして地球連合軍の総司令官であるウィルキンソン中将は座乗艦のアガメムノン級宇宙母艦『スペンサー』にて決断を迫られていた。

 

「第13艦隊は迂回するザフトの艦隊を地形を利用して妨害している。……旧式艦隊で無茶をする」

ウィルキンソン中将は第13艦隊からの報告を再度確認していた。

迂回するザフトの艦隊が来ていると聞いた時は終わったと思ったが、輸送の専門家であるペルミノフ少将は敵が何処から来るのかを把握して待ち構えていた。

元々が輸送艦隊である第13艦隊とは連携が取り辛いザナドゥのシンパや傭兵部隊Xを分離し、挟み撃ちにする等してザフトの艦船を各個撃破しているという。

 

「漏れ出たと思われるザフトの艦も来ましたが、未だ対応出来ています」

ウィルキンソン中将お抱えの参謀であるアーバス中佐は補足を述べた。

若しそのまま来られていたら電波障害もあり、地球連合軍はザフトの艦隊に挟撃されて詰んでいた。

 

「主砲、ゴットフリート。放て!!」

旗艦であるスペンサーの艦長・ノット大佐が命令を出した。艦長であるノット大佐は艦を操る能力そのものはウィルキンソン中将よりも長けており、彼が安心して全軍の指揮を執れる様に的確に艦の指揮を行える、総司令官の信任が厚い優秀な人物だ。

……最早総司令官が座乗する旗艦ですらも戦わなくてはいけなかった。スペンサーは他のアガメムノン級よりも装甲は厚く改装されていた。ザフト艦の主砲でもマトモに喰らわなければ中々墜ちない。

 

「弾薬はそろそろ尽きるな。ウィルキンソン提督に通信で伝えろ。……幸いなのが先程の糞……民間コロニーが世界樹に居る民間人達を避難させた事くらいか」

第1艦隊に居るドレイク級艦隊の艦長の一人、ウラービー少佐は本音を溢した。

旗艦であるスペンサーを守る為に控えていた彼らも限界が近くなっていた。

選抜されたエリートだけあり、NJで電磁誘導兵器類が使えなくなってもミサイルを手動で扱える砲手が居た。

 

「我が艦も間もなく限界だな。……第13艦隊に撤退支援を依頼すべきか?然し、それでは彼らを使い潰す事になる。どうすれば良い?」

第2艦隊・司令官であるミハエル少将は迎撃しながら次の一手を考えていた。……もう全体に限界が来ていた。既に地球連合軍は壊滅に等しい。

敗軍の将として誹りを受けても撤退すべきだと現場で戦っている地球連合軍の殆どが考えていた。

ザフトの地球侵略や核の脅威が現実に近付くが、対抗出来る人材を生かす必要があった。世界樹の民間人という後顧の憂いはグレイブヤードが良くも悪くも持っていった。

 

「ザフトの攻勢も増しているような気がするが。……彼方にも出来れば捕虜を取るマトモな軍人が居て欲しいが……」

ミハエル少将は第1艦隊や第13艦隊と同じく可能な限り捕虜を取っていた。

第13艦隊の様に囲んで殴れる様な環境ではないので本当に少数ではあるが。

エリート軍人としての誇りがある彼らは敵方のザフトにも出来うる限りの配慮していた。

 

第3艦隊はブルーコスモス・過激派が主体で牛耳っていた。

 

総司令官やミハエル少将もコイツらが居なければ最大限の抵抗はしたが未だ余力のある内に撤退していた。

特にグレイブヤードの件は滅茶苦茶だが、或る意味良い区切りとなっていた。核動力艦が機能停止し、味方には非情な事をしたが停止した艦を地形として活用していた。だが、その盾も使えなくなりつつあった。あの辺りから地球連合軍が持ち直すのは無理と冷静さを取り戻していた。戦う理由の一つにもなっていた世界樹に居る民間人への被害もほぼ無くなった。

……第3艦隊にもマトモな軍人達は居た。捕虜を取る余裕も無ければ碌な目に合わせられない第3艦隊のマトモな軍人達は基本的には捕虜を取らずに、宇宙に漂わせたままの放置が選択されていた。

 

第3艦隊に配属されている者達も選りすぐりの軍人ではあったので奮戦してはいるが、やや全体との協調性に欠けた。……嫌な予感を第2艦隊・提督は抱いていた。

この状況でも撤退を反対する第3艦隊は未だ戦力を出し惜しみしているのではないかと察し始めていた。この状況で正気では無い。

……地球連合軍は正気では無い思想家が軍を支配する恐怖を肌で感じ始めていた。

 

 

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所変わってザフト側も又抵抗する地球連合軍を攻めあぐねていた。

ザフトからすれば地球連合軍の弾薬が尽き始めているとは未だ察する段階ではなかった。

ザフトとしてもかなりの被害はあるものの全体で見れば優勢で負ける要素は無い。

だが、ザフトからすると最後の一手、決め手に欠けているという印象を抱いていた。

次の手としてザフト艦の火砲の一点集中で敵艦隊に風穴が開けられないか試していた。

上手く行けば地球連合軍の第3艦隊・提督を仕留める隙が出来ただろう。

 

「糞!……迂回していたミケーネ達は足止めされているのか?それとも……」

ザフトのナスカ級の艦長であるグレン・ロドリゲスは後もう一押しを欲していた。

迂回する艦隊を派遣していたが、思わぬ伏兵が居たらしく思うようにいかなかった。

ロドリゲスは素晴らしい戦果を上げたNJの弱点も把握し始めていた。……NJを使用するとザフト側も長距離通信が上手く行かなくなる。レーザー通信の一部が有効なので味方と連絡を取り合えていたが、地球連合軍にバレないように立ち回っていた。地球連合軍にバレたら対策されかねないので最大限警戒していたが、それが仇になって来ていた。

 

「……クルーゼの言う通りだった!此処はナチュラルの……奴らの庭なんだ。プラントとは訳が違った!」

ロドリゲスはナチュラルを敵では無く、下等種族と軽視していた。ロドリゲスはその認識を恥じた。

奴らの大半は下等だ。血のバレンタインという愚行を仕出かす。だが、マトモな奴らも居たのだ。

 

「3つの艦隊の内、2つはマトモな奴らだ。……傍受した通信では俺達、ザフトの捕虜を第3艦隊とやらに見付けさせるなと言っていた……」

ロドリゲスはザフトの捕虜等というのは戦意が下がるので伝えてはいない。独り言である。

核動力を封じられた筈の艦隊が死力を尽くして抵抗する様をロドリゲスは見ていた。……マトモな奴らが血のバレンタインと同じ事を地球にさせない為に奮戦していた。

その事実を察したロドリゲスは戸惑っていたが軍人として自分を奮い立たせた。

敵にマトモな奴らが居たとしてもザフトの軍人である以上は戦わなくてはならない。

 

「今だ!集中砲火により出来た隙を狙え!必ずあのアガメムノン級を仕留めろ!それでこの戦いは終わる!!」

ロドリゲスはMSジンの部隊に命令して第3艦隊の首魁の隙を狙った。……チェックメイトである。

第3艦隊のトップが落ちれば流石に壊滅状態の地球連合軍も引き下がるだろうと予見した。

ロドリゲスの艦は同胞のMSジンに守られつつ自艦は艦砲射撃で地球連合軍に向けて撃っていた。

 

「プラントに帰ったらこの戦いの犠牲の責任を取らなければな。……俺がクルーゼの進言をもっと真剣に聞いていれば此処までにはならなかった。それに敵にもマトモな奴らが居るのならば……」

ロドリゲスは既にジンの部隊に命じたのでほぼ遣れる事が無い。それ故に自分の今後について考えていた。

ロドリゲスは世界樹攻防戦で手痛い損害を出した責任を自分が取るつもりだった。

ザラ派寄りの思想だったが落ち目のロドリゲスならばクライン派と繋がっても問題ないだろう。早期終戦をするならば敵にマトモな奴が残っている内にと自分も地球連合との和平に向けて奔走している未来図を脳裏に描いていた。……それくらい思わないと遣っていられなかったのもあった。

 

だが、ロドリゲスの未来図は最悪な形で裏切られる事になる。

 

「……馬鹿な……何故だ、何故地球連合軍の艦からジンが出て来る!?俺達は同じコーディネイターだぞ!!」

ロドリゲスは自分の派遣したジンらが第3艦隊から出て来た白いジンらによって大破したのを見た。

……不味い。ロドリゲスは同胞のMSジンに守られているが、彼らは自分では無く彼らの母艦を最優先で守っている。それは当然であった。

 

「所属は!……地球連合軍でもザフトでも無い?まさか……奴ら、しらばっくれるつもりか!?」

ロドリゲスは此方に向かって来る白いジンの部隊の素性を察した。

……地球連合軍は自分達と同じ同胞、コーディネイターを使い潰す前提で運用している。アレはその様な部隊であると察した。

同時に敵にもコーディネイターが居るとザフトも認めたくないだろうと察した。

……アイツら、第3艦隊の首魁は自分を守る為ならばナチュラルもコーディネイターも仲間と見なしていない。……何方も見捨てやがった。

ロドリゲスは憤激しながら鹵獲されたMSジン部隊に母艦を撃沈され、無念の内に戦死した。

 

 

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この攻撃は或る意味、最高のタイミングでの奇襲ではあった。だが、今更コーディネイターの部隊を使っても戦局は変わらない。核動力艦が盾になっていた時期ならば隠れて撃つだけでザフトの脅威となった。……MS部隊の存在を知らされていない第1、第2艦隊は彼らの犠牲を無駄にした第3艦隊・司令官であるセオドア准将を怒鳴り付けるつもりだった。然し、最も撤退に反対していたセオドア准将は既に撤退し始めていた。

第3艦隊・司令官であるセオドア准将は自身の保身と逃げる為に死蔵していた大西洋連邦から嫌々引き取った化け物達を野に放った。第3艦隊で自分に反発する奴らは提督である自分を守らずに残っていた。セオドア准将は勝手に死ねと部下達を心の中で罵った。

 

家族の命と引き換えにコーディネイターである彼らはザフトの正規軍に”勝手”に戦いを挑んだ。

何方からも切り捨てられる道しかないと薄々気が付いていても家族の為に信じるしかなかった。

地球連合・大西洋連邦軍のコーディネイター部隊である彼らは識別の為に白く塗装された鹵獲機であるMSジンの兵装である重斬刀を片手に持ち、片手で機銃を斉射しながらザフトに突撃した。

……彼らはザフトと違いMS操縦のノウハウが無く、マトモな訓練を受けていない。

ジンで不意打ち出来る程度であり、それ以上となれば特攻覚悟で攻める他なかった。

 

元プラントのコーディネイターであるジャン・キャリー少尉は部下達の機体と同じく白で塗られた機体で先陣を切った。 マトモな訓練を受けられず、実際は只の一般人でしかない部下達を守る為だ。

同族であり、部下でもある彼らを一人でも生かす為にキャリー少尉は奮闘していた。嘗てプラントに住んでいたキャリー少尉はプラントの方針に付いて行けなくなった為に地球に帰還し、戦争による憎しみを止める為に地球連合軍に入隊した。

だが、大西洋連邦が極秘で行っていたコーディネイターの素人達の強制徴兵を見て、見ぬ振りが出来なかった。

部下達を一人でも多く生き残らせる為に、そして、彼らの為にも成果を出さなければならないとキャリー少尉は必死だった。

 

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