極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月26日、地球連合とプラントにより捕虜交換等の戦時条約締結会議が開催された。
マルキオ導師とザナドゥ代表・クシーが提案し、オーブ連合首長国のウズミ・ナラ・アスハ代表によって仲介された会議である。
より中立地帯を求めたザナドゥ代表が火星移民計画黎明期に築かれたコロニー『コルシカ』を提案した。
コルシカを所有するマーズコロニー群に住むマーシャン達は平和への一助として声明を発表、会議場として提供する事に同意した。
その様な経緯から場所は何とか合意された。然し、ザナドゥ代表とマルキオ導師、非主流派の法学者等が連名で提出した条約案は地球連合・ザフト双方が却下した。
双方の代表とも条約案の有用性は認めつつも、そのまま採用するには戦争全般に支障が出ると理想論だと断じた。
とはいえ、マトモな法律家達が作成しただけあり、条約案はお互いの話し合う土台として最適に近かった。
地球連合・プラントの双方から代表は条約案の枠組みや構成を下地として話し合いは進んだ。
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マーズコロニー群に住む火星圏のマーシャン達は自分達も存在を忘れていた古い権利を持って来たザナドゥ代表を追い返せなかった。
クシーはマーシャン達に取って面倒この上ない権利者であった。
『箱』とかいう詳細不明な、だが何故か現在も効力のある権利を提示して来た。
50年以上前の当時のデータと照合出来た。古いデータはクシーの主張は正当な権利であると示していた。
クシーは『箱』の権利でコルシカを戦時条約会場として利用させろと主張した。
マーズコロニー群へクシーは自分の持つ権利がマーシャン達に取って面倒だろうから譲る。
その代わりで良いから中立地帯であるマーシャン達の場所を貸せという。
マーシャン達の政府機関は謎の権利と最近地球で名前が頻繁に飛び交って騒がしいクシーとかいうのに辟易した。
問題のコロニー『コルシカ』は大した価値はもう無かった。
……火星と地球の間にある黎明期の橋頭堡であったコルシカは廃棄寸前のコロニーである。
黎明期所か旧暦に建設開始されたので、地球とプラントから近い距離にある施設でもあった。
マーシャン達は箱などという権利が生まれた過去の経緯は不明だが、クシーの保有する権利を放置すればマーズコロニー群全体に取って面倒な事になるとは判断出来た。
その面倒な権利を唯場所を貸すだけでクシーから取り上げられるのであればと納得した。
マーズコロニー群内部の政府は地球連合とプラントの話し合いの場として貸すのを許可した。
だが、マーシャン達からすればコルシカを第二のグレイブヤードにされたくない。その騒動は火星にまで届いていた。
ザナドゥ代表が持つ詳細不明な権利を元にコルシカを所有される様な事はあってはならないと政府は判断した。飽くまでも貸すだけだと念押しした。
クシーだか何だか知らないがテラナー(地球人)風情が我々、マーシャン達を敵に回すならば容赦しないと警告した。
大半のマーシャンは厳しい環境である火星圏で育つのでナチュラルは勿論、資質のみで奢る様なコーディネイター達よりも鍛え上げられていた。彼らは根本的には地球人類に対して生物学的に優位を自認していた。
クシーはそういうのは慣れているからさっさと貸せと言い切った。……彼はマーシャン達の本性を見てややウンザリした。
クシーからすればナチュラルもコーディネイターもマーシャンも対して変わらなかった。
尚、『箱』に関する情報が火星圏で出回った際。マーズコロニー群に住む老人達の一部が騒いだ。
過去の取り決めだの、不義理だのと主張していたが現在を生きるマーシャン達には過去の事で有り過ぎた。
恵まれている地球やプラントとは違い、環境の厳しい火星では衰えた老人達には既に発言力は無かった。
……この一連の遣り取りは後に火星圏の歴史認識に関して問題となる。
だが、当時のマーシャン達は自分達が戦争に巻き込まれない様にする事で精一杯であった。
クシーも本気で忙しいので過去を振り返る余裕の無い者達に説明する義理は無いと判断した。
……平和な時代であればイゼルカントに土産話の一つくらい持って帰れたと少しだけ頭を過った程度である。
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2月25日、ブルーコスモス・環境保護派の重鎮であるイゼルカントが危篤状態から3日振りに回復した。
……イゼルカントはセトナに止められるまでクシーをぶん殴った。真面目に死ぬかと思った。
イゼルカントは息子への約束を取り敢えず果たしたので気分がスッキリした。
「生きる元気がある様で何より。……もう百近いのに元気有り過ぎだから休憩には丁度良かったのでは?」
クシーは軽口を叩きつつ、イゼルカントの元気さに安堵した。
……世界樹攻防戦が終わったらと伝えていた戦時条約に関して最終確認をしに来ていた。
流石にグレイブヤードの陽電子衝撃砲は想定外だったが。
「戦時条約を結ぶのに廃コロニーコルシカの利用権と『箱』の権利放棄と引き換えにして良いのか?」
クシーは何故か分からないがセトナを同席させていた。
……セトナ・ウィンタースはマーシャンであり、一応は関係ある筈である。ザナドゥの審査会のオブザーバーだし良いかと判断した。この時、クシーはかなりの激務で疲れていた。
「私はもう精一杯なので簡単な交渉をしたが、アッサリ受け入れられた。……あの過去に無知なマーシャン達……済まない、セトナ。私とした事が口が過ぎた」
クシーはセトナに謝罪した。だが、現在クシーが所有する『箱』とは火星に関する過去の遺産であった。
セトナも自分も生まれていない時代の些細な取り決めである。だが、彼らに取っては大事な事だった筈であった。
「…………」
セトナは唯黙って行く末を見守る事にした。
火星圏の人類にとって恩人であるイゼルカントの功績が忘れ去られている現状に謝罪したいが、只のセトナでは無関係な小娘の言葉になってしまう。
「最後にもう一度だけ確認するが、私はこの箱をマーシャン達に渡すつもりだ。私は譲り受けて貰った身で何だが関係ない。……だが、元々は貴方の物だ」
クシーはイゼルカントの過去の功績を投げ売りすると明言した。本当に良いのか最終確認をするまでは会議に望むのも惜しまれた。……偶々イゼルカントの回復に間に合ったので良かった。
「現在の人類の危機に比べれば過去の事なんて気にするな。今を生きる者が決めろ。……今は唯でさえ大変な時代だ」
イゼルカントはクシーに改めて伝えた。息子のロミが生きていたら又別の未来もあっただろうが、幼くして亡くなった。箱は黎明期の火星圏との取り決めである。
当時のイゼルカントはマーシャンに礼は不要と言ったのだが、せめて未来で恩を返したいという彼らの意思だった。……悪用しようと思えば幾らでも悪用出来る。
「或る意味、小僧で良かったかもしれない」
イゼルカントはクシーに溢した。当時の箱はマーシャン達が後に返すという宝払いだった。
火星が自立出来た暁には当時の恩を箱に詰めて返すという取り決めだ。
だからこそ当時の施設であるコルシカの利用権……所か所有権すら余裕で請求できる。
「火星は今では希少な鉱山が多数見つかり、利権として複雑に絡んでしまった」
イゼルカントは自分の半生を振り返っていた。過去が走馬灯の様に駆け巡る。
「ああ……そうか。私は唯単に彼らの成功とそれまでの苦労話でも酒を飲みながら聞きたかったのだ。彼らからの『箱』の中身とは私にとってそういう物だったのか」
イゼルカントは心の整理が付いた。死後に取り合いになり兼ねない『箱』を何故今まで処分せずに自分の手元に閉まっておいたのか漸く納得出来た。
本来は欲深き者が持てば『箱』は何処までも搾取出来る様な権利である。嘗ての彼らの思いを踏み躙らない様な誰かに託したかったのだ。最悪でも処分出来る後継が欲しかった。
「フハハハ!小僧、やはりお前で良かったぞ。……只単に場所を貸せという理屈で誤魔化して放棄出来る。取っておいて良かったわ」
イゼルカントは思わず笑っていた。悔いはないと安堵した。
そして、そのまま息を……
「待て!」
其処に第三勢力が遣って来た。環境保護派の同胞、ジャミトフが見舞いに遣って来た。
発言はジャミトフではない。……その連れが良い感じにイゼルカントが逝けそうだった空気をぶち壊した。
「巫山戯るな!……元監督?貴様がそれを放棄するならば私に寄越せ。私には道化の役割を演じさせるだけで報酬も無しか!?」
現在ジャミトフに騙されてティターンズの代表をしているハプテマスはキレた。
火星圏の利権目当てで環境保護派に舞い戻ったハプテマスからすれば、求めていた利権が既に他人に渡っていた挙げ句に浪費される瞬間を目撃していた。
「……お前みたいな奴らが居るからこんな事になるんだろうが!そんな大人、修正して遣る!!」
クシーはハプテマスにキレた。彼はちょっと欲が深過ぎるのでクシーは修正する事にした。
「……逝き掛けたな?爺」
ジャミトフは良い感じに旅立とうとするだろう同胞を未だ引き止めた。
……未だこんな奴が居ると悟らせた。荒療治だが、イゼルカントは未だ必要だった。
「……爺が爺を酷使するとか老老介護とか言うのだったか?私の方が年は上だが」
イゼルカントはジャミトフに毒を吐いた。この爺の所為でこの世に引き止められた。
だが、イゼルカントも未だ死ねないのでホッとした。ジャミトフがティターンズを操ってブルーコスモスの内部を荒らす。イゼルカントが死んだらその計画は破綻する。
恐らくクシーは軌道を修正するだろうが、唯でさえ忙しい小僧が過労死する。……本当に人材不足過ぎてハプテマスの様な奴まで使わないといけなかった。
「ええと……その、喧嘩は止めて下さい!此処は病院ですよ!?」
セトナは沈黙を漸く破った。セトナはマーシャンとして色々考えさせられていたが、流石に止めないといけないのはハッキリした。
クシーはハプテマスに対して馬乗りになり、ボコボコにしていた。
「コイツは無駄に強いから大丈夫だ!」
クシーはハプテマスが泣くまで殴るのを止めないつもりで断言した。
……実際、ハプテマスは無駄に戦闘力が高かった。クシーに勝てないが相手が悪いだけで精鋭部隊を相手取れるくらい強かった。
「くっ……だが、未だ箱は有るのだろう……ちょっと待て、それは止めろ!分かったから!」
ハプテマスはコーディネイターよりも頑丈な体で耐え抜いた。だが、クシーがガチでキレたのを察して命乞いを始めた。
……クシーは自我が強すぎてハプテマスでは道連れに出来なかった。ハプテマスが死ぬ気で本気になっても只の無駄死にになった。
ハプテマスは火星の利権の詰まった箱を諦めざるを得なかった。嘗ての糞映画の様に無駄死ににはなりたくなかった。