極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月26日、マーズコロニー群が所有するコロニー・コルシカで戦時国際条約が合意された。地球・プラント間の戦時国際条約であるコルシカ条約が締結された。
捕虜の人道的扱いや、非常時の救難活動、一部の非人道的な兵器の使用を禁止する等の取り決めが為された。
当然だが、地球連合もプラントも和平した訳ではない。この会議中も戦争は各所で行われていた。
その一方、ザナドゥとプラントの間では別の話し合いの場が設けられていた。尚、ザナドゥ代表のこの行動は地球連合には秘密である。
コルシカという場所をセッティングした時点で地の利はザナドゥにある。防諜に優れたザナドゥが本気を出せば地球連合のスパイでも居場所すら探れない。コルシカに居ないかもしれないと思われている可能性すら有る。
戦争の長期化でプラントとの話し合いの場を設けろと地球連合側が頼んで来た。
……ザフトの捕虜を確保していたザナドゥが呼び掛けても不自然じゃない状態になっていた。
「という訳です。地球連合が文句を言おうが知った事ではない。……どうせ私の言う事なんて聞きやしない癖に聞いて欲しいとか烏滸がましいと思いませんか?」
ザナドゥ代表・クシーは眼の前の端末に向かって尋ねた。……当然だが、端末を取り囲む様にクライン派の子飼いが居た。
地球連合はクライン派等と個人的な関係があっても見逃すと言うが、ザナドゥからの信頼は地の底である。
既に南アメリカ合衆国の件や第13艦隊の件といい、遣らかし過ぎて例は幾らでも挙げられた。
「地球連合がザナドゥ内部に仕込んでいたと思い込んでいるスパイは居るかもしれませんが其方が明かさない限りは大丈夫です」
クシーは端末の先に居るシーゲル・クライン最高評議会議長に断言した。
当然、地球連合を信用していないのでスパイへの妨害工作は行われていた。
クシーはローテクノロジーで設計されているコロニー・コルシカでクライン派の誰かと話し合いがしたかった。……シーゲルと話せるのは幸いである。
「……まぁ、それは置いておこう。所でユニウスセブンで血のバレンタインから生還した推定スパイ容疑者に関してだが……本当に地球連合とは関係ないのか?」
シーゲルはクシーに尋ねていた。デュランダルの投薬治療によって昏睡状態から回復した者について尋ねていた。現在収監中である元国連軍・中尉はクシーに聞けば分かるという。
……序でなのでクシーに彼女の取り調べの映像を見せて遣る事にした。
『あのボールみたいなのはアイツが送って来たのです!本当です!私のこの扱いはきっと私の事を本気で守銭奴だと思っているアイツの所為です!』
桃色の瞳と青緑色のツインテールが特徴的な少女が支離滅裂な罵声を誰かに浴びせていた。
心理分析でも異常は無かった。因みに映像の彼女はユニウスセブンの惨状を把握していない状態であった。復活して早々、自分がボールを使って脱出したので刑務所内の病院に居ると察した。
スパイ扱いも止む無しと認識しつつも弁護士の代わりに”アイツ”とやらが悪いのだと連呼していた。
『……分かりますか?ザナドゥの”アレ”ですよ、”アレ”。”アレ”は私の送別会でこれを売って金にしなさいとか言うんですよ……ボールを渡された私の気持ちは!?』
罵詈雑言の嵐であるが、彼女が具体的にアイツだと、ザナドゥの”アレ”だと言うのでプラントの取り調べ担当者は流石に察した。
『……すると君はザナドゥのスパイという事で良いのか?元国連軍・中尉殿?』
取り調べ担当者は簡単な質問をした。話を纏めるとそうなるのだが、良いのだろうかと思わなくもない。
『…………』
元国連軍・中尉は黙った。
クシーは映像を見て、ザナドゥのスパイですと彼女が言えばザナドゥに、そしてクシーに迷惑を掛ける事になると気が付いて黙ったのだと察した。
正直、此処までぶっちゃけたのだから対して変わらない。ザナドゥのスパイと名乗っても良いのではないかとクシーは思った。
映像を見たクシーは取り敢えず擁護する事にした。酷い言われ様だが、知り合いではある。
「はい。彼女は元国連軍のアズ・グレイヴァレー退役中尉で間違いないですよ。地球連合とは無関係……な筈」
クシーは国連軍がナチュラルもコーディネイターも関係無く所属出来ると知っていた。
但し、万年予算不足である国連軍は安月給で雇える人材しか居ない。大体寡兵で多くを相手取るので様々な事を熟せる優秀な人材が揃っていた。……だが、その様な能力を安月給で使えるのは訳有りが多かった。
「……煮え切らない言い方だが、地球連合と関わりも有り得るという事だろうか?」
シーゲルが端末越しにクシーに尋ねて来た。……だとすると相当な役者であるとシーゲルは思った。
だが、
「いえ、アズ……グレイヴァレー退役中尉はそんな腹芸が出来る性質では無いです。二年前の段階で戦争は嫌だ、戦いたくないと言うのでプラントに行くのを見送りました。……そもそもユニウスセブンに居た時点で若し地球連合と関係があったとしても見限るでしょう」
クシーはシーゲルの懸念を全否定した。悩んだのは騙されて地球連合に所属していた可能性はあったので少しだけ考えただけである。
「国連軍に居た証拠や私がボールを渡した証拠は有りますが、地球連合のスパイではないという証拠が無い。そうである証拠も無い、これでは悪魔の証明です」
クシーはシーゲルが自分を信用していないと思っているのでつらつらと言葉を述べた。
100%否定は出来ないが信用に足る人物だとクシーなりに擁護していた。
「……もうザナドゥのスパイだと嘘を吐いてくれた方が有り難かったんですが。……彼女が疑われると私には証明出来ません」
仮とはいえ国連を引き継いだザナドゥやクシーと、自分の意志で国連を離れて行った元同僚であるグレイヴァレー退役中尉をフォローし過ぎる事は公私に反した。
ザナドゥ代表としてはそれでは他のザナドゥ構成員に対して示しが付かない。
それでもボールを餞別に送る程度には気にしていた。連絡を一切取らなかったのはある種のケジメであった。
「……確かなのはグレイヴァレー退役中尉は咄嗟に9人の子供達を助けただけです」
クシーは無意識にグレイヴァレー退役中尉に最大の擁護をした。プラントは恩人を切り捨てるのかと暗に迫っていた。
シーゲルという人間と付き合って来たクシーはピンポイントで揺さ振りを掛けて来た。
……クシーは此処までする必要が無いと思いながら時間を割いていた。過去の仲間意識からか個人的な感情を含ませていた。
「……成る程」
シーゲルは画面の先で少し頭を抱えた。今更何の関係も無い一般人であり、プラントの英雄である等と讃える事は出来ない。かといって、そのまま第三国のスパイとして扱うのは論外だった。
シーゲルも恩を仇で返す真似はしたくなかった。……シーゲルとしては彼女がザナドゥのスパイだとクシーが認めてくれた方が楽だった。
ザナドゥの構成員ではないが個人的な関わりは有り、地球連合のスパイの可能性は限りなく低い。
「ザナドゥのスパイではないか。面倒な事だな……」
シーゲルは其処までするならばクシーが諸々の責任を取る形になるだろうがグレイヴァレー退役中尉をザナドゥのスパイだと断言して欲しかった。グレイヴァレー退役中尉の方もザナドゥのスパイだと認めてくれれば一番都合が良いのだが、そういう事はしない。子供達の無事を確認した後は完全黙秘である。
面倒臭い拗れた関係だとシーゲルは思った。娘のラクスに諸事情を聞かせて良い物か悩む。
「……国連軍名義で捕虜交換出来ませんか?国連軍のグレイヴァレー退役中尉なら引き取れますので彼女に伝えてくれませんか?」
クシーはこれ以上拗らせたくないので即席で解決策を考えて提案した。……グレイヴァレー退役中尉の扱いは面倒なので今後のブラフとして噛ませる事にした。
「……国連の存在はプラントも認めていないのだが?」
シーゲルはクシーの提案にツッコんだ。然し只で発言する奴ではないと知っているので例外扱いをしてプラントに何の得が有るか考えた。
……シーゲルは一利有る事に気が付いた。クライン派の一部が賛同している事にすれば解決した。その様な政治的妥協を測れる者達もクライン派には居た。
「国連軍扱いならフェイクで捕虜交換が出来る様になります。幾分マシな地球連合内の政府高官辺りにも同様の事を提案しておきましょう。……勿論、政治的な部分の調整は必要です」
クシーはプラントと地球連合のマシな部分を繋げようと画策した。
バレると不味いので本当に一握りの者達にはなる。然し、停戦交渉等のラインは有った方が良かった。
「グレイヴァレー退役中尉はそのケースの第一例です。……私が勝手にした事を彼女が納得してくれたらになりますが」
クシーは平和の為に彼女を利用すると提案した。戦争したくないならこれくらい手伝ってくれても良いではないかと思った。クシーは早速無礼者のグレイヴァレー退役中尉に手紙を書く事にした。
「……パトリック辺りなら色々な意味で巫山戯るなと言うだろうが。私としてもマシな者が居るならばその繋がりは欲しい」
シーゲルはクシーの提案に同意した。……徹底抗戦は主張していたが、犠牲が少なくて済むならそれに越した事は無い。
プラント及びザフトに取って一番良いのは間もなく始まる地球侵略計画の第一波が成功する事だ。
世界樹攻防戦の被害を含めた諸問題もプラント側へ傾き、一気に解決するだろう。其処までの成果を挙げられればシーゲルもザラ派を宥められた。
……だが、この作戦が失敗した場合、ザラ派の面々は本気で地球への核報復を唱えている。
シーゲルはその代案を用意しなければならなかった。
最悪、NJを地球全土にバラ撒くのが一番犠牲が無さそうだった。
プラントのエネルギー産業は極めて発展していた。急速に困ったエネルギー問題を解決する事を条件に地球連合に和平を結ばせる構想を練っていた。
その交渉の際、最悪の場合に備えて話の出来る人物達と繋がりを確保したいとシーゲルは考えていた。
シーゲルはその為に幾つかの案を考えていたが今、クシーが提案して来た案は悪くない様に思えた。
……自分の派閥であるクライン派の一部が国連を認めているとでっち上げれば地球連合側の高官とのラインを構築し易いとシーゲルは考えた。
……この時、彼の胸の中にあったザラ派への代案をクシーに明かしていれば地球全土で憎しみを買わない別の方法を取る事が出来た。
流石にシーゲルも戦争中の相手であるザナドゥ代表・クシーに其処まで明かせる程の胆力は無かった。
コズミック・イラの技術は60年代から70年代に掛けて異様な速度で発達して行く事になる。
それにはナチュラルやコーディネイターなどという括りは関係が無い。凡ゆる人類の想定よりも飛躍的に進化していた。
技術の進化に思考が対応出来る人間の判別は既に明らかとなっている遺伝子解析だけでは対応し切れなかった。
遺伝子で才能があると判断された者であっても、それは飽くまで従来と比較して常人以上の素質が保証されているに過ぎない。
……新しい技術とその先の世界を一瞬で読み取れる才能が有る者でも流石に人の心を読む能力は備えていなかった。
読心というのは自分達を新人類と評する者でも扱い切れない不完全な力であった。