極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月27日、プラント、ザフトにて勲章授与式が執り行われた。
ネビュラ勲章は格段の戦果を挙げた者に与えられる。勲章としてはプラント・ザフトにおいては最高位であった。
ラウ・ル・クルーゼは世界樹攻防戦での活躍によりそのネビュラ勲章が式典を催され、授与される事になっていた。
……世界樹攻防戦ではザフトの想定を上回る被害も有った為、それを補う戦意高揚のプロパガンダも兼ねていた。
プラントではテレビ中継、士官アカデミーでは総員が傾注する様に見せられていた。
『ラウ・ル・クルーゼ。貴君は世界樹攻防戦においてMSジンにて出撃し、MA37機と戦艦6隻を撃沈した。その類まれなる戦果を讃え、ネビュラ勲章を授与する』
パトリック・ザラ国防委員長より仮面を被った男、クルーゼが勲章を授与された。
中継された式典では盛大な拍手で喝采されていた。
士官アカデミーでは授与式での中継が終わり、傾注を止めて自由になった。
昼休憩の途中の授与式であった少年少女達は食堂にて式典を見た感想を述べ合い、何時の間にか騒いでいた。
「くぅー!……何時か俺も野蛮なナチュラル共を駆逐して遣るんだ!」
「俺はあんな風に成れない。遺伝子がもう少し良ければなぁ……」
士官アカデミーでは反応が大きく二種類に大別されていた。
何時か自分も同じ様に活躍したいと胸踊らせる者と別格の遠い存在として判断して自分の才能に見切りを付ける者である。
「…………」
アスラン・ザラはそれを聞いてボンヤリとカレーライスを食べていた。デザートには桃が添えられていた。
尚、ルームメイトのニコルは未だ配給待ちである。一緒に食べようと約束していた筈のアスランは無意識に食べ始めていた。
アスランの好物はロールキャベツなのだが、流石に士官アカデミーの食堂では出ない。……デザートは成績上位者の特権であった。
農業用コロニー群のユニウス市に被害が出た事はプラントの食糧事情を少しばかり苦しくしていた。ユニウスセブンが崩壊して食料自給にやや支障が出た事は機密事項である。アスランは母が血のバレンタインの被害者、父が国防委員長なので知れたが口外する事は無い。
「地球侵略か……」
アスランは言葉を漏らした。……プラントに物資は有る。食料も将来的には大丈夫だった。だが、現在の状況は問題だった。 食料は直ぐに作れる物ではない。
農業用コロニーが破壊されてしまったら直ぐに回復は出来なかった。地球の反地球連合国から輸入や輸出の取引が再開が出来ないか交渉している。だが、弱みを見せたくないザフトからすると一番良い解決方法は”現地調達”だという。
プラントの食糧事情を公表すれば反戦派が勢い付くと父の派閥は情報統制をしているらしい。……らしいというのは婚約者のラクスの父、シーゲルが溢したからだ。
「俺にはどうもあの人が分からない。……だが、誰かと重ねて言っている気がする」
それについての意見を求められたがアスランとしては義理の父になるシーゲルにそう言われても困った。
これから軍人となる自分が政治に口出しするのは良くないと言った。……シーゲルからは何故か面食らった様な反応をされてしまっていた。アスランはプラント最高評議会議長であるシーゲルに、そして自分の父に自分が失望されていないか不安であった。
「おう、優等生!……何凹んでいるんだ?」
アスランの同期であるラスティ・マッケンジーが声を掛けて来た。
ムードメーカーかつ優等生の彼は自分を棚上げしてアスランを優等生と誂って来る。イザークがアスランに突っ掛かって来るのを抑えてくれる存在である。
「いや、何でもない。あっ……ニコル、済まない」
アスランはラスティに声を掛けられて、ニコルと一緒に食べようと約束していたのを思い出した。……然し、もう半分以上食べてしまった。
「アスラン……とはいえ、僕も最近のアスランは気落ちしている様に見えますよ?」
ニコル・アマルフィはアスランに呆れつつ、ラスティに同意した。
落ち込んだままでもイザークに連戦連勝するのでキレられているがアスランは気が付いていない。
彼はその事についてイザーク・ジュールのルームメイトであるディアッカ・エルスマンから何とかしてくれと頼まれていた。
「……そうか。なら聞きたいのだが、婚約者の父親とどう接すれば良いか分かるか?」
アスランはニコルやラスティに直球で尋ねた。……当然だが、二人共未だ婚約者は居ない。
ましてやアスランの婚約者は『平和の歌姫』ラクス・クラインであり、その父親は『プラント最高評議会議長』シーゲル・クラインであった。
「そ、それは済まんが分からない。あ、イザーク!お前は桃を食べないのか?俺は欲しいなぁ、桃!」
ラスティは面倒な話だと思って無理矢理逃げた。成績上位のイザークの桃まで適当な理屈を付けて奪うつもりである。
……ラスティの両親は離婚しているので若しも母が再婚したらなどと考えた事は有る。
そういったアドバイスなら出来なくはないが自分とアスランとは事情が違うし、それで話した所で食事が不味くなる。……ラスティとしては逃げの一択しかない。
「あ、ラスティ!……はぁ、カレー、食べましょうか」
ニコルは自分を残して態とらしく逃げたラスティを裏切り者の様に思って手を伸ばした。
……伸ばした手が届かなかったニコルは諦めて取り敢えず今日の昼食のカレーを食べながら聞く事にした。
尚、悩みとしては機密なのでアスランも上手く話せなかった。
アスランが言葉足らずなので、彼の義理の父親になるであろう人物との接し方が分からないという悩み等の詳しい事情を知りようも無いニコルは困ってしまった為、別の話題に切り替えた。
先程のネビュラ勲章の授与式に関する話題である。在り来りだが、周囲では未だ話されていた。ニコルはアスランの悩みを別の角度から引き出して聞く事に切り替えた。
「……仮面を被ったままで授与していたが、あれは良いのだろうか?」
「仮面の中身はどんな顔なんだろうな?」「絶望仮面様はリアルでも凄いのですねー」
……何か変な話題も混じっていた。仮面を付けたまま式典に参加するのは特に何も言われなかったのかと気になりはする。後、絶望仮面とは何だとニコルは内心ツッコんだ。
「ネビュラ勲章……アスランがザフトで活躍すれば何れは貰えそうですよね?」
ニコルは極々自然体でそう溢した。
士官アカデミーに入学してから一貫して全ての科目で成績一位のアスランである。
……活躍の場さえ有ればアスランならば同じ事が出来るのではないかとニコルは思った。
ニコルは実戦を未だ知らないので飽くまでも推測であるが、確信に近い物を抱いていた。
だが、
「……どうだろうな」
アスランはニコルの軽い話題を真剣な声色で返した。
アスランはナチュラルには”アレ”が居る、ヤバいのが居ると知っていた。だが、流石にあんなのがこの世に二人も居ないとアスランも思っている。……居てたまるか。
それでもプラントの士官アカデミーでアスランは自分を圧倒出来る存在が、教官も含めて、誰も居ない事がショックだった。自分に唯一対抗出来るアイツが軍人ではないらしいのが唯一の幸いである。
アスランはコーディネイターは遺伝子とか言っていないでもっと努力しろと思っていた。……それを声に出せない環境に無意識に苛ついてもいた。
「アスラン……軽口なんですからそんなに真剣に受け止められると困りますよ」
ニコルはアスランが又軽口を真剣に受け止めたと感じ取って窘めた。それくらいは夢見ても良い年頃である。
……イザークは自分より成績上位の年下が慢心も奢りも見せないので自分の苛立ちを何処にぶつけたら良いか分からず、憤激していた。
イザークも本当に極稀に勝てるが、近接戦は無理である。近接戦においてアスランは強過ぎた。ナイフの教官を初見で一蹴してしまう強さであった。近接戦ではアスランへ教える事は無いと教官達は匙を投げた。
「コーディネイターが皆優秀で兵士としても強いのは分かっているんだ。皆が言う通りだ。だが極々一部は……」
アスランはニコルについ溢しそうになった。アスランの幼馴染と言える例の”アレ”。
世間一般では政治的な立ち位置は評価されていた。ラクスの様な平和の歌姫ではないが、その亜種と捉えられていた。MSに対抗出来る兵器を作っている等は飽くまでも噂でしかない。
ナチュラルが其処まで出来る訳がないと大多数は思っているが、彼がどれだけ無法なのかアスランは良く知っていた。
「アスラン!貴様!我らコーディネイターがナチュラルに劣るとでも言いたいのか!?」
イザークはアスランのしみったれた言葉に反応してキレた。陰険な事にイザークは聞き耳を立てていた。……デザートの桃をディアッカとラスティに取られたが故の八つ当たりではない。
「イザーク……。アスランは警戒すべきと言いたいだけでコーディネイターが優秀だと言っているんですから言葉尻を取り過ぎですよ」
ニコルは万年二位のイザークを宥めた。……自分のライバルだと思っている者が極一部でも警戒しているのが気に食わないのは理解出来た。だからニコルはイザークを窘めつつ、その場を抑える行動を取ろうとした。
アスランは閉口したが、自分が間違っている事を言ったつもりはないとイザークに言い返した。
……結果として二人は喧嘩になりアスランとイザークは成績上位者の特権であるデザートの配給を一週間止められた。
尚、ニコルはピアニストである。そして、ザナドゥ代表・クシーは芸術活動、音楽家としても名高かった。
何だろうが人の芸術活動を邪魔する奴は許さねぇと言わんばかりにナチュラルやコーディネイター関係なく暴れる無法者振りをニコルは噂で知っていた。
……アスランの悩みの一部はニコルに打ち明けていれば”アレ”は例外だろうと一蹴されるくらいには比較する対象が酷かった。
ザナドゥ代表はニコルが把握している限り、ラクス・クラインさえ居なければ間違いなく、彼が世界トップのアーティストであった。
そのトップアーティストであったかもしれない彼が自分自身の手で芸術活動を妨げる凡ゆるテロリスト達を狩り尽くしていた。そして狩ったテロリスト達を芸術にするのは一部の芸術家に知られていた。
ニコルはザナドゥ代表が世に出す作品と行動や言動の乖離が酷過ぎるのでドン引きした思い出がある。
ニコルは芸術に対して極めて真っ当な紳士であった。
その為、ニコルはナチュラルのザナドゥ代表をプラントの中では比較的正しく把握している方のコーディネイターだった。