極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年3月1日、ユーラシア連邦シベリア・クラスノヤルスク基地にて地球連合軍特別技術合同研究機関が『実験』をしていた。
地球連合軍特別技術合同研究機関とは鹵獲したMSジンで構成された部隊の事である。
『実験』とはジャン・キャリー少尉達と傭兵部隊Xの訓練及び複製ジンと鹵獲ジンとの性能比較である。
ザナドゥ兵器開発部副主任ルリはザナドゥ代表・クシーに説明していた。
助手達は空気を読んで席を外し、施設に入ってきたカナードを言いくるめて引き止めていた。カナードはプログラミングも得意である。
助手達はクシーがジンの試運転で調整した部分の解析を尋ねて時間を稼いでいた。
……実際にジンのパイロットに聞いた方が有益だった。
カナードは見事に言いくるめられた。キャリー少尉達を呼んでより精度の高い狙撃が出来るように全体へ調整が施された。
この調整の結果、キャリー少尉達の部隊は戦略の幅が広がった。
そんな事情を知らないザナドゥ代表クシーと開発部副主任ルリは真面目に仕事の話をしていた。
ルリの助手達は一人くらいムード作りに行かせるべきだったかと後悔した。
助手達はカナードが昇進してからため息を吐くルリを応援したつもりだった。
彼らはマッド少佐達とは少し違う、保護者目線で推し活をする者達だった。
「MSジンはOS以外は既存の技術で構成されています。複製品と正規品の性能はほぼ変わりません。これまでの戦闘データの蓄積を考えればザフトはジンを元に改良若しくは新機体が出始めるでしょう」
ルリはコンピュータを弄り、モニターに複製ジンと鹵獲ジンの映像を写しながら言った。
理論と実戦は違うが、訓練だけでほぼ同じ性能だと断言できた。
「フレームやハードポイントを改良すれば同機種と比べて僅かに有利が取れるでしょうが、新機体の追従になるのであれば別です」
ルリはクシーのMS熱に冷水を浴びせるような発言をした。
……それでもルリからすれば反論の一つも言いたくなった。ルリはどちらかと言えばMA推進派だった。
MSを解析すればする程、その傾向が増しているので自分を納得する為にもクシーからの説明を聞きたかった。……それはルリの私情であり、クシーはそこまでは把握していないが不本意な事をさせていないか確認に来ていた。
「MSは確かに優れた兵器ですが、OSの問題が解決しないと少数の部隊しか運用できません。……地球連合軍の現状ではMAの開発や改修に特化した方が戦力になります」
ルリは事実を述べた。地球連合がMSそのものをコーディネイターの兵器として嫌悪している以上、無駄になるかもしれない開発をするのは勿体ない。
メビウスの補助AI開発は進んでおり、パイロットに求められる技能も低下していた。物量でMSジンに対抗出来ている。
ジンも発展していくならばその後追いよりもメビウスの発展型を作った方がルリからすると有益だった。
「……ルリの言葉は正しい。MS開発に反対している地球連合ではガワは作れてもナチュラル用のOSは開発できないだろう」
クシーはルリの言葉を全面的に認めた。……ナチュラルOSはコーディネイターの協力がないと出来ないとクシーはほぼ確信していた。
例えるならばキラのような特化した才能かコーディネイター達が集まって分析し落とし込んでいく作業だ。クシーは時間がないのでそこまで出来ない。
……政治分野で自分と同じ事を出来る人材が欲しい。クシーの求める能力があるラクスはプラント陣営であった。敵の首魁の娘とか勧誘出来るわけがない。
「だったらもう少しMA開発にも人を配分してくれませんか?」
ルリはクシーの同意にならその分を寄越せと迫った。MSジンを研究するのは良い。
しかし、MSに割いているのはこれ以上ない程潤沢な環境であった。開発部の主任と副主任が携わっている。この分をやや冷遇気味のMA開発部にも回して欲しかった。
「開発部に置ける信用できる人材が少ないのはわかっています。ですが、確実な見込みのあるMAに回した方が良いです」
ルリは言い切った。ザナドゥには資産はあれども人が足りなかった。
一応、優れた人材が集まっているので質は高い。その結果、試作段階の技術が漏洩すれば不味かった。開発部と製造部で分けられているのも製造部で調査が終わり、優れた者を開発部に順次引き抜きをしていた。
……オーブ連合首長国のモルゲンレーテ社と提携した結果、潜水艦技術がほぼ盗まれた経緯から開発部は身辺調査を徹底させていた。コズミック・イラの企業達は技術盗用が多すぎた。
なお、ジン等の鹵獲品を解析しているのでどっちもどっちだとクシーは考えている。
「ああ、それは正しい。だが、間違ってもいる。……ルリは料理できるだろう?ラーメンとか」
クシーはルリの意見に賛同しつつも否定した。他で例えて説明する事にした。
かつて、クシーはラーメン屋に扮して違法研究施設に侵入した。当時のクシーもこれは普通にバレると思っていたが何故かそのまま上手くいった。
当時のルリは『バカばっか』だから上手く行ったと言っていた。ちなみに違法研究施設の職員達の一部は今のルリの助手達である。……嫌々働かされていた彼らは外からテロリストを招き入れていた。
「……まぁ、今でもラーメンは作りますね。流石に手作りはしませんが。インスタントなら簡単ですし」
ルリは当時の事を思い出して言葉を溢した。何故かラーメン屋が来てしばらく経ったら自分を隔離・研究していた組織が壊滅した。
当時のクシーの事はラーメン屋の下働きの少年かと思って交流していた。……それが秘密結社のボスだったのは衝撃だった。
店主は現在東アジア共和国・日本の銀座で店を構えている。店主は本当にただのラーメン屋である。本場の日本に店を持ちたいが資金がないのでザナドゥの糞みたいな作戦に協力した頭のおかしいラーメンハゲであった。
「……それだ。インスタントがわかりやすい。人類の歴史とは簡略化の歴史に等しい」
クシーは過去を懐かしみつつもインスタントで例えて説明した。
クシーが思うに歴史とは知識と技術の独占が揺らぎ、世に広まる事で汎用性が生まれてそれを繰り返していく一連の流れであると考えている。今はMSがそれに該当するとクシーは直感していた。
「根本的には0と1の羅列に意味を持たせてプログラム出来るように、店のラーメンがインスタントで食べられるように。MSも神経接続で動かすのではなく、規則性のある動きを簡略化すれば可能だ。もしくは補助AIも挙げられる」
クシーはOSなのでコンピュータを引き合いに出しているが、ルリを説得する為にラーメンを引き合いに出した。
MSもインスタントラーメンのように簡略化することが可能だろうと言い放った。
「……それが時間的に無理だから私は反対しているのですが。バカなんですか?」
ルリは流石に無理のある主張にツッコんだ。インスタントラーメンの開発経緯を知っていればそこまで時間があるわけがない。例えが酷いのでバカとも言いたくなった。
……微妙に納得しかけた自分が恨めしい。
「可能性がある以上は対策しておく。訓練データの蓄積だけでも何れはOSが組めるだろうよ」
クシーは駄目だったかと反省して、真面目な切り口で騙った。MS部隊の運用データの蓄積でも理論上は可能であった。
「猫をキーボードの上で歩かせて、シェイクスピアの戯曲が出来るまで待つつもりですか?」
ルリはクシーがあまりに比喩を使うので自分も比喩で返すことにした。
ルリは猫が好きであるが、開発部の環境では飼えないのでシベリア支部にある猫カフェに通っていた。
「私はそのような些事でも人類が総力で取り組めば出来ると言いたい。規則性はあるだろう」
クシーは集合知を理屈に持ち出した。猫にキーボードの上を歩かせるよりは効率的であると言い換えした。……ああ言えばこういう男であった。
「……ああ、もう!わかりましたよ!……でも、MSの実験で得たデータをMAに応用させるくらいは良いでしょう?」
ルリは口で勝てないと悟り、ギリギリ納得できたので了解した。……それでもMA派なルリは一応の確認をした。これくらいはしないと納得いかない。
「寧ろ、MSを再現するような数人乗りのMAとか出来そうだ。それはそれで進めて貰いたい。……将来的にMAは大型かつ高火力な物になっていくのではないだろうか、多分」
クシーは無茶苦茶言って納得を得られた事に安堵した。
ついでにこれからのMAについて推測しルリに尋ねていた。
「MSと差別化するならそうでしょうね。……汎用性のあるミストラルとかの方が私は好みなんですが」
ルリはクシーの意見に同意した。MSの多機能性に対応するならば戦闘機よりもそのような兵器になると考えていた。ルリ的にはあまり好ましくなかった。作業用のMAを開発した方が気分が良い。
ゴミ箱と評されたアルカに関してもそうだった。ルリはクシーのアイディアを当初こそバカじゃないのかとツッコんだが、開発に携わるうちに愛着が湧いていた。
「私もミストラル自体は素晴らしいと思うが、如何せん火力がなぁ……」
クシーは兵器を作りたいわけではない。メビウスの汎用性には先人達を尊敬していた。
ミストラルは兵器としての発展性に乏しいが、平時ならばあれで良かった。
「特殊弾の集中砲火でもジンを行動不能に中々出来なかったのは……」
ルリは第13艦隊のミストラル乗り達のデータを思い出して言った。
……敵を無力化する兵器として運用できるなら良いなと考えていたが流石に無理だった。
「何で殺し合いの兵器作っているんでしょうね。ザナドゥって」
ルリはクシーが本心から殺す兵器を作りたくないと知っているので思わず溢した。
そもそもザナドゥの理念からして兵器開発をするのもどうなのかと思っている。
だが、現実は甘い事を言える環境ではないとルリは自身の生まれ育った環境から知っていた。
「……相手が殺す気で銃を構えて来るから仕方がない」
クシーはため息を吐いてルリに同意した。撃たれるなら撃つ。コズミック・イラという時代では交渉の為には力が必要だった。
……何時の時代、何処の場所でも同じだろうが歴史に類を見ない程にイカれた環境であった。
「改良ミストラルの特殊弾仕様は防衛用に売れているし、粘着シートはコロニーに穴が空いた際の応急処置として売れているから前向きに考えよう」
クシーはルリに良い面を強調した。今まさに売れている平和的な商品は兵器から生まれていた。
改良ミストラルの特殊弾のアイディアは想定よりも上手くいかないがその転用で人々を救う技術になっていた。
しかし、
「……ジャンク屋組合が世界樹攻防戦で撃墜された改良ミストラルを解析して売り始めた商品ですよね?ザナドゥへの権利侵害だと思うのですが」
ルリは挙げられた例に軽くムッとした。ジャンク屋組合はいけしゃあしゃあと人の技術を盗んで販売していた。……具体的な取り決め前とはいえあまりに酷かった。
「……いや、ほら。MSジンだって鹵獲した奴をコピーしたんだから。……まだ気にしていた?」
クシーは慌ててフォローした。ミストラルは例えが悪かった。……だが、クシーはジンに関して自分達も同じような事をしているではないかとツッコんだ。
「気にしますよ!私も開発に協力したミストラルの兵装ですよ!?」
ルリはクシーはもっと怒れと憤激した。……クシーは基本的に何でも出来るので自分の作った物が盗まれてもあまり気にしない。
ルリはクシーがクソゲーで表現の自由を主張するよりも自分の著作権を気にしろと思っていた。
「開発者側からすれば一世一代の作品だという事もあります。……もっと気にしてください!」
ルリはクシーに本心から開発部の副主任として訴えた。……基本的に盗作されたらどうしようもないのはわかる。しかし、もっと強く抗議して欲しかった。
「……はい」
流石のクシーも開発部副主任の切実な訴えに同意した。
……クシーも結構抗議しているのだが、無駄だと判断したら交渉に切り替えていた。開発部のルリからすればそう言いたくもなるだろうと反省した。
渾身の作品が汚されたらクシーだってキレた。……次からはもう少し目に見えるように抗議しようと反省した。