極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年3月5日、ザナドゥは大西洋連邦・イギリス州のザフトの捕虜収容所で発生した新型腸チフスの根絶を発表した。
捕虜収容所で発生したパンデミックは騒動になり、地球連合は模範的な収容所でも起こり得る不幸な事故だと弁明する騒ぎとなった。
プラントは条約に反する捕虜虐待が疑われると強く非難した。なお、プラント側もまだマシとはいえ似たような環境なので強い非難程度で抑えられた。
コーディネイターの管理基準で先ず未知の病原菌がいないか等の確認はした。その後、コーディネイターと同じ感覚で管理した結果、ナチュラルの捕虜の病死が多数発生していたがプラントもザフトも隠匿していた。バレても最悪ただの病死と言い張れたのも大きい。
ちなみにノーマン・クロス収容所は水質の問題はあれども軍医を配置し、ザナドゥ基準でいえば論外とはいえ定期検診も行っていた。
……あれでも大西洋連邦としては珍しく捕虜への虐待等もない真っ当な施設だった。
ただ、コーディネイターはナチュラルと違って基礎免疫が高く捕虜本人達も含めて認識の齟齬が発生していた。
3月5日、ザナドゥ代表・クシーは公的機関の会見で対応した。
……正直、ザナドゥの衛生管理部に丸投げしたいのだがトップが出た方が抑えられるので渋々対応していた。
「本件は看守・囚人双方の正常バイアスにより発生した事案でした」
クシーは地球連合との妥協の末に原因を正常バイアスという事にした。
新型腸チフスが発生したノーマン・クロス収容所は基本的に悪くなかったという事にしないといけない。ザナドゥ基準では論外だが、急造の収容所と見れば水質汚染を放置していた以外は大きな問題はなかった。……もう大問題である。
クシーは仕方がないのでザナドゥのインフラ整備と衛生管理の人員を地球連合の収容所に派遣した。
最低限は改善されるはずである。……地球連合は非公式の人体実験が行われているであろう収容所は漏らさなかった。
「……ザナドゥではコーディネイターのテロリストを収容する過程でノウハウが蓄積していたからこそ対処できました」
クシーは苦々しく思いながら事実でもある言葉を述べた。政治的な妥協である。
今回の件を厳しく断罪すれば『じゃあザフトの捕虜なんかいるかよ』という風潮になりかねなかった。
……プラントのコーディネイターは地球、特に大西洋連邦では深く恨まれていた。
「今後、同様のことが発生する可能性はありますか?」
大西洋連邦の記者から質問がザナドゥ代表に投げかけられた。……彼らに取って新型腸チフスは衝撃的過ぎた。第二のS2インフルエンザになりかけたと恐怖していた。
「……ザナドゥの収容所ですら可能性はゼロにはなりませんよ。可能性なんて挙げればきりがない。会社でも工場でも人が集まる以上は有り得る」
クシーは記者の質問が悪いと思いつつも回答した。普段ならばそれは記者のする質問ではないと軽く流す程度のものだった。
だが、S2インフルエンザというナチュラルの大量死の過去がある以上は怖くなるのは理解出来た。
……まして今回の新型腸チフスはコーディネイターすら感染するのだから洒落にならない。
「ザナドゥの衛生管理を地球連合各地の捕虜収容所に徹底する事は可能ですか?」
別の記者から質問が来た。記者たちが随分とおとなしいとクシーは思った。……何時もならば揚げ足取って罵詈雑言の時間なのだが。
ロゴスや大西洋連邦はクシーが公的な場に出る度に寄越してくる糞みたいな記者達を弾いたのだと察した。
腸チフスをザナドゥの自作自演等に仕立て上げたいおなじみの糞みたいな記者がいればクシーはキレた。ザナドゥの面子を優先し、水質汚染等の事実に基づいて反論するので大西洋連邦の対応は正解である。
「地球連合次第です」
クシーは真面目にそう言うしかない。ついでに記者の資質を見極める事にした。
地球連合の収容所にザナドゥのインフラ整備や衛生管理の人員を派遣したが、それはまだ秘密であった。
……下手に余計に答えてザナドゥの粗を突かれても困るので可否は別にした。
「……では、地球連合は類似の事案を発生させないためにはどうすべきだと思われますか?」
同じ記者が言い方を変えてきた。クシーはその記者を脳内にメモした。
勘であろうが、ザナドゥの人員が派遣されているとわかって質問している記者だった。
記者はザナドゥ代表が地球連合にどうして欲しいのか言葉にして欲しいのだと察した。
「捕虜収容所にコーディネイターを診察できる医師を配置する、そして衛生管理を改善すれば大体は解決します」
クシーは記者の求める回答、仮定を話した。……これが出来れば苦労しないが一番は地球連合がコーディネイターをマトモに扱えばほぼ起きない。
……仮にあの腸チフスがバイオテロだったとしても基礎免疫が高いコーディネイターが体調不良を起こすとわかった段階で施設を封鎖すれば抑えられた。
その後、幾つか質問がありつつも平和的な会見で終わった。
……内容は平和というか悲観的な感じになってしまったが。それでも今後の対策と課題を伝えられた有意義な記者会見と言えた。
……何時もの陰謀論を主張しだす記者達が居ない事をクシーは悲しんだ。居てくれたら今回程反論しがいのあるケースもなかった。
地球連合の面子は地に落ちるがあの記者達にもヘイトが行っただろう。表現の自由は尊重するが責任を伴う自覚をして欲しい。
ロゴスや大西洋連邦が庇って妄想を煽った結果、頭のおかしい記者達はザナドゥを悪の秘密結社で人を滅ぼす屑の集まり等と本気で考えていた。
彼らは何時もならば最前列に待ち構えている。電波を撒き散らしてザナドゥの印象操作に熱心だった。
……表現の自由は尊重しているが、クシーに取ってストレスの原因なので今後もこのような記者会見であって欲しかった。
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同日、ブルーコスモスの盟主であるアズラエルはブルーコスモス・過激派の論調に頭を抱えていた。
「これはコーディネイターのバイオテロだ!やはり、あの害虫共は駆逐せねばならない!」
ジブリールが本気でそう考え主張していた。
……過激派のサザーランド大佐やセオドア准将まで共感し始めていた。
実際、アズラエルとしてもバイオテロの可能性も否定出来ないと思っていた。
だが、ザナドゥ代表や収容所の軍医達が提出してきた資料を読んで偶然のパンデミック未遂だったと知った。……放置すると不味いので彼らの言い分を聞きつつ冷静に対処する事にした。
アズラエルもロゴスも一族の存在を知らないので第三者のバイオテロという考えには及ばなかった。
「……S2インフルエンザならわかりますよ。何せファーストコーディネイターのジョージ・グレンの暗殺直後にコーディネイターは一切効かないナチュラルだけを殺す病気でしたし」
アズラエルはプラントがほぼ間違いなく仕込んだかつての生物兵器を挙げた。
コーディネイターは新種の病気に弱いはずなのに全く効かないでナチュラルが大勢死んだ。
……あれは9割プラントやコーディネイター達の仕業であると確信していた。
「コーディネイターも死ぬ病気を流行らせてザフトに利益がありますか?地球侵略かナチュラルの殲滅を考えているような宇宙の化け物でももう少し頭の良い作戦をすると思いますよ」
アズラエルはジブリールに資料を根拠に常識的にツッコんだ。
アズラエルはこれ以上、下手に騒げばザナドゥ代表が騒いでプラント有利の世論になると説得した。
……だが、アズラエルはまだ知らなかった。その為、この時は理性的に振る舞い理詰めで過激派を抑え込めた。
ザフトはまだ月面基地等があるにも関わらず3月8日に地球侵略を強行して失敗し、4月1日にNJを世界中にバラ撒くとかいう頭が悪い作戦を取る。
そんなプラント及びザフトの未来の所業を知っていたらアズラエルはジブリールの陰謀論を一蹴出来なかった。……寧ろ同調していたかもしれない。
事件が発生した順序が逆だった結果、アズラエルの理性はギリギリ守られていた。