極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

89 / 107
コズミック・イラ70年3月8日 第1次ビクトリア攻防戦

コズミック・イラ70年3月8日、第1次ビクトリア攻防戦が発生した。

 

地球連合加盟国の南アフリカ統一機構のビクトリア基地、正確にはビクトリア湖畔にあるマスドライバー施設『ハビリス』がザフトに狙われた。

 

ザフト側の作戦は軌道上からモビルスーツ部隊を降下させ、ビクトリア基地を一気に掌握するというものであった。

地球連合側は第3艦隊セオドア准将を中心とした艦隊がザフトの地球侵略作戦の阻止に動くも失敗、降下可能な範囲内まで突破された。

近くの宙域で訓練・調整中だった第13艦隊が救援に向かったが、降下作戦は既に実行された。

 

「これはマトモにやれば勝てません。……こちらの練度と比較して相手が強すぎます」

元第1艦隊の頭脳であるアーバス中佐は第13艦隊・司令官のペルミノフ少将に進言した。

降下作戦を実行したザフトはその時間を稼ぐ為、防御に徹していた。

第3艦隊の取り巻きが未だに抵抗しているがアレは無駄に戦力を消耗するだけだと看破した。

 

「仕方がない。マトモにやり合うのは彼奴等に任せよう。……先の戦いの件もある我々も連中と共に戦うというのは少しやりにくい。海賊の手口を真似るとしよう」

ペルミノフ少将はアーバス中佐の意見を汲み取り、マトモにやらない事にした。

第13艦隊は真正面からザフトの艦隊とやり合うのではなくザフトの後方にある補給線を狙った。

地球への降下作戦が成功しても継続出来ないようにする戦術を取った。要は嫌がらせである。

 

「巫山戯るな!戦え。せめて我らの盾となって死ね!」

第3艦隊・司令官セオドア准将は別働隊である第13艦隊の行動に激怒して叫んだ。

練度不足なので遊軍に徹するという連絡は来ており、マトモに戦えというのは死ねと同義である。更に階級はペルミノフ少将の方が一応高いので軍人として命令するのは無理だった。

……ただ階級が高い程度であればブルーコスモスの権威を使い脅せるが、第13艦隊の連中はザナドゥが背後にいるので使えなかった。

 

「……仕方がない。地球連合軍の意地を見せろ!我らは練度が高いので誤射はせん。援護するので貴様らは敵を食い破れ!!」

セオドア准将はうまい具合に第3艦隊以外の艦隊に指示を出した。

自身の派閥や部下の損耗を防いだ。……アズラエルの言うように戦力の温存だけは極めて優秀だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

他方、ザフトの地球への侵略部隊は全く上手くいっていなかった。

元々無理のあったザフトの侵攻計画は現場の兵士達がそれを痛感することになった。

 

「糞!対空砲撃で想定よりもMSが降りられない!」

ザフトの快進撃も地球侵略となると勝手が違った。

特に地球連合軍の主力であるリニアガン・タンクは対空砲撃に利用出来るほど改良されていた。

メビウスの改良で性能が上がったリニアガンを応用し、ザナドゥにより改修されていた。

改修したリニアガン・タンクはマスドライバー基地に優先して配備されていた。

主力戦車で数が多過ぎるので改修だけで尽きることのない需要があった。

 

「あの戦車が厄介だな。地球に降りたら何とでもなるが。……それまでに撃ち落とされる」

ザフト兵はMSジンで戦車を狩りつつも溢した。如何せん地球連合軍の数が多すぎた。

当初の想定通りにジンが降下出来ていれば別だが、そうはならずザフト側の数が足りない。このままでは自分達は全滅すると確信した。

地上戦力の支援無しの作戦である第1次ビクトリア攻防戦はビクトリア基地の対空砲撃などによって作戦は失敗していた。……それをザフトの艦隊に伝えるが中々引き下がらない。

 

『ザフトの方々…投降してください!こ…以上は双方無意味に人…死にます!こちらザナドゥ所属セイラ……コルシカ条約に基づ…皆さんの処遇…保証します!』

力強い女性の声が戦場に響いた。途切れ途切れの通信だったが戦場全体に響いていた。

 

これは敵味方双方が知らない通信であり、一時動揺した。ザフト側は一瞬だけ考える時間が出来た。

 

「……どうする?」「……このままだと死ぬしな」

「虜囚の辱めを受けてたまるか!」「死んだ仲間を愚弄するナチュラルを殺せ!!」

一瞬だけ考える時間があったものの、どちらにせよザフトのMS部隊は壊滅した。

ただ、一部は声の主に従い降伏を選択した。

地球連合軍、南アフリカ統一機構の軍が主体はザナドゥに対して抗議しつつもこれ以上の損耗を回避したかった。

結果としてザフトの生き残りを捕虜として条約に基づき丁重に扱った。

本来であれば捕虜が投降した事実を揉み消してしまいたいが、ザナドゥの降伏勧告によって投降した者である。上層部と現場はギリギリ耐えた。

……ザナドゥが現地でどれだけ治安維持や医療、インフラを担っているか知っているアフリカの住人は配慮した。

 

事実確認が済むと多少の騒動が発生した。偶々施設の衛生検査に訪れ、そのまま地球連合軍の衛生兵に混じって活動していたザナドゥ女性職員セイラが勝手に停戦を呼びかけた事実は問題になった。

 

コルシカ条約を引用した権力の無い第三者の呼びかけは戦場を混乱させたとして地球連合及びザフトから非難された。

ザナドゥ代表・クシーはザナドゥの理念からして現場の暴走ではなく正当な行為だと主張した。ギリギリだがセイラへの責任追及を回避した。

……ザナドゥのリニアガン・タンクがビクトリア攻防戦で大いに活躍したのもあり、現場から改修希望が増えた事も大きかった。

ザナドゥに機嫌を損なわれても困る結果となり、渋るザナドゥにリニアガン・タンクの改修作業を増やすことで妥協した。

 

クシーは姉シグネから購入したダミー会社の一部を改修作業に当てさせた。表向きはザナドゥの会社ではない事になっているが、人手が必要という事で誤魔化せた。

コピーガードは仕込んでいるが、普及している現状は盗まれても困るような技術とは言えない。不良債権手前の企業は特需により業績を回復した。

……シグネから購入した会社は利益配分に元々の所有者も巻き込んでいた。

ザナドゥ内で仕事を振り分けたようには見えないので外部は少しとはいえザナドゥの力を削れたと判断した。実際は増しているが防諜の優れたザナドゥは隠蔽工作も上手かった。

 

 

どのような形であれ、停戦勧告が有る無しに関わらずザフトの地球侵略作戦である第1次ビクトリア攻防戦はザフト側の見積もりの甘さにより失敗した。

そして、第13艦隊がザフト側の継戦で重要な補給線を攻撃した事でザフトも想定よりも保たずに撤退した。……ある意味で無謀な作戦により発生したであろう双方の被害は最小限で抑えられた。強いて言えば戦闘規模からすれば地球連合軍の損害は軽微である。

ザフトに取っては得るものはなく失うものはあった手痛い敗北となった。

 

……地球連合は地球に侵略されかけた防衛戦とはいえ、ザフトとの戦いで初めて勝利した。

地球連合軍はザフトによる地球侵略を一時とはいえ許してしまった。冷静な判断の出来る者達はザフトの脅威が目の前に来たという事実に恐怖した。何せザフトにその気があったならば核報復出来ていた。地球連合軍は月面基地の戦力を地球防衛に割いて対応した。この戦いでは時間差で死蔵されていた。

……世界樹が崩壊した事の影響は大きかった。核動力が無効化されたのも大きい。第13艦隊ペルミノフ少将及びザナドゥの計画する新規輸送網の構築を急がせた。

ザナドゥのMAアルカの制式採用及びその量産が漸く決定した。ザナドゥの進出を政争で揉めていた。地球連合軍の上層部はそれどころではない現実を直視したので反対意見は封殺された。

 

……だが、敗戦続きだった地球連合加盟国の民衆に取っては自分達の領域なら勝てると自信がつく結果になった。

 

この軍と民衆の温度差によってザナドゥの本命が損なわれた。

水面下で進められていた地球連合やプラントとの和平に向けた取り組みに大きな支障が出ることになった。クライン派と地球連合内のマトモな高官との交流未満のやり取りは進められていた。

地球連合内部の国民感情の高揚の影響で当初の想定よりも小規模になっていた。

……ただでさえ妥協出来ない両勢力に加えて都合の良い勝利を鵜呑みにした民衆が止まらない。

 

停戦、反戦活動をしているザナドゥはロゴスの工作が無くとも民衆の高揚により非国民として罵られるようになった。

元々そんな感じなので既存の構成員は気にしないが新規で加入しようと考えていた者達は少し控えた。

……ザナドゥとは無関係の会社を用意していた。姉シグネからの会社はこういった場合に備えていたのもあり上手く機能した。ザナドゥへの加入を見送ったのが少しで済んだだけで良いとクシーは割り切った。現段階では締結したコルシカ条約が機能する事も大事だった。

 

今回のビクトリア攻防戦の失敗によりプラントは物資や食糧問題に悩まされる事になった。

ザフトは核報復による早期終結か代替できる手段を取るようにシーゲル・クライン最高評議会議長に迫っていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ビクトリア攻防戦の翌日である3月9日、ザナドゥ代表・クシーはどうでも良い事で悩んでいた。

勿論、ザフトの短慮な地球侵略から推測できるプラント側の想定していたよりも酷そうな内情とこれからの作戦行動等も考えている。

それよりも今回のビクトリア基地の攻防戦で発覚した身内の不祥事、正確にはその派生が今は悩ましかった。……実は本当にどうでも良いのでさっさと済ませたい。

 

勝手にザナドゥの名前を使いセイラが停戦を呼びかけたのは別に良かった。寧ろ素晴らしいとセイラの行動を称賛した。

確かにザナドゥは各方面から怒られたが、それでも良くやってくれたと衛生管理部の看護師セイラにクシーは自分から声をかけていた。

……独断でかなりの不祥事をやらかしたと自覚していたセイラはザナドゥ代表の寛大過ぎる対応に戸惑いつつも、素直に礼を述べた。

 

セイラとクシーは意外と波長が合い話し込んでいた。そこでセイラにはテキサスで生き別れたコーディネイターの兄がいる事が判明した。

テキサスで生き別れというのはクシーには心当たりがあった。

……セイラへ感じていた微妙な違和感の正体を察したクシーは恥ずかしい身内と経歴が合致したので少し調べる事にした。

正直、世界がどうこうというような大した事ではない。だが、私人的には大事であった。

 

 

「……お前の妹だろ、多分」

クシーはザナドゥ代表ではなく私人としてミンキー◯モの元から脱出したロリコンに声をかけた。セイラの写真を見せて確認を取っていた。

……どうも世間では停戦勧告をした美人看護師として雑誌等に載るらしいが、色々有耶無耶になる前に確認を取りたかった。

 

「まさかアルテイシアが生きていたとは。……ちなみに何か言っていただろうか?」

グラサンを外して妹の写真を見て確認した。兄は予期せぬ妹の情報に驚きつつも坊に尋ねた。

 

「…………」

クシーは沈黙した。セイラには兄が生きているかもしれないと伝えた。

セイラから現在の推定兄に関して聞かれたのでなるべくクシーなりにフォローして真実を伝えていた。

 

『そんな兄は見たくありません。いっそ死んでくれれば……』

セイラの兄への感想である。

……セイラの兄は色々あってロリコンを拗らせている事。過去に口説いた少女が大人になって現在はその女性の権力で捕縛されていますと正直に伝えた。

これでもクシーは精一杯フォローして伝えていた。未だに恋のシンデレラとか言っているのだから恥の塊である。

 

「……やはり良い。人は変わるものだ。今の私はアコギな事をやっているからな」

ロリコンは自分の都合の良いように解釈しつつ、妹が現在の自分を拒絶している事を察した。

なお、今の仕事は評価しているが、その性癖が死ねば良いと評される程に拒絶されているとは知らない。

 

「ああ、そうだな」

クシーは兄妹に関してはどうにかなったので、ミン◯ーモモにロリコンの居場所を発信した。

……通報するだけで人材や資源衛星から資源を融通して貰えるのは有り難かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。