極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第48話 物語の主役、英雄には成れない者のお話

 

コズミック・イラ70年3月20日、ザナドゥ代表・クシーはザナドゥ構成員に向けて演説する事にした。

 

私は近い内に世界は一変すると確信できた。故に仲間となっている者達には伝えなければならないと先んじて手を打つことにした。

 

どれだけ探ろうとも地球連合側に位置するザナドゥでは、プラント及びザフトが核報復を選択するかNJを散布か結局はわからなかった。

だが、私の勘では後者と言っている。どちらにせよ近い内に多くの犠牲者が出ることは間違いなかった。

当初のザナドゥという組織は近未来に懸念される諸問題から人類を守る事を目的に作られた。

……そういう意味では設立当初の私は箱庭の管理人気取りと変わらないかもしれなかった。

 

私はどう言い繕っても血の繋がった肉親すら説得できなかった。そんな世に絶望しかけてもまだ足掻きたいがために考え作った組織だった。

幼い私の妄言をある程度共感してくれる仲間達を世界各地から集めて出来た。

そして、ザナドゥ設立の前後でキラやアスランと交流する中で私に芽生えた世の中への希望も含まれるようになった。

……コペルニクスの日常は私にとって愛おしい物だった。あの日々があったからこそ私はここまで心が折れかけても行動し続けられた。

 

そんな私の妄言は今や現実となり、世界の誰もが薄々感じている。

初期の仲間達はテロで、暗殺で、寿命で様々な事が原因で亡くなっていった。

残るは半数、散っていった仲間たちの中には現在のザナドゥを死の商人と言う者もいるだろう。

……実際、そうであるのであの世に逝ってから私は言い訳や謝罪をするつもりである。

私は根本的な方針こそ変えていないと胸を張れるが、より良くなると判断すれば縛りを取っ払って対応していた。

あの世に行ったら謝る事が増えすぎているが、土産話は沢山持っていくつもりである。……既に沢山あるので暇にはなるまい。

 

私が嘗て懸念していた事は、何時起きてもおかしくない世界の大きな変化の前触れは、誰が指摘せずとも散見された。……もう世界は後戻りは出来ない。

私は私がやれる手を尽くしたつもりだが、防げなかったし、その後の対応も本当に正しかったのかは今でもわからない。

もうそれらは私が死んで、本当に天国や地獄というあの世があったら考える事にする。

……若しくは世界が本当に平和になったらか。私が生きている間に出来ると良いくらいに前向きに考えている。

 

ザフトが行うのが核報復にしろ、NJ散布にせよ今すぐにでも通信網が途絶するかも知れなかった。

そういう事もあり、私はザナドゥの末端までに自分の言葉を伝える事にした。

……私の言葉をどう捉えるかは各々に任せるが、根本的には奮起せよというメッセージでしかない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ザナドゥの専用回線で閲覧可能な機能を支部外の末端まで私は確認した。

もしも私の話を今見ていない者が居たとしても後で見れるようにしていた。

……ザナドゥの構成員、全員に近日中に伝われば良い。

今後、私がどうなるかもわからないのであまり長くは語るつもりはない。

 

 

「時代の狂気の只中にいる同胞たちに告げる。だが、このメッセージはそうでない者達にも伝えたい」

私はザナドゥ代表としてではなく、個人としても伝えたいので前置きした。

……どうせザナドゥに潜むスパイ達も見ているのであろう。それならもう届く限り届いて欲しい。とはいえ、仲間たちに伝えるメッセージなのでそれ以外には全く意味のない内容も含まれている。

 

「現在のザナドゥは10年未満で急激に台頭してきた組織だ。世間から見れば成功したように見えるだろうが、私はそうは思わない。……ここまで大きく出来たのは協力してくれた皆のお陰であるし、その事に関して文句があるわけではない事は言っておく」

ザナドゥは世界各地に支部を置いていた。良くも悪くも巨大な組織となっていた。

……流石に正規軍に叶わないにしろ潜在的な敵兵力に数えられる程の力はあった。

小規模な衝突程度ならばある程度は介入できるが政治的に介入できない事も多い立ち位置にいた。

故に恨まれもする。私はそれを黙認していた。……そうでもしないと世界は悪意に満ちていた。

 

「憎しみに駆られる者達はそれを阻止するザナドゥを憎んでいる。憎しみの連鎖は誰かが絶たなければならなかった。……綺麗事を言っても私は、ザナドゥはその芽を摘んできた」

私はザナドゥという組織は恨まれる事をしている組織だと断言した。

たとえ、この世界がどうしようもない世界であったとしても、これ以上の悲劇を生まないように立ち回るというのは誰からも恨まれた。

 

「勿論、その行為によって感謝される事も無くはない。だが、感謝を求めている者にとっては善意で行った結果で傷つく事の多い組織である事に違いはない」

私はザナドゥという組織の在り方と携わる者達へ改めて警告した。感謝された事があってもどこかの誰かに恨まれている事もあると言葉にした。

 

「……このような事を強いているザナドゥの皆の働きに私は感謝しているし、そうする事でしか返すことが出来ない事を済まないと思っている」

私は自身の感謝の気持ちを皆に伝えた。……戦争の状況が変わりつつある。私は感謝を伝えるならば今しか言えないと感じていた。これからのザナドゥは、ザナドゥでなくてもどこもかしこも忙しくなる。

私が全員にキチンと言葉にして感謝を伝えられるとは思えなかった。……クルーゼならばどう思うだろうか。悲観的な見通ししか持てない世界に憎悪していてもおかしくはない。

何より、私はザナドゥの構成員の殆どが選択肢の無い者達という事を棚に上げていた。……それでも感謝しているという気持ちは伝えておきたかった。

 

「時として感情は理性を容易に上回る。故に人は狂気に走る。その矛先が無くなれば本来、それは私に向けられて然るべきだろう」

私は改めて自身の立ち位置を表明した。ザナドゥの構成員は私のせいにしても良い。

だから、私の言う事を聞いて欲しい。……我ながら随分理不尽なお願いをしていた。

 

「だが、私は生きている。ザナドゥへ向けられる悪意の大半は私が原因とも言える。……諸君らには済まないが付き合って貰う他ない」

私は部下達に遠回しに謝罪した。恨まれるべき私は生きているがこれからも生きているつもりである。

従って、ザナドゥの皆にはどういうスタンスで所属しているにせよザナドゥから離れる決意が出来るようになるまで付き合って貰うしかないと明言した。

 

「そうでなくとも既に持つ者は新しく持とうとする者を憎む。ザナドゥはそういう立場に成りつつ有る。特権というものは少数が持つからこそ意味があると考える。……ザナドゥはそこに横入りするように見える。既得権益を享受する者達から恨まれもするだろう」

ザナドゥへの批判は数多い。だが、それを憎むのは世界の必然であった。

歴史は新参者を憎む。ザナドゥの始まりは約9年前に遡る。世に出たのが7年前だ。

コズミック・イラ70年の歴史の中ですらまだまだ新参であった。

……婉曲的にプラントが恨まれる事、コーディネイターが恨まれる事も表現している。

 

「故に、我々はもう在るようにしかならない。世の中の関節は外れてしまったと嘆くよりもそれを直す機会を得たと思え。少なくとも呪われた因果を嘆く暇はないと理解しろ」

私はシェイクスピアを引用した。ザナドゥに集う者達、各自の経歴や世界の変化を嘆くよりも憎悪するよりも前を向けと発していた。

 

「最後に、皆にこれだけは覚えていて欲しい。私がもしも志半ばに倒れたらという仮定だが言わせて貰う」

私は個人として発言する事にした。正直、組織人としては縁起でもない発言であった。

だが、私がどれだけ情勢を懸念しているか伝える意味合いも込めていた。

 

「……過去に囚われ未来を憂うよりも今を生きよ。今後何が起ころうとも、ザナドゥという組織が無くなろうとも。……せめてこの意思だけは忘れてくれるな」

ザナドゥ代表としてあるまじき発言であった。だが、私的な想いをザナドゥに関わる者達に伝えた。

世界が代わり、憎悪に満ち、たとえ私が志半ばで倒れようとも伝えたい事であった。

……今を生きる者達が生き残れば私の勝ちだ。過去や未来に絶望しない者が続くことを願って言葉を終えた。

 

 

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時代や状況によって、選ばれる正しさというのは違う。

そういった中では個人が自分の価値観としている発想も考えも所属する社会や団体に左右される事は少なくない。

人間は集団の中で余計なリスクを避けて生活していた。

その社会と相容れない価値観で自分の主張を否定される時、人々は今までの価値観を守るために無意識に相手を理解できないものと存在そのものを否定してしまう事があった。

この場合、一番重要視されるのは自分を危機的状況にさらさない、自分を守るということが根底にある。

そういう人間にとって客観的な視点は二の次となる。……詰まる所エゴに支配された行為が出力される。

 

ザナドゥ代表・クシーという人間はエゴで動いていると自認している。

だが、彼は自分を守るよりも利用しろと言う。彼は自分を切り捨てられる人間だった。

だからこそ、クシーに着いてくる者達は着いて来た。諦めないで突き進む彼の果てを見届ける者も寄り添いたい者も。

しかし、エゴで動くと自負している彼はそうでない者達の本質をよく理解出来ていた。

クシーの発言を良くも悪くも利用し、自己保身に走る人間達も当然居た。……クシーの発言は今を生きる為にはザナドゥで働き続ける他ないと言い訳できた。彼らは結果的には生き残るだろう。クシーの願い通りに。

彼らが生きれば彼にとって勝ちだった。今を必死に生きる術を身に着けた者が一人でも増えることを望んでいた。

 

……クシーにとって最悪なのは言い訳も許されずに無理やりやらされる人々が存在する事だった。

だからこそ、ヘリオポリスで進められているとある『計画』に友であるキラが無理やりな形で関わり、やがて辿る運命と英雄という偶像に翻弄される姿に彼は深く傷つくことになる。

……それを誰かに見せるかは別として。

クシーという人間は誰より気高くあろうとする事はしない。だが、汚されたくない想いの根底にある友達、キラとアスランの存在は運命という物語にあった。

 

そもそもが歴史の異物である彼が関われるのはほんの僅かであった。

……ザナドゥ代表・クシーはユーラシア連邦という場所で誕生した。それ故にどれほど懸命に奔走しようとも出来ないことは存在した。

彼はオーブ首長国連邦にも大西洋連邦にも干渉出来る要素が足りなすぎた。

……意識せずとも人とは生まれに縛られる。そんな在り来りな事柄が彼に対して大きな枷を与えていた。

運命という物語は多少の変化は発生しても十年にも満たない個人が奔走したところで大きく動く事はなかった。

……多少でも物語に変化があるだけでも凄まじい事だったが、それで彼が救われるかは別だった。

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