極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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閑話 個人的な、大事な友達への最後の電話

 

コズミック・イラ70年3月30日、エイプリルフール・クライシスの二日前、私は私的な電話をかける事にした。……それは私にとっては最後かもしれない我儘だった。

 

「ああ、キラか。私だ。今大丈夫か?」

私はヘリオポリスにいるキラ・ヤマトに電話をかけた。

……繋がってよかった。3分程度なら話せるだろう。他愛もない話で終わるつもりである。

 

「え、ああ。課題で大変?随分な事をする担当だな……。キラがキチンと課題をこなすとは」

私はキラがカトーゼミで春休みでも膨大な課題が出されていると聞いた。

……昔なら面倒臭いと私とアスランに投げていた。自分でやるのは偉い成長である。

 

「……ごめんごめん。子ども扱いするなというが、アスラン辺りが聞いても驚くと思うぞ」

私はそんな調子で他愛もない話で久しぶりの会話をしていた。……察する力の鋭いキラは私が何となく求めている会話をしてくれていた。

平和な日常にいるキラの存在はそれだけで私は安堵する事ができた。……私も本来ならば平和に学校に通っていただろうかと考えてしまう。

そう思ってしまう自分に気づくだけでも私は平和の為に戦えた。キラとの会話だけでもそうした物を得る事が出来るのならば悔いはない。

 

そんな日常の会話を終えた私は切り替えた。……時間を見れば5分話していた。

この状況下で大分話しすぎたと少し反省し、私は私の戦場に思考を切り替えた。

ザフトの大攻勢の動きは既に各方面から確認されていた。私はもうザフトが何をする気なのかわかった。……NJの散布に間違いない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

先日、大洋州連合のラッセル議員達からプラントと組むことになったので太陽光発電衛星が排除されるかもしれないと連絡があった。

私はザフトがNJ散布するつもりだろうと彼らに伝えた。もう核報復は無い。だが、インフラを絶ち地球連合軍を機能停止にするつもりだと断言した。

 

「……確かに筋は通っています。ですが、それで犠牲になるのは地球連合に住む戦争と関係のない無辜の市民ではないですか?ザフトはもしやそれを理解していない?……我々を制圧するならば見せしめか!」

ラッセル議員は地球連合にNJ散布するのかと推測して焦っていた。

ザナドゥが動いても億か数千万人が犠牲になるのだからそうもなる。

 

「共有の衛星をどうにか移せないか提案するつもりでしたが、我々が責任を持って死守します。……ここまですると正直、私達は利敵行為で裁かれる可能性も無くはない。すみませんがその時は亡命して良いですか?」

ラッセル議員は割と情けない事を言いつつ、共有の衛星は何としても守ると言い切った。

ラッセル議員達は利敵行為と理解しつつも動こうとしていた。それは何だかんだで私との日頃のやり取りのお陰であった。……偶にゲームに誘ってくるがザナドゥのゲーム支店は置かない。

流石に億が死ぬ行為に加担したくないのはわかる。だからこそ衛星は守ってくれる。

ザナドゥとの共有する衛星を守れば最低数千万人は助かるからだ。それは有り難い話である。

 

「亡命は良いが、恐らく残っていないと後悔するぞ。……取り敢えず何時でもできるように手配するからそちらのザナドゥ支部と打ち合わせしてください」

私はラッセル議員のビビった様子にツッコみつつも了承した。ザナドゥの大洋州連合支部も危ないので撤収出来る準備はしていた。

下手に排除するよりは戦争に加担しないザナドゥは放置した方がマシである。

その辺は人道支援として地球連合側にもプラント側にも交渉はしていた。

それでもザフトが排除する気ならザナドゥの施設を全て爆破して良いから逃走するように大洋州連合支部とやり取りしていた。

……ザナドゥの施設を軒並み爆破すれば騒ぎになるがプラントが何とかするから問題はない。

 

ラッセル議員達大洋州連合は想定がどうにも甘い。NJ投下は考えておくべきだった。

……これで私が確信している被害規模、全世界にNJ投下を伝えればパニックになった。

パニックになった国から得られるものは無い。大洋州連合に余計な被害が出るだけだった。

NJ散布で大洋州連合は地球連合軍からプラントの仲間として攻められるだろう。それはリスクに織り込んでいるはずである。海洋国家なので自国産の兵器は整っているはずだ。

……地球連合と事実上敵対している大洋州連合はザナドゥの兵器を輸入出来ないので非核動力戦艦や潜水艦では地球連合軍にかなり劣る。

故にザフトの力を当てにしている事は間違いない。……侵略されたという打ち合わせ済みならばザフトが主力で出るはずである。

 

ザフトも本気で大洋州連合のどこか……私の勘ではカーペンタリア港を制圧しにくる。

ビクトリア攻防戦は地上戦力の援護が無いから失敗した。前回と違って今回は地の利がザフトにあり、NJ投下直後の混乱を利用するはずである。どうやってもザフトが勝つ。

 

となれば、私のこれ以上の大洋州連合への口添えは徒に犠牲を増やすだけだ。

……結果的に大洋州連合は地球全土に被害を出した罪を背負う事になってしまう。

そういう意味では私も同罪だが、大洋州連合は罪を背負った意識で動いて貰う必要があった。

私はその後の被害を減らす為、大洋州連合の人々に十字架を背負わせる判断をした。

プラントと一蓮托生に見えるが私なりに大洋州連合が出来る逃げ道は用意しておく。

……大洋州連合に完全に開き直られると困る。なので、戦争中に大洋州連合が市民に対しては人道的支援をしていたという恩を売れる状況を築いておく。

 

プラントのシーゲル・クラインはここに来て血迷った。

だが、プラントはそれだけ混乱していたのだろう。……落ち着けば被害規模から大洋州連合とザナドゥの繋がりは許容するだろう。

最悪でもザラ派が台頭するまでの間だけで十分だ。ザナドゥは既に撤退と亡命受け入れの手筈は整えている。強行すればザフト側のが手間取る事になる。

私のこの策はシーゲルの善意を利用している。後にパトリック・ザラはキレるだろうが、私からすれば億が死ぬ所業なのだからそれくらい許せと思う。

最悪を回避する為にはやむを得ない。

 

何故、地球連合にバラ撒くだけにしないかと言えば簡単だった。

狙い撃ちよりバラ撒く方が作戦は成功しやすい。

そして、一度目は通じても二度目は無いかも知れない。

故にプラント及びザフトは地球全土にバラ撒く気だと言えた。大洋州連合とプラントと組むのは地球に拠点を置きたいからだ。

地球連合とほぼ敵対している状況の大洋州連合からすれば最悪戦争に負けても自分達はプラントに侵略されたと言えるので食いついたのだろう。

……見通しが甘い。大洋州連合の見通しが甘くなければほんの少しだけ先になっただろう。先になればなるほど私が出来る事も多かった。

 

地球連合からすれば本土にNJを散布されても解決法が存在する。当然、ザフトはそんな事は知っている。だからこそ地球全土にバラ撒く必要があった。

南アメリカ合衆国で未遂に終わったが、侵略すれば良かった。散布されていない土地を奪えばまだ戦えた。

私はこの侵略行為は否定出来ない。国民の生死が懸かっている以上は止める資格は私にはない。

精々が被害が大きく出ないように立ち回る。そんな穴のある作戦をするよりは全世界に散布する。

プラントはわかりやすい戦果を求めていた。食料か物資か両方か。どちらにせよビクトリア攻防戦の代償は相当であった。

 

 

「……恐らく後二日だ。各支部には最終チェックして貰った後は各々の働きに任せるしかないが」

私はグレイブヤードの通信網をザナドゥ支部専用に切り替えた。

何時起きてもおかしくない。NJ投下が間もなく来ると全ての支部に伝わっただろう。そもそも伝えていたが、今後の方針を確認する問い合わせが早速来ていた。

応えるのに一件ずつは時間が勿体ないので複数のモニターを同時に接続するように調整する。

 

「私は事態が落ち着くまではここにいなければならない。何処かの誰かが待っているかもしれない。……目先の事に囚われるなよ、私」

私は自分に言い聞かせた。ベラが物言いたげな表情をしているが、言葉には出さない。

私が出来る戦いをこれからしなくてはならない。……ザナドゥの総責任者として椅子に座っているというのは辛かった。

 

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