極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年4月1日、ニュートロン・ジャマー散布作戦『オペレーション・ウロボロス』が開始された。
今回の作戦はこれからのザフトの指針の根幹となるものである。……それはNJをダミーも含めて地球に向かってバラ撒くという地球に住む人類にとって悪夢の作戦であった。
地上や海底に到達したNJは小型化され、地中に埋め込まれるようにプログラムされていた。
結果、プラント自身でも撤去する事が不可能な大量の数のNJを地下深くに埋設された。
地球での核分裂反応、核兵器及び核エネルギーは使用不能となり、世界中で深刻な電波障害が永続的に発生する事になった。
そのための軍事行動としてザフトは地球に攻め込んでいた。同時に牽制として地球の重要拠点に攻め込むブラフを仕込んでいた。
物資の観点からL4宙域の『新星』を確保出来ればそれはそれで良かった。位置的にザフトの軍事拠点に改造しても良かった。
今回の作戦は大洋州連合と打ち合わせがあるので成功がほぼ確約されていた。
ダメ押しでNJが投下されるのだから間違いなかった。
……しかし、地球連合軍は想定以上の大艦隊で防衛していた。そこだけはザフトの計算外だった。
核動力艦を無効化出来る上に世界樹を破壊した事による輸送網の断絶の影響で地球連合軍側の防衛はおよそ半数を見積もっていた。
それでも引くわけにはいかないし、NJ投下という切り札がある以上はカーペンタリア基地設置は確実に可能だった。ザフトは地球近辺で作戦を一部修正しつつも開始された。
「さて、妙な感覚を感じる。……おそらくはムウか。だが、今は後回しだ!」
ラウ・ル・クルーゼはザフトの刻印と戦果が刻まれた白いジンで駆ける。
白いジンは地球連合軍にもいるらしいが存在が無視出来るほどに活躍は控えめだった。……先んじて始まった『新星』の方の防衛に回されているのだろうとクルーゼは思っている。
そもそも識別コードがある以上はクルーゼが敵と間違われることもない。
「先ずは軍人として。……ザフトのエースとして見本を見せねばならないのでね」
クルーゼは作戦開始に合わせて敵陣に切り込んだ。一機のメビウスを落とす。緊急脱出装置が働くがクルーゼは無視した。先ずはどれほどザフトが脅威か知らしめる必要があった。
……怨敵であるムウ・ラ・フラガがこの戦場にいると勘づいてもクルーゼは冷静だった。
「皮肉だな。……彼らと会話し過ぎたデメリットがこんな形で活きるとは」
クルーゼは自身の出生原因であるムウへの憎悪を後回しに出来る冷静さを身に着けていた。
彼らというのはクシーとそのゲームにドハマリする馬鹿なオタク達であった。
世界の情勢を糞と言い切る彼らを見ていると一瞬自分の憎悪も馬鹿らしくなりかけた。……最近は忙しく新作ゲームもしていない。どうしようもない世界への憎悪が戻っていた。
「心の片隅に出来た感情は良くも悪くも消えてはくれない。……だが、君の足掻きは無駄だと私にはわかってしまうのだよ!」
クルーゼは自己分析を完了させた。世界はやはりどうしようもない。
ザナドゥを率いる彼を嘲笑うかのような作戦を考えついたのが『穏健派』のクライン派である。……核報復の方が遺恨は残るだろうがすぐに蹴りがつく。クルーゼは核報復の方がマシだと感じていた。
……これから延々と続くであろう憎悪の連鎖の集積ともいえる作戦に関わる事でクルーゼは吹っ切れた。
「クルーゼ隊長達が切り込んだ後、我々も続く。……行くぞ!」
MS母艦ヴェサリウスの艦長及びクルーゼ隊副隊長フレデリック・アデスは残った部下達へ指示を出し、臨機応変に戦場で活躍していた。
……本気を出したクルーゼの変則的な狩りに着いて行ける部下はいなかった。
ザフトのエースパイロットの中でも極一握りが敵陣をかき乱すように暴れていた。
MSジンの推進剤を活用して複雑な軌道を描きながら敵を躱し、不注意なメビウスを何機か落とす。ある程度かき乱したら自分のMS母艦に戻り補給してから再び出撃した。
このMSジンが単機で戦闘をかき乱す光景を体験した地球連合軍の一部には動揺が走った。
知識として知っていても見た者は恐怖した。
……地球連合軍は防衛戦の為にとにかく数をかき集めていた。有象無象ではなく質を伴う者達だが、経験不足の者もいた。
「……あんなのが、あんなのがいてたまるか!?」
そんな知識はあれども経験不足だったのが第6艦隊・司令官のジョン・マケイン少将である。
地球連合軍側の戦力は第5,第6、第7、第8艦隊及び月面基地からの援軍であった。地球連合軍はかなりの数をかき集めていた。
第6艦隊もこれまでザフトと戦ってきたのは確かである。だが、第6艦隊の司令官であるマケイン少将はエースの中のエースを直接見るのは初めてであった。
「落ち着け。……ザフトでもああいうのは一部だ。これからが本番だぞ」
大敗の将と呼ばれた血のバレンタインを経験した第7艦隊・司令官エルド・ガブリエル少将は友軍を宥めた。
こういう時、あの第13艦隊が居てくれたら良かった。……嫌な存在だが第3艦隊でも居てくれたら良かったのだが今回は別の重要拠点を守っていた。
今回、地球連合軍は地球を守る数を重視して配置した。質も悪くはない。核報復を防ぐのが狙いであり、方針は間違ってはいない。
「この4つの艦隊と月面基地の援軍は新規の輸送網により可能な配置だ。従来からすればこのような大軍を防衛とはいえ置けない。……最大限尽力しているのは確かだ」
第8艦隊・司令官のデュエイン・ハルバートン准将は第7艦隊のガブリエル少将の不安を取り除くように言った。
ハルバートン准将は現状をそれなりに評価していた。第3艦隊は歴戦の猛者だが、軍法会議になるラインで暴走するので居て欲しくない。第13艦隊は重要拠点を守ると考えれば最適な布陣だった。……こちらは是が非でもいて欲しかったが上層部の決定もまだわかる。
「輸送網で補給は万全。撃ち尽くしても問題ないのは良い。……敵が核を撃つつもりならばこの物量で以てすれば防げる」
第5艦隊・司令官及び総司令官のドミトリー・コンスコイ中将は言葉を締めくくった。
敵のエース達が切り込んで来たが、一部が出すぎた。コンスコイ中将はこれ以上被害を出さない為に局所的に配置していたセイバーフィッシュの部隊で集中砲火した。
「セイバーフィッシュ……やはり強い。機動性はともかく火力はメビウスより上だ」
第5艦隊所属コーネリアス級改装護衛艦アントワーヌ艦長のジョミニ中佐は言葉を溢した。
コーネリアス級は旧式とはいえ改装を重ねており、MAを運用する艦として特化していた。
第5艦隊の一部は南アフリカ統一機構の部隊が組み込まれていた。軍内の派閥政治で第5艦隊は南アフリカ統一機構の宇宙軍を取り込む編成を行っていた。
……第5艦隊は状況が状況だけに実験部隊も投入していた。もう少し緩めな戦場を経験させてからにしたかった。しかし、ザフトのエースが一機でも狩れたのは大きい。
「……ハービック社とザナドゥの組み合わせから生まれた魔改造機体だわこれ」
「ほぼ同じ感覚で宇宙でも地球でも戦えるとかバグってんのか?……メビウスのが宇宙用だけあって色々動けているからそちらには及ばないが」
「セイバーフィッシュの火力は凄いが撃ちすぎてない?」
旧式のフラットマウスを乗っていた航空機パイロット達はMAセイバーフィッシュへ言葉を溢した。
南アフリカ統一機構の宇宙軍の一部は元が空軍航空機のパイロットである。
……もう少し経験してから実戦に配備されたかったが、彼らも地球では熟練のパイロットであるので地球重力がない状況にも大体対応出来ていた。
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南アフリカ統一機構は地球連合への編入に際して規格統一化を強制されていた。
実際、規格が合わない従来の軍隊では地球連合軍主力の足を引っ張った。足並みが揃わない。
……そこまで人材が育っていない南アフリカ統一機構はなるべく既存の人員で対応出来るように奮闘していた。
そんな中、旧式戦闘機を扱っていたハービック社がザナドゥに吸収され、既存の兵器と規格統一の流れに即する兵器が開発された。
南アフリカ統一機構はそのコンセプトを求めていた。
老舗のハービック社と品質保証が確約された新興のザナドゥの組み合わせもあり即座に切り替えた。
そして、MAセイバーフィッシュは主換装を変更すれば宇宙用のMAとして戦えた。
宇宙用のメビウス、地上用のスピアヘッドと乗り換えしなくても良いという点において素晴らしかった。
……メビウスやスピアヘッドは操縦でMSの機動にある程度対応できた。
その点で言えばセイバーフィッシュは従来の戦闘機寄りであるので咄嗟に避けるといった事には難点があった。
だが、訓練を統一できて地上でも宇宙でも使い回せるのはパイロットや整備士が少ない南アフリカ統一機構にとって素晴らしかった。
メビウス開発時にザナドゥ代表・クシーの考えた『コア・ファイター構想』はセイバーフィッシュで完成した。
大気圏・宇宙両用の多用途戦闘機となったセイバーフィッシュは幾つかの課題を残していた機体である。
機動性ではメビウスに劣るので状況判断に優れたパイロットでないと折角の火力が活かせない。
だが、南アフリカ統一機構等、軍備の転換が急務となった国においては重宝される機体となった。
南アメリカ合衆国でも規格の変更から廃業するつもりだった整備士が再び雇用されていた。
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後日、地球連合に加盟する国や地域はこれからの惨劇で増えることになった。それらの国では憎しみから力を欲していた。
……ザナドゥはセイバーフィッシュの増産を拒否できない。
それでも彼らと理性的に対話する取っ掛かりとして活用する等することも出来た。
憎しみに囚われる彼らを救うために奔走したのもザナドゥであった。
ザナドゥはダブルスタンダードな振る舞いをしていたが、根本的な停戦思想は変わらなかった。
「ザナドゥがセイバーフィッシュを渡さなければ、彼らは特攻して散っていく。彼らの後追いで復讐の連鎖が始まるのを阻止出来ると考えれば……」
クシーは自分の行為で人が死ぬのを予想して言葉を漏らした。想像していなかったわけではない。だが、体が震えるのを察した。
「言い訳しない!……救ったのなら誇りなさい」
メアリ・クリスティはクシーの頬を叩いた。そして、言葉をかけた。
誰より気高くあろうとしない。だが、他者へ基本的に動揺は見せないクシーがこうなるというのはどれほどの痛みなのかを察していた。それでもクシーの為に発破をかけていた。
……ベラにはこうした事ができなかった。
「……ヴィクトリアがいれば良いのだけど」
メアリは考えるよりも言葉を溢してしまった。
自分の貧相な体よりは健康的な美人である彼女の方が……メアリは馬鹿な事を考えてしまったので思わず拳を叩きつけた。
「南アメリカ合衆国は今忙しい。……まぁ、何だ。ありがとう」
クシーは正気に戻った。メアリまでベラに脳を汚染されたかと思ったので落ち着いた。
なるようにしかならないのだから仕方がない。虐殺するようならば止めるし、最終的に彼らの怒りを自分に向けるなりなんなりすれば良い。クシーは前向きに捉えることにした。
……もしも、メアリから迫られていれば陥落したかもしれないと思った。凄く危ない。
「……ちっ!」
ベラは舌打ちした。上手くいかねぇなと思った。ヴィクトリアが南アメリカ合衆国にいる事実にこれ程惜しい事はなかった。
下世話な事を考えていると自覚しているが、ベラにとっては主のストレス問題はかなり重要だった。
キラへの電話もそうであるが主の状態はかなり不味い。もう誰か襲えと思っていた。