極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年4月1日、エイプリル・フール・クライシスと後に呼ばれる地球全土への攻撃が行われた。
ザフトがニュートロン・ジャマーを世界中にバラ撒いた。オペレーション・ウロボロスの一環の作戦である。
燃料資源が枯渇寸前の地球では海から抽出可能なウラン等による核分裂炉発電が主流であった。
結果、既存のエネルギー産業は軒並み停止し、地球全土で深刻なエネルギー不足に陥った。
本来ならば地球全土で10億人を超える人々が餓死や凍死等あらゆる形で死亡していた。
しかし、この世界では違った経過と歴史を歩む事になる。
この段階で大きく変化したのはエイプリル・フール・クライシスによる死者である。最終的に4月1日から始まるNJでの被害は約3億人に抑えられた。
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被害が抑えられた一番の要因は『Xanadu(ザナドゥ)』という組織の存在であった。
ザナドゥは世界各地で治安維持活動だけでなくインフラ整備を行っていた。
また、核分裂炉に頼らない自然エネルギー開発計画等を事業として推進していた。
それに加えて、非常時に備えた有線通信はNJにより無効化される事なく機能した。
各地の公共機関の連絡網は最低限機能し、有線通信で投資していた地域の有力者との通信が機能した事により、彼らの行う企業の再開が早く行われた。
ザナドゥは非常時に向けて徹底的に対策をしていた。……悪名高いゲーム会社のチャット機能で助け出された民間人も多かった。
全世界で従来のインフラが停止した4月1日以降、復旧から生活の再開までの間でザナドゥが関与していない部分はないと断言できた。
なお、当然ながら地域の有力者達はエイプリル・フール・クライシスの被害で損した分の利益を求めた。
例えばインフラが復旧した事で経済活動を再開させる際にエネルギーをどのように分配するかで揉める事も多々あった。
この政治的に大きな衝突になりかねない案件に関してはザナドゥ代表が介入し妥協させた。
既得権益者同士が対立する余裕があるようにザナドゥ代表・クシーは悪しき慣習も多少妥協してエイプリル・フール・クライシスからの復興を最優先で行動した。
その為、第三者から見れば問題がないわけではなかった。命が助かった事を感謝しても例外はいた。
……世界が変わる事を求める者達はザナドゥが妥協した結果、既得権益が従来通りにのさばっているように見えた。
実際はNJ投下前のように権力を暴走させる事は減っていた。復興を優先していてもザナドゥがインフラを握っているのだからそれが枷になっていた。
だが、その感覚は当事者でないとわからない。ザナドゥも神ではないので全部には手が回らない。
そもそも人材不足のザナドゥも被災している。民間に被害が目に見えるような大きな案件を事前に調停するだけで過労死しかねない程に忙しかった。
……一人でも救うために働こうとするクシーは何度もメアリに無理やり寝かされた。
メアリは一族のマティスをぶち殺す準備をしていたが、それよりもクシーが過労死しないか不安になっていた。
クシーは自分の代わりがいないからというのもあったが、あまりに働き過ぎであった。
そんな状態とは知らない者達がいた。世界の変化で活躍するザナドゥに勝手に期待していた。
彼らは勝手に失望した。身勝手な彼らは後にデスティニー・プランという思想に飛びつくことになる。
なお、失望するような誰かがいるだろうとクシーは察していた。……そこまでやっていたら追加で何億人死ぬのを考えれば改革等する暇はない。
クシーは既得権益を持つ富裕層やロゴスを精一杯利用して人を救う事を優先した。彼らを排除するような急激な改革を行わなかった。
……ザナドゥは生命線を握っていた。その為、可能か不可能かでいえば可能であった。
だが、その過程で何億人も死ぬ上にザナドゥ代表という個人に依存する社会システムとなり世界が停滞すると算出した。
クシーからすればそのような事をする理由どころか気力も余裕もないので論外であった。
たとえ、この世界が本当にどうしようもない世界であってもそこに生きる人々の意思で決められるべきだとクシーは考えていた。
……自分と相反する意思が真っ当な形で出てきて論破してくれるならばそれはそれで認めた。
後世の歴史家はNJ投下後の地球はザナドゥが再構築したと評した。口の悪い者はザナドゥが世界を支配したと言った。
……本当に世界を支配していればそのような事も言えないのだが彼らは気がつけない。
後にNJCが発明され、地上で核動力が機能するようになっても核動力炉のエネルギー供給はザナドゥのインフラ網を使うのが前提であった。
電波妨害はNJCでも作動し、ほぼ世界中のインフラ網を持つようになったザナドゥを排除することは出来なかった。
しかしながら、ザナドゥは自分本位でインフラを封鎖するような事はしなかった。
例え悪しき事に使われている疑惑があろうが疑惑である限りはインフラを止めれば私欲に走った事になる。
ザナドゥ及び代表クシーは徐々に自身の持つ権利を世界の国々へ返還した。
国々も余裕がなくエイプリル・フール・クライシス直後ではザナドゥから権利を買えなかった。
ザナドゥの利権を買い取れるロゴスに売ってしまえば確実に後世に悪影響があった。
悪しき既得権益を排除しつつ丁寧に未来の為に長い時間をかけたクシーなりの改革である。
この改革は後継者への引き継ぎ含めて百年以上かかった。後世の学者達が気が付かない程に行われた。
数百年後の誰かは気がつくかもしれないがそこまではクシーも知らなかった。
なお、何件かは恣意的にザナドゥがインフラを止めた疑惑はあったが疑惑止まりであった。
……バレなきゃセーフと開き直るのだから後世の悪評も強ち間違いでもない。
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このように後世でもザナドゥを悪く言う輩がいるように第1次連合・プラント大戦中は更に酷かった。
証拠も何もない陰謀論が広がりやすい状況下だった。情報が錯綜し、皆が困窮していた。
ザナドゥはコーディネイターやそのハーフが多く所属している組織だった。プラント寄りの発言を過去にしていた事もある。
……ザナドゥは大体どちらにも喧嘩を売っているのだが、人は自分に都合の良い事しか聞かない。
どれ程荒唐無稽であっても自分にとって都合の良い悪役がいればそれらに憎悪を向けられた。
ザナドゥは世界各地になるべく正確な情報を発信していたが、地球連合ではなく国連名義で情報を発信していた。
……後世の第三者が見ると正しくとも、その時代を生きる者が見れば怪しい面も多々あった。
結果、生き死にに直結しているこの状況でザナドゥに対し攻撃する者達が発生した。
ザナドゥは治安維持を名目に暴れる者達を拘束し、強引に復旧作業に従事させた。
ザナドゥは公式でこの期に及んでいい加減にしろと叫んだ。だが、陰謀論にハマった者達を説得する余力はなかった。その余力があれば復興作業や救助作業をしていた。
ブルーコスモス・過激派はザナドゥの強引な手腕を非難したが、盟主のアズラエルが過激派に待ったをかけた。
世界中のブルーコスモス・穏健派や非ブルーコスモスの人々は過激派に対して良くザナドゥを非難出来るなと面の皮の厚さが凄いと思った。
……ブルーコスモス・過激派は強引どころかテロ行為で世界中に迷惑をかけていた。
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アズラエルは限界に近かった。割ともう既に錯乱していたが、何とか落ち着いていて声明を出した。
「プラントのイカれた所業は絶対に許されない!だが、その為に大事なのは力だ!」
アズラエルは報復や復讐という言葉は省いた。言葉尻を取られることを懸念した。
同時にどういう文脈でも”力”が無いと何も出来ないとアズラエルは悟っていた。
「この状況下では使えるならば使うべきです。……アレがやっている復旧の邪魔をするのはプラントの思う壺でしょう!?」
盟主アズラエルはザナドゥをこの期に及んで邪魔をするブルーコスモス・過激派に対してキレた。
……一応、ザナドゥもブルーコスモス関連組織なのでブルーコスモス内部の争いであると言えた。従って、ザナドゥとアズラエルは明言しない。だが、大多数は”アレ”というだけで察した。過激派もコーディネイター憎しの感情と勢いで攻撃していたが正気になった。……盟主のアズラエルも明言したくないアレを理解した。
「手近にいれば殴りたくなるのもまぁ、わかります、わかりますが……。一応制御出来ているアレをキレさせたらどうしてくれるんだ!?」
アズラエルは本音で叫んだ。アズラエルはストレスが限界を突破し、取り繕う理性が弾け飛んでいた。
アズラエルもコーディネイターが近くにいれば攻撃したくなる気持ちがよく分かる。
ザナドゥを殴りたくなるのも大体わかる。……その代表をマトモに殴れる奴がいないので真面目にキレさせたくない。本気で厄介極まりない劇物だった。
「私はこの蛮行を絶対に許す気はない!……宇宙にいる奴らを許す気はない!」
アズラエルはコーディネイターを憎悪する感情を一旦抑えた。そして、プラントへ報復する事を暗に宣言した。
アズラエルは自身のストレスを減らす為にブルーコスモス所属のコーディネイターとすら間接的に関わるようになっていた。
コーディネイターはまだ役に立つ。そもそもザナドゥならばクシーという爆弾が背後にいる。……それを忘れてザナドゥと争えばプラントと戦う力を地球連合は取り戻せない。
「地球連合やブルーコスモスはその為に気概を見せなさい!……ザフトが来たら見せつけてやれ!」
アズラエルはらしくもない演説をしていた。まだザフトの侵攻していない地域でテロする余力があるならば、それまで待機してテロしろとアズラエルは思っていた。
軍事だけでなく、民間企業の経済活動も総力戦においては力であった。構図だけならば再構築戦争が比較にならない地球対宇宙であった。軍事を齧ったアズラエルは過去の世界大戦から学んでいた。今回の戦争を『総力戦』と定義していた。
ザナドゥが純粋に地球や人々を救う事を望んでいたとしても、復興の過程でアズラエル達の力も回復や増大するのはどうやっても避けられない。
「……もしも、ザナドゥが利敵行為をするのであれば盟主である私が裁きます」
アズラエルはギリギリで過激派に譲歩した。この発言はザナドゥと敵対する時は自分が決めるという事だった。
百害あって一利なしとはこの事だが、プラントと戦うにはブルーコスモス・過激派の力が必要だった。
クシーと会話する事すら怯える臆病者だが、数は力である。特にNJ投下後の世界で明確な指針は人々を惹きつけた。
……ザナドゥが幾ら反戦活動をしようが無駄である。アズラエルは世界の憎悪を誰よりも理解していると自負していた。
コーディネイター及びプラントという存在は根本的に世界と相容れない。
最早器か怪しいブルーコスモスだが、『ブルーコスモス』という形で名目上でも纏まっているのなら利用した方がマシだった。
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ブルーコスモスへ向けての演説となってしまった。アズラエルは盟主として称賛するメッセージが届くのを見つめる。
馬鹿みたいだと思いつつもその馬鹿を使う為に返事を適当な言葉で返していた。
これはこれで使い道があるから良いと受け止めた。
だが、ザナドゥにもしもがあればアズラエル自身が裁くと明言してしまった。
……ある意味本音ではある。しかし、アズラエルとしては幼少期からクシー、彼を知る身であるので少しばかり複雑であった。
「ふぅ……」
アズラエルは複雑な感情を抑え込んだ。アズラエルは自身の持つ軍事企業に全力を注いでいた。
アズラエルは戦闘用コーディネイターへ投資していたが、生体CPUもこの際だからと成果を求めた。生体CPUが完成すれば戦闘用コーディネイターは処分しなければならなくなる。その際はザナドゥへ流す方向で考えていたが、ナチュラルに攻撃出来ない遺伝子が働くか不安だった。
勿体ないが戦闘用コーディネイターを処分する方向へ考えて始めたら、早速電話が来た。
「……はい。ムルタ・アズラエルですが。今さっきでボクに電話するとか頭おかしいんじゃないですかね?」
アズラエルは自分の思考を読み取るように糞みたいな事を言う事を警戒していた。だが、幸いにも普通の要件だった。
『……色々言いたいですが、大西洋連合のコーディネイター達を含めたプロジェクトはキチンと守ってください。後、勝手に人材を処分しないでください』
ザナドゥ代表・クシーはアズラエルと妥協した点を挙げてきた。
……戦闘用コーディネイターの処分に関して牽制していると思われるが、どうにも捉えられる言い方をしていた。アズラエルは気を使われたと察したがだからといって言質を取られないように頭を回転させた。
大西洋連合で迫害してきたコーディネイター達を解放しプロジェクトを立ち上げていた。
太陽光発電の性能をプラントと同水準にまで向上させる。また、ザナドゥと新規の海底ケーブル等の国際的なインフラ網の整備に関しては協力する事にした。
「コーディネイターでも何でも使わないといけないのは同意します。……こちらの手を噛むような奴は知りません」
アズラエルはブルーコスモスの盟主として言い切った。
……同時に胃が痛くなってきた。胃潰瘍かもしれないと思ったアズラエルは念の為に明日にでも医師の予約をする事にした。
ブルーコスモスの盟主アズラエルは反プラント、反コーディネイターを声高に言うもののザナドゥの行為は正当として認可していた。
アズラエルやロゴスが裏でやっている事も同じなのだから認めなければならない。
『それは一体誰の事なんでしょうね。……可哀想に』
クシーは奇妙な言い回しをして返してきた。
アズラエルはコーディネイターの事を言ったし、それがわからないような奴ではないと知っていた。
意味深であるので若干不安になる。アズラエルは取り敢えず考えない事にした。……考えれば相手のペースに乗せられている気分になる。
「まぁ、良いでしょう。それで何の電話ですか?」
アズラエルは勿体ぶった言い回しで考えさせようとするクシーに要件を尋ねた。
クシーは碌でもない事を言いたい時に電話をしてくるとアズラエルは散々体験していた。
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アズラエルとザナドゥ代表と決定的に違うのは明確にプラントを徹底的に叩くつもりかどうかだった。
アズラエルはエイプリル・フール・クライシス、これほどの事を仕出かしたプラントには二度と逆らう力を付けさせない。
アズラエルはそれだけは曲げるつもりはなかった。
……今はザナドゥ代表・クシーと呼ばれる少年と争う事になってもそこは妥協しない。それまでの間でも利用しあえるならば何処までが限度であるか。
二人共にお互いがお互いの腹を探っていた。
なお、二人共にジブリールが台頭したり、ブルーコスモスに影響力が増す状況は不味いので何とかしたいというのは同じであったりする。
アズラエルにとってもクシーにとってもジブリールは後に世界へ迷惑をかける疫病神に見えていた。