紅玉戦記   作:柱間ァ!!

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 間桐鶴野。押し付けられるように、魔術師の家柄である間桐家の当主を押し付けられた不運な男。

 その運の無さは、某青タイツランサーにも引けを取らない事だろう。

 

 そんな彼は今、冷や汗をダラダラと流しながら自身の屋敷の床に正座をして視線を彷徨わせていた。

 対面するのは、妙な少年。

 漆黒の刀身のような角の生えた大蛇を玉座の様にして座って頬杖をつき、奇妙な紋様の浮かんだ真紅の瞳でジッと鶴野を見下ろしていた。

 

「――――成程な。魔術師に、蟲の改造……反吐が出るやり口だ」

「…………」

「まあ、蟲に関しては俺が全部焼き払った。それは良いだろ。問題は、」

 

 そこで少年はその紅い瞳を鶴野は、血の気が引く思いだ。

 彼にとって、父親であった間桐臓硯は恐怖の対象でしかなかった。それこそ、酒浸りに昏倒して意識を飛ばさねば眠れなくなるほどに。

 幸か不幸か、間桐鶴野は魔導の才能にそれほど優れていなかった。そのお陰で、魔術に傾倒する事も無く、結果的に一般人に近い感性を持ち合わせてもいた。

 そんな彼でも、目の前の少年には逆らってはいけない、と本能が叫んでくる。出来る事なら、今すぐにでも酒を飲んでぶっ倒れてしまいたいほど。

 しかしできない。そんな事をすれば、目の前の少年に有無を言わさずに消されるだろう。そもそも、今この状態で酒など飲んでも酔える気がしなかった。

 

「お前は、この子をちゃんと養っていく気があるのか?」

 

 少年が目だけで見たのは、蜷局を巻いた大蛇の隣で布団に寝かされた少女だ。

 地獄のような地下から救出した彼女を、適当に敷いた布団に放り込んで彼、檜扇佐介は騒音に跳び起きた鶴野を引きずり正座させていた。

 

「そ、れは………」

「もうお前を縛ってた妖怪はいない。なら、全てを投げ出して逃げ出すか?」

 

 佐介の言葉に、間髪入れずに頷きそうになる鶴野。

 だが、その真紅の瞳を見た瞬間、その体は宛ら蛇に睨まれたカエルの様に固まっていた。

 

(返答を間違えば、死ぬ……!)

 

 運の悪い男は伊達ではない。憐れに思えるほどに、間桐鶴野は運が無い。なまじ、魔導以外のスペックが高い為に憐れだ。

 鶴野はチラリと横目に、眠る少女を見やる。

 命令されていたとはいえ、彼女を地獄に放り込んでいたのは鶴野だ。これに関しては、最早弁明のしようはない。というか、下手な弁明は先の通り命に関わる。

 

 間桐鶴野は真っ当な魔術師ではない。最低限の手解きは受けていても、その元々の才覚が低かったから。

 だからこそ、彼は魔術師としての価値観を持っていても、その価値観に染まり切ってはいなかった。

 要するに常人としての感性も未だあるのだ。いっその事、開き直って全てに染まってしまえたなら、彼はどれほど楽だろう。

 しかし現実問題、鶴野は選択せねばならない。

 幸い、この間桐家には財産がある。それこそ、遊んで暮らせる程度には。鶴野自身も、運は悪いがその一方で一般人よりは上の才覚持ち。

 という訳で、

 

「……こ……この子が成人するまでは、面倒を見る…………」

「金はどうする?人一人育てる事は金が掛かるだろ?」

「そ、それは、問題ない。財産はあるんだ……な、何なら商売を立ち上げても良い……」

 

 恐ろしかった。声がひっくり返らない様にするだけで、精一杯だった。

 俯き、膝を握りながら、鶴野の頬を汗が伝う。

 

「――――良いだろう」

 

 慈悲が下される。

 

「ただし、俺が様子を見に来る。もしも、約束を違えるなら――――」

「わ、分かってます!か、必ず!必ず、約束通りにします!させていただきます!」

「…………良し」

 

 もう形振り構わない土下座だった。

 恐怖の対象が、父親から目の前の少年へと変わっただけ。

 だが、間桐鶴野の地獄は、この日確かに終わりを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間桐桜の地獄は、唐突に終わりを告げた。

 家族と引き離され、蟲に凌辱され続けた日々。生きているだけで、無為に消費するだけだった日常。

 それらを壊したのは、紅い目をした王子様だった。

 

「~♪」

「重い……」

 

 随分色と肉付きの良くなった頬を緩め、桜は上機嫌に件の少年、檜扇佐介へと抱き着いていた。

 彼女にしてみれば、助けてくれた張本人。同時に、自身の待遇改善に加えて、間桐家の環境改善等々。

 あらゆる事をしてくれた、正しく救いの神。懐くな、という方が無理な話というものだろう。

 一方で、佐介はというと呆れながらも桜を振り払うような事はしなかった。

 彼女の有様を知っているから。もし仮に、軽くでも彼女を拒絶するような事をしてしまえば、薄氷の様な状態で辛うじて残っている少女の心は粉々に砕け散ってしまうだろう。

 良くはない。だが、如何に前世のある精神年齢二十代半ばの佐介であっても、彼は精神科医ではない。要するに、ろくな対処法など思いつかない。

 

 とはいえ、今の間桐家は平和そのもの。

 混沌の原因であった間桐臓硯は焼却され、ついでにこの家を這いずっていた蟲もその悉くが焼却。運よく生き残った個体も、太陽の光に死滅した。

 一部が、佐介の介入で壊れてしまった屋敷に関しても、そもそも元が広いのだ。生活する分には、支障はない。

 

「ピザ来たぞー」

「またデリバリーか?」

「うっ……仕方ないだろ、料理なんざろくにした事無いんだ」

「家政婦を雇えば良いんじゃないか?」

「…………まだ魔術関連の整理が済んでねぇんだよ……後、お前の壊した廊下とか、地下の蔵とかな……!」

「そうか」

 

 鶴野の蟀谷に青筋が浮かぶが、結局何も出来ないために肩を落とす他ない。

 臓硯が死んで一週間ほど。鶴野は、一人頑張って色々と処分をしたり、一人で出来ないものは佐介に処分してもらったりと、兎に角頑張っていた。

 頑張っていたが、如何せん処理しなければならない品が多い事多い事。

 オマケに、地下の元蟲蔵は佐介によって焼却消毒されたとしてもこびり付いたニオイが、まあ落ちない。

 とりあえず、消臭剤の類を幾つも放り込んでから、素人修理で穴を塞いで、壁なども同じく塞いだ。なまじ、スペックが高い分質の良い修理が出来たのは、不幸中の幸いか。

 こんな状況では、食事にまで気が回らない。かといって、桜の食事を疎かにすれば紅い目をした鬼童(おにわらし)にぶっ殺される。

 という訳で、デリバリーと弁当屋とコンビニに依存する他ない。

 幸い、金ならある。一応の栄養バランスも考えて、サラダなども食べるようにして、どうにかこうにか持たせていた。

 ぴったりと佐介の側に引っ付きながら、桜はもそもそとチーズを伸ばしてピザを食べる。

 

「なあ、鶴野」

「な、何だよ」

「聖杯戦争ってのは、いつ始まるんだ?」

「…………まさか、参加するつもりか?」

「いや?だが、巻き込まれる可能性がある、だろ?」

「そうなんだよなぁ…………」

 

 ピザと一緒に買ってきて、グラスへと移したコーラを飲み干して鶴野はため息を吐く。因みに、昼から酒を飲もうとしたら、佐介に酒瓶を悉く割られ、視線だけで殺されそうな目を向けられた為、自重中。

 そして、目下の悩みは屋敷の事もそうだが、近々行われる事になる、魔術儀式。

 

「基本的に、御三家に優遇して令呪が配られるらしい。親父の資料がいくつか残ってた」

「でも、お前にその令呪の兆しはない、と」

「はい…………」

 

 伸びたチーズをもそもそ唇で手繰りながら、鶴野は項垂れる。

 彼としては、聖杯戦争などという超危険イベントに参加などするつもりは欠片も無い。というか、もし仮に参加しても、そもそも根源になど興味が無く、願いなどもパッとは思いつかない。

 かといって、彼は間桐家の当主だ。令呪が分配され、聖杯戦争の参加資格を得る可能性はゼロじゃない。

 

「聖杯戦争、か……」

 

 付け合わせのナゲットを食べ、佐介は考える。

 彼は自分が最強の存在、等とは考えていない。肉体年齢も七歳程であるのだから、幾らチャクラによる強化があれども、限度があるだろう。

 万華鏡写輪眼にしても、瞳術は強力だがその一方で燃費が悪い。夜刀神は兎も角、天照は連射し過ぎると左目に負荷がかかり過ぎる。もう一つの切り札にしても、周辺被害が大きすぎる。

 となれば、通常の写輪眼でも戦える手段を模索するべきだろう。

 

(とはいえ、俺は印に関してはからっきしだからな……)

 

 チャクラを練る事は、感覚で出来る。その総量は比べる相手が居ないためハッキリとはしないが、しかし少なくともそう簡単にガス欠するほどではない。

 問題は、印の方。

 如何なる忍術も、印が必要になる。そして、佐介の前世の記憶には鮮明としたそれらの記憶はほぼほぼ無かった。

 簡単なものは覚えている。だが、長いものはその限りではない。

 そもそも、チャクラの形態変化は兎も角、性質変化を上手くできるのか。

 

「…………よし」

「ッ!な、何だ?」

 

 佐介の一挙手一投足にびくつく鶴野だが、ソレを彼は無視。

 聖杯戦争、ひいては魔術界隈へと巻き込まれる可能性があるのなら、力をつける事に手段を選んではいられない。

 

(まずは、水風船の調達と、それからゴムボールだな。後は……夜刀神を使えば、あっちも出来るかもしれない)

 

 目指すのは、主に三つ。内二つは、必須級。一つは、出来ればラッキー程度。

 時間はそれ程多くは無い。














一つ、補足を。
万華鏡写輪眼と写輪眼の扱いは、直死の魔眼に近いものです。要は、魔術的な要素も含みながら大別するならば超能力に分類される形です
チャクラの扱いも、魔力に近い神秘という事で

ご都合主義にも思えますが、そこはまあ物語の中ですので
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