新感覚ぬるま湯TSファンタジー 作:ヌック
転生、といえば一般的にどんな物が思い浮かべられるだろう。
中世風の異世界ファンタジーに、チートを持って生まれ変わる。
というのが、おそらく最も一般的な転生モノのフォーマットではないだろうか。
もちろん、それ以外にもいろいろな転生モノの作品は世界に溢れているわけだけど。
そういう転生モノの醍醐味は、転生チートでチヤホヤされたいという欲求を満たすことだ。
その事の良し悪しはこの場では語らないものとして。
ボクが言いたいことはただ一つ。
転生モノは、必ずしも転生者が幸せになれる作品だけではないということだ。
世の中には曇らせやハードモードが好きな読者がいる。
だから、転生者の中にはえげつない環境に送り込まれたり、望まぬチートで苦労させられたりする人も多い。
でも、それは物語の中だから楽しめるのであって。
もし自分がその立場になってしまったら、果たして素直に転生を楽しめるだろうか。
ボクはそうは思わない。
人は誰しも楽がしたい、手軽にチヤホヤしてもらいたい。
そういう欲求を持っているものなのだ。
当然ボクだって、そうだ。
だからもし、ボクが転生するのなら「ちょうどいい」感じの世界に転生したい。
愉悦に塗れた曇らせも、ご都合悪い主義全開のハードモードも必要ない。
ちょうどいい感じのチート、ちょうどいい感じのチヤホヤ。
そんな世界に生まれ変わりたいのだ。
あまりにもそれが都合の良い願いであることは解っている。
そんなこと、普通ありえないということも解っている。
でも、ちょっとくらい願ってみてもいいじゃないか。
願うだけならタダなのだから。
この話しの要点はただ一つ。
ボクが今上げた転生の条件は、きっと色んな人が共感できるものだろうということ。
じゃあ、なんでそんな話をしたかと言えば。
とても単純。
してしまったのだ、転生。
外の誰でもないこのボクが。
こんなどうしようもなく都合の良い願いを抱えた不埒なボクが。
そんなどうしようもなく都合の良い、不埒な条件をバッチリ満たす。
ちょうどいい感じの異世界に、転生してしまったのである。
なお、当然の権利のようにTS転生だったのだけれども。
そこは、少し好みが分かれる部分かもしれない。
+
その日、ボクは朝食をギルドで済ませるために、いい感じの時間にギルドへやってきた。
いい感じの時間っていうのは、まぁだいたい十時ちょい過ぎくらいね。
もう朝食って時間じゃないじゃん! と思うかも知れないけど、考えてみて欲しい。
朝、満足の行く時間まで寝て、いい感じの状態で目覚めるとして。
具体的に何時まで寝れば、満足行くまで寝れるだろう。
朝の七時とかは論外だ、早すぎる。
普通に考えれば、八時とか九時。
一般的に社会人や学生が家を出る時間って八時とかソレくらいだと思うのだけど、その時間が家を出るときに万全の状態で出れる時間かというと、そうではないだろう。
やはり、九時……可能なら、もう少し寝ていたい。
そう考えると、十時ちょい前くらいまでガッツリ寝れれば、まぁなんとか妥協できるくらいの朝を迎えることができるのではないだろうか。
それ以上寝ると、そもそも朝食を食べる時間ではなくなってしまうので、朝食を食べるという前提で考えた場合。
やはり、十時ちょい過ぎくらいに食事にありつくのがちょうどいい時間というものだろう。
その点、今日のボクは完璧な時間配分でギルドにやってきている。
そしてギルドには、そんな時間にやってきたボクへ朝食を提供する機能がある。
まぁ、要するにギルドには食堂が併設されているわけなのだけど。
ギルドの食堂は朝から晩まで、常に稼働している。
しかも、一般的なメニューならだいたい揃っている。
イメージとしては温泉施設の食堂を想定してもらうと分かりやすい。
施設がオープンしてから閉店するまで常に稼働していて、メニューに大体のものが揃っている食堂というと、そういうところしかないだろう。
話をまとめると、ギルドは好きな時間にやってきて、食べたいと思うものがだいたい置いてある便利な食堂がある。
そしてボクは冒険者――自分の出勤時間は自由に決められる立場なので、いい感じの時間まで布団でぬくぬくしてからギルドにやってきて朝食を食べても、誰にも怒られることがない。
すばらしい!
「というわけでおっちゃーん、とんこつラーメン一つちょうだーい」
「おー、“イルカ”ちゃん。こんな時間にラーメンかい?」
「こんな時間だからこそだよ、人間好きなときに食べたいものを食べる。これこそ幸せの最も普遍的なあり方ってやつだ」
「相変わらず、ダメ人間そのものの理屈をそれっぽい言い方で言うの好きだね」
「あんだと!?」
なんてやり取りをしつつ、ボクは朝食にありつく。
この世界の食事のレベルはかなり高い。
前世と変わらない食生活を、前世と同じ感覚でありつける。
なんと都合の良い異世界であることか。
転生者の中には、現代風の食事を振る舞ってSUGEEEする転生者も多いけど。
ボクはそもそも料理なんて、シラフでできるのチャーハンとスパゲッティと焼きうどんくらいだ。
だったら、食文化は現代に近い方がありがたいに決まってる。
その点、この世界はほぼ完璧と言っていいね。
醤油、マヨ、みそ! 概ね欲しい調味料は揃っているんだから。
ともかく。
おっちゃんがさっと作ったとんこつラーメンを、美味しくいただこうとするボク。
そんなボクに、声をかけてくる人がいた。
「イルカちゃん」
イルカ、というのは言うまでもなくボクの名前。
前世の名前とは特に関係ないんだけど、冒険者として登録するときになぜかこの名前がデフォルトで冒険者カードに表示された。
ちなみにイルカ→じゃなくて、イ↑ルカね、発音は。
声をかけてきたのは、ギルドの受付嬢さんだ。
「どうしたんですか?」
「イルカちゃんに、討伐依頼を頼みたいの」
「ほうほう、ボクをご指名ですか。いいざんしょ、聞くよ?」
ラーメンをすする手を止めて、内容を聞くことにする。
何でも、野良のドラゴンが目撃されたのでこれを討伐してほしいとのこと。
ドラゴンといえば異世界モンスターの定番、誰もがよく知るあのドラゴンである。
「ドラゴンかー、そうするとボクが適任だよね」
「ええ、他に倒せる人が出かけてて、ちょうどイルカちゃんがこのタイミングできたから」
「なるほど、まさにボクが
ドラゴンといえば、当然ながらこの世界でも強敵である。
Bランクの冒険者がパーティを組んで倒すくらいの。
ランクってのは下はEで上がA、更にその上が特別枠のSというよくあるやつ。
ボク? ボクのランクはBだよ。
それだとソロじゃドラゴン倒せなくない? と思うかもしれない。
でもボクは転生者なので、転生者によくあるランク詐欺をしているから問題ない。
ちょうど、ドラゴンをソロで余裕を持って倒せるくらいの強さだ。
ドラゴンにも強さは色々あるけど、そのほとんどをソロで余裕ってくらいの。
だからこうやって、突然のドラゴン討伐を打診するのにボクは適任というわけ。
「解った、場所はどこ?」
「受けてくれるの? ありがとう。場所は――」
「ふんふん……ん、ちょーっと考えるね」
場所を教わったボクは、残り三割くらいだったとんこつラーメンを食べながら考える。
もうある程度食べて、満足気味だったこともありすぐにラーメンは完食した。
本当ならスープも飲み干す不健康な食べ方をしようかと思ってたけど、それはなしだな。
「……よし、今から行けば
「え、一日!? イルカちゃん、流石にそれは無茶――」
「まかせてまかせて、じゃあねー」
いいながら、食器とかを返却口に放り込んで、ボクはギルドを後にする。
受付嬢さんは心配そうにしていたけれど、ボクが行けるというなら行けるのだ。
何せちょうどいい感じの依頼だからね。
これくらい朝飯前ってところだよ。
ま、朝飯はたった今食べ終えたところなんだけど!
ぬくぬくな異世界でこんな風に生きたいな、というお話。
もう既にメス落ちしてるじゃん! TSの意味ある!? とか言ってはいけない。
TSは、してることに意味があるんです。
そういう感じの作品です。