新感覚ぬるま湯TSファンタジー 作:ヌック
ボクがこの世界に転生したのは今から十年以上も前こと。
通勤中に信号無視の車に轢かれるとかいう典型的な転生者の末路をたどったボクは、気がついたら森の中にいた。
転生前はスーツ姿だったのに、転生後はいかにも初期装備って感じの簡素なシャツとズボン姿で。
まさしくテンプレそのものの転生だ。
強いて違うところを上げるなら、転生先は十代の少女だったということ。
憑依とかそんな感じではない。
後々知ったけど、ボクは今の姿になるまでの『過去』はない。
気がついたらあの森に、ポンと出現していたらしい。
興味を持って調査した結果、そう結論づけるほかなかった。
TS転生の定番か、ボクの容姿はびっくりするほど可愛らしいものになっていて。
快活そうな、金髪ポニテ美少女がそこにいた。
ちょっと髪の毛は癖があって、外ハネが多いけれど。
それもまた愛嬌と言えるくらいの容姿である。
背丈は百五十あるかないか、胸はそれなりにでかいけど他は小さい。
ガチロリではないけど、小柄な少女といった感じ。
でまぁ、そのまま森で蛮族生活開始かと思ったらそうでもなく。
普通に通りすがりの冒険者に保護された。
その人達は幸運なことに善人で、ボクをギルドにつれてってくれた。
身元の解らない少女とか、平凡に生きるなら冒険者になるかどっかのお偉いさんのメイドになるかしかない。
当然転生者のボクは前者を選び、そこで転生者特有のチートが自分にも備わっているのを知った。
魔力が滅茶苦茶多いというシンプルなものだ。
他の人と比べて数倍、ううんそれじゃ足りないくらいの量。
おかげで、冒険者として特に困ることのない力を手に入れて。
優しい周囲の人のおかげで、すんなりと異世界生活をスタートすることができた。
そこからはトントン拍子にランクも上がり、前世の社畜生活が嘘みたいに快適な異世界ライフを送った。
まぁ、Bランクになった当たりでこれ以上上げるメリットがないなと思ってランクはBのままになってるんだけど。
それから十年、ボクは今日も毎日を適当に過ごしている。
元の世界に帰るつもりはない、ゲームや漫画への未練はあるけど、それ以外の日常生活は面倒ごとばかりで嫌になっていたし。
なによりこの世界は、こんなにも適当に生きていて困ることはないどころか、むしろうまく行ってしまうくらいボクにとってはイージーモードな世界なんだから。
ただ、十年経ってもボクの容姿が変化することはなかった。
年をとっていないのだ。
どころか、変化事態がしていないらしい。
髪を切ってもいつの間にか元に戻るし、最悪腕とか切り落とされても次の日には元通りになっている。
うーんなんて都合の良いボディ。
まぁ、この世界は万年単位で生きる長命種とかも普通にいる世界だし、ボクがちょっと年を取らなかったくらいで周りからどうこう言われることはない。
同年代の少年少女たちが、いつの間にか結婚して子供が生まれてたりすることに、言葉にできないダメージを受けることはあるけど。
後、女子でいることは数年のうちに慣れた。
一人称も、これが一番しっくりくるという理由で「ボク」になったし。
何より美少女とはちやほやされる生き物なのだ。
ちやほやされると気分がいい、なのでTSも悪くないかなと受け入れた。
後は、肉体が変化しないおかげで手入要らずというのもあるしね。
理想の女子ボディで生活できるなら、それはどう考えても羨ましいことだ。
なお、男とどうこうする予定は、今のところこれっぽっちもない。
女の子との恋愛は……そもそもボクみたいなダメ人間を好きになるとかよくないと思う。
というわけで、ボクは異世界をそれなりにゆるーく、適当に生きているのであった。
+
ボクは空を飛んでいた。
この世界には空を自由に飛べる魔術がある。
舞◯術みたいな感じで、びゅんびゅん飛び回れるのだ。
ただ、よっぽど魔術の制御がうまくないと魔力消費が激しすぎて長時間の移動には向かない。
基本的には、せいぜい数分の空中戦闘を可能にするためのもの。
だけどボクは違う、無駄に膨大な魔力量にものを言わせての長時間飛行が可能である。
これがまた便利なのだ。
オタクなら、オープンワールドな世界を自由に飛び回りたいという欲求は誰にでもあると思う。
ただ実際に飛び回れてしまうと、ゲームが大味になってしまうのでそうそう飛行は解禁されない要素だ。
あっても、手に入るのは終盤くらいだろうけど。
でも、現実では違う。
現実はそもそもマップとして広大すぎるし、何より飽きてしまってもその世界から逃げることはできない。
だったら、多少大味になってでも飛行はあったほうが圧倒的に便利だし。
何より、自分の身一つで空を飛ぶというのは本当に楽しいのだ。
「ひゃっほーう!」
なんて声に出しちゃうくらい。
これ、たまにむしょーにやりたくなってしまう。
山にむかってやっほーと叫びたくなる感覚に似ている。
周りに人がいないからいいものの、見られていたら恥ずかしい人だ。
でもまぁ、人のいないところで竜◯斬を詠唱したくなってしまうようなものなので、しょうがない。
空を飛ぶ魔術は制御が結構面倒で、下手すると木とかに突っ込んでしまったりする。
幸いなことに魔術が発動している間は事故防止の結界みたいなものが発動して、どこかにぶつかっても怪我とかはしないんだけど。
なお、この結界はぶつかった相手にも有効なので、事故は起きない。
うっ……前世の死亡事故のトラウマが。
とかいいつつ、ボクは数時間もしないうちに目的の場所に到達した。
徒歩で行ったら数日はかかるような道程も、飛行魔術にかかればこの通り。
辺鄙な場所に出現した魔物を急いで被害が出る前に討伐するという意味でも、ボクはこういうクエストに適任なんだね。
「んー、アレか」
このあたりにドラゴンが出現したということで、ボクは早速それを探した。
ドラゴンはでかいだろうからすぐに見つかるだろうとふんで。
結果は正解、ボクが今いる場所は森の中なのだけど、開けた場所で昼寝をしていた。
というか寝床にするために一帯を薙ぎ払って、開けた場所を作ったのか。
「ある意味妥当というか、迂闊というか」
ボクは今、空にいる。
あいつは今、ぐーすか寝ている。
隙だらけのドラゴンを、ボクが見下ろしている構図なわけだ。
まぁ、向こうも飛んでいなければこうなるだろうというのは想像していたけれど。
というか、向こうが休んでいれば空から奇襲が仕掛けられるなというのを計算に入れて、ここまでやってきたわけだけど。
あのとんこつラーメンを食べる間、ボクの脳内では非常に高度(当社比)な計算が行われていたわけだ。
流石ボク、とても頭が良い。
なんてIQが低いことを考えつつ。
この状況に持ち込めたら、やることは一つしかない。
「んじゃま、行きますか」
そう言って、ボクは空中で静止する。、
ちょうどいい感じのポイントに到達したからだ。
ここからならば、ドラゴンに狙いを定めることができる。
何をするのか? どうやって奇襲を仕掛けるのか?
答えは簡単。
ボクは自分に防御魔術をかけた。
どんなダメージをも弾くことのできる、魔力を大量に使った贅沢な防御魔術だ。
そして、
「急降下……キーック!」
叫びとともに、ボクは
途端、重力によって地面へと向かっていくボク。
風魔術を使って勢いをつけつつ身体制御、狙いは開けた場所でぐーすかしているドラゴン。
飛行魔術を使っていると、事故防止の結界によって落下してもダメージが出ない。
だからボクはこうして飛行魔術を解除して――ドラゴンに空から奇襲をかけるのである。
ずぉぉぉおおおん、という鈍い音が大地に響き渡った。
ボクの急降下キックはドラゴンに直撃。
奴さん、反撃する暇もなくその一撃で即死してしまった。
どうやら、想定より弱い個体だったらしい。
まぁ、楽ができて良かったということにしよう。
安易なチート、安易な美少女、安易な飛行能力。
だいたいそういう構成要素でできてます。