新感覚ぬるま湯TSファンタジー 作:ヌック
この世界の魔物は、倒しても消えない。
というか、割とリアルよりファンタジーな世界なので、ステータスとかドロップアイテムはない。
強いて言うならダンジョンくらいじゃないか? ゲームっぽいの。
定期的に姿形が変わり、モンスターとお宝を吐き出す“生物”というのがこの世界のダンジョンだけど。
表面的に見れば、ボクのよく知る異世界モノにありがちなダンジョンと何ら変わらない。
で、結果何が起こるかと言えば、魔物は解体しないと行けないのだ。
これがまた面倒くさい。
服は汚れるし、めちゃくちゃ疲れるし。
とてもじゃないがボクみたいな面倒くさがりがやるには辛い作業だ。
解決策は色々ある。
まず、解体事態はギルドでもやってくれる。
ついでに買い取りもしてくれるから、解体にかかる手数料を気にしなければこれが一番楽だ。
冒険者には適当な人間も多いので、大抵の人間はギルドに解体は丸投げだろう。
もしくは、そもそも解体が必要なクエストは受けない。
モンスターはいろいろな種類がいるから、解体が主目的になるモンスターを狩らなければいいのだ。
例えばゴブリンとかオークとかの人型魔物。
まぁ、後者は解体すると豚肉みたいな味の肉が手に入るから良し悪しだけど。
とにかく、対策は投げるか逃げる。
どっちにしても、受けれる依頼が制限されたり、そもそもギルドに持ち込めない場合もある。
今回みたいなドラゴン討伐の場合だ。
ドラゴンはでかい、これを持って街まで飛行すると大変なことになる。
最悪魔物と間違えてボクが攻撃を受けるから、絶対にやってはいけない。
だからこういうドラゴンの場合は解体の持ち込みは諦めるしかないのだけど。
ドラゴンの素材って、諦めには惜しいくらい高い値段で売れるからね。
流石にそれはもったいない。
ではどうするのか。
ボクは、そこに第三の選択肢を提示する。
解体してしまえば良いのだ。
+
ボクは、空を飛んでドラゴンを運んでいた。
さっきと話が違うじゃないか、と思うかも知れないがボクの目的地は街ではない。
山小屋だ。
山小屋は冒険者が、旅先で休憩するための小屋である。
小屋には非常食とか寝巻きとかが置いてあって、一夜を凌ぐことができる。
そこを拠点に、狩りをすることも可能だ。
それ、泥棒に入られるんじゃとか思うかも知れないが、そもそもこんな人気のないところに泥棒は出ない。
それに複数の冒険者が使う拠点だから、盗みに入ると冒険者という存在そのものを敵に回すようなものだ。
冒険者も、小屋で迷惑行為をしてバレたら終わりなので、基本そんなことはしない。
まぁ、概ね善意で回っている施設だけど、この世界では案外普通に運用できていた。
いい人が多いのだ、気風として。
ともあれ。
そういう山小屋には、モンスターの解体を助ける道具も置いてあったりする。
じゃあやっぱり、自分で解体するんじゃないかと思うかも知れないが、ボクの目的は物理的な道具ではなかった。
「あったー、外の広さも申し分ない」
空からこの辺りに小屋の位置を思い出して、探索。
見つけた山小屋へと降りていく。
山小屋の入口はかなり開けており、ドラゴンの死体を置くには十分な広さがあった。
実際、山小屋ではドラゴンみたいな大型魔物の解体も想定されて場所を作っているから、広さがあるのは当然なんだけど。
そうしてボクは、重かったドラゴンを地面に置いて、ようやく人心地をついた。
ドラゴンを討伐してからまた一時間飛びっぱなしだったからね。
魔術で身体を強化しているから、ドラゴンが重いなんてことはないんだけど。
それでも精神的にはやはり疲れる。
「んじゃ、早速解体しようかなー」
そう言って、ボクは地面に手を当てる。
そんな時だった。
「な、なんじゃこりゃ!?」
山小屋から、人が出てきたのは。
ありゃりゃ、先客がいたのか。
+
男は、山小屋を拠点に狩りをして生計を立てている冒険者だった。
狩人としての実力は結構なもので、そろそろBランク昇格も見えている一人前の冒険者である。
が、そんな男をして。
山小屋にドラゴンが持ち込まれるのは初めての経験だった。
今日の狩りを少し早めに終えて、小屋の中で休憩していた男は突然外で音がしたことに驚いた。
慌てて飛び出すと、そこには金髪の美少女とドラゴンの死骸があった。
あまりにもミスマッチな光景だが、金髪の美少女は装備を見た感じかなりの高ランク冒険者である。
ドラゴンを単独で撃破して、ここまで運び込んだ。
その事自体に違和感はない。
というか、数日前から少し離れた場所でドラゴンが暴れているという噂は聞いていた。
こっちに飛んでくることはない距離だからとスルーしていたが、討伐されたならこの場所に持ち込むことは自然な流れだ。
街まで運んでいたら、腐ってだめになってしまうだろうからな。
問題は、方法だ。
持ち込むにしたってこんなにいきなり、突然現れることはそうそうない。
たいていは、山道をえっちらおっちら歩いて、ようやくここまでたどり着くのである。
「あ、驚かせてごめーん、これからドラゴンの解体するからすこーし離れててね」
「いやそれはいいんだが……どうやってここまで運んだんだよ!?」
「え? 空を飛んで運んできたんだけど!?」
「飛んで!?」
思わず目を見開く。
一番ありえないと思う方法が少女の口から飛び出した。
ドラゴンを単独で討伐できるなら、ドラゴンを抱えて飛行魔術というのも無理ではないかもしれない。
だが、ここまで運んでくるのは無茶だろう。
ドラゴンの目撃された場所からここまで、飛行魔術で
どう考えても魔力が足りない。
たとえ足りても、こんなケロッとしているはずがない。
「そ、倒した場所からびゅーっととんで、一時間でね?」
「は? 一時間?」
「そうそう、ボクの飛行魔術は早いから」
……どころか、彼女はその倍の速度を出していたという。
その消費魔力量は、単純に二倍になるわけではない。
むしろ、更に数倍は消費される。
「なんかねー、魔力量が他人と比べてバカみたいに多いんだって。そのおかげで今日なんか、西の街から一日ですっ飛んできてドラゴン退治してるんだよ?」
「ばっ……」
バカじゃねぇの!? と思わず言いかけて、こらえる。
バカなのは彼女の魔力量だけだ。
その魔力量があれば、一日で西の町――ここから歩いて普通なら一ヶ月くらいかかるような場所から飛んできてもおかしくはない。
まあ彼女くらいの実力者なら空を飛ばなくたって数日もあれば行き来できるだろうが。
とにかく彼女にとっては、彼女のしていることはごくごく当たり前のことなのだ。
男は、なんとかそう納得した。
まぁそれはそれとして、眼の前の少女はアホ面だが。
「……山小屋に来てドラゴンの解体をするってことは、
「そうそう、やっぱアレは山小屋にある解体魔法陣を使わないとねぇ」
そう言いながら、地面に手を触れている少女の周囲が光を帯びる。
男は慌ててその光から離れて、山小屋の入口の方まで戻った。
ドラゴンがすごすぎて、思わず近くで観察してしまっていたのだ。
解体魔術。
それを行使すると、モンスターはちょうどいい感じに解体された後の姿になる。
ドラゴンなら肉とか、皮とか、牙とか。
そういう素材に使えるものだけがその場に残されるのだ。
とても便利な魔術だが、欠点がある。
「初めてみたぞ、解体魔術が使える冒険者」
「難易度高いからねー、ボクも解体魔法陣がないと無理」
制御がとても難しいのだ。
冒険者でそれが使えるのは、高ランクの魔術師くらいだろう。
だが、需要はある。
それにサポート用の解体魔法陣は、用意しておけばメンテがいらないので用意得。
なので、こういう山小屋には必ず解体魔法陣があるのだ。
少女はそれを目当てにここまで飛んできたのだろう。
「いやはや、随分大雑把な嬢ちゃんだが、まさか解体魔術が使える繊細さがあるとはな」
「え? いやいや、ボクはそんな繊細なことしないよ、見た目通り雑な人間さ」
「? それじゃあどうやって解体魔術を……」
簡単だよ、と言いながら少女は魔術を起動させる。
「解体魔術は、魔法陣さえあれば基本的なことは全部魔法陣がしてくれるんだ。術者はそれを制御してるだけ。でも、ボクはその制御ができるわけじゃない」
「じゃ、じゃあどうするってんだ?」
――少し、男は嫌な予感がした。
ここまでの少女との会話で、彼女が非常に雑な人間であることはすぐわかる。
そんな少女が、果たしてどうやって繊細な魔術を使うのか?
答えは――一つしかないだろう。
「魔力量でゴリ押しする。多少制御が雑でも、その分魔力を大量に打ち込めば魔法陣がなんとかごまかしてくれるんだよ」
雑――――
端から見て気が狂いそうになるほど膨大な魔力によって強引に解体されていくドラゴンを見て、解体に関してはそれなりに自信のある男は、思わず崩れ落ちるのだった。
リアルよりですが魔術が何でもあり傾向です。
マジックアイテムとかすごい。
すごくすごい。