新感覚ぬるま湯TSファンタジー   作:ヌック

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帰るまでが遠足です。

 一部の知り合いがみたら、思わず卒倒しそうなほど雑な魔術でボクはドラゴンの解体を終えた。

 そんな雑な方法で魔法陣がダメージ負ったりしないの? と思うかもしれない。

 だが、実際は寧ろ逆。

 大量の魔力を流し込まれて、むしろ魔法陣は元気になるのだ。

 まさに、誰も不幸にならない最高の解体方法なのだが、これを見た人間はたいてい崩れ落ちる。

 今まさに、山小屋にいた見知らぬ先客のおっちゃんみたいに。

 

 彼は、見た目からして明らかに狩人を生業としている冒険者だろう。

 冒険者には色々と種類がいる。

 魔物討伐をメインにしているもの、ダンジョン探索をメインにしているもの。

 隊商の護衛をメインにしているもの、本職は研究者とか武術家で、実践のついでに冒険者をしているもの。

 などなど。

 

 狩人は見てのとおり、山小屋を拠点にしてモンスターを狩る冒険者。

 この方法の利点は、山小屋に住むことで衣食住の代金が浮くことだろう。

 山小屋の食料などは定期的にギルドが依頼を出して補充している。

 山小屋を拠点にしている間は、自由にそれを使うことができるのだ。

 その分ギルドは損をしているように思えるが、まず狩りで得られた素材はギルドへ優先して売却されることになっているし、冒険者が山小屋を拠点にしている間は保全を考えず、補充だけをしていればよい。

 要するに、双方へメリットがあるから、このやり方は成立しているのである。

 

 まぁ、話を戻すと彼にとってボクのやり方は噴飯ものというわけだね。

 幸いなことに、人がいいのか崩れ落ちるだけで、別にボクのやり方に文句を言ったりしないけど。

 あったけぇなぁ。

 

 さて、それはそれとして、解体は終わった。

 ボクは素材になったドラゴンを荷物袋に詰め込んでいく。

 腰に引っ付けた、小さいポーチくらいのサイズの袋に、勢いよく素材を突っ込んでいくのだ。

 この袋、中は空間魔術で拡大されている。

 いわゆるアイテムボックスの廉価版みたいな性能。

 アイテムボックスでもいいんだけど、高いんだよね。

 何よりレアすぎて、持っていると色々目をつけられたりする。

 その点、廉価版の荷物袋なら誰が持っていてもおかしくない。

 まぁ、その中身がどれくらい入るかはモノによるし、ボクのこれはアイテムボックス並に便利な機能が色々付いてるんだけどね。

 

「はー、高ランク冒険者の収納はスマートだねぇ」

「ま、強くなった人間の特権といいますか。これくらいはね」

 

 うらやましそーにこっちを見るおっちゃんに、ちょっとだけ自慢げな視線を返しつつ。

 素材を詰め込むと、ボクは大きく伸びをする。

 とりあえず、ドラゴン討伐は一通りこれで終わりだ。

 伸びをしてから、これからどうするかなー、と考える。

 本来なら山小屋で一泊する予定だったのだけど、別の選択肢が生まれたのだ。

 

「ねーおっちゃん」

「おっちゃんじゃないが?」

「おじさん」

「そうじゃねぇ!」

「マナポもってない?」

 

 マナポ、つまりマナポーションだ。

 魔力を回復する効果がある。

 

「なんだ、流石に魔力切れか」

「んだね、ドラゴンもう一匹倒すくらいならできるけど、飛んで街まで戻るのは無理」

「前者の時点でおかしいんだが?」

 

 なので、今日は一夜を山小屋で過ごす予定だったのだ。

 一日も寝れば魔力はだいたい回復する。

 そうしたら、また飛んで街まで戻ればいい。

 ただそれは、山小屋に誰もいなかった場合の話。

 いるのなら、マナポがあるか聞いてみるのは悪い選択肢じゃない。

 

「いやそれは……そもそもそんだけ大雑把に魔力使うなら、マナポの一つくらい手持ちに用意しとけよ」

「普通なら、ここまで盛大に使うこともないよ。それに普段なら用意してるんだけどね」

 

 今日はたまたま切らしてた。

 でも、山小屋で休む分の余裕はあるという計算だったのだ。

 伊達に十年チート魔力と付き合ってないので、このあたりの計算を間違えることはない。

 それに一日くらいなら山小屋で休むのも冒険者の粋って奴だと思う。

 ま、マナポがあれば一日で帰れるし、それでもいいんだけどね。

 

「……まぁ、一個あまりがあるけどよ」

「ほんと? じゃあボクのスピードポーションと交換しない?」

「いや、マナポ一個1000Gだし、金で買えよ……スピードポーションの方が500G高いじゃねぇか」

「手持ちがねー。家に戻ればあるんだけど」

 

 スピードポーションは、飲むと一時的に速度の上がるバフ効果ポーションだ。

 おじさんの言う通り、マナポより高い。

 それに、おじさんの場合マナポよりスピポの方がありがたいだろう。

 あきらかに前衛型の狩人だし、魔術なんてそうそう使わないはずだ。

 

「この500Gは、ボクの時短のための500Gだよ。マナポがあれば今日中に家に帰れるからさ」

「まぁ俺としても、マナポよりはスピポの方がありがたいけどよぉ……」

「そういうことならいいよね? ほらほら」

 

 そう言って、荷物袋からスピポを取り出して見せびらかす。

 こないだダンジョンの宝箱から見つけてきたばかりの新品だ。

 

「しょうがねぇな……今度からはマナポ切らすんじゃないぞ」

「はーい」

 

 と言って、マナポをスピポと交換する。

 飲むのにためらう理由はないので、そのまま蓋を開けてマナポを飲み干した。

 うーん、いつも通りのりんご味。

 

「ためらわずに飲むな、警戒とかしないのか?」

「おじさんがボクに毒盛って勝てるなら警戒するけど?」

「無茶言うな」

 

 マナポがマナポであることは、中身を見れば一目でわかる。

 中に魔力が充填されてるからね。

 そのうえで、できることは毒を盛ることだけ。

 だけど、マナポを呑んだ時点でボクは魔力を回復する、問題なく魔力を使えるボクを倒せる人間は果たしてこの世界にどれだけいるだろうか。

 ちなみにマナポの回復は割合回復なので、魔力量がどれだけ多くてもある程度回復するぞ。

 

「はぁ、まぁいいもん見せてもらったし、マナポはその礼みたいなもんだ。素直に受け取っとけ」

「ありがとおっちゃん。でも、ドラゴンを解体しただけだけどそんなに興味深かった?」

「まぁな、そもそもドラゴンの死体を直接見るのが初めてだ。ドラゴンを捌いたことはあるんだがな」

「え、ドラゴン料理作ったことあるの!?」

 

 思わず、おっちゃんの方を見る。

 

「ああ、あるぞ。これでもそれなりに狩人としてやってるからな」

「マジかー……よし、方針変更。昼飯……じゃないな、もうこの時間だと夕飯か」

「若いんだから昼は食べろよな」

 

 多分、前世男の分含めると実年齢はおっちゃんの一回り上だと思うんだけど。

 まぁいいや、正直年齢と大人としての成熟はイコールじゃない。

 ボクの場合、どう考えても大人になったとか口を裂けても言えない人生を送ってるし。

 

「とにかくおっちゃん! ドラゴン料理作ってよ! 必要な分の肉は提供するし、一緒に食べてもいいからさ!」

「……マジか」

 

 お、興味を示した。

 狩人として、ドラゴンの肉を調理することに興味があるんだろう。

 ボクとしても新鮮なドラゴン肉の料理とか食べたことない。

 

「ただし、ステーキねステーキ! ステーキ以外のメニューは認めない!」

「上等だ。最高のドラゴンステーキを焼き上げてやる。調味料はあるか?」

「ある!」

「……調味料よりマナポと金の手持ちを持てよ」

 

 はしごを外すな!

 とかやり取りしつつ、ボクはドラゴンステーキを食べてから街に帰ることにするのだった。

 

 なお、タレを一から調合するとおっちゃんが言い出して、食事にありつけたのは夜になってからだった。

 結果、夜中に飛行魔術で街まで帰ることになるんだけど、夜の飛行魔術はおっかないんだよぉ!

 まぁ、その分めちゃくちゃステーキが美味しかったからいいんだけどね?




 多分美味しいドラゴンステーキです。
 都合がいい世界なので美味しいのは間違いないです。
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