狂った道化になりたくて!   作:道化A

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見切り発車だけど、出来るだけ頑張ります。

※私なりの狂った道化のイメージで書いています。


『狂った道化』と『陰の実力者』

 きっかけが何だったか、いつからだったかも忘れてしまったけれど、私は『狂った道化』に憧れていた。

 

 主人公でもなく、ラスボスでもなく、敵か味方かも分からず、物語をかき回すはた迷惑な存在でありながら、見るものを引き付ける魅力を持ったキャラ。

 私はそんな『狂った道化』に憧れ、そうなるための努力をしてきた。

 

 人々を驚かせる奇術を習得するために、マジシャンに弟子入りしたり、科学を学び自分なりの奇術を考えりした。

 サーカスの曲芸も習得し、身体を思いのままに操れるように訓練した。

 憧れた存在のように物語をかき回すようなことは出来なかったけれど、身近な人を驚かせたり困らせたりする程度は出来るようになった。

 将来は世界中を回りたくさんの人々を驚かせる人になるだろうと言われた。

 

 憧れた存在に近づいているが、どこか違うという違和感を抱えながらも道化としての技術を磨き続けた。

 

 もっとはた迷惑な存在として暴れまわりたい、時には言い知れぬ狂気を纏い人々を恐怖させたい。

 

 そんな思いを押し殺し技術を磨いていたある日、私は呆気なく事故に巻き込まれて人生の幕を閉じた……

 

 

 

 ……そして、私は異世界に転生した。

 

 この転生がきっかけだったのだろう。

 

 私の内に押し殺していた思いが堰を切ったように溢れ出したのは。

 

 どんな善人も悪人も関係なく、人は呆気なく死ぬのだ。

 

 なら、やりたいことを全力でやりきろう。

 

 今度こそ後悔しないように、憧れを貫く。

 

 幸運なことに転生したことで私は魔力を手に入れた。

 アニメや漫画のように前世では荒唐無稽の現象も起こせるはずだ。

 前世で磨いた技術と魔力を合わせれば、私は憧れに届くはずだ。

 

 そのためには、前世の感覚を取り戻すのと並行して魔力の研究をしないとね。

 

 

 

 転生して5年くらいたった。

 この世界での私の名前はマギア・クラウン。

 クラウン伯爵家の次男として生まれた。

 魔剣士と呼ばれる魔力で身体を強化して戦う騎士を代々排出する家系らしい。

 兄とは歳が離れていて、兄に何かない限りは家を継ぐのは兄になるだろう。

 おかげで私は結構自由に過ごせている。

 

 この世界には魔力はあっても魔法のようなものは無いようで、基本的には身体や武器を強化することに使われるらしい。

 魔力は自分の身体から離れると制御が効かずに霧散する性質があるため、遠距離攻撃として使うのは現実的でないようだ。

 ただ、アーティファクトのようにただの強化以外に使うことも出来はするようだ。

 現に治癒は出来ることを確認済みだ。

 それに魔力を使って肉体を作り変えることも出来た。

 魔力に適した肉体に、より質の高い魔力を練れるように、睡眠も数分取れば十分なように作り変えた。

 肉体を作り変える感覚は掴んだから、これからも必要に応じて肉体を作り変えていける。

 

 奇術に使う道具としてスライゼリーに目を付けた。

 スライムゼリーは魔力伝導率が極めて高く、魔力制御次第で自在に形を変えられる。

 現状は、扱い易いスライムゼリーの調合に成功しただけだけど、更に研究を進めて質感、色を魔力で自在に変えられるようになれば奇術の幅が広がる。

 

 そしてアーティファクトに関する情報も欲しい。

 魔法のように火や水を出したり出来るアーティファクトがあれば、奇術の幅が更に広がるから是非とも欲しい。

 

 転生してすでに5年も経っている。

 すでに前世の感覚は完全に取り戻し、魔力と掛け合わせる訓練も始めているが、まだまだ理想は遠い。

 15歳になると3年間王都の学校に通うことになるから、それまでに最低でも数回は狂った道化として活動したい。

 

 

 

 転生して10年、狂った道化として活動する最低限の準備が整った。

 完璧とは言えなくとも、十分に狂った道化になれたと自負している。

 他の貴族の領地でジョーカーという名でショー(強盗)の予告状を街中にばら撒き、有力な商会や貴族からショーの代金を勝手に貰っている。

 クラウン伯爵領にいることがバレないように、近いところから遠いところまで出現場所ばらつかせるなどの工夫をして資金を集めている。

 ジョーカーの噂は、被害のないクラウン伯爵領にまで届くほど有名になっていた。

 そして今日もとある男爵領でショーを行う予定だ。

 

 さっそく、私はスライムで身体を包み中肉中背で中世的な顔立ち、男にも女にも見える姿の大人に変装する。

 もともと男なのに女性よりの中世的な顔立ちだが、性別を悟らせないという意味では悪くない。

 まあ、私の変装技術の前では年齢も性別も意味はないのだけどね。

 

 私は夜に平民の男性を装い、男爵領の標的となる商会の近くに行くと、複数人の魔剣士が厳重に警備していた。

 そして盛大に予告したこともあってか、興味本位で来ている平民もそこそこいる。

 私は平民に紛れながら、魔剣士達に向かって自作の閃光弾を投げ込む。

 閃光弾で目を眩ませている間に、顔の上半分をスライムで作った黒い仮面で覆い、服は燕尾服を私なりに改造した奇術師のように変え、外套を身に着ける。

 黒を基調とした格好で魔剣士達の前に現れる。

 

「!?ジョーカーが現れた!」

 

 目が見えるようになり、最初に私を見つけた魔剣士が大声で周囲に伝える。

 入口付近にいた魔剣士達が剣を抜き、私を取り囲む。

 

「動くな、大人しく捕まれば命の保証はする」

 

 私の目の前にいる魔剣士が警告してくるが、私は無視して入り口に向かってゆっくりと歩き始める。

 警告を無視した私に対して、魔剣士の一人が私に剣の腹で殴り掛かって来る。

 しかし、剣は私の身体をすり抜け、剣を振った魔剣士は一切の手ごたえが無かったことに驚き硬直する。

 他の魔剣士も目の前で起きたことが理解出来ずに硬直してしまう。

 彼らが硬直している間に、彼らの横を通り商会の入り口の目の前に来た頃に漸く、正気を取り戻した彼らが私を捕まえるために走って向かってくる。

 

 彼らが走ってきている間に、私は入り口の扉を開けようとするが、流石に簡単に開かないようにしているようだ。

 私が扉を開けるのに手こずっていると思ったのか後ろの魔剣士達から安堵したような雰囲気が伝わってきた。

 なので、私は振り向いて彼らとショーを見に来た観衆に見せつけるように両手を広げ微笑み、扉に倒れ掛かるようにして扉をすり抜けて中に入る。

 私が扉をすり抜ける瞬間を見た観衆は、静寂の後歓声を上げた。

 

 外で警備していた彼らは扉を開けるのに手こずっているようだ。

 商会何にも警備の魔剣士がいるようだが、外より多くない。

 外の彼らと同じように、私を取り囲むが扉をすり抜けて入ってきた私を警戒して近づいて来ない。

 

 お金を貰うのに彼らが居ては邪魔になるし、拘束しようか。

 

 私は彼らに両手を見せつけ、何も持っていないことをアピールした後に彼らの前で両手を合わせる。

 そして彼らの見てる目の前で素早く手を離して肩幅程度離れたところで縄を握りしめる。

 何もないところからいきなり現れた縄に彼らが目を見開いている一瞬で、彼らの目の前から消え一番近くにいた魔剣士の剣を取り上げ両手を背中側で拘束する。

 何が起きているのか理解できず、混乱している彼らを順番に拘束していく。

 抵抗する猶予も与えない早業で全員を拘束し、縄で雁字搦めにして床に転がして金庫を目指す。

 

 金庫の前にも警備が居たので、顔の前で指パッチンに合わせて魔力を弾けさせて顔面をぶん殴られたような衝撃を与えて意識を刈り取る。

 意識を刈り取った後、縄で拘束し傷を治療して金庫を開ける。

 金庫内の金貨を三割程貰って来た道を帰ると、入り口が開けられて外にいた警備が拘束されていた警備を解放していた。

 私は彼らに囲まれながら外に出てショーの終わりの一礼をして煙玉を足元に叩き付け、煙と共に彼らの前から姿を消す。

 煙を囲んでいた警備や観衆には、煙の中から人が出ていないはずなのに、姿を消した私に大騒ぎだ。

 

 そんな彼らを少し眺めた後、街から離れ森の中を移動していると、いきなり首をはねられた。

 手を伸ばして自分の首を掴みくっつけながら、首をはねた下手人に視線を向ける。

 

「君、面白いね」

 

 黒いスライムを纏い、スライムで出来た剣を持った同い年くらいの少年が心底楽しそうに声を掛けて来る。

 商会の警備をしていた魔剣士とは比べ物にならないくらい強い、魔力やスライムの扱いに関しては私の方が上のようだけど、単純な強さなら確実に彼が上だろうね。

 

「商会での君の動きを見て思ったけど、君本当に人間?最初は、僕と同じで身体をスライムで覆っているのかと思ったけど、それだと斬られた手ごたえがなかったり、扉をすり抜けたことに説明がつかないんだよね。斬られた時にスライムの中で剣を避けてとも考えたけど、人の身体で扉の隙間を通るのは無理だろうし」

 

 私が喋らないのをいいことに、自分の考察を語り出した。

 彼がどんな解答を出すのか気になったので、彼の解答をゆっくりと待つ。

 

「人で無理ならスライムの上位種のような魔物かとも思ったけど、それにしてはどうにも人間臭い。そこで思いついたのが、スライムと人体を完全に融合させることだ。君の身体は僕でもスライムと人体の区別がつかない程にスライムと一体化している。君はスライムと融合してスライムの性質を得た人間、違うかい?」

 

 答え合わせでもするかのように私に問いかけて来る彼に微笑み。

 スライムの中で実体に戻り、スライムをジョーカーとしての衣装に変えて纏う。

 

「悪くない考察だけど、不正解」

「あれ?」

「正解は、霧化した身体をスライムに溶け込ませる」

「なるほど、霧化か」

 

 彼は納得したような顔で頷いている。

 

「身体をスライム化することも考えはしたんだけどね。パフォーマンスのことを考えると、霧化の方が都合が良かったんだ。スライムとしての性質が欲しいなら、霧化してスライムと混ざれば十分だからね」

「確かに、戦闘的にはあまり役に立ちそうにないけど、ああいうパフォーマンスには悪くないね」

「だろう。そして私の作ったこのスライムは色、質感、触感を魔力で好きに変えられる。霧化で人の形にとらわれない私は、非力でか弱い幼子から筋骨隆々の大人にも一切の区別なく変装できる」

「それはすごいね」

「ただ、見た目をどんなに誤魔化せても所詮はスライムでね。スライムを操作して魔力回路を組むことで、疑似的なアーティファクトを作成して視覚を確保することは出来るようになったのだけどね。疑似的な声帯がまだ完成していないから、変装している間は声が全く出せないんだ」

「それで終始無言だったのか」

「まあ、不気味さという面では悪くないから現状はいいのだけどね」

「なるほどね」

 

 ちゃんと私の言いたいことを理解しているのか分からないが、まあいいか。

 

「で、いきなり私の首をはねた君は何者なのかな?」

「僕、僕はすた……」

 

 何か言おうとしてやめた彼は一度咳ばらいをして格好つけたようなポーズを取る。

 

「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者」

 

 そして先ほどまでと違い格好つけながら名乗った。

 彼は前世で言うところの厨二病なのだろうか?

 まあ、私も人のことは言えないだろうが、こうも急に態度が切り替わると流石に戸惑うね。

 

「それで、君は私を狩に来たのかい?」

「最初はそのつもりだったのだがな。ジョーカー、お前の力が欲しくなった」

「私は戦いには興味ないのだけどね」

「誰彼構わず殺せとは言わない、歴史の陰に潜み暗躍する組織の壊滅に力を貸して欲しいのだ」

「ふむ」

 

 要するに悪の組織を潰すための秘密結社に入ってくれってことだよね。

 あんまり興味わかないなぁ。

 『狂った道化』ジョーカーとしての活動に支障をきたしそうだし。

 

「あまり興味が湧かないな。私は狂った道化としてはた迷惑に世界中をかき回したいだけだからね」

「ほう、狂った道化か」

「おかしいかな?」

「いいや。ただ、狂った道化というのであれば表では不殺の愉快犯として活動し、裏では陰で暗躍する者達を虐殺して回る殺人鬼というのも悪くないのではないか?」

「ほう」

 

 なるほど、確かに悪くない。

 現状は彼の言う通り不殺の愉快犯でしかない。

 今でも十分にはた迷惑な狂った道化だろうが、それだけだと狂気性が足りない気もする。

 規模は大きくてもやっていることは盗賊と大差がないし、このままだと誰も殺さない面白い盗賊程度で終わりかねない。

 そろそろ金銭目的以外の単純に迷惑なだけの行為もしようと思っていたが、それでも変な道化の盗賊くらいにしか思われないのでは……

 なら、この提案は悪くないかもしれない。

 表では不殺の愉快犯、裏では犯罪者専門の殺人鬼。

 うん、悪くない実に狂った道化らしい。

 

「君の言う狂った道化の在り方、実に悪くない、むしろとても良いね。素晴らしい提案をしてくれたお礼に、君のお誘いを受けさせてもらうよ」

「では、これからよろしく頼む、ジョーカー」

「こちらこそよろしく、シャドウ」

 

 シャドウと握手をしてお互いに微笑む。

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