狂った道化になりたくて!   作:道化A

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今回はジョーカー以外の視点が主です。


道化の在り方

シドside

 

 魔力のある世界に転生して10年くらいたった。

 陰の実力者になるために、研究と修行をして日々を過ごしていた。

 そんなある日、カゲノー男爵領の街にジョーカーと名乗る怪人からの予告状がばら撒かれたと、大騒ぎになっていた。

 ジョーカーについて話を聞いてみると、最近になってミドガル王国に現れた道化を自称する変わった盗賊らしい。

 

 噂では、貴族か大手の商会を相手に正面から盗みに入り、警備の魔剣士に傷一つ付けずに盗んで見せるらしい。

 さらに、警備を嘲笑うように卓越した技術で捌き、魔法のような手段であらゆるセキュリティを突破する。

 全てを嘲笑う道化にして不死身の怪人、ジョーカー。

 

 噂がどこまで本当か分からないけど、すごくいいね。

 僕とは違うタイプの陰の実力者って感じだ。

 いつか盗みに入ったところで主人公と遭遇し、主人公を軽くあしらい実力差を見せつけて宿敵になり、主人公が強敵を相手に苦戦しているところに現れ、助力や強敵の弱点を告げて姿を消す。

 うん、そういうのも悪くないね。

 丁度いいことに近くに来るみたいだし、見に行ってみようかな。

 同じ陰の実力者を歩む同志かつ先輩だ、見に行かないと失礼だよね。

 

 

 

 実際にジョーカーを見てみて僕は驚いた。

 明らかに今の僕より卓越した魔力の使い手だ。

 それに僕でも気づかない程、自然にスライムを扱っている。

 自身の身体を霧化させスライムと一体化することで、不死身の怪人というパフォーマンスを成立させている。

 さらに、特殊なスライムと一体化することで、高度な変装技術まで確立している。

 それらの技術を可能としているのは、超越的な魔力制御技術だろうね。

 現状、陰の実力者として僕が彼に勝っているのは戦闘技術だけだろうね。

 

 上手く勧誘して僕の仲間になってくれた。

 

 後から聞いた話だと、僕と同い年で転生者らしい。

 前世で狂った道化に憧れて努力していたけど、夢半ばで死んだから今度こそ夢を叶えるために頑張ってるそうだ。

 僕も陰の実力者という夢を語り、一緒に夢を叶えようと誓い合った。

 特に彼は演技ではなく、普段から狂った道化になりきるように振舞っている。

 彼を見習って僕も演技ではなく、陰の実力者として振舞わないとね。

 

 

 

アルファside

 

 シャドウに助けられて、シャドウガーデンとして活動を始めてから3年程たった。

 教団や悪魔憑きの情報を集め、6人ほど悪魔憑きの子を助けることが出来た。

 ほとんどの悪魔憑きの治療はシャドウがしてくれたが、イータだけはジョーカーが治療して連れてきた。

 シャドウは私達に剣技や知識を教えてくれた。

 彼は、私達に色んなものを与えてくれた。

 ジョーカーもスライムの操作や魔力制御の指導、科学知識を教えてくれた。

 ただ、彼はシャドウより離れた場所に住んでいることもあって、来る頻度はシャドウより低かったけれど、忙しいなか定期的にしっかりと来てくれた。

 ジョーカーはシャドウガーデンとしてではなく、一人で商会や貴族からお金を盗んでいるようで、そのお金を私達の服や食事、シャドウガーデンの活動資金に回している。

 ジョーカーが盗賊のようなことをしているのを止めなくていいのかシャドウに聞いたけど……

 

『ジョーカーは、正義や悪などに囚われず、我が道を往く者だ。ジョーカーは、己の信念に従って行動している、止める必要はない』

 

 ジョーカーなりの考えがあって、盗賊のようなことをしているってことなのでしょうね。

 実際にジョーカーは盗みに入る際は誰も殺さず、商会や貴族が潰れるほどの資金は盗んでいない。

 罪を犯してでも教団を狩るという彼なりの覚悟があるのかもしれない。

 

 イータを除いて私を含む七陰は、ジョーカーの実力を心のどこかで疑っていた。

 シャドウと違い、ジョーカーは基本的なスライム操作や魔力制御くらいしか教えてくれなかったし、一緒に戦闘することもほとんどなかったから、どのくらいの実力があるのか知らなかったのが大きい。

 実際に実力を見るまでは、自分の方がシャドウの相棒に相応しいと心の中で思っていた。

 初めて彼の実力を目の当たりにしたのは、ジョーカーがNo.2と知ったデルタが挑んだ時が初めてだった。

 シャドウとジョーカーが止めなかったので、私も止めずに二人の摸擬戦を見ていた。

 結果は、ジョーカーの圧勝。

 

 そもそも勝負にすらならず、ジョーカーは終始余裕な様子でデルタをあしらっていた。

 それ以来、デルタはジョーカーが自分より上と認めているし、私もジョーカーへの疑念が消えた。

 その後、イプシロンやゼータが仲間になる頃には、ジョーカーも戦闘訓練を付けてくれるようになった。

 

 その戦闘訓練で、私達はジョーカーがNo.2なのだと思い知らされた。

 

 ジョーカーは魔力制御技術がずば抜けていることと変装が得意だとは聞いていた。

 デルタを軽くあしらう程の実力があることも分かっていた。

 だけど、私達七陰の姿、声、戦闘スタイルから動きの癖までを完全に再現できるなんて誰も思いもしていなかった。

 少し強い私達を完全に再現し、自分自身と戦闘訓練。

 こちらの弱点を的確について来る上に、自分の弱点をついても平然と防がれる。

 私達の見本と明確な目標を示してくれたけど、私達程度の実力なら簡単に再現できるとも思い知らされた。

 

 しかも、その実力と一緒に見せつけられた変装技術には、恐怖を感じるほどに高かった。

 七陰の中に変装した彼が混じっていたとしても、私は気づける自信が持てなかった。

 

 近しい人さえも欺く変装技術、シャドウ以上の魔力制御技術、シャドウに次ぐ戦闘技術、シャドウ以上の科学知識。

 彼をシャドウの相棒であることを疑う者は、もう誰もいない。

 強いて不満があるとすれば、イータを少し特別扱いしていることくらいね。

 

 

 

 シャドウのお姉さんの救出のために教団のアジトを襲撃し、ほとんどの敵を殲滅した私達は施設内にあるホールのような場所で合流した。

 合流してすぐに、ホールの奥からこのアジトの責任者らしき男が出てきた。

 

「貴様ら何者だ!」

 

 男の問いにジョーカーが私達を代表して答える。

 

「私達は『シャドウガーデン』。陰に潜み、陰を狩る者」

「貴様ら此処が何処か、分かっているのか?」

「知っているとも、私達は全てを知っている。ディアボロス教団のことも、悪魔憑きの真実も全て」

「!?その名を、その秘密を、どこで知った!」

 

 男がジョーカーに斬りかかるが、軽くあしらわれる。

 圧倒的な実力差があると理解したのか、男が赤い錠剤が入った瓶を取り出す。

 ジョーカーは、男が赤い錠剤を呑むのを観察するように見ているだけで何もしない。

 男が錠剤を呑んで魔力が爆発的に増加しても気にせずに何か考え事をしているジョーカーに、男が先ほどより速く斬りかかる。

 

「ジョーカー!?」

 

 躱すどころか防御もする様子が無いジョーカーに、慌てて声を掛けるが間に合わなかった。

 ジョーカーが目の前で真っ二つにされて私達が目を見開いて驚いている間に、男はジョーカーを数回斬りつける。

 ジョーカーがやられたために、私が男に攻撃を仕掛けようとしたところで、ジョーカーが時間を巻き戻したように元に戻った。

 

「これは失礼、少し考え事に夢中になっていたよ」

 

 スライムと一体化することで不死性を得ていると聞いたことがあるけど、あれだけ魔力を纏わせた攻撃が直撃してもダメージすらないのね。

 ジョーカー曰く、魔力攻撃に弱くなるから普通に魔力込めて防いだほうがいいらしいけど、本当に弱体化しているのか疑わしい程に差が大きいわね。

 男もジョーカーとの差を理解したのか、隠し通路から逃げて行った。

 その先に更に強い相手がいるとも知らないで……

 

 

 

 その後、七陰でアジトの調査と残党処理を行い、集めた情報を基に呪いの研究を進める。

 

 研究と調査の結果分かったことは、魔人ディアボロスと戦った英雄は全員女性だった。

 だから、ディアボロスの呪いは女性にのみ発現する。

 呪いが発現する割合はエルフがもっとも多く、次に獣人、最後に人間。

 これは種族ごとの寿命に関係していて、寿命の短いほど英雄の血が薄まることで呪いが発現しにくく、逆に寿命の長いエルフは英雄の血が濃く呪いが発現しやすい。

 そして教団の規模は私達が想像していたより大きく、世界規模の組織だった。

 教団は呪いが発現した子を適応者と呼び、早期捕獲と処分を徹底している。

 教団に対抗するためには、私達も世界に散り教団の調査と妨害活動をする必要がある。

 

 シャドウには七陰全員で研究と調査の報告を行い、私達が世界に散ることとローテーションで一人付くことを伝えた。

 ジョーカーには、イータ一人を報告に向かわせた。

 個人の感情を優先するような行為はあまりするべきではないのでしょうけど、研究について話す際は二人にした方がいいというのは七陰の常識だから大丈夫でしょう。

 あの二人が研究の話を始めたら、数時間以上話し続けた上に実験まで始めるし、近くにいたら違う視点の意見が聞きたいや実験を手伝って欲しいと言われて数時間付き合わされることは当たり前だもの。

 恋愛関係のような微笑ましい理由だったらどれだけ良かったか。

 ジョーカーは分からないけど、イータは好意を抱いているようだし、そういう関係になってもおかしくはないと思うのだけどね。

 今回の報告内容だと、イータは2,3日は帰ってこないでしょうね。

 

 

 

ジョーカーside

 

 アルファ達がシャドウガーデンの組織拡大と教団の妨害活動のために世界に散って2年が経った。

 この2年でジョーカーの名前はミドガル王国の外にまで届いている。

 最近は何かを盗むだけでなく、お城に侵入して王様に挨拶だけして帰ったり、商会や貴族の御屋敷にトリックアートを描いたりなど、はた迷惑なことを散々してきた。

 世間では、はた迷惑な道化として知らない人の方が少ないくらいだ。

 シャドウガーデンもかなり大きくなったし、アルファ達も基本的に自分たちの力で何とかしている。

 定期的にイータが報告を兼ねて研究の相談や実験の誘い来ていたが、シャドウガーデンとしてではなくイータの個人的なことだったし、シャドウや私にあまり頼らず幹部として自立するために頑張っているのだろう。

 

 まあ、私としてもミドガル魔剣士学園に入学して動きにくくなる以上、どのみちアルファ達に頑張ってもらう必要があるからね。

 学園ではシドはモブとして力を隠して過ごすらしいけど、私は学園の優等生程度の実力は出す予定なので特待生として入学した。

 そもそもジョーカーとしての本質は剣技や戦闘じゃないから、やり過ぎなければ隠す必要もない。

 動きの癖や剣技もいくらでも偽装出来るからバレる心配もないしね。

 しばらくは、優等生として平凡に過ごしながら、王都に潜んでる教団を調査しますかね。

 

 

 

 学園に入学して2カ月たった。

 

「ア、ア、ア……アレクシアおうにょ!」

 

 首席で伯爵家の次男で人当たりもよい為か、女子に告白されることも何度かあった。

 

「す、好きです……!」

 

 中にはとち狂った男子もたまにいたが、全て断ってきた。

 

「ぼ、ぼ、僕と付き合ってくぁさぃ……?」

 

 だけど、告白というイベントでここまで頭を抱えたくなったことは前世含めて一度も無かった。

 我らがリーダーは、一体何をとち狂ったらこうなるんだ。

 やっぱり、彼の考えだけは永遠に読めないね。

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