狂った道化になりたくて! 作:道化A
「ぼ、ぼ、僕と付き合ってくぁさぃ……?」
アレクシア王女に対するシドのモブらしい告白に頭を抱えていると。
「分かりました」
「ん?」
さらに意味の分からない言葉が聞こえてきた。
学園でアレクシア王女に告白した人はたくさんいる。
それこそ有力貴族や特待生もたくさんいた。
にもかかわらず、そんなのを選ぶか?
今の告白で選ぶ要素なんてあったか?
「貴方のような方を待っていたの。よろしくね」
待っていた、ねぇ。
何か事情があるということですか。
シドもそれに気づいていて、何か利用できると考えたでしょうか。
まあ、モブに徹していてたまたま巻き込まれた可能性もありますが、彼はたまたまと言いながら事件によく首を突っ込みますから、多少偶然の要素はあれどある程度狙っているのでしょう。
王都ブシン流1部の授業にシドを連れてきた。
ブシン流の道着の色で強さを分けていて、黒が最も上で、白が最も下。
この場にいる生徒はシドを覗いて全員が黒、シドだけが白で良く目立つ。
「やあ、シド。気分はどうかな?」
「最悪だね、すごく目立ってるし」
「まあ、頑張りなよ」
「代わってくれてもいいんだよ?」
「遠慮しておくよ」
シドと話していると、アレクシア王女が近づいて来た。
「私の恋人に何かようかしら、マギア君」
私に対して少し威圧的に問いかけてきた彼女に微笑みながら返す。
「いえいえ、彼は友人ですから、普通に話していただけですよ」
「そう。悪いけど、彼を借りていくわよ」
「ええ、もう話も終わりましたから、どうぞ」
「じゃあね、マギア」
アレクシア王女とシドの稽古をたまに見ていたが、アレクシア王女はいつも通りのようだ。
特に何事もなく授業が終わり、帰る途中でアレクシア王女とゼノン先生が話していた。
話の内容を詳しく聞いたわけではないが、雰囲気からアレクシア王女がシドと付き合ったのは、ゼノン先生に原因があることだけは十分に分かった。
シドとアレクシア王女が付き合い始めて数日がたった頃、アレクシア王女が誘拐された。
その上、容疑者としてシドが騎士団に身柄を拘束された。
私はアレクシア王女誘拐事件の影響で外出が禁止された。
シドが騎士団に拘束された日の夜、寮でのんびり過ごしているとベータが窓から入ってきた。
「ジョーカー様、シャドウ様が騎士団に拘束された件で指示を頂に参りました」
「アルファに連絡はしたかい?」
「はい。アルファ様にはすでに連絡済みです」
「そう。なら、いつでも動けるように情報を集めお願いするよ」
「シャドウ様の救出はよろしいのですか?」
「シャドウの釈放は私がするよ。だから、シャドウが釈放されたらすぐに動ける準備は任せたよ」
「分かりました」
私の指示を聞いてベータは部屋から出て行った。
シドの釈放はそこまで大変じゃない。
騎士団に変装して紛れ込み、証拠不十分で釈放するように調整すればいいだけだ。
面倒なのは釈放日の調整をしないといけないことだね。
下手に釈放したら、変な証拠を捏造されて再度拘束後すぐに刑の執行まで行きかねない。
だから、シドが釈放された日から数日のうちに元凶を潰しておかないとね。
さて、明日からシド釈放の為に裏工作しますかね。
翌日から騎士団に変装して侵入して、シド釈放の為に動く。
裏工作と言ってもシドは何もしていないので、証拠不十分で余裕で釈放出来る。
何の証拠もないただの容疑者を長期間拘束するのはまずいという方向で釈放の流れに持っていく。
シドを犯人にしようとしている連中には、釈放後に証拠を捏造すれば確実だと釈放に賛成させていく。
変装している私が直接伝えてしまえば、本人と話している最中に気付かれかねないので、忘れていてもおかしくないありきたりな日常会話で、思考を誘導していくのはなかなかに大変な作業だった。
私が何もしなくても釈放の流れになっていたかもしれないけど、証拠を捏造されてそのまま処刑なんてことにもなりかねないから、念には念を入れないとね。
シドは拘束されてから5日後に釈放された。
シドの監視についていた騎士団はアルファが始末したようだ。
シドが釈放された2日後、動く準備が整ったようでイータが報告に来た。
「珍しいね。イータが来るとは思わなかったよ」
「たまたま、王都のミツゴシで、研究してて、たまたま、研究が一段落着いたから」
「たまたまねぇ」
「来たのが、私じゃあ、だめ?」
イータが不満そうな顔で問いかけて来るので、首を振って返す。
「そんなことはないよ。ただ、研究ばかりなのは良くないなと思っただけさ」
「……ジョーカーも、よく研究してる」
「そうだね。私も好きなことに時間を忘れて没頭するタイプだからあまり人のことは言えないんだけどね」
イータの言葉に私は微笑みながら続ける。
「けどね、研究ばかりだと気づけないこともたくさんあるんだよ。研究をより円滑に進めるには、実際に観測してみるのが一番だ」
「観測?」
「人間が気づいていないだけで、自然界は無数の法則で成り立っている。科学とは世界の法則を解き明かし、利用する学問のことを言うんだよ。研究を円滑に進めるために、自然界の法則を観測し、観測した情報を基に実験することが重要だということさ」
「なるほど、ためになる」
イータが納得したように頷く。
「後、魔力制御の訓練もしっかりとしているかい?」
「うん、ちゃんとやってる」
「折角私が、悪魔憑きの治療のついでに魔力回路を強靭に改造したんだからね。私とシャドウを除けばシャドウガーデンで一番だよ」
「すごく丈夫、無茶しても、全然問題ない」
「だろうね。シャドウのような無茶な使い方をしない限りは大丈夫だよ」
もともと、教団と戦うことを前提に少しでも手助けになればと思って改造したんだけどね。
まさか、戦いが二の次で研究を専門にするとは思わなかったよ。
イータはすごく優秀だから私の研究を手伝って欲しいけど、魔力制御の技術がまだ足りないんだよね。
「それに魔力制御を極めれば寿命も伸ばせて研究する時間も増えるから頑張ってね」
「ちなみに、ジョーカーはどのくらい、生きられるの?」
「詳細には分からないけど、千年は生きられるかな」
「わかった、頑張る」
「イータ自身で魔力回路や肉体の改造を出来るようには最低でもならないとね」
「うん、ジョーカー、私で実験したから、私もジョーカーで実験したい」
「実験したわけじゃないんだけど……まあ、イータに任せても良いと思えるほどに魔力制御の技術が成長したら、私の身体を調べさせてあげるよ」
「すごく頑張る」
イータの目がすごく輝いて見えるよ。
私の身体が私の研究の成果そのものだから、手伝ってもらう以上見せた方が良いんだけど、少し不安になってきた。
まあ、今は目の前のことに集中しますかね。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
「うん」
「私達の仕事は教団の研究資料の確保と邪魔な教団の人間の排除だったね」
「そう。王女の血を使って研究してた資料とか、王女の血の余りがあれば、すごくいい」
「では、さっさと確保しに行こうか」
私とイータはシャドウガーデンが王都の各所にある教団のアジトに襲撃をかけるタイミングで、アレクシア王女が囚われているだろう地下施設に向かう。
アレクシア王女の救出は私達の仕事ではないから、誰かが救出にいくのだろうね。
さて、教団が誘拐してまで欲した王女の血でどんな研究をしてたのか、楽しみだよ。
狂った道化として活動出来ないのが唯一の残念な点かな。
というかイータとの研究が楽しくて最近はマッドサイエンティストの側面が強いような……
まあ、狂った道化の表の姿が狂った科学者というのも悪くはないけどね。
たまには狂った道化として派手に暴れまわりたいんだけど、なかなか出来る機会が来ないんだよね。
狂気に任せて暴れまわって蹂躙してもいいシチュエーション来ないかな~