狂った道化になりたくて!   作:道化A

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核に至った者

 作戦が開始されたようで、アレクシア王女が囚われている地下施設に向かう途中で、建物が斬られて崩れるのが見えた。

 

「デルタか。相変わらず加減というものを知らないようだね」

「デルタだから、仕方ない」

「まあ、注意を引いてくれるおかげでこちらが楽になったから、今回は良しとしよう」

 

 デルタが暴れて注意を引いてくれている間に、イータと一緒に地下施設に入る。

 地下施設を少しの間散策すると、アレクシア王女と被検体らしき悪魔憑き、そして何かに怯えて狂っている白衣の男を見つけた。

 アレクシア王女の救出が目的じゃないので、無視して違う場所に行こうと思っていたところ、白衣の男が被検体の子に巨大な注射器のようなもので何かを注射する。

 

「さ、さあ、見せてみろ、ディアボロスの片鱗をぉ!!」

 

 何かを注射された悪魔憑きは、身体が膨張し筋肉が見る見る発達していく。

 右腕も禍々しく肥大化し、長い爪が生えている。

 左腕は何かを抱きしめるかのように胴に癒着している。

 もはや、人と言うよりは化け物にしか見えない姿に変わる。

 

 悪魔憑きを拘束していた拘束具は身体が肥大化したことで弾け飛ぶ。

 白衣の男は断末魔を上げることすらできずに右腕に潰された。

 次に悪魔憑きはアレクシア王女に視線を向け、アレクシア王女の拘束具だけを壊す。

 その後は壁を壊して外へ出て行った。

 

「あれがこの施設で研究されていたものの被検体なんだろうけど、自我は多少残っているようだね」

「見た感じだと、悪魔憑きの症状を、悪化させる薬?」

「化け物に近づいていたところを見るに、ただ悪化させているわけではなさそうだったね」

「おそらく、魔人ディアボロスの力を引き出す薬、の失敗作」

「前に見たものと比べて得られる力は大きいようだけど、その反面理性の大部分が失われてそうだね」

「あれほど安定してないから、作り方も違うはず」

「だろうね。私はあれを確保してくるよ。イータは作戦通り研究資料の確保を頼むよ」

「分かった」

 

 イータと被検体の子に注射されたものについて軽く話した後、壁を壊してどこかに行った悪魔憑きの後を追う。

 イータは近くにあると思われる白衣の男の研究室を探しに行った。

 被検体の子を追っていけば、地上に出た。

 先ほどアレクシア王女を助けた時の理性はなくなったのか、騎士団を襲いかなりの数の騎士が負傷していた。

 多くの騎士がやられて被害が大きくなったことで、アイリス王女が出て来てしまった。

 他の騎士達を圧倒していたけど、流石にアイリス王女には一方的にやられている。

 未だに倒されていないのは、無尽蔵な再生能力があるからだね。

 

「そろそろ助けに入るか」

 

 アイリスが魔力を込めた剣で被検体の子に斬りかかろうとしているところに、アイリスと被検体の子の間に割って入りアイリスの剣を掌で受け止める。

 

「なっ!?」

「そろそろ無駄だという事に気付いたらどうですか?アイリス王女」

「お、お前は!」

 

 剣を受け止めた私から距離を取り、私を見て驚いたように叫ぶ。

 そんな彼女に丁寧にあいさつする。

 

「お久しぶりですね、アイリス王女。2年前に王城でお会いした以来ですね」

「ジョーカー、お前が何故ここにいる!」

 

 アイリス王女は叫びながら被検体の子ではなく、私に対して斬りかかって来る。

 何もせずに斬られてあげると、舌打ちして距離を取った。

 

「化け物め!」

「全く、酷いじゃないか。自分の実力不足を棚に上げて相手を罵るなんて、私は歴とした人間だよ」

「貴様のような化け物が人間なわけないでしょ!」

 

 大袈裟に肩を竦めて落ち込んだような口調で返すと、アイリス王女に睨まれながら返された。

 

「全く、貴女は本当に失礼な人だ。私の不死性も変装も全て技術で、極めれば誰にでも出来る芸当さ」

「お前は、何を言っている?」

 

 アイリス王女は頭が固いなぁ。

 手の上で緻密に練り上げた黒い魔力で、太陽系を再現するように大きめの魔力の球の周りをサイズの違う小さな球を8個回し、その軌道を細い線でなぞる。

 

「君達は魔力の扱いが下手なんだよ。ただ大量の魔力を込めて力任せに振り回す。だから、君達は弱いんだ」

 

 アイリス王女は私の緻密な魔力の制御に目を見開いて凝視する。

 そんなことをしていると、被検体の子に後ろから攻撃されて上半身を吹き飛ばされてしまった。

 目の前で上半身が吹き飛んだ私にアイリス王女は驚いたようだけど、すぐに元通りになる私を睨みながら問いかけて来る。

 

「その化け物はお前の仲間じゃないのか?」

「この子の事かい?仲間ではないよ。それに化け物でもない」

「何?」

「この子も歴とした人間さ」

「なっ!?」

 

 アイリス王女は被検体の子に視線を向けて目を見開く。

 人間に見えなくはないが、化け物にしか見えないから私の言ったことを疑っているのだろう。

 

「可哀想な子だよ。病に侵されて全てを失い、残酷な人体実験の末にこんな姿にされて」

「人体実験……」

「さぞかし人が憎いだろう。普通に生きることも許されず、踏みにじられ、利用されるしかないその身が、悔しくて仕方ないだろう」

「……」

「アイリス王女、貴女には彼女の悲しみや憎しみにが理解できないだろう。恵まれた環境に恵まれた才能を持って生まれ、挫折することなく生きてきた貴女には」

 

 私の言葉に、アイリス王女は何か覚悟を決めたのか剣に魔力を込める。

 

「なら、これ以上苦しまないように、せめて一撃で終わらせる」

「はぁ」

 

 アイリス王女が渾身の一撃を被検体の子に振り下ろそうとするのを指一本で受け止める。

 

「この程度の力では苦しませるだけだと、いい加減に気づいたらどうです?」

「くっ!」

「分からないのならはっきり言ってあげますよ。ここに貴女に出来ることは何もない」

「!?」

「分かったら下がっていてください」

 

 アイリス王女から視線を外して被検体の子に近づく。

 腕を振り回して攻撃してくるが、霧化して全てを無力化して頭に手を乗せる。

 私の腕から黒い魔力の光が被検体の子の身体を駆け巡る。

 瞬きの間に醜い化け物のようだった姿が歪み少女の姿に戻っていく。

 化け物の身体は黒い魔力の光の中に消え、裸の少女が出て来る。

 少女を受け止めてスライムで包み込む。

 

 アイリス王女は驚いて呆然としているようだったので、声を掛ける。

 

「アイリス王女、妹君を探しに行かなくていいのですか?今頃『アイリス姉様、助けて……』と思っているかもしれませんよ」

「!?ジョーカー!!」

「それでは私はこの辺りで失礼いたします」

 

 アレクシア王女の声で助けを求める真似をすれば、アイリス王女は激昂しながら斬りかかろうとしてくるが、その前にアイリス王女の前から姿を消す。

 私一人であれば受けても良かったが、被検体の子を抱えているのでさっさと退いた。

 

 アイリス王女から離れた後、アルファを見つけて近づく。

 

「アルファ、この子を任せるよ。被検体にされていた子だ」

「ええ、見ていたわ。あんな状態からでも助けられるのね」

「まあ、あのくらいなら問題はないよ。では、私はイータの手伝いをしに戻るよ」

「そう、わかったわ」

 

 アルファの前から霧化して音もなく姿を消す。

 霧化した状態で地下に戻れば、シャドウがゼノン先生と遊んでいた。

 ゼノン先生は本気でシャドウと戦っているようだけど、全く相手にされてないね。

 まあ、あの程度の実力だと仕方ないか。

 

 イータの魔力を探して向かうと、イータが研究資料を見ながら不満そうにしていた。

 

「どうしたんだい、イータ?」

「ジョーカー、ここの研究資料、あんまり役に立たない」

「まあ、あの研究者まともには見えなかったしね」

 

 適当な資料を手に取ってみれば、殴り書きのように書かれたものばかりで解読が面倒そうだ。

 おそらく、研究のためのメモがほとんどで、自分が分かれば問題ないのだろう。

 報告用の綺麗にまとめられた資料は、アレクシア王女が誘拐されるより前のものだけ。

 どれが使えるかも分からないメモを持って帰るのは無駄でしかない。

 

「仕方ないから、研究に使ってたアレクシア王女の血とか、私達の研究に使えそうな材料だけ貰って帰ろうか」

「分かった」

 

 イータと一緒に使えそうな触媒や試薬などの材料を確保する。

 持って帰るものをまとめ終わった頃、シャドウと戦っていたゼノン先生の魔力が増加した。

 様子見程度に覗いてみれば、以前見たあの赤い錠剤を飲んで魔力暴走を起こしているみたいだ。

 暴走した魔力を無理矢理抑え込んで強くなった気でいるようだけど、あまり変わったように思えない。

 

「帰らないの?」

「そうだね。結果の見えた勝負に興味はないからね」

 

 スライムを伸ばしてゼノン先生が飲んだ後、捨てた瓶を回収する。

 あの赤い錠剤も少し残っているし、研究材料としては十分な成果があった。

 

「じゃあ、帰ろうか」

「うん」

 

 帰るためにシャドウ達に背を向けると、シャドウが魔力を高める。

 シャドウは魔力を緻密に練り上げ、幾多もの線となり青紫の光が綺麗な模様を描く。

 

「教えてやろう、真の最強というものを」

 

「これは、周りのことを考えていないね」

「マスター、全部壊すから」

「私達も巻き込まれる範囲なんだけど、私が防ぐ前提でやっているわけだ」

「私は防げないから、頑張って」

 

 イータは私の背に隠れるようにしてシャドウの方を見る。

 ため息をついて私とイータが中に入るようにスライムで球を作る。

 シャドウの攻撃を耐えるために、私も魔力を練り上げてスライムに流していく。

 黒いスライムより黒い私の魔力が、スライムに幾何学模様を描いていく。

 

 

―――かつて、核に挑んだ男が居た。

 

―――男は肉体を鍛え、精神を鍛え、技を鍛えた。

 

―――だが、それでも届かぬ高みがあった。

 

―――しかし、諦めきれぬ男は、修行を重ねた。

 

―――そして一つ、答えにたどり着いた。

 

 

 

「核で蒸発しない為には、自分が核になればいい」

 

 

 

 やっぱり、彼の思考は少しおかしいのではないかな。

 

 スライム越しに聞こえた彼の呟きに対して呆れながら心の中で呟く。

 

「アイ・アム―――アトミック」

 

 

 技名らしき言葉と共に魔力が放たれる。

 光の奔流がゼノンを飲み込み、周囲の壁も、大地も、総てを飲み込む。

 大地を揺らし、大気を揺らしてあらゆるものを吹き飛ばしていく。

 光の奔流に飲まれたものは全て蒸発した。

 

 光の奔流が消えた後、スライムを解けば満点の星空が広がっていた。

 

「私達は地下にいたはずなんだけどねぇ」

「帰るの楽になった」

「まあ、そうだね」

 

 私とイータはシャドウがあけた大穴から外に出て帰る。

 

 帰りながら後ろを振り向いて王都に出来た大穴を確認してため息をつく。

 そして技を出す前に彼が言っていたことをもう一度考える。

 

 彼の理想が核に至る事だというのは別に否定する気はない。

 彼の夢である陰の実力者が、核に匹敵する力を持つのだというなら、私は何も思わなかっただろう。

 だが、核で蒸発しないために、核になるのは思考回路がおかしいとしか言いようがない。

 やはり、彼の思考回路は少しおかしい。

 だからこそ、彼自身でシャドウガーデンを束ねずに、アルファに任せているのかもしれない。

 彼の能力は戦闘面では並ぶものが居ない程に秀でているけれど、組織運営とかはあまり向いてない。

 むしろ、彼は一人の方が良いのだろう。

 仲間と共に戦うより、全てを塵一つ残さずに消し去る方が向いている、それこそ核のように。

 それでも夢の為に、陰の組織の謎多きリーダーとして君臨するために、彼はシャドウガーデンを作ったのだろうね。

 

 理想のために全てを賭けられる狂人という意味では、彼も私も似た者同士であることに変わりはないか。

 

 

 アレクシア王女誘拐事件と謎の勢力による同時襲撃事件は幕を閉じた。

 事件の数日後、二人の学生が校舎の屋上で向かい合っていた。

 一人は私達のリーダー、シャドウことシド・カゲノー。

 もう一人はすっかり回復したアレクシア王女。

 

 そしてそんな二人から少し離れた物陰から様子を見ている。

 

「裏のありそうな事件だったけど、表面上は解決ということになったわ」

「へぇ~、そうなんだ。じゃあ僕はこれで」

「待って」

 

 まるで興味が無さそうに返事をして帰ろうとするシドをアレクシア王女が呼び止める。

 

「その、話して置きたいことがあって、前に私の剣が好きって言ってくれたでしょ。遅くなったけど、ありがとう」

「いいよ別に」

「漸く自分の剣が好きになれたわ。貴方のおかげじゃないけど」

「一言余計じゃない?」

「事実だから」

 

 いい雰囲気にも見えるけれど、シドがあまりにも興味ない雰囲気を出しているせいで、微妙な感じになっている。

 

「じゃあ、僕はこれで」

「待って」

 

 さっさと話を終わらせて立ち去ろうとするシドをまたもアレクシア王女が呼び止める。

 

「これまで私達付き合ってるふりしてきたわけだけど、今回の事件でゼノンが死んでくれたから、もし、貴方さえよければ……もう少しだけこの関係を続けてみないかなって」

 

 本格的にラブコメ展開になってきた。

 しかし、シドは良くモテるね。

 実の姉に始まり、七陰に続いて、次は王女様と来たか。

 いつか刺されるんじゃないかと思えるほどにモテモテだね。

 彼をさせる実力者に心当たりはないけどね。

 まあ、モテモテな彼の周りはいつか修羅場になりそうでとても楽しみだよ。

 

「お断りだ」

 

 アレクシア王女の告白をシドはあっさりと振った。

 それもすがすがしい程の笑顔で。

 その態度にアレクシア王女は一瞬目を丸くした後、とてもいい笑顔を浮かべながら剣を抜いた。

 

 

 その後、屋上で大量の血痕が発見された。

 しかし、付近に遺体は見当たらず、生徒や学園関係者にも重傷者や行方不明者は存在しなかった。

 後にこの事件は、『死体のない殺人事件』として学園七不思議の一つになるのだった。

 

 

 

七陰side

 

 王都にあるミツゴシ商会の建物の一室にゼータ以外の七陰6人が集まっていた。

 

「アレクシア王女が捕らえられていた教団施設はシャドウ様によって壊滅。ゼノン・グリフィは跡形もなく蒸発したとのことです」

 

 ベータが先日の事件について説明をしていた。

 

「ボスは最強なのです~」

「本当に……美しい光でした」

「王都の全てがシャドウ様の魔力に染められ、天上の楽園のような光景でした」

「奴らも十分に思い知ったことでしょう。自分達が狩られる側だということを」

「いずれ敵の全てがあの光に消える、その日が……」

「私とジョーカー、巻き込まれた」

 

 シャドウを称える5人に対して、イータ一人が少し不満そうに呟く。

 それに対してアルファは、イータに視線を向けて返す。

 

「ジョーカーを信頼しているからこそ、シャドウは気にせずに撃ったはずよ。それに近くでシャドウとジョーカー両方の力を見れたのだから、むしろ得をしたんじゃない」

「二人ともすごかった」

 

 不満など無かったかのように、満足気な顔で頷きながら答えるイータにアルファは少し羨ましそうな顔をしてすぐに真剣な顔に戻す。

 

「それでジョーカーの助けたあの子はどう?」

「まだ寝てるけど、身体に問題はない」

「そう。何か分かったら報告して」

「わかった」

 

 イータとアルファの話を聞いてイプシロンが口を開いた。

 

「それにしても流石ジョーカー様ね。あんな状態からでも簡単に治してしまうなんて」

「あの子のように実験台にされている子は他にも居るでしょうし、私達も魔力制御をもっと練習しないだめね」

「しかし、ジョーカー様の魔力制御はあまりにも緻密過ぎて、数年の修行でどうにか出来るものでは……」

「ジョーカーと比べたら、だめ」

 

 アルファの言葉に室内の七陰全員が暗い顔をする。

 この中で魔力制御に長けているだろうイプシロンでさえ、ジョーカーと比べれば児戯に等しいのだから。

 

 そもそもジョーカーが規格外すぎる。

 魔力で自身の肉体を改造し、霧化を可能にしているだけでも異常なのだ。

 その上で、霧化した状態でスライムと一体化し、色や質感を自在に変えられるスライムで人の形を作るという異次元の技術を誇っている。

 アルファ達もジョーカーが使っているスライムを使って変装をしようと試したことはある。

 しかし、誰一人としてスライムを人の姿に変えて維持することが出来なかった。

 当然だ、スライムで服を作るのとは訳が違う。

 一つのスライムで服を作り、人の形を再現し、肌や筋肉の質感や触感を再現する。

 髪の毛の再現など地獄の所業だ。

 

 それを当たり前のように行っているジョーカーがおかしいだけで、出来なくて当然の技術だ。

 

 魔力制御次第で自在に変化する万能のスライムもジョーカー程の技術が無ければ十全に扱うことは出来ない。

 だから、イータは万能性を捨てて特化型の扱いやすいスライムを数種類開発している。

 それでもジョーカーがスライムで行っている技術のほとんどが再現できていない。

 

 そんなジョーカーが簡単に出来たからと言って、七陰が修行をすれば難しくても出来るようになるとは限らないのだ。

 

「確かに、出来るようになるとは言えないけれど、努力しなければ彼らとの差は開くばかりよ」

 

 今回の事件で彼らの力を直に見た彼女達は、改めて技術を磨く必要があると思わされた。

 

「任務の合間に少しでも技術を磨くための努力を忘れないようにね」

 

 アルファの言葉にその場にいる全員が頷いて返した。

 

「それじゃあ、続けましょうか」

「はい」

 

 アルファはベータに視線を向けて報告を再開させた。

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