狂った道化になりたくて!   作:道化A

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陰を騙る者達

 放課後、私はシド、ヒョロ、ジャガに最近人気の『ミツゴシ商会』に連れてこられた。

 正直、ミツゴシ商会の商品が欲しければガンマやイータに直接言えば手に入るため、わざわざお店に来る必要はないし、あまり来たくもなかった。

 来たくなかった最大の理由は、あまりに人気過ぎて入店までかなり待たされるからだ。

 

「80分待ちだってさ」

「寮の門限には何とか間に合いそうですが」

「ここまで来たんだし並ぼうぜ」

「そうですね」

 

 並ぶことなんて分かっていて来たのだから、最後尾に並ぶ。

 

「でも最近は人斬りが出るって噂ですよ。あんまり遅くなるのは……」

「バーカ、こっちには魔剣士が4人もいるんだ。それにマギアは特待生で、並みの魔剣士より強んだから大丈夫だよ」

「私だよりなんだね」

 

 ジャガの不安をヒョロは何でもないように返す。

 まあ、ただの人斬り程度なら何の問題もないだろうけどね。

 

「ねえ、人斬りって?」

 

 シドの問いに対してジャガが答えた。

 

「最近王都の夜には人斬りが出るらしいんですよ。何でもかなりの腕前で、ついに騎士団にも犠牲者が出たとか」

「へー怖くて夜は出歩けないな」

 

 君より強い人斬りが出るなら、私も出歩きたくないね。

 まあ、その人斬りはそんなに強くはないだろうけどね。

 

 私達が最後尾に並んで少しすると、プラカードを持っていたお姉さんが声を掛けてきた。

 

「お客様方、失礼ですが少しお時間をいただけますか?アンケートへのご協力をお願いしたいのですが」

「ぼ、僕達ですか!?」

「俺達で良ければ、協力します!」

 

 ヒョロとジャガがすぐに反応するが、プラカードのお姉さんは首を横に振って私とシドに顔を向ける。

 

「こちらの御二方に、ご協力していただきたいんです」

「いいですよ」

「いいですけど……」

 

 お姉さんに案内されて長い列から外れて店内を目指す。

 途中で振り返れば、ヒョロとジャガの絶望した顔で私達を見ていた。

 

 

 

 ミツゴシ商会の中を通り、従業員用の扉を抜けて階段を上ると屋上に案内された。

 屋上にある建物の入り口をお姉さんが開くと、そこはレッドカーペットの敷かれた厳かな雰囲気が漂う部屋。

 最奥には玉座らしきものがあり、そこに続く道の両脇に大量の美人さんが恭しく頭を下げて並んでいる。

 

「ご来店を、長らくお待ちしておりました。主様、ジョーカー様」

「ガンマ。なるほど、君の店だったのか」

 

 シドはミツゴシ商会のこと知らなかったのか。

 まあ、私もミツゴシ商会で何をしているか詳細までは知らないし、アルファ達が知らせる必要がないと判断したのかな。

 

「はい。主様よりお聞きした叡智のほんの一部を、微力ながら再現させていただきました」

「なるほどね」

 

 正直、彼女達が言うシドの叡智でチョコの再現なんて普通は出来ないと思うのだけどね。

 『苦い豆に砂糖を入れて固めたら美味いものが出来る』みたいな説明で、チョコを作り出す方がおかしい。

 まず、原料であるカカオを見つける必要があるし、次にチョコにするためにはカカオ豆を発酵させた後乾燥させる必要がある。

 他の豆で再現しようとしても成分がカカオ豆に近くなければ難しいし、そもそも香りや味は別物になるだろう。

 仮に発酵と乾燥されたカカオ豆が見つかっても、美味しいチョコを作るためには何度も試作する必要がある。

 原料も作り方も大まかにしか分からない状態で再現出来たのは、彼女達の地道な努力の成果だろう。

 イータが再現出来たと言って持って来た時には驚いたものだ。

 私に相談してくれれば、もう少し詳細な作り方や原料の情報を教えてあげたのだれどね。

 イータが最初に持って来てくれたチョコも悪くはなかったけど、前世のチョコと比べればまだまだ質が悪かった。

 まあ、前世は原料の質も調理技術も格段に上だから仕方が無い。

 私なりのアドバイスとしてカカオ豆の発酵と乾燥の工夫、チョコを固める際の温度管理による工夫について簡単に教えてあげた。

 それ以外は彼女達の工夫でより良いものが出来ると思っていたけど、予想以上に良いものを作れたようで安心した。

 

 そんな感じで私はミツゴシ商会で商品化しているものに関わっている。

 まあ、イータの研究成果の確認をさせられていただけな気もするけれど、ある程度ちゃんとした品質のものの確認だけだったのが救いかもしれない。

 イータは普通に新しい薬を作ったと、人体に悪影響があるものも持って来るからね。

 特に得られる効果は良くても、副作用が酷いものが多い。

 

 まあ、なんにせよ。

 ミツゴシ商会は彼女達七陰が頑張って作り上げた商会ということだ。

 立場的に彼女達より上であるはずの私以上に、シャドウガーデンに貢献しているから私の肩身が狭いよ。

 

「ひゃぁっ!?」

 

 少し前のことを考えていると、ガンマが階段から足を滑らせて転げ落ちてきた。

 相変わらず、運動センスは壊滅的なようだね。

 ガンマに変装して何度もちゃんとした動きを見せて身体の動かし方を教えたけど、全然良くならなかった。

 彼女の運動センスは、私達の手に余るほどに壊滅的だった。

 

「鼻血出てるよ」

 

 シドが指摘すると、周りのお姉さんたちがすぐに拭き取り、ガンマの身だしなみを整える。

 慣れた様子で整えているから、普段からよくやるのだろうね。

 

「ど、どうぞこちらへ」

 

 ガンマに促されてシドは最奥に鎮座していた玉座のような椅子に座る。

 立場的に私はシドの横に控えるべきなのだろうけど、ただ立っているだけというのもつまらないので、椅子の隣で浮かび逆さまになって頭の位置をシドに合わせる。

 私達の前で跪く彼女達は感嘆し、私達を見つめる。

 

 本当に魔力とは便利だ。

 種も仕掛けも無く、空中歩行や空中浮遊が出来るのだからね。

 

「褒美だ、受け取れ」

 

 シドも満足したのか、右手に青紫の魔力を集めて天井に放つ。

 青紫の光は無数に分裂して室内に雨のように降り注ぐ。

 流石シド、なかなか良い魔力制御ですね。

 

「今日という日を、生涯忘れません」

 

 ガンマ達も喜んでいるようだね。

 中には感激して涙を零す者もいるほどだ。

 正直、そんな大した効果は無かったと思うのだけど、普段顔を出さないリーダーからの褒美はそんなに嬉しいものなのかな?

 

「ところで、この店結構稼いでる感じ?」

「現在、国内外の主要都市に店舗を展開しており順調に拡大しています。活動資金も10億ゼニー程なら即座に運用可能です」

「なかなか順調みたいだね」

「はい、ジョーカー様にも商品の品質向上に様々なアドバイスをありがとうございます。おかげさまで売り上げも好調です」

「それは良かった」

 

 ガンマの言葉に私が満足そうに頷くと、シドがガンマ達に聞こえない程度の小さな声で話しかけてきた。

 

「マギアはミツゴシ商会のこと知ってたの?」

「まあ、イータが試作品をたまに持って来て意見を求めて来てたからね。シドに知らせなかったのは、サプライズ的なことじゃないかな」

「なるほど」

 

 小声でシドの問いに答えていると、ガンマが気を引き締めて口を開いた。

 

「本日、お二人が来られた理由は分かっています」

 

 ん?ただ、友達の付き合いで来ただけだよ。

 シドも商会のこと知らなかったはずだよね。

 

「近頃王都を騒がしている人斬り、我らシャドウガーデンの名を騙る愚者共についてですね」

 

 あれ、これ違うって言えない空気だ。

 違うって言ったら、私の立場がすごく危うくなる気がする。

 もしかして、その事件について話すために、私がシドを連れてきたと思ってるのかな?

 まあ、立場を守るために話を合わせておこう。

 この後、対処に当たれば何とかなるでしょうしね。

 

「ええ、現状で何か分かりましたか?」

「申し訳ございません。現在捜査を続けていますが、未だに犯人を捕らえられていません」

「そうですか。では、私も少し調べてみますね」

「お手数かけて申し訳ございません」

「いえ、いいですよ。最近は貴女達に任せきりでしたからね」

 

 さて、今夜あたりに動きますかね。

 

「心当たりがある。我も探ってみよう」

「主様まで」

 

 心当たりがあるってことは意外と早く終わりそうだね。

 

「それと少し活動資金を貰って言っても構わないか?」

「はい。どうぞ、好きなだけ持って行ってください」

「いや。これで十分だ」

 

 シドはガンマが持って来た10億ゼニーから300万ゼニーだけ貰っていった。

 まあ、300万ゼニーもあれば十分か。

 

「ジョーカー様もご必要でしょうか?」

「私は必要ないよ」

「そうですか」

 

 少し残念そうにするガンマには悪いけど、ジョーカーとしての活動でお金には余裕があるから仕方ないよ。

 話も終わったので、シドが帰ろうするので私も地面に降りる。

 

「来なさい」

 

 ガンマが誰かを呼ぶと、私とシドをここに案内した女性が出て来て頭を下げる。

 

「その子はニュー、新たなナンバーズです。まだ入って日は浅いですが、その実力はアルファ様も認めています」

 

 アルファが認めるとはなかなかの実力者のようだね。

 

「どうぞ、ご自由にお使いください」

「よろしくお願いします」

「用が出来たら呼ぶ」

 

 シドは今度こそ帰るために扉に向かって歩き出すが、すぐに何かを思い出して立ち止まった。

 

「あっ、そうだ。チョコを買いたいんだけど、一番安いの4人分」

「その4人分には私のも入っているのかな?」

「もちろん」

「最高級のチョコを用意します。十割引きで」

「十割!?つまりタダじゃん、ラッキー!」

 

 ガンマの言葉にモブのような態度で喜んで返すシドに呆れて苦笑する。

 今の彼は誰が見てもただのモブにしか見えないだろうね。

 

 

 

 その後、ガンマからチョコを貰い商会の前でヒョロとジャガに合流してすぐに、私は用事があると言って彼らと別れた。

 そもそも特待生の私は彼らと住んでいる寮が違うので、一緒に帰る必要は特にない。

 一人になったとはジョーカーとして人斬り事件の調査を始める。

 まあ、調査と言っても疑似アーティファクトで感覚を研ぎ澄まして、事件を察知するだけなんだけどね。

 高い建物の上に立ち、疑似アーティファクトで広範囲の音を拾い戦闘音や悲鳴を探す。

 日が沈んだ辺りで戦闘音が聞こえてきたけれど、襲われている相手の声にすごく聞き覚えがるね。

 現場に行ってみればアレクシア王女が戦っていた。

 

「どうしてアレクシア王女が戦っているのかな?」

 

 人斬りの方は『我らはシャドウガーデン』しか言わないし、何なんだろうね、この現場は。

 シャドウガーデンを騙るにしても、もう少し上手くやれないものかな?

 まあ、あれでも何も知らない人には効果ありそうだから、いいのかな?

 

 しばらく、様子を見ていたがアレクシア王女が意外と強かったようで、人斬りを追い詰めていく。

 しかし、人斬りの仲間が二人現れたことで、今度はアレクシア王女が追い詰められる。

 そろそろ危ないし助けに入ろうかなっと思っていたら、シャドウが割って入り人斬りの一人を斬り殺してしまった。

 

「あらら、殺しちゃった。相変わらず、情報なんて聞かずに即抹殺なんだね」

 

 まあ、相手がディアボロス教団であることは分かってるし、相手の狙い何て聞く必要ないのだろうけれど、アルファ達は相手の狙いを知りたいだろうし、一人くらい確保しておこうか。

 シャドウが現れたことで即座に逃げ出した二人の跡を追う。

 逃げ出した二人の内一人の首をはねて、もう一人をスライムの鎖で雁字搦めに拘束する。

 

「ほう、ジョーカーも来ていたか」

「まあ、ずっと様子を見てただけだけどね」

 

 人斬りを捕まえてすぐにシャドウが追いついてきた。

 そしてすぐにニューも姿を現した。

 

「お見事です。これほど早く確保なされるとは、後はお任せください。情報を引き出します」

「そうですか。では、お任せしますね」

「抜かるなよ」

 

 用が済んだので、私とシャドウはその場から姿を消す。

 特にすることもないので寮に戻り、ガンマに貰ったチョコを食べながらのんびりと過ごす。

 

 翌日、学園でヒョロとジャガにチョコを持って来たか聞かれる。

 

「チョコなら昨日食べたよ。すごく美味しかった」

「……まあ、マギアは女子に興味なさそうだしいいか」

「そうですね」

 

 凄く呆れたような顔で見られたのは少しだけ不服かな。

 

「別に興味がないというわけではないのだけれどね」

「へぇ、マギアも女子に興味あったんだ」

 

 私の呟きに対してシドが意外そうに食いついて来た。

 

「今のところ優先順位が低いだけで、完全に興味が無いわけではないよ」

「そうなんだ。てっきり、恋愛感情とか捨ててるのかと思ってた」

「そんなことないよ。今は他にやりたいことややらないといけないことで、それどころじゃないだけで興味自体はあるよ。運命的な出会いで優先順位が上がる可能性だってあるだろうしね」

 

 狂気に飲まれて暴走する哀れな道化を止めるヒロインとかいても良いと思うんだよね。

 狂った道化として狂気に飲まれて破滅する道も、ヒロインに癒されて救われる道も、いずれも悪くない。

 だから、私は出会いや流れに身を任せて狂った道化としての在り方を貫く。

 私が狂気に飲まれた際に、私を滅ぼす者は既に居る。

 ヒロインが今後現れなければ、私が狂気に飲まれた末路は破滅だね。

 

 まあ、破滅と言ってもジョーカーとしての活動を終えて、しばらく隠居するだけなんだけどね。

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