狂った道化になりたくて!   作:道化A

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学園襲撃

 学園でいつも通りシドと過ごしていると、学術学園二年生の制服を着たニューに声を掛けられた。

 昨日の報告で制服を着て学園に潜入して来たのだろう。

 

「黒ずくめの男を尋問いたしましたが、情報は引き出せませんでした。強い洗脳によって既に精神が壊れていました。その他の特徴からも、黒ずくめの男はディアボロス教団のチルドレン3rdであると思われます」

「やっぱりね」

「ふむ?」

 

 あの人斬りは明らかにまともな精神状態には見えなかったし、ディアボロス教団が相手ならチルドレン3rdの可能性が一番高いからね。

 

「一連の事件の裏に教団の影があるのは明らかです。そしてその目的は我らを誘い出すことであると想像できます」

「ふむ」

「それに加え先日、王都でネームドのチルドレン1stが確認されました。『叛逆遊戯』のレックスです。彼らは何らかの目的をもって集結していると思われますが、レックスを見失い現在捜査中です」

 

 ニューの報告を聞いてシドは何か意味深そうなことを呟いて帰っていった。

 シドが帰ったのでニューと二人だけになった。

 

「全く、シャドウは相変わらずだね」

「ジョーカー様?」

「今はただのマギア・クラウンだよ」

「失礼しました。マギアさん、どういう意味でしょうか?」

 

 私の注意にニューは呼び方を変える。

 態度が明かに後輩に使うものではないけど、伯爵家の特待生に対してなら間違ってないのかな?

 まあ、細かいことはいいか。

 

「彼は何か分かっても誰にも教えないってことだよ」

「確かに、そうですね」

「まあ、今回の教団の目的の一つは分かりやすいからいいけどね」

「ジョーカー様も何か分かったのですか?」

 

 ニューの問いに対して首を横に振って返す。

 

「ニューも分かってると思うけど、近いうちに教団が大きな事件を起こして、その罪をシャドウガーデンに押し付けようとしているってことくらいだよ。私は戦略の先読みは得意じゃないから、そのくらいのことしか分からないさ」

「シャドウ様は、もっと先まで読んでいると?」

「多分ね。私も彼の思考は読めないから」

「流石ですね」

 

 ニューはシドが帰っていった方を向いて、改めて称賛を送る。

 

「まあ、王都の警戒は任せるよ。何かあった時、すぐに対処できるようにしておけば問題はないはずだよ」

「分かりました」

「じゃあ、頑張ってね」

 

 ニューとの話を切り上げて私も寮に帰る。

 彼女達は優秀だから、自分達でどう動くべきか判断できるでしょう。

 

 

 

 ブシン祭の選抜大会に私とシドは参加していた。

 シドはヒョロとジャガに勝手に登録されたようだけど、意外とやる気満々だったので何か考えがあるでしょう。

 私は一回戦の相手を難無く倒して、シドの試合を見に来ていた。

 シドの相手は学園最強の魔剣士と言われているローズ・オリアナ。

 芸術の国オリアナ王国からの留学生であり、王女様。

 モブとして生活しているシドが勝っていい相手ではない。

 モブに徹するシドがローズ王女相手に負けることは確実だけれど、どうしてやる気満々だったのかが分からない。

 何かするのかな?

 

「ローズ・オリアナ対シド・カゲノー、試合開始!」

 

 審判の宣言により試合が始まる。

 それに合わせて二人とも間合いを詰めるために地を蹴り、剣を振る。

 モブに徹するシドの剣よりもローズ王女の剣が早くシドに当たり、シドは錐もみ回転しながら血をまき散らして地面に激突する。

 一瞬の静寂の後に観客から歓声が上がる。

 私もあまりの素晴らしさに拍手をシドに送る。

 

 実に見事なやられようだ。

 もはや芸術的に美しく綺麗に吹き飛び、誰が見ても疑わないモブらしさ。

 本当に素晴らしいものを見せてもらったよ。

 

 誰の目にも止まらない早業で口に血のりを含み、予備動作を悟らせずに後ろに跳びながら捻りを加える。

 

 最近、スライムと一体化して斬られても死なないパフォーマンスに飽きてきたところだったんだ。

 観客も化け物だ怪人だと、皆慣れてきて驚かなくなっていたからね。

 今度からもっとあんな感じで盛大に血を噴き出して吹っ飛んだり、悲鳴や苦悶の声を上げて死んだふりをしてみるのもいいかもしれない。

 

「しょ、勝者ローズ・オリア」

「まだだっ!」

 

 どうやらシドはまだ続けるらしい。

 盛大に吐血するシドに審判は引き気味に止めようとするが、ローズ王女は続けさせてくれるみたいだね。

 私としても出来るだけ続けてくれるとありがたい。

 これからの私のパフォーマンスの参考として、もっとたくさん見せてくれ。

 

 それから何度も何度もシドは盛大に吹き飛ばされて血を吐き続けた。

 観客はシドの姿にドン引きしていたけれど、私は終始拍手を送り続けた。

 どれも芸術的なやられようで見ていてとても楽しかったよ。

 流石に審判が試合を強制的に終わらせたことで、ローズ王女の勝利に終わった。

 

 試合後にシドに会いに行ったら、包帯でぐるぐる巻きにされてミイラ男みたいになっていた。

 先ほどのやられように称賛の言葉を送るつもりだったのだが、知らない女の子に先を越されてしまったので、気配を消して離れたところから様子を見ることに変更した。

 耳の魔力回路を弄って疑似アーティファクト化して話を盗み聞きする。

 

 どうやら先ほどの試合を見て、シドが何度も立ち上がる姿が格好良かったらしい。

 そしてお返しにクッキーもシドに渡して、お友達からよろしく、ふむふむ、これはまた面白いことになっているね。

 お返しというのはミツゴシ商会でガンマに貰ったチョコの事だろう。

 ヒョロとジャガと一緒に誰か女子に上げたようなことを言っていたし、あの子がそうなのだろう。

 流石シド、チョコ一つでお友達からのお付き合いが出来るとは、ヒョロとジャガとは違いモテるね。

 

 そんなことを考えていると、すぐ近くで様子を見ていたお義父様と呼ばれた男性が同席した。

 ルスラン・バーネット、学術学園の副学園長みたいだね。

 まさか、ルスラン副学園長の義理の娘シェリー・バーネットとはね。

 シェリーさんは、騎士団からアーティファクトの解析を依頼されるくらい優秀だけど、研究ばかりで友達が居ない。

 私も似たような子には心当たりがあるよ。

 あの子にもいつか友達や恋人が出来るのだろうか?

 しっかりと自立できるのか私は不安だよ。

 

 そんなことを考えていると、話が終わったようでシド達が解散していた。

 一人になったシドに近づいて声を掛ける。

 

「やあ、あんな有名人と仲良くなるのはモブとして大丈夫なのかい?」

「あんまり大丈夫じゃないかな」

「それは大変だね」

「まあ、怪我で数日休めば疎遠になるでしょ」

 

 そんな風には全然見えなかったけれど?

 

「シドって、もしかして鈍感?」

「かもしれないけど、君ほどではないよ」

「そうかな?」

「君は敵意や悪意とか殺気も分からない鈍感じゃないか」

「確かに、そう考えると私の方が鈍感かもしれないね」

 

 確かに、私も鈍感かもしれないけど、流石にあそこまで好意を向けられたら気づくと思うのですが?

 もしかして、意図的に気づかないようにしているのでしょうか?

 

「マギアは、殺気や敵意を感じ取らずに目と耳に頼り過ぎてるから、僕より弱いんだよ」

「そう言われても私は道化で戦闘は専門外なのですよ。動きは見れば真似できますが、殺気や敵意を感じろ隠せと言われましても困りますよ」

「まあ、僕と違って最強になることが目標じゃないから、それでも良いのかもね」

 

 私とシドでは目指しているものが違いますからね。

 

「そいうえば、遅くなりましたが、先ほどの試合すごく良かったですよ」

「おっ、流石マギア、分かってくれる」

「ええ、見事なやられようでした。錐もみ回転しながら血をまき散らす姿なんて芸術的で美しかったですよ」

「だよね。いやー、練習した甲斐があったよ」

 

 私の言葉にシドは満足そうな顔で頷く。

 モブとしてのやられ方や見栄えの拘り、強い信念を感じますね。

 大半の人があの技術を見て、無駄に洗練された無駄な技術と笑うでしょう。

 しかし、モブとしての拘りだけで磨かれた素晴らしい技術だ。

 私も負けずに不死の怪人として技術を磨かないとね。

 

 シドと一緒に帰りながらモブ式奥義について語り合った。

 

 

 

 それから五日ほどシドが怪我を理由に休みを取った。

 そしてシドが復帰した日に事件が起きた。

 生徒会選挙の説明を教室で聞いていた時、魔力の流れを何かに阻害されているような感覚に襲われた。

 嫌な予感がした私は適当な理由を付けて教室から出てすぐに気配を消して隠れる。

 私の予感があたり、剣を抜いた黒ずくめの男たちが教室に乗り込んでいった。

 

「全員動くな!我らはシャドウガーデン、この学園を占拠する!」

 

 予想通り、教団がシャドウガーデンを名乗って事件を起こしてきたね。

 教室内の様子を見れば、生徒達は魔力が練れなくて抵抗出来ていない。

 アーティファクトで魔力の流れを阻害して魔力を練れなくしているみたいだね。

 緻密に練り上げれば、阻害されずに練ることは出来そうだね。

 

 問題は、これからどう動くか。

 ジョーカーとして動くか、マギアとして一般生徒に徹するか。

 取り敢えず、シドがどうしているか見に行こうかな。

 

 シドの教室に様子を見に行けば、致命傷を負い息を引き取っていた。

 

「まかさ、様子を見に来たら死んでいるとはね。いや、心停止してるだけで生きてはいるのか?」

 

 倒れているシドを見ていると、シドの腕が勝手に動き胸を叩き始めた。

 

「ゲホッ、ゴホ、ゴホッ!」

 

 自分の胸を叩いて止まっていた心臓を動かしたようで、咳き込んだ後に立ち上がった。

 立ち上がったシドに私は拍手を送る。

 

「これこそ不死身の怪人って感じですね。いや、奇跡的に一命を取り留めた悪運の強いモブでしょうか?」

「そうだね。怪人ってよりは謎に死なないモブって方がいいね」

「その傷はどうするつもりで?」

「治しちゃうと後で疑われるから、魔力で応急処置だけしておくよ」

 

 シドは魔力で傷の応急処置をしながら私の方に視線を向けて来る。

 

「マギアはここにいて大丈夫なの?」

「ええ、襲撃前に席を外していますから、襲撃者に気付いて潜伏して好機を伺っていたとでも言えば問題ないでしょう」

「なるほどね」

「なので、ここからはジョーカーとして動く予定です」

 

 スライムでジョーカーの衣装に着替えながらシャドウに問いかける。

 

「それで、これからどう動きます?シャドウ」

「取り敢えず、現状の確認かな」

 

 シャドウはそう言うと教室から出て学園の屋上に向かっていった。

 私もシャドウの跡を追い屋上へ向かった。

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