狂った道化になりたくて!   作:道化A

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我が道を往く者達

 シャドウと共に屋上から学園を見下ろす。

 学園関係者は人質として大講堂に集められているね。

 警備は全滅、応援の騎士団は魔力が阻害されて突入出来て無い感じだね。

 襲撃者の何人かは隠れている人がいないか探し回っているみたいだね。

 魔力が阻害されている範囲から考えて、魔力を阻害しているアーティファクトがあるのは大講堂。

 

「ある程度の状況は把握できたね。それで、これからどう動くのかな?」

「ゆっくりと襲撃者を狩っていく」

 

 あんな雑魚をゆっくり狩る必要があるとは思えないが、何か考えがあるのでしょう。

 

「そうですか。それで、私は何をすれば?」

「ただの余興だ。お前は何もしなくていい」

「では、ゆっくりと高みの見物でもしていますよ」

 

 シャドウの隣に座って何をするのか見ていると、スライムを撃ちだして襲撃者を一人ずつ片付け始めた。

 暇つぶしとして襲撃者で的当てでもするかのように、襲撃者を一人一人撃ち抜いていく。

 

「おや?」

 

 生徒は私以外全員が捕まったと思っていたけど、少なくとも一人は残っていたみたいだね。

 しかも、凄く見覚えのある生徒、シェリー・バーネットである。

 本人は隠れているつもりなのかもしれないけれど、襲撃者に普通に気づかれている。

 シャドウも気づいたようで、シェリーさんに近づいていた襲撃者を撃ち抜いた。

 襲撃者が居なくなったことで、シェリーさんは移動し始める。

 シャドウは微笑むと、急に飛び降りて行ってしまった。

 

「シェリーさんを助けにでも行ったのかな?」

 

 シャドウは未だにシドの姿のままだったし、シェリーさんの近くで援護するつもりなのかな。

 彼女は確かアーティファクトの研究をしているらしいから、事件解決のために彼女が必要になるとか、理由は色々ありそうだね。

 まあ、彼女が死んだとしても今回の事件は問題なく解決できそうだけれどね。

 そもそも魔力を吸収して使えなくしているのだろうけど、私やシャドウにとっては別に問題ない。

 私とシャドウなら人質に被害を出さず、襲撃者を殲滅するくらいは出来ると思うのですがね。

 シャドウは一体何を考えているのやら、全く分かりませんね。

 

「おやおや、危なっかしい子ですね」

 

 シャドウが居なければすぐにでも捕まっているでしょう。

 シャドウが呆れて姿を現すとは、本当にどうしようもない子ですね。

 それにしてもシャドウがあそこまで守るとは意外ですね。

 彼女に戦闘能力がない以上、殺されずに人質として大講堂に送られるだけなら放置しても良いと思うのですが?

 

「彼女が特別、ということでしょうか?」

「誰が、特別?」

「ん?」

 

 振り向けばイータが眠そうな目で私を見ていた。

 考え事に夢中になって気配に気づけなかったようだね。

 イータは私が先ほどまで見ていた方に視線を向け、シェリーさんを見つけたのか少し不満そうな顔で私に視線を戻してきた。

 

「それで、あの子の何が特別なの?」

「さあね。私には彼女が特別な理由は分からないよ。イータはどうしてここに?」

「ガンマに頼まれた。様子見と、魔力を阻害しているアーティファクトの調査と、ジョーカーかマスターに指示を聞いて来いって」

「なるほどね。今回もたまたま王都に居たの?」

 

 私の問いに対してイータは私の隣に座りながら、首を横に振った。

 

「王都で教団が動く可能性があるけど、七陰がガンマ以外、忙しくて王都に居られないから、戦力として王都のミツゴシで研究させられてた」

「なるほどね」

 

 すぐに参戦出来る場所で研究させておけば、緊急時の戦力としてイータを数えられるということね。

 今回は七陰以外はアーティファクトで魔力を阻害されて戦力として不安だから、アーティファクトにも詳しいイータを出してきたわけね。

 

「まあ、見れば分かると思うけど、魔力を阻害しているアーティファクトは大講堂で、人質も同じ。学園内を見て回っている襲撃者はシャドウが始末して回っているよ」

 

 イータは学園と大講堂を少し見て状況を確認する。

 ある程度状況が分かったのか、私に問いかけてきた。

 

「アーティファクトの性質で分かったことは?」

「見ていて分かったのは、魔力を吸収すること、吸収しない魔力を登録できることくらいだね」

「それだけ?」

「現状それ以外の効果は確認してないよ。けど、アーティファクトである以上、吸収できる魔力量にも限界はあるだろうね」

「私もそう思う」

 

 イータも私と同意見のようだね。

 このまま放置していれば、アーティファクトが魔力を吸収出来なくなり魔力阻害が消える。

 大講堂で人質になっている彼らは、魔力が尽きて満足に戦えないだろうけれど、騎士団やシャドウガーデンは普通に動ける。

 時間次第で魔力の阻害という問題は解決する可能性はある。

 

「まあ、周囲の魔力を吸収して爆発するアーティファクトなら、限界がタイムリミットということになるね」

「アーティファクトの詳細が分からない以上、吸収限界が来る前にアーティファクトを止める必要がある」

「そういうことだね。けれど、私は何もしなくていいと言われているから、シャドウの指示があるまで待機でいいと思うよ」

「分かった。ガンマにそう伝えておく」

「よろしくね」

 

 帰っていくイータを見送り、視線をシャドウとシェリーさんに戻す。

 二人は無事に副学園長室に移動したようだ。

 どうして副学園長室に移動したのだろうか?

 隠れるだけなら他の教室でも十分だと思うのだけれど、お義父さんの部屋だから他の部屋より安全だと判断した何かがあるのかな。

 流石にこの距離では話し声は聞こえないし、読唇術も口元が見えないから何を話しているのかは分からないね。

 疑似アーティファクトを使えば聞こえないことはないだろうけど、距離が遠すぎて雑音が酷いことになるからやりたくないんですよね。

 まあ、聞かなくても問題はないでしょう。

 

 しばらく様子を見ていると、シェリーさんが何かの資料をシャドウに見せて話した後、シャドウが副学園長室を出て行った。

 シャドウは襲撃者を始末しながら移動していく。

 途中で他の襲撃者と違って魔力をそこそこ扱える人が居たけど、あれはチルドレン2ndかな?

 学園内を見回りしていた襲撃者をほとんど全員始末したシャドウは、研究室らしき部屋で何かを探し始めた。

 たまたま研究室にいたニューと話しているから、シャドウにはニューが報告しているのかな。

 

「ん?」

 

 シャドウの様子を見ていると、背後に気配を感じたので振り返る。

 先ほどガンマに報告のために戻ったイータが帰って来たようだね。

 

「ガンマに報告はしたの?」

「うん。ジョーカーと待機って言われた」

「そう。正直、暇してたから話し相手が来てくれたのは助かるよ」

「この状況で暇って言えるのは、ジョーカーくらいだと思うよ」

 

 イータは私の隣に座りながら、研究室でニューと一緒に探し物をしているシャドウに視線を向けて返してくる。

 確かに、この場に居て暇なのは私くらいか。

 

「まあ、私は何もしなくていいって言われているからね。それにイータも今は暇なんじゃない?」

「ようやく、暇になった」

「まだ事件は解決していないけどね」

「私の仕事は終わった」

 

 まあ、本来なら幹部であるイータや私がのんびりしていてはいけないのだろうけれど、全体の指揮を執っているガンマやシャドウの命令で仕事がないのならいいでしょう。

 率先して働いても良いのだけれど、シャドウに何か目的がある場合、邪魔をすることになりかねない。

 おかげで見てる以外にすることが無くて暇だったんだよね。

 イータが来てくれて本当に助かったよ。

 

「さっそく、暇つぶしとしてこの魔力を吸収するアーティファクトの原理と再現、後対策についての話とかどうかな」

「楽しそう」

 

 指示があるまでの暇な時間で、事件の元凶であるアーティファクトについてじっくりと語り合う。

 

 

 

 楽しい話をしていると時間はあっという間に過ぎるようで、気づけば辺りは暗くなっていた。

 だからこそ、大講堂の中で何か強い光が発生したことに気付けた。

 光が消えるのに合わせて魔力の阻害も無くなった。

 副学園長室に視線を向けるが、シェリーさんとシャドウの姿が無い。

 

「どうやら、話しに夢中になり過ぎたみたいだね」

「良いところだったのに」

「続きは事件が解決した後にしましょう」

「……分かった」

 

 イータは不満そうな顔だけど、のんびりと話している場合ではないことも理解しているのか、視線を大講堂に向ける。

 

「私達も参戦するの?」

「いいえ、近くで様子見です。戦力は足りているでしょうから、不測の事態に備えていれば十分でしょう」

「分かった」

 

 大講堂の近くに行けば、ガンマが数名のシャドウガーデンのメンバーと一緒に様子を見ていた。

 

「やあ、ガンマ」

「ジョーカー様。まさか、ジョーカー様も突入されるのですか?」

「いいえ、様子を見るために近くに来ただけですよ」

「そうでしたか」

 

 視線をガンマから大講堂に向ければ、順調に突入したシャドウガーデンのメンバーが襲撃者を切り伏せていく。

 大講堂の中で戦っている襲撃者も大した実力を持った者はいない。

 アーティファクトも見当たらないし、主犯格はさっさと逃げてしまったのかな。

 大講堂の様子を観戦していると、ガス灯からガスが噴き出してあっという間に大講堂に火が回る。

 

「おやおや」

「自分のテリトリーでしょうに、大胆なこと」

「ガンマ様」

「あらまぁ、大惨事」

 

 ガンマの見ている方に視線を向ければ、学園の方でも同じように火が回り始めている。

 火を放てば逃げれるなんて考えているのだろうか?

 大講堂に視線を戻せば、人質となっていた学園関係者が逃げるために一生懸命に剣圧で道を作っている最中のようだ。

 アーティファクトに魔力を吸われていたために、ほとんど全員が限界の中で一生懸命に剣を振っている。

 

「逃げ道くらい作ってあげましょうかね」

 

 外套のスライムを一部伸ばし、大講堂の壁に逃げやすいように大穴を開け、人質やシャドウガーデンのメンバーを避けながら、大講堂内の火をスライムで包み込むようにして握り潰して消化する。

 火元のガスを止めたわけではないのですぐに火が回り始めるが、人質が逃げる時間としては十分でしょう。

 

「お見事です、ジョーカー様」

「大したことではありませんよ」

 

 ガンマ達が拍手しながら称賛を言葉をくれるが、少しスライムを早く正確に動かした以外は彼女達にも出来る程度の技術だ。

 大講堂の様子を見ていると、シャドウが大講堂から出て行った。

 

「ガンマ、イータ、私はシャドウの様子を見に行くから、後は頼んだよ」

「かしこまりました」

「分かった」

 

 二人の返事を聞いてシャドウの跡を追う。

 シャドウはシドの姿に戻り、副学園長室に窓から入った。

 どうしてわざわざ副学園長室に戻る必要があるのだろう。

 今回は中の様子をしっかりと確認するために、副学園長室から見えないように窓の傍の壁に気配を消して座る。

 目を疑似アーティファクト化して中の様子を確認する。

 

 シャドウはルスラン副学園長と話しているようだ。

 内容的にルスラン副学園長が今回の主犯ということらしい。

 

「かつて私は頂点に立った。君が生まれる前の話だ」

「ブシン祭で優勝したそうですね」

「ブシン祭など、本当の頂点はずっと先にある。君に言ってもわからないだろうがね」

「だが頂点に立ってすぐ病にかかってね。苦労して上り詰めた栄光は一瞬で終わったよ。それから私は病を治すすべを探し求め、あるアーティファクトにその可能性を見出した」

「長くなりそうですか?」

「少しね」

 

 ルスラン副学園長はどうでもいい昔話を長々と語る。

 簡単にまとめるとシェリーさんのお母さんを利用していたけど、邪魔になったので殺して今度はシェリーさんを利用している。

 魔力制御を鍛えれば病程度簡単に治せただろうに、アーティファクトに頼り他人を利用する道を選ぶとはね。

 それも過去の栄光に縋り、取り戻すためというのだからお笑いものだね。

 己の未熟さを認めずに必死にもがく姿は哀れとしか言いようがないね。

 

「一つきになったことが」

「言ってみたまえ」

 

 シャドウはまだルスラン副学園長に聞きたいことがあるようで、ルスラン副学園長に問いかける。

 

「シェリーを利用したというのは本当の事ですか?」

 

 ん?

 

「もちろん本当のことだ。怒ったかい?」

「どうでしょうね。僕は自分にとって大切なものと、そうでないものとを明確に分けているんで。皆生きるにつれて大切なものを増やしていきます。友達が出来て、恋人が出来て、仕事ができて……でも僕は削いでいった。そしてその先にどうしても捨てられないものが残った。だから、それ以外どうなっても割とどうでもいいんです」

 

 意外だ。

 陰の実力者としてのシャドウでも、モブとしてのシドでもない。

 これが彼の素で、彼の本心なのだろう。

 

 それを私や七陰ではなく、ルスラン副学園長に話すなんて……

 怒っているまではいかなくとも、不快程度には思っているのか?

 

 彼の中でシェリーさんは特別な存在だとは、全く持って意外だね。

 

「愚かな母娘がどうなろうと構わないと?」

「そろそろはじめましょうか。のんびりしていると邪魔が入りそうだ」

「そうだね。残念だがお別れの時だ」

 

 シドとルスラン副学園長が剣を抜いて向かい合う。

 決着は一瞬でシドが斬られて窓から飛び出てきた。

 落ちていくシドと目が合ったが、シドは私を気にせずにシャドウの姿になって副学園長室に音と気配を消して気づかれないように戻っていった。

 

「どこへ行く」

「貴様は、シャドウ!」

「私も剣に生きた人間だ。向かい合えば大体のことは分かる。今の私では分が悪いこともな。全力でいかせてもらうぞ」

 

 ルスラン副学園長はアーティファクトを二つ取り出してシャドウに見せつける。

 おそらく、二つの内のどちらかが魔力吸収で、どちらかが制御装置なのでしょうね。

 

「強欲の瞳の真価は、その制御装置と二つ合わせて発揮されるものだ。このようにな」

 

 二つのアーティファクトが組み合わさり、一つになったアーティファクトをルスラン副学園長が自分の胸に押し付ける。

 アーティファクトはルスラン副学園長の胸に埋まっていく。

 

「今こそ私は、生まれ変わる!」

 

 ルスラン副学園長は元気に叫び声を上げる。

 アーティファクトが吸収した魔力が身体に満ちてテンションが上がったのかな?

 

「素晴らしい……素晴らしいぞ……力が戻る、病が癒える……!」

 

 本当に先ほどまでに比べて格段にテンションが高いね。

 

「分かるか、この荒れ狂う魔力が!人間の限界を遥かに超えた力がっ!」

 

 魔力が荒れ狂ったらだめでしょう。

 しっかりと制御しないと魔力の無駄だよ。

 後、人間の限界は遥か先で全然超えてないよ。

 

「まずは貴様で試すとしよう」

 

 ルスラン副学園長が一瞬でシャドウとの距離を詰めて斬りかかるが、シャドウに簡単に防がれる。

 

「ほう、良く防いだ。ならば、これはどうだ!」

 

 相変わらず高いテンションで上から目線な言葉を吐くね。

 高速で移動しながら何度もシャドウを斬りつけているけど、全て防がれているよ。

 

「認めよう、貴様は強い」

 

 未だに実力の差が理解出来て無いのか、上から目線な態度を続ける。

 

「その強さに敬意を表して、私も本気を出そう」

 

 剣を構えて魔力を更に高めながら、余裕そうに笑ってシャドウを見据える。

 最初に全力で行くとか言ってなかったかな?

 テンション高くなってノリで話しているのでしょうか?

 

「私に本気を出させたことをあの世で誇るがいい」

 

 その一撃は、確かに先ほどまでより威力も速度も上がっているが、シャドウに容易く防がれ逆に斬りつけられる

 傷はすぐに回復しているようだけれど、魔力がどんどん減っていく。

 どんなに魔力が多くてもまともに扱えなければ、この程度ですね。

 

「まさか、これほどとはな。だが、貴様がいくら強かろうともう終わりだ。一連の事件は全て貴様らの仕業になるように手はずは整えた。証拠も、証言も、全てだ。これで貴様らは反逆分子として世界中から追われる。いくら強くてもどうにもならんよ」

「はぁ、滑稽だな」

「何ぃ!」

 

 全く持ってその通りだね。

 曲芸が出来ればいいピエロになれそうだよ。

 

「それしきのことで終わると思っている貴様は滑稽だ」

「負け惜しみだ」

「もとより我らは正義の道を往く者でもなく、しかし悪の道を往く者でもない。我らはただ我らの道を往く者。もし貴様に出来るなら、世界中の罪を持って来るがいい。その総てを引き受けよう。だが何も変わらぬ、我らは我らの為すべきことを為す」

 

 そうですね。

 私も正義や悪に興味なんてない。

 ただ理想を実現するために、我が道を往くだけ。

 それを否定せず共感してくれたから、私はシャドウガーデンに入ったのかもしれないね。

 

「世界を敵にして恐れぬというか。それは傲慢だぞ、シャドウ!」

 

 傲慢?違うね。

 私達は狂っているんだ。

 理想や目的のためなら、躊躇わずに世界を敵に回せるほどにね。

 

「身体の先から中心に突いてき、最後は心臓だったな」

 

 おや、ルスラン副学園長が言っていたシェリーさんのお母さんと同じ殺されかたですね。

 もしかして表に出さないだけで、内心怒っているのかな?

 おやおや、シェリーさんが来てしまったようですね。

 ルスラン副学園長を殺したところを見られてしまいましたが、良いのでしょうか?

 

「お義父様……?」

 

 ショックのあまり状況が理解出来ていないようですね。

 

「お義父様ぁ!!」

 

 漸く、状況が理解出来たようでルスラン副学園長の死体に寄り添い泣き叫ぶ。

 シャドウは去り際に少し振り向き、泣き叫ぶシェリーさんに視線を向ける。

 

「お前は何も知らなくていい……」

 

 彼なりの優しさでしょうか?

 そんなに彼女を気遣うとは、私が思っているより特別な存在なのでしょうか?

 

「行くぞ」

「ええ」

 

 シャドウに返事をして彼の跡を追って飛び下りる。

 

 

 学園は事件で半焼したため、そのまま休校で夏休みになりました。




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