狂った道化になりたくて!   作:道化A

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聖地の聖域で

 学園が半焼で前倒しで夏休みになり、アルファから暇なら聖地に来て欲しいと手紙が来たので聖地リンドブルムに来た。

 この世界で一番大きい宗教である『聖教』の聖地で、英雄オリヴィエが魔人ディアボロスの左腕を切り落とし封印したとされる場所。

 今回、アルファが私を呼んだ理由は聖地の秘密でも暴くつもりなのかな。

 アルファ達も強くなったけど、魔力制御はまだまだだしね。

 まあ、実際に何をするつもりなのかはまだ聞いてないから、彼女達と合流するまでは女神の試練でも見て暇を潰していようかな。

 

「おや?」

 

 暇だったので町中を歩いていると、シドを見つけた。

 最初はシドもアルファに呼ばれたのかと思ったけれど、ローズ王女とデートしているような雰囲気だったので違うのかもしれない。

 まさか、ローズ王女からも好意を向けられているとは、彼は本当にモテますね。

 それにローズ王女もかなりグイグイ行くタイプの様ですし、修羅場は思ったより近いかもしれませんね。

 まあ、血みどろの修羅場になっても彼なら死ぬことなく平然としているでしょう。

 

 二人の邪魔をする気も特になかったので、違うところ道に行く。

 ナツメ・カフカとしてサイン会をしているベータも見かけたが、こちらも声を掛けずに露店をひやかしに行く。

 特にすることもなく、聖地を散策して一日を過ごした。

 そこそこにいい宿を取って、その日はゆっくりと過ごす。

 

 

 

 女神の試練の前夜祭の夜に聖地を散歩しながら様子を見る。

 アルファに呼ばれたのだけれど、アルファ達からの接触が全くないままなので作戦が全く分からない。

 シャドウと違って私はアルファ達の作戦が読めるわけではないから、出来れば教えて欲しいのだけどね。

 

「私は好きに動けということなのでしょうか?」

 

 露店で適当なものを買って歩きながら食べる。

 しばらく散歩しているけれど、結局接触して来なかったので諦めて帰ろうとした時。

 

「ジョーカー様!」

 

 周りに人が居るのもお構いなしにジョーカーと呼ぶ声にため息をつく。

 気配を消して私を呼んだ声の方に行けば、デルタが嬉しそうに尻尾を振っていた。

 街中でジョーカーと呼ばれながら飛びつかれなかっただけましか。

 

「デルタが作戦の報告をしに来たの?」

「違うのです。デルタはジョーカー様を見つけて、声を掛けただけなのです」

 

 やっぱり、デルタに作戦の報告を頼むわけないか。

 デルタに露店で買った焼き鳥を上げれば嬉しそうに食べ始める。

 接触して来たのがデルタ以外なら、作戦を聞いてどうするか決められたんだけど……

 さて、どうしたものかな。

 

「今回はジョーカー様も動くのですか?」

「そうだね。どうしようか今考えているところだよ」

 

 焼き鳥を食べながら話しかけて来るデルタに返事をしながら、どう動くかを考える。

 女神の試練に殴りこんで襲ってくる敵を全滅させるのが楽ではあるのだけど、面白みが全くない。

 それにアルファ達の邪魔にしかならないだろうし、どうしたものかな。

 動き方を考えながら、何となく隣で焼き鳥を美味しそうに食べているデルタを見て良いことを思いついた。

 

「デルタ、頼みがあるんだけど」

「デルタに頼みなのです?」

 

 首を傾げるデルタに微笑みながら内容を伝える。

 

 

 

三人称side

 

 例年通りに開催された女神の試練は何事もなく進んでいた。

 

「次はミドガル魔剣士学園からの挑戦者、シド・カゲノー!!」

 

 名前が呼ばれてもなかなか姿を現さないシドに観客が怖気づいたのかと思っていた時、暗くなり始めていた空を紫色の光が照らす。

 会場にいた全ての者がその光に視線を向け、何事もなく消える光を不思議に思いながら視線を会場に戻した時、黒いロングコートに顔を仮面で隠した男が立っていた。

 

「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者」

 

 突然の乱入者に観客がどよめく。

 

「聖域に眠りし古代の記憶を、今宵我らが解き放つ」

 

 シャドウに女神の試練が反応し、一人の女性が姿を現した。

 長い黒髪に鮮やかなヴァイオレットの瞳、黒いローブは薄く、中に着る深い紫のドレスと白い肌が透けている。

 召喚されたのは、災厄の魔女アウロラ。

 かつて世界に混乱と破壊を招いた最強の魔女。

 

 アウロラは自由自在に形を変える無数の赤い槍でシャドウを攻める。

 シャドウは迫りくる無数の赤い槍を全て躱し、弾き、防いで見せる。

 そして赤い槍による攻撃を最小限の動きで躱し、アウロラとの間合いを詰めたシャドウの一太刀で決着はついた。

 アウロラはシャドウの一太刀に倒れ、シャドウはすぐにどこかへと飛び去った。

 観客が唖然としている中、会場を赤い光が包み込む。

 会場の中心に突如現れた赤い光で出来た扉に観客が戸惑っていると、大司教代理のネルソンの指示で女神の試練は中止され観客は会場の外に出された。

 来賓も順に席を立ち会場の外に案内されていく。

 

「皆様にも退出お願いします」

 

 来賓として来ていたローズ王女、アレクシア王女、小説家のナツメ・カフカにもネルソンが声を掛けた。

 その瞬間にローズ王女とアレクシア王女は剣を抜き構える。

 

「一体何を……」

 

 二人の行動にネルソンが狼狽え彼女達の視線の先を見れば、いつの間にか周囲は黒ずくめの集団に囲まれていた。

 ローズ王女とアレクシア王女でさえ直前まで気配すら察知できなかったのだ。

 

「き、貴様ら……まさか、シャドウガーデンか」

「悪いけれど扉が閉まるまでの間、いい子にしていてね、お嬢様方。後は任せるわ」

「了解しました、アルファ様」

「待て、聖域に入るんじゃない!」

 

 アルファと呼ばれた女性は、ネルソンの叫び声を無視して数人の仲間を引き連れて光の扉の中に姿を消した。

 その後、ネルソンもイプシロンと呼ばれた女性に無理矢理扉の中に連れていかれた。

 ナツメもシャドウガーデンに扉の中に連れていかれた後、閉じていく扉にアレクシア王女とローズ王女が飛び込んだ。

 アレクシア王女とローズ王女を最後に聖域への扉は閉じ、消えてなくなる。

 

 

 

 彼女達は聖域に眠る記憶で歴史の闇に葬られた真実を見た。

 教団が行ってきた身寄りのない子供達を使った悲惨な人体実験。

 魔人ディアボロスを討ち取った英雄が人体実験でディアボロスの力に適合した被験者であったこと。

 そして魔人ディアボロスの細胞を使った不老不死の薬の研究。

 

「当事者の貴方になら素敵なお話が聞けそうね。この薬の名前は?」

 

 アルファは聖域の記憶とよく似た姿をしているネルソンに薬の名前を問いかける。

 

「『ディアボロスの雫』だ」

「ありがとう。でも、この薬は二つの大きな欠点を抱えていた」

「欠点ですか?」

「そのくらいなら見てて分かったわ。過去のこいつには髪がある、でも今のこいつには」

「違う、違うわ!」

 

 ネルソンはアレクシア王女の推測を叫んで否定する。

 

「髪が抜けたのはストレスのせいだ!」

 

 ネルソンは怒りながらおそらく教団の者に対する愚痴を言い始めた。

 アルファはネルソンを無視して欠点の話に戻す。

 

「欠点の一つは、定期的に摂取しなければ効果を失うということ、一年に一度といったところかしら」

「その通りだ」

「二つ目はごく少量しか生産できないこと、一年で」

「12滴だ」

「そういえば、教団の最高幹部ナイツ・オブ・ラウンズの数も12人だったわね。偶然かしら」

 

 ネルソンは俯いたままアルファの問いに答えない。

 

「教団は『ディアボロスの雫』を未だ完全なものに出来ていない。完成の鍵と見ているのは封印された魔人の身体と英雄の子孫。そう、私のような英雄の血を色濃く受け継いだ者。そうよね、第11席殿」

「教団では誰もがその雫から得られる力と永遠の命を求める。いかにも、私はナイツ・オブ・ラウンズの第11席『強欲』のネルソン」

 

 ネルソンが名乗り、顔を上げれば瞳が赤く輝いた。

 その瞬間、ネルソンは背後にいたデルタに心臓を漆黒の剣で貫かれ、ゴミのように投げ捨てられた。

 

「デルタ、殺すのは情報を全て聞き出した後と言われていたでしょう」

 

 デルタの隣にいたイプシロンの言葉に、デルタは慌ててアルファに言い訳を始める。

 

「すみませんアルファ様。でもデルタ、あいつは狩った方がいいと思ったのです」

「黙りなさい」

 

 アルファの言葉にデルタは口を押えた。

 

「それといつも言っているでしょう。獲物を仕留めたかはちゃんと確認しなさい」

 

 ネルソンの死体が起き上がり、ネルソンを中心に空間が鏡のように割れる。

 ネルソンとアルファ、デルタ、ナツメ、アレクシア王女、ローズ王女の6人が何もない白い空間に閉じ込められた。

 

「分断された。これも聖域の防衛システムというわけね」

 

 アルファが大剣を持ったネルソンに視線を向ければ、ネルソンは何十という数に増えていく。

 

「聖域は我らの領域、教団に牙を向けたことをその身で悔いるがよい」

 

 デルタはネルソンの言葉に獣のように吠え、血を蹴り増えたネルソンに駆けて漆黒の剣で数人のネルソンを斬り裂く。

 ネルソンはそれを気にせず、デルタに大剣で斬りかかるが逆に斬り捨てられる。

 しかし、デルタが纏うスライムボディスーツの一部が歪んだことで、ネルソンから距離を取る。

 

「何かおかしいです」

「なるほど」

「聖域の中心に近づくほど、貴様らは力を失う。誘い込まれていることに気付かなかったのか?」

「貴方は逆に中心に近づくほど力を得る」

「もう少し近づいてから仕掛けたかったが、この辺りでも十分だろう」

 

 デルタが倒したネルソンが何事も無かったかのように傷を治して立ち上がる。

 それを見てデルタが獰猛な笑みを浮かべるが、獣人特有の獣耳と尻尾の形がわずかに崩れる。

 スライムで出来ていない体の一部の形が崩れたことでアルファが目を見開く。

 

「デルタ?」

「おや?これは、魔力を偽装したままだと、変装を維持できないか」

 

 デルタはアルファの問いに答えるでもなく、先ほどまでとは全く違う口調で状況の確認をする。

 

「まさか!?」

 

 同じ空間に居るアレクシア王女達はなにが起きているか理解できていないが、アルファはデルタの状況に思い当たることがあった。

 アルファの予想が正しいというかのように、デルタの姿は完全に崩れて漆黒の球体に変わる。

 漆黒の球体は少しずつ人型に変わっていき、漆黒の燕尾服に同じく漆黒の外套を纏い、顔の上半分を仮面で隠した姿へと変わる。

 

「な!?」

「ジョーカー……」

「やあ、アルファ。最後まで気づいて貰えないのかと、少し心配だったよ」

「デルタはどうしたの?」

 

 いきなり敵が姿を変えたことにネルソンが驚きの声を上げるが、そんなことはどうでもいいとばかりにアルファがジョーカーに真剣な顔で問いかける。

 

「彼女には別の用事を頼んだよ。用事が終われば隠れ家に帰るように言ってあるから大丈夫さ」

「どうしてこんなことを?」

「私は道化だからね。思いつきによる気まぐれさ」

 

 味方を騙していたというのに、悪びれもなく微笑みながら語るジョーカーにアルファはため息をつく。

 

「わざわざデルタに変装していたということは、デルタの代わりに戦ってくれると考えて良いのよね」

「当然、戦力を減らしたんだから、きっちり働くよ」

 

 ジョーカーは視線をアルファからネルソンに向ける。

 武器も持たず動こうともしないジョーカーにネルソンは話しかける。

 

「まさか世間を騒がせているふざけた盗賊が、シャドウガーデンの仲間だったとはな」

「ふざけた盗賊とは酷いね。私はシャドウガーデンNo.2のジョーカー、ただの狂った道化さ」

「No.2だと!?」

 

 ネルソンだけでなく、アレクシア王女やローズ王女も驚きの声を上げる。

 ジョーカーと言えば、愉快犯として世界中を騒がせる指名手配犯。

 これまで貴族や商会からお金を盗み、各国の王城の警備を軽々と突破して何もせずに帰るなど、目的を含めて何もかもが謎に包まれていた存在だ。

 それが、シャドウガーデンに所属しNo.2であるというのだから、驚かないわけがない。

 

「それでは遊びを再開しようか、ネルソン君」

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