明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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第九十七話 降臨

カズデル 某所

 

 

 サルカズの故郷、カズデル。千を超える滅亡と復興を繰り返した都市は、今や移動都市となってテラの大地の片隅にひっそりと居を構えている。

 

 その中心には巨大な炉が突き立ち、燃え盛る炎の灰が時折その足元に舞っている。

 それを煩わしく見上げながら、都市の住人は忙しなく動き回っていた。

 

 そこに数年前の静寂はない。服装はみすぼらしい者も多く、荒々しい怒号が時折街道に響く。身寄りがないのだろうサルカズの子どもが、店先からくすねた野菜にかぶりつきながら走り回る。そんな光景が日常のものとして道行く人々から受け入れられている時点で治安は察することが出来るだろう。

 

 しかし、そこには生に対する諦めはもはや漂っていなかった。

 誰もが生きたいと、意地汚くも懸命に足掻く彼らの奏でる生活音には自然と不快さは感じられない。

 

「お~いマドロック! 次はこっちだ!」

「待っていろ、今向かう!」

 

 その中でも一際騒がしい一画では、マドロックが他のサルカズ達とともに作業に追われていた。

 彼女の操る石像が巨大な柱を腕で支える。それを起点として、槌と釘の束を持ったサルカズが次々と他の木材と繋ぎ合わせていく。その下を見れば、地上では何人かの術師がアーツを駆使して彼らのサポートを行っている。

 彼らの阿吽の呼吸によって、いつの間にかそこには一端の平屋建ての基礎構造が出来上がっていた。

 

「石レンガを積んで固めれば今日の分は終わりだ。休憩にしよう」

「分かりました。皆んな~、休憩で~す!」

 

 マドロックの指示を受け、部下が威勢よく返事する。

 サルカズの傭兵が下で待っていた術師から飲み物の入ったボトルを受け取る。力仕事終わりの一杯は格別のようで、一気に飲み干した彼らは思わず喉を唸らせる。

 

「かぁあああ! やっぱ冷えた水はうめえ!」

 

 喉を潤す爽やかさ。僅かに果汁を混ぜたそれは、汗をかいた肉体の隅々にまで行き渡る。

 惜しみない感想を浴びて、1人の術師が頬を掻く。それは彼女が偶然思いついたものだった。カズデルは土地が悪く飲み水として使える清水は少ない。だがリターニアでアーツ理論を学んでいた彼女にかかれば清潔な水の生成は決して難易度の高いものではなく、温度調整もアーツを駆使すれば可能だ。リターニア人としての凝り性も発揮され、味の追及も為された結果今では力仕事の度に是非にとお願いされるほどだった。

 

「それにしても、流石隊長だな。よっ、土石の仔!」

「止してくれ。私は白亜の城壁を造った覚えはないぞ?」

「こうやって数時間で丈夫な家を造れるだけでもすごいと思いますが…」

 

 調子に乗って煽てる若いサルカズ傭兵。謙遜するマドロックだったが、それもボトルを配り終わり自分も一息吐きに来たエラフィアの術師によってマドロックも大概だと諭される。

 

 ヴィクトリアの戦争が終わり、再びこの地で復興しようと集ったサルカズ達。その一助になれればと、マドロックは自らカズデルに向かった。それはマドロックの中にあった、サルカズには珍しい平凡な優しさの発露であり、レユニオンで発覚した自分の血脈との彼女なりの向き合い方だった。

 一度も訪れた事はなかった、サルカズの故郷。どんな所かと想像した彼女の前に広がっていたのは、あばら家と言う事すら憚られる廃墟の列と、そこに住まうサルカズの希望を失った顔。衣、食、住。その全てに欠く人未満の生活が彼らから何もかもを奪っているのは明白だった。だからこそ、マドロックは彼らに真っ当な居場所を与えてやる事を決めた。

 貴重な木材は出来るだけ使わず、かつ長く使えて耐久力を持たせるために壁は石レンガに。街道は雨の日も問題なく使えるように一面の石畳に。幸い資材については文字通り地面に埋まる程眠っているのだ。マドロックのアーツを使えば、邪魔な大岩も石レンガの山に早変わり、アーツで補強してやれば近くで源石爆弾が炸裂しても崩れない丈夫な壁を造れる。かつて、マドロックの先祖である土石の仔らはカズデルを囲む白亜の城壁を魔王に捧げたというが、マドロックは彼らに頑丈な家を与えたのだ。

 

 そんなマドロックの周囲には、いつの間にかレユニオンの部下達が集まっていた。

 その種族はバラバラ。その半数近くは彼女がレユニオンに合流する前から知っていたサルカズ傭兵だったが、中にはエラフィアやキャプリニー、ペッローもいた。リターニアのアーツを学んだ伝手で知り合ったリターニア出身の彼らは、皆が優秀な術師でありこの小隊になくてはならない存在だった。少なくとも彼らが居なければ、彼らは汗だくのまま質の悪い薄めた酒を奪い合う事になっていたことだろう。

 仕事終わりの、和気藹々とした時間がゆったりと流れる。彼らの間に壁なんて呼べるものは疾うになく、その腕にはレユニオンの証である腕章が巻かれていた。同僚と呼ぶには少し近い、大所帯の家族のような、それこそあのスノーデビル小隊のような温かさの中心に、マドロックはいた。

 

「ここ最近、私達もようやくカズデルの住民に受け入れられてきたようですね」

 

 周囲を見渡して、キャプリニーの術師が笑顔を見せる。この活動を始めた当初は懐疑的な目で見られることはままあった。複数の種族が協力していたこともあり、敵を見るような視線が日中夜突き刺さり落ち着かない時もあった。しかし今ではかなり好意的に受け入れられているのが肌で分かる。今も剥き出しの基礎構造を浮浪児たちがポカンと見上げはしゃいでいた。

 

「お人好しの隊長がタダで屋根付きの家を造ってくれるんだ。金取るだろふつう」

「ここの住民は、明日食べる物にすら困っている状況だ。先行きの無い未来への不安は、彼らから自由と優しさを奪い取る。だからせめて、心の拠り所となる家があれば、その心もいくらか和らぐだろう」

「それでここ数ヶ月ロクな休日もなしで家を建ててるって? いくら何でもお人好し過ぎだろ」

「不公平は争いを生む。せっかく造ったものが争いの種になってしまってはいけないからな。彼らの辛抱が続くうちにやり遂げておきたい」

 

 マドロックはレユニオンで、己の優しさの使い方を学んだ。幸いこういった仕事には詳しい先達がいたのだ。自分の優しさを肯定し、それを貫くための術を授けてくれた彼から学んだことは多い。支援を施す側と受け取る側、その両方に起こるであろう問題とその対策法も、以前彼が実体験とともに話してくれた事だった。

 

「それに、お人好しというのは少し違うぞ?」

「ハッ! お前ら、敵にすら情けをかける隊長サマがまた何か言い出したぞ」

 

 自分はお人好しなどではないと、そう宣うマドロックが可笑しくてサルカズの1人が笑う。だがマドロックは、至極当たり前のように告げた。

 

「これくらいの善性なら、皆の心にも宿っている。今はまだ余裕がないだけだ。だがこの活動が終わった頃には、それらは固い土を押しのけその芽を開かせるだろう。私はそれが見たくて手を貸しているに過ぎない」

 

 それを聞き、部下達は一斉にため息を漏らす。

 

 レユニオンのマドロック小隊として部下の命を預かるようになってからも、彼女は自らのことを驕ることなく励んでいる。それが行き過ぎて自己評価はやや低いままだが、そんなところを含めて彼女の部下は皆隊長であるマドロックを慕っていた。

 ここ最近は住民からも受け入れられ始め、土石の仔の再来と慣れぬ賛辞に言葉を詰まらせているのだ。ボディスーツの奥に隠された赤面顔を拝んでやるのが、彼らの密かな目標となりつつあった。

 

 

「精が出ますね、皆さん」

 

 そこに凛とした声が投げかけられる。

 マドロックが振り返ると、そこには見覚えのある白角のサルカズが立っていた。

 

「シャイニング。久しぶりだな」

「ええ。小隊の皆さんもお元気そうで何よりです」

 

 穏やかな笑顔で挨拶を交わした両者は近況報告もそこそこにここを訪ねた理由を問う。

 

「どうしてここに? 何か聴罪師のことで進展があったのか?」

 

 イグナス生存の可能性は既に知らされていた。その復活の手掛かりを探そうと、シャイニングはかの館で調査をしているはずだった。

 

「いえ、今回私はロドスからのメッセンジャーとしてこちらに来ています」

「ロドスからの?」

 

 聞けば、ロドス本艦でなにやらきな臭い動きがあるようだった。度重なるPRTSの不調、鉱石病の症状の変化、それらは全て1つの可能性に収束する。

 

「つまり、アーミヤが言っていた()()が、復活する前兆かもしれないと?」

「ええ。その可能性は高いでしょう」

 

 イグナスが今際の際に忠告した、プリースティスなる存在。ドクターやアーミヤの話から、それは源石の創造主であり、この大地全てを源石で覆うため今もどこかで眠り続けているという。

 そんな存在が目覚める。少なくとも穏便にはいかないだろう。シャイニングの話では既にオペレーターや機材の分散の計画が進み、ロドス本艦も有事に備え待機状態らしい。

 

「この後は、彼女の元に伺う予定です」

 

 そうしてシャイニングは、遠くに聳える塔を見上げた。

 それは、文字通り今のカズデルの中心にあった。

 

 

 

「それで、このあたしに話が回ってきたわけ?」

「はい。そちらで管理しているアナンナに何か変化が無いかと」

「ぜ~んぜん。ぴかぴか赤色に光ってるだけよ」

 

 生まれ変わるカズデルの中心地。今後の方針が決定されるバベルのための執務室にて、シャイニングは赤角のサルカズと向き合っていた。

 

 彼女、W改めウィシャデルは中空に浮かぶ鮮紅色の源石を胡乱な目で眺める。議長としてその管理も担っている彼女の眼には、特段異変らしいものは見受けられなかった。

 それでもロドスの方では前兆らしきものが確認されている現状、警戒するに越したことはない。中々消える事の無い頭の中のやるべき事リストに、ウィシャデルはまた1つ厄介ごとを付け足した。

 

「まあいいわ。変化があったらそっちに遣いを送るわ。あんたはさっさとあのバカを叩き起こす方法を見つけなさい」

「ありがとうございます。カズデル復興で忙しいでしょうに」

「別に大したことじゃないわ。それにぽっくり逝ったあのバカには言ってやりたいことが山ほどあるのよ」

「ふふ、そうですね」

 

 何を嬉しそうに微笑んでいるのか。勘違いされては御免だとちっ、と舌打ちをする。

 

 あれ以来、レユニオンはそれはもう大変な目に遭ったのだ。その尻拭いをそれなりにやらされた身として、ウィシャデルは押し付けて来た張本人に直接言ってやりたいと考えていた。頭の中を怒りで満たしながらも、その口元が自然と笑みを浮かべているのを彼女は知らない。知っているのは、これまでの付き合いで彼女の人となりを知り少なくない信頼を寄せているシャイニングのみ。だからこそ、シャイニングは微笑ましさを抑えきれないでいた。

 

 さて、どんな拷問をしてやろうか。騒がしい老人共で場の温まった炉に置き去りにしてやるか、それともテレジアから授かったこの偉大な名前をカズデルの外壁が埋まるくらい刻ませてやろうか。

 そんな事を考えていると、執務室の扉が叩かれる。

 

「議長。よろしいでしょうか?」

 

 その慇懃な態度と堅物な声音を聞けば、扉越しでも相手は分かる。ぞんざいに了承の意を伝えれば、静かに開かれた扉の先で金髪のサルカズが恭しく腰を曲げていた。

 

 彼、マンフレッドはかつてカズデル軍事委員会の将軍としてテレシスに仕えていた男であり、現在は紆余曲折を経てウィシャデル預かりの元その小間使い染みた事をしている。

 彼は先客がいるとは思わなかったのか、シャイニングの方を見て思わずぎょっとした。

 

「何? また堅苦しい“諫言”なんて言い出したら吹っ飛ばすわよ?」

 

 自由奔放なウィシャデルと規律にうるさいマンフレッド。当然反りが合うはずもなく、ストレートに罵声を浴びせるウィシャデルにしばらくしてマンフレッドが折れるというのがいつもの流れだった。

 しかし、そんな彼の様子がおかしい。いつもならばサルカズを導く者として相応しい言動をなどと小言が続くはずなのだが、今日はいつになく静かだ。しかもその視線はちらちらとシャイニングの方を気にしている。その落ち着かなさは、なにかやましい事があったときにそれを報告しようとするパプリカのそれだった。

 

「あんた、そんな顔もできたのね」

「…正直、どうお話してよいものかと…」

「煮え切らないわね。さっさと話して。これでもあたし議長サマになったから忙しいのよ」

 

 テレジアの理想通り、多くのサルカズを救うため、事実上の敗戦国となったカズデルを立て直す新たな長となったウィシャデルではあったが、その過程は必ずしも自分の理想通りとはいかなかった。

 窮屈な肩書きを背負い、慣れぬ腹芸まで身に着けて、各国の腹黒狸どもを相手するのは骨が折れるのだ。一体何度、その場で懐に隠した爆弾を炸裂させてしまえば済むのにと思った事か。

 

 思い出しただけで徐々に募っていく苛立ちを察し、マンフレッドは意を決して話を持ち掛けた。

 

「ウィシャデル議長に、お会いしたいという方がいらっしゃいます」

「ふ~ん。このくそ忙しい時にあたしの時間を貰おうなんて、どんな面した奴なのかしら」

 

 瞳を爛々と輝かせ、扉の向こうに視線を遣るウィシャデル。程なくして襤褸に包まれた謎の人物が1人、扉を通って執務室に入ってくる。

 その正体は一見伺えない。だがカズデルの最高権力者の前でなおその正体を明かさない不遜な態度と堂々とした立ち振る舞いに只ものではない事は察せられた。

 

 その男、おそらく歩幅や体格からして男だろう、はフードに手を伸ばし、顔を露にした。

 

 

「……あんたっ!!?」

 

 

 正体を現したそいつに、ウィシャデルは目をこれまでにないほど見開いた。

 

 

 

 

 そんな一幕から、しばしの時が過ぎた。

 

 ロドス・アイランド号にて、事態はいよいよ深刻さを増してきていた。

 PRTSの吐き出すエラーはいよいよ日々の業務にすら支障をきたす場面が目立ち始め、幹部勢はロドス・アイランド号の主要な機材、人員を各国に置いたロドス事務所に分散させた。

 今現在ロドスに駐在しているのは、万が一の場合に対応できるよう集めたほぼ全員のエリートオペレーター達に加え、一部のオペレーターとドクター達幹部。そして最低限の運用に必要だった非戦闘員くらいだった。人通りに賑わっていた通路も、今や空調の音がどこか空しく通り過ぎるのみ。

 

 そんな、ある日の出来事。

 

 

 変化は突然だった。

 

 ロドス・アイランドが()()()()。そうとしか形容できない、劇的な変化がドクター達を襲った。

 ロドス内のシステムが一気にダウンし、いくつかの照明が消えた暗闇に紛れるように源石結晶体がいくつも姿を現した。それらは亡くなったはずの誰かを模しながら、幽鬼のように通路を徘徊しオペレーター達を襲い始めた。

 制御を失った船内の構造が組み替えられ、艦内は生きた迷宮と化す。過去の亡霊が闊歩するそこで、通信機器は軒並み使い物にならなくなった。

 

 それらは全て、ロドスの最奥、Abyssと呼ばれる場所を起点として発生していた。

 混乱の最中、それぞれが目の前の障害に対処する。通信が復旧しない今、他のオペレーターと合流し連携しなければジリ貧だ。

 そんな状況を、ケルシーが覆す。

 

『私は一足先にAbyssに辿り着いた。現在、PRTSシステムに干渉し制御権を奪い返そうと試みている。私が君達の目となる。RadianとMantraは私の信号を辿り、Abyssを目指せ』

 

 ケルシーの声がロドス内の全オペレーターの頭に響く。その声に従い、彼らは暴走した機械や源石結晶体を退けながらAbyssの前に辿り着いた。奇しくも、そこはかつてテレジアとケルシーが記憶を失う前のドクターを石棺の眠りから起こした場所だった。

 

 そこは、白い空間だった。傷一つなくどこか現実味の無い、無色の壁。そして天から垂れ下がる未知の構造体。不気味な静寂が、合流したドクター達を待ち構えていた。

 

「ケルシー、大丈夫か?」

「ああ、気にすることはない」

「だが」

 

 PRTSの制御を奪い返すため、かつてドクターが眠っていた石棺に潜っていたケルシーは極度に疲労していた。これまでにないほど弱々しい指先を掴みながら、ドクターは何とかケルシーを立ち上がらせる。

 

「それより、ここからが本番だ。Abyssの扉を開くことは君にしかできない」

 

 ケルシーがドクターの支えから逃れ、彼を見上げる。その瞳は己の責務を果たせと雄弁に語っていた。それに渋々、ドクターは手を離す。

 ドクターの記憶にここに関するものはない。それでも、その方法は自然と頭に浮かび上がった。

 

 ドクターが壁面に触れる。それだけでAbyssはさらに流動し、壁面に一筋の亀裂が生まれた。

 

 それを見て、ドクターとケルシーが背後を振り返る。そこにはアーミヤを始め、タルラやフロストノヴァ、そしてエリートオペレーター達が控えていた。皆が首肯する。既に突撃の準備は整っている。

 それを受け、ケルシーは声を張り上げた。

 

「作戦目標はAbyss深奥にある石棺の停止。及びその中に眠る個体名「プリースティス」の排除だ。もし彼女が目覚めていた場合、躊躇わず全力かつ最速で排除しろ!」

 

 居並ぶ歴戦の仲間達。その頼もしさに背を押され、ドクターは先陣を切る。

 

「皆んな、行こう」

 

 そうしてドクターは、亀裂に足を踏み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―待っていたわ。

「「「!!!」」」

 

 

 

 そんな声が聞こえた。

 

 次の瞬間。気が付けばドクターは別の空間に飛ばされていた。ロドス艦の中にいたはずが、上は暗雲に覆われ、足元は所々を源石クラスターに覆われた鋼鉄の床に変わっている。時折風の音が聞こえることから、おそらくロドス艦の甲板の上だろう。

 

「ドクター、警戒してください」

「アスカロン達がいない。飛ばされたのは私達だけか」

 

 一緒に飛ばされていたアーミヤとケルシーが構える。反応する暇もなく、3人は他のオペレーター達から孤立させられていた。

 全身の肌が粟立っている。静寂の奥から、得体の知れない何かが覗いているような感覚が止まない。

 アーミヤ達はこの時点で、彼女が石棺で休眠したままだという希望的観測を捨てた。

 

 実際、それは正しい。

 アーミヤ達だけではない。テラの各地で似た現象が起こっていた。

 

 

 ラテラーノの地下深く。サンクタを統制する「法」は、繰り返しその危機の評価にエラーを吐き続けた。

 

 クルビアの、並ぶ石棺の前で。「保存者」はドクターとは違う同胞の気配を感じ取った。

 

 次元すら離れた「荒域」で独り、「巫王」の肌を不穏な風が撫ぜた。

 

 

 テラの大地が、遂に()()の到来を知る。

 その目前にいたドクター達は、あまりのスケールの大きさに唖然とするのみだった。

 

 

「あれは…」

 

 

 唐突に、空が割れた。

 

 天を覆う暗雲がくり抜かれたように排され、太陽の光が七色に分かたれる。

 

 鮮やかに、不自然に、ロドスを照らす極光に、アーミヤが言葉を失う。

 

 

 大量の源石粉塵が渦を巻き、結晶化した源石で黒に染まった甲板。

 天に向かってその手を伸ばしつづける源石結晶の先に、()()が舞い降りる。

 

 天と地、白と黒。

 その境界で佇む姿は、この世のものと思えない程美しく輝いている。

 

 それは、白い衣を纏っていた。

 

 その身体はテラの誰とも異なり、しかしドクターと同じ特徴をしていた。

 

 彼女は慈愛を秘めた冷たい眼差しでテラを見下ろす。

 そして、()を見つけた。

 

 

 星が滅び、人は永久の眠りにつき、気の遠くなるような時間の果てで、彼女は再び彼と見えた。

 

「プリースティス」

 

 彼に名を呼ばれるだけで、宇宙の暗闇に溶けた心臓でさえ、再び鼓動を始めるだろう。

 そんな感慨を浮かべながら、旧文明の科学者は口を開く。

 

「久しぶりね」

 

 そうやってプリースティスは、初めて人間らしい笑みを浮かべた。




Q:何でこんな登場がラスボスっぽいんですか?
A:「だって久しぶりの再会だもの。時空の果てまで残るような瞬間にしたいじゃない?」

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