かつて共に敵軍を打ち払った老兵達が刃を交える中。
俺は情けなくも五体投地する勢いで回避に全力を注いでいた。
(こんだけやって僅かに優勢でしかないとかマジでやべえなパトリオット!!)
今もへラグが軌道を逸らしてくれなかったら真っ二つになっていた。
急いでへラグの陰に隠れ隙を伺う。
目の前では既に人が出しているとは思えない剣速で何合もかち合っており、人工の暴風雨さながらだ。
戟と大太刀が重なる度、重い金属音と閃光と見紛う火花が辺りに散り、地の上に積もった雪を塵のように吹き飛ばす。
そこから何合かしてへラグの大太刀が大きく弾かれる。
その隙を突かんと戟を突き出すが、今度はそれをタルラが受け止めた。
それで吹き飛ばされないだけ如何に彼女の剣術が研ぎ澄まされているかが分かるが、体重差はどうにもできず体勢を崩される。
その決定的な隙を補うように、両者を隔てる氷柱が真上から飛来した。パトリオットはすぐさま盾を真上に構え防ぐ。
タルラは逆に攻勢を緩めず左手で抜き放ったレイピアを正面に向け、パトリオットとを隔てる氷柱ごとその炎で包み込む。
瞬く間に蒸発した水蒸気が辺りを覆う。全員が一呼吸入れる中、横に一閃が引かれた。
それだけで、パトリオットを中心に扇状に全てが薙ぎ払われた。タルラとヘラグが距離を取らされる。
霧が晴れた先には、無傷とはいかないながらも未だ万全のパトリオットが立っていた。
これだけやって肉体的な消耗が見られないってのは絶望するな。
だが。
(俺を見失ったな?)
辺りに立ち込める水蒸気で視界は最悪。
だが俺には見えてるぜ、パトリオット。
「その錆びついたでけえ器がな!!」
アーツを全開にしてそこ目掛けて振り下ろす。
今回は剣の腹なんかじゃない。剣の本懐、切り裂く覚悟で全振りする。
しかしその一撃はパトリオットの魂の表面、返り血等で薄汚れた表面を僅かに削るだけだった。
全力の一撃で薄皮一枚。あまりの差に涙が出そうだ。だがそれでいい。
「うっ」
パトリオットの体が一瞬とはいえ硬直する。当たり前だ。軽く揺らすだけで前後不覚に陥る魂の干渉、表面だけとはいえ斬られればそりゃ痛い。
むしろ一瞬で硬直を解いてくるパトリオットがおかしい、今も剣を振り切った俺にその戟を振り下ろさんと掲げた。
そこにタルラとヘラグがすぐさま距離を詰めスイッチする。
そこからはひたすらに消耗戦だった。
タルラとヘラグが距離を詰め圧をかけ、フロストノヴァはアーツを主体に牽制と補助。
そして隙を見て俺がちまちまアーツでパトリオットに一撃を加える。
それを何度も繰り返した。
タルラが鍔迫り合う自分ごとパトリオットを炎の渦に包む。パトリオットは強引に薙ぎ払い周囲のアーツすらもかき消した。吹き飛ばされながらも立ち上がろうとする彼女には、もはや剣を握る握力すらない。
ヘラグが目にも止まらぬ速さで剣撃を叩き込む。その全てを盾で受け止め、突き出された戟はヘラグの体を掠め幾つもの裂創を刻んでいる。
フロストノヴァがもはや数本の氷柱でパトリオットを狙う。仕掛けてあった源石結晶は全てパトリオットに砕かれたため、片膝をつきその数本を操るだけで精一杯だった。
全員が、既に満身創痍だった。
だがそれはパトリオットも同じ。
遂にパトリオットが膝をつく。戟を杖代わりに、盾はもはや持つことすらできず地面に横たわっている。
「終わりです、ミスター・パトリオット。貴方の負けです」
なんとか立ち上がりながら、タルラは告げた。
「私の、負けだと?」
「はい。これが私達の覚悟です。仲間を集い、ともに団結し、大きな障壁を乗り越える。それこそ、私達の未来を掴む術。それは今こうして、貴方という、ウルサスで一番大きな壁を越えました」
俺とタルラとフロストノヴァ、そしてヘラグ。4人合わせての辛勝だが勝ちは勝ちだ。
タルラがパトリオットを諭す。
「ずっと考えていました。貴方が南方遠征に反対する理由は、何か他にあるのではないか、と。未来とは過去の積み重ね。であれば貴方の懸念は全て貴方の過去の経験によるものでしょう」
ピクッと、パトリオットが身を震わせる。
「私達に足りないという現実への挫折が、血を伴った過去が、そしてそれらへの
タルラが諭す中、パトリオットは終始無言だった。
そしてようやく口を開いたとき、彼から滅多に感じない怒りを感じた。
「私に、捨てろと言うのか? 戦士の、死者の、思いを」
「違います、ミスター。捨てるのではありません。その思いを、私達にも背負わせてほしいのです」
「これは私が背負うべき後悔だ。逃げるわけには、いかない」
タルラの言葉をはっきりと拒絶する。
「やめれば、今までの全てが、意味を失くす」
「何故そこまで」
「父さん・・」
「ボジョカスティ・・」
俺達が出会う以前の彼を知る2人は、自ら背負うと言って譲らない彼にどう声を掛ければいいか分からなかった。
「私にもはや資格はない。誓いを破り、正しき道を歩めず、多くの同胞を死に追いやった。私には、君の言う未来は眩しすぎる」
そして再び、パトリオットは動き出す。
これだけやってるのに、まだパトリオットは歩みを止めない。
その身に纏う鎧は焼け焦げ、霜が降り、斬撃の跡が目立たない場所など見つけられない。
魂ですら少なくない傷を負っている。
それでもまだ、立ち上がる。
彼の背負ったものが、この戦いに負けることを許さない。
「さあ、私はまだ動けるぞ? 私を、打倒するのでは、なかったのか?」
タルラ達が構える、だが明らかに動きに精彩がない。
タルラは武器すら持てず、ヘラグは片腕で腹の出血を庇いながら大太刀を構える。フロストノヴァに至っては立ち上がることすらできていない。
俺ももうアーツを制御できないほど疲労困憊だ。アーツの多用のせいか視界がぼやけるし、剣もうまく形作れない。
それでも眼を凝らして彼の魂を視た。
彼のそれは自分が今まで視たことがないほどひどく揺れ動いていた。
そしてその輝きは、消えかけの蝋燭のようにひどく頼りない。
それが自分を押し潰しかねない後悔と、ほんの僅かな諦めを表していると理解したとき。
「てめえ、自分を勝手に見限ってんじゃねえぞ!!」
気づけば、声を荒げていた。
なにが資格がないだふざけやがって!
勝手に自分に失望して仲間になれねえとか抜かすな!
その説得の為にこちとら文字通り血反吐吐いてんだぞ。
なにより許せねえのは。
「なんで分からねえんだよ! あんたが背負うと決めた想いの中に、憎しみや恨み以外のものだってあっただろうが!!」
くそ、頭の堅い頑固爺が! 不器用すぎるんだよ!
突如沸騰した自分に、タルラもフロストノヴァもヘラグですら驚いていた。
「てめえに想いを託した奴らは、どんな言葉を残していった? 一生背負って苦しんでくれなんて言ったかよ!?」
『大尉、あなたは、ただし、い』
『ありが、とう』
『その時になって後悔しても遅いんだよ、父さん!』
『こんなにもあなたを愛しているんですもの―』
「愛してるって、幸せになってくれって! そう願ってた想いも、あんたは背負ってるんじゃないのかよ!!」
「だが、私は守れなかった」
足を引きずるようにこちらに近づく彼は、後悔していた。
「家族も、約束も、戦士たちも」
過去に取りこぼしたもの全てを想って、それを全て背負うと決めた。
そんな不器用な男に、こちらから歩み寄る。
「なら、今度こそ守れ!」
もう一度だけでいい。振り絞れ。
アーツを発動させる。
「背負ってた荷を降ろせだなんて口が裂けても言えねえよ。だったらせめて全部未来に運んで、多くのものを救ったんだって胸張って笑いやがれ!」
再び、アーツの剣を握りこむ。
どちらも間合いも何もあったもんじゃない。
ただ、意地だけが、俺達を突き動かしていた。
「背負うってんなら全部背負え。眩しいとか抜かすなグラサンでもかけてろ!」
両者ともに己の得物を振りかぶる。
「あんたが胸張って笑えるような景色まで」
そして
「俺達が連れてってやるからよぉ!!」
2つの影が交差した。
誰もが息を呑み、結末を見守っていた。
「そうか。こうなったか」
パトリオットが呟いた直後、俺の遥か後方に何かが落ちた。
地面に突き立ったそれは、柄の半ばから折れた、戟の先端だった。
パトリオットが今度こそ膝をつく。それを見下ろしながら、俺は短剣を腰に仕舞った。
「自分で振った衝撃で折れるとはね。武器の手入れはしっかりしとかないとな、おっさん」
「随分、口調が、悪くなった、な」
「あんたのせいだよ」
正直頭に血が昇ってて気づかなかったが、俺危うくバッサリいかれる所だったんじゃね?
俺のアーツの剣は物質に干渉できねえし。
遅まきながら気づいた命の危機に、荒ぶる呼吸を落ち着ける。
「私の、負けだな」
「いいや違うね」
完敗といった様子のパトリオットに、息も整わないままそう返す。
俺の返しが意外だったのか、珍しく呆然としたように見上げるパトリオット。
「
そう言って右手を差し出す。
これから俺達は本当の意味で同志になるんだ。
ならこの勝負に
「ふ、そうか」
あ、今笑った。
とんでもないレア映像に固まっていると、パトリオットが右手を掴み立ち上がる。
だが、俺が固まっていたのに加え安心したのか力が抜ける。
その結果、2人まとめて雪のカーペットにダイブすることになった。
「頼りない男だ」
「うるさい、重すぎるんだよダイエットでもしろ」
悪態をつきあう俺達。だがそれすらもどこか心地よかった。
・・・それに、いいこともあったらしい。
「見ろよおっさん」
「なんだ?」
「案外、この世界も単純みたいだぜ」
そう言って俺は上を指さす。
そこには、一面の青空が広がっていた。
雪か曇りばかりのウルサスでは珍しい、青天井。
「なあ、こういう景色。もっと見たくないか?」
横で寝そべる彼の顔は見ない。なんとなく、無粋な気がした。
しばらくパトリオットは何も言わなかった。
「・・・確かに、よいものだな」
それでも、ポツリと呟いた声は彼からは想像もできないほど穏やかなものだった。
一区切りということで一文載せました。
ご覧にならなくても本編には一切影響はありません。
本編だけ読みたいよという方、作者の頭の中知りたくないよという方は
読み飛ばしちゃってください。
なんとかここまで書くことができました。
普段から読んでいただいている皆様。
感想を書いてくださる皆様。
いつも本当にありがとうございます。
この回は自分でもかなり悩みました。
書きたい話であったのと同時に、どうすればパトリオットを説得できるか、これが難しかったからです。
思うに、パトリオットは後悔を自分で背負うことに誇りを感じていたのではないかと個人的には思っています。
彼は典型的な軍人ですし、チェルノボーグ事変ではレユニオンの中でも例外的に厳格な規律を遵守し市民の救助を行うなど、命に対する責任感が強いです。
だからこそ、アーミヤ達の「もう戦わなくていい」という言葉には最後まで耳を傾けなかったんだと思っています。
だからこそ、イグナスは「全部背負え」と言いました。後悔を自分で背負いつつも、背負ってどこに『一緒に向かうのか』を示しました。
これからもこのお話を楽しんでいただければ幸いです。
PS.
皆さんが大変気にされてらっしゃるあのタグについてですが、ご安心ください。
私はハッピーエンド大好き侍です。
・・・それと話は変わりますが。
スイカやトマトに塩かけると甘味が引き立ちますよね。
自分も食べるときはよくそうしてます。