アークナイツとは俺の前世で大人気だったソシャゲだ。
ある日記憶喪失の状態で救出された主人公、ドクターはその天才的な頭脳と指揮能力を使い製薬会社ロドスの仲間とともにテロリストや社会の闇と戦っていく、大まかにいうとそんな重厚感溢れるストーリーだ。
俺もそのストーリーの重厚さとタワーディフェンスならではの指揮操作の難易度にどハマりし、多くの金と時間を注ぎ続けたドクターの一人だった。
だけどその世界に転生したいか、と聞かれればそれは断じてノー。
キャラもよし、バトルもよし、ストーリーもよしの世界に転生できて万々歳、そうはいかないのがこのアークナイツの世界、テラの大地である。
なぜならこのゲーム、ストーリーが重厚すぎる!!
メインストーリーでは容赦なく立ち絵のあるメインキャラが死んでいくし、テロや戦争で一般市民も容赦なく虐殺されている。サブストーリーですらほぼ毎回死人が出ている始末だ。
人の生き死にだけじゃない、人種や、この世界特有の物質である
何よりそれらの原因の多くを占めている鉱石病は今の所進行と症状を和らげることしかできない不治の病だし、その原因物質となる源石はほぼ万能と言えるエネルギー資源なせいで手放すことはできない。
そもそもこの世界には源石によって引き起こされる天災と呼ばれる大規模な自然災害が度々発生しており土地への定住は難しい。
テラの人々はそれを土地ごと動かせるようにすればいいんじゃね、というなんともファンキーでロックな力技で解決し、以来多くの人は移動都市と呼ばれる超大規模な移動型構造物の上で暮らしている。
ただし、その動力に使われているのは先ほどの源石を用いる源石エンジンである。
源石から逃げるために源石を利用しないといけないとかもうバグだろ、、
そんなわけで、不治の病の感染源となる彼ら感染者は大なり小なり差別の対象なのだ。
「あんたら、そのぐらいにしときなよ。」
屋根から降りてリンチの現場に降り立った。一斉に血走った目で振り向かれると流石に怖い。
「なんだお前は。こいつの仲間か?」
「そんなんじゃないよ。」
辺りには投げられたゴミや石が転がっている。その中心で息も絶え絶えになっている男に目線を向ける。
「面白そうなことしてたからさ。そんな人囲ってリンチして何が楽しいんだか。」
「なんだと?」
「だって感染するかもしれないんだろう。そんな奴の近くにわざわざ近寄って、お前も感染しているんじゃないのか?」
俺が投げかけた言葉に慌てる男。周りも今までの攻撃的な空気がなりをひそめ動揺が広がっている。
「そんなわけないだろうっ!!言いがかりだ!」
「でもそれを証明できるのか?ちょうどいい。それに詳しい人たちがもうすぐ来る。」
後ろを振り返りつつ言う。何処かから複数人が雪を踏みしめる足音が聞こえる。それも少しずつ大きくなって。
「感染者監視隊なら呼んでおいたよ。彼らは仕事熱心だからね。」
「てめえ!!」
「おいほっとけ、逃げるぞ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う市民達。感染者監視隊の仕事熱心ぶりは有名だからな、なんせ原作でも査察とは名ばかりの強盗紛いのことまでしていたし。感染しているんじゃないのか僅かでも疑いがあれば、なんなら無くても奴らは嬉々として取り調べするだろう。
それにしても原作でもその片鱗はあったとはいえ無垢な市民(笑)とは。後片付けくらいしていけっての。
一人置いて行かれた彼は踏みつけられた痕や投げつけられたゴミでひどく薄汚れていた。その姿は雪の中で今にも消えそうな蝋燭の火を想起させる。だがしばらく床屋に行けていないのであろう長く伸びた髪の奥に見える瞳は、大勢からの悪意を一身に受けてそれらを濃縮したような怒りの熱を携えていた。
「そんなに非感染者が偉いのか」
吐き捨てるような、それでいて死にたくない思いが溢れ出るような熱を感じた。
「ただ感染していないだけで、こちら側じゃないだけで、神にでもなったつもりか!ふざけるな!このまま死ねない、死んでたまるか!お前達全員にこの血を振り撒いて歯を突き立ててでも同じ目に合わせてやる!」
……いいね、気に入った。
もう足音はすぐ後ろにまで迫っている。それに構わず座り込んで目線をできるだけ合わす。
「あんた名前は?前は何やってた?」
「〜〜!! ソチューイだ。源石エンジンの整備士をやっていた。死ぬまで覚えておけ。」
意外にもすぐに答えてくれた。だけどとても友好的じゃないな、今にも噛みついてきそう。
「そうか。なああんた」
(まあ)
「俺の元で働かないか?」
(そんなの関係ないんだけどね)
「……は?」
あまりにも突拍子もない言葉に、男、ソチューイはそれまで抱いていた殺意も忘れて呆然としてしまっていた。
「手に職も持っているし、死に際に一矢報いてやろうっていうガッツも気に入った。」
「ま、待て。お前は俺を、監視隊に引き渡すために来たんじゃないのか?」
その目線は俺の後ろに向けられていた。ついに到着したのだろう、背後に数人の気配を感じた。
「ああ、あれ?あれ嘘。」
「うそ?」
「若旦那。ご要望の通り近くに車を用意してあります。」
集団の中から一人前に出て恭しく頭を下げる。相変わらず仕事が早くて助かる。顔だけ向けて軽く礼を言うが、いかにもできるビジネスマンですといった風貌の彼はひたすら恐縮するばかりだった。動揺するたび眼鏡を触る癖は相変わらずだけどな。
彼は俺が大分前に助けた商家の末子で、それ以来俺に付き従ってくれている。
彼の後ろには数人まだ控えていて、その中には一見感染者だとわからないよう服装を工夫してある者もいるが、どいつもこいつも俺を慕ってくれている。
呆然とするソチューイを抱き起こし肩を貸す。控えていた数人が慌てて俺と代ろうと近づいてくるが、彼らには路地に人が入ってこないよう見張りを任せそのまま裏に向かう。
「何をしているんだ。怖くないのか?」
「何が?」
予想もしないこと続きで動揺しているようで、先ほどまで感染させてやろうと思っていた相手を心配してくる。
だがそもそも鉱石病は接触感染や飛沫感染はしない。血液感染などは気をつけなければいけないが。それを過度に感染の危険性を煽るように報道し市民に間違った認識を植え付け、感染者対非感染者と言う構造を作り上げたのはこの国ウルサスの政府だ。
まあ、現皇帝のフョードル皇帝は先帝ウーマニと違って穏健派でその差別解消を目標にしているが、染み付いた価値観というのはそう簡単に拭い去れない。
ここもまた嫌になるくらいリアルだ。遠い記憶の中にある歴史を思い出しちまう。
なんでこんなことをする。
そう聞いてくる彼の瞳にはもはや恐れすら窺えた。
(ひどいねえ。ま、疑心暗鬼になるのも当然か。)
だってアークナイツだもん。
さっき聞いた感じ、おそらく源石エンジンの整備中の労災か何かで感染したのだろう。感染したことがわかったその時から今まで笑って語り合ってた連中が一斉に蔑み拒絶してくる、かつてスマホに映し出されていたキャラの回想によくあった内容だ。実際にそんな経験をして歪まない方がおかしい。
感染者の自分が人間扱いされることなんてない。
優しさには裏があるはずだ。
そんな風に考えるようになる。
(クソッタレめ。)
俺は平和な時代を謳歌していた一般日本人だぞ。そんな扱い嫌だし周りがそんな扱いされるのを見てるのも胃がキリキリして穴が空くわ!
なんかむしゃくしゃしてきた。
ええと、なんで助けたかだっけ?
「決まってんだろ。あそこで見捨てたら明日の飯が不味くなる。」
、、こいつ何言ってんのみたいな顔されたでござる。
や、だって感染者問題を解決して世界を平和にしたいみたいな大きい野望があるわけでもないし。あそこで見捨てたら後味悪すぎてついつい助けちゃった、ただそれだけである。ほんとだよ?
なんか後ろでうんうんと後方理解者面かましている社員がいるが気にしない。