明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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そういえば我らがハピエン厨兼カプ厨主人公イグナス君の容姿や種族について本編で一切言及してないことに気付きました。

【氏名】イグナス
【性別】男
【戦闘経験】8年(退役軍人に剣を習い、あとは独学)
【出身地】ウルサス北部の地方都市
【誕生日】12月25日
【種族】ウルサス
【身長】176cm
【鉱石病感染状況】政府の定期健診の結果、非感染者と判定

個人履歴
ウルサスのとある商家出身の青年。ウルサスでそこそこ認知されている運送貿易会社ダーリ商会の会長。空色の髪に紺のベストとスーツを纏っているが、これは重要な商談で着ていく勝負服らしい。


第二十話 それは空駆ける星のように颯爽と

 

「俺達が相手だ」

 

 俺を中心に、戦士達が戦闘態勢に入る。

 その心に、もはや誰かを疑うような隙は無い。

 

 皆んなの思いは1つ。

 タルラを含む全員で、生きて帰ること。

 だが、全員でこいつを相手するのは悪手だ。

 俺はアーツで拠点の方向、さらにその奥を視る。

 

(やはりか)

 想像通りの状況に納得しつつ、方針を決めた俺は呆然とするタルラに声を掛ける。

 

「タルラ、戦士達を連れて逃げろ」

「な、何を言う!? 私も戦う」

「こいつが1人お散歩してきたと思ってるのか?」

「!」

 ついさっき確認したが、やはり退路を塞ぐように反対にも同様の靄が見えた。

 原作同様、皇帝近衛兵は複数人でここに来ている。軍まで呼ぶとは予想外だったが。

 こいつ1人を相手するならまだいい。

 問題は大勢の非戦闘員を抱えた状態で他の近衛兵や大勢の軍隊相手に撤退戦をしなければいけないことだ。

 非戦闘員を安全に逃がすためにも、できるだけ広範囲をカバーできるエレーナやタルラはそちらに回さなければだめだ。

 なら、こいつの相手は俺達しかいないだろう。

 

「反対にも奴と同じ気配を感じた。逃げるにしても、そいつらを相手しないとならない。スノーデビル小隊と盾兵と戦士達で何としても倒せ」

「お前達は?」

「俺は残りの盾兵と一緒にこいつを倒す」

 俺の宣言とともに盾兵達が前に出る。最前列に並ぶ鋼鉄の壁は、既に不退転の覚悟でそこに立っていた。

 頼もしすぎるぜ、その背中。

 

「行け、タルラ!」

「だがっ」

 それでも言い募る彼女を真っ直ぐ見返す。

()()()

 

 その一言に俺の思いの全てを籠めた。

 また自己犠牲に走りやがってとか。

 あんな顔させてすまんとか。

 必ず全員で生きて帰るという覚悟だとか。

 

 俺を見つめる瞳は葛藤で揺れ動いていた。

 だが退く気がない俺に、彼女も覚悟を決めた。

「・・・分かった。何としても生きて帰ってこい!」

「当たり前だろ」

 後ろを振り返らないままそう言った。

 彼女もまた俺達から目を離し、向かうべき方向を見据える。

「行くぞ戦士達! 彼らの退路を切り開く、続け!」

「「「おうっ!!」」」

 

 タルラを先頭に、戦士達が拠点の方向へ移動していく。

 

 眼前の敵を見据えたまま、小さく隣の盾兵リーダーに謝罪する。

「悪いな、勝手に決めちまって」

「何を言う。お前の言葉がなければ危うく内部分裂するところだった」

 むしろよくやったと言ってくれた。

 だが、実際俺達の状況は厳しいままだ。むしろ悪化していると言っていい。

 

 非戦闘員の避難の為、大半をあちらに回してしまった。こっちに残っているのは盾兵10人と遠距離攻撃の手段を持つ古参の戦士数人。明らかに決定打が不足している。

 

「奴について知ってることは?」

「あいにくだが任務で戦っている姿を少し見ただけだ。後は噂レベルでしかない」

「分かった」

 やはり皇帝直属という事もあって詳細は不明か。

「とりあえず、あの靄には極力触れないこと。アーツとボウガンで仕留められれば御の字だがそう甘くない。だから最後は俺が決める」

 俺の確信に満ちた方針決定に驚いたようだが、それもすぐ振り払い、勝算だけを尋ねる。

「勝てるのか?」

「やるしかない。その為にも奴に近づけてくれ」

「・・・了解した」

 作戦会議を済ませた俺達はまた奴に目を向けた。

 

「愚かな選択をしたものだ。そろって無駄死にとはな」

 タルラが反対方向に逃げていくにも関わらず、あいも変わらずそこに突っ立っている。

 慌てず、ただ淡々と標的を眺めるその姿は、まるで狩りでもしているようだ。

 実際そうなのだろう。

 奴にとって感染者の自衛組織の壊滅など、今まで起こしてきた数々の凄惨な任務と何も変わらない。

「作戦会議も待っているなんて余裕だな?」

「こちらとしては投降してもらった方が楽だったのだがな。大人しくタルラを差し出していれば後の世の、ウルサスの為になったというのに」

 奴の言いざまについ顔を顰める。

 今の言い方からして、やはりこいつらはタルラが世界に絶望しコシチェイに乗っ取られた後のことについて、侯爵と共謀しているに違いない。

 させるかよ。あいつを殺戮の暴君になんてするもんか。

「乗り気じゃないなら帰っていいぞ。こんな所で油売ってていいのか? 首都がお留守だろ?」

「我々は国家の意思の代弁者である。口の利き方には気をつけろ」

 会話をしながらアーツで魂を視つつ反応を伺う。黒い靄に覆われて見えにくかったが、ようやく見えてきた。どうやら奴の靄は魂レベルでへばりついているらしい。

 俺の不遜な物言いに苛立っているのが奴の魂からも見て取れる。盾兵やタルラはともかく一般人にみえる見ず知らずの俺にそんな態度を取られるのは我慢ならないようだ。

 

 なら、そこを突く。

 

「何が代弁者だ。じゃあ聞くが、お前の仰ぐ皇帝は本当に今の皇帝か?」

 途端に無言になる皇帝の利刃。空気が妙にひりつき、奴の警戒が上がったのを感じる。

 そうだろうな。お前が夢見るのは先帝ウーマニの時代の強く苛烈な戦争国家としてのウルサスだ。その復活の為、コシチェイなんかと手を組んでこんな回りくどいことをしようなんて腹が立つ。

「即答できないとは、国の威信を笠に着る不敬者だな」

 俺の侮蔑にいきり立つ皇帝の利刃。

 

「貴様、私達を愚弄するか」

「そっちこそ。借り物の力でイキってる癖に生意気だぞ。()()()()

 俺の言葉に目の色を変える。

「! 何を知っている?」

「鼻息荒くなってんぞ? ガスマスクとったらどうだ」

 どうせできねえだろうがな。

 

 奴らはサーミの天災である謎の靄を取り込んで使っている国の特殊部隊みたいなもんだ。

 その正体についてはケルシー先生からも考察されていたが、確か海の脅威並みの厄物件だった。

 

 注意するべきは奴の放つ黒い靄。ゲームではデバフがかかるくらいだったが、あれは本来前世の核並みに恐ろしい汚染物質、下手すれば触れた時点でアウトという可能性もある。

 

 あちらも俺がウルサスの中でも軍の上層でしか知らない情報を掴んでいることに警戒したのか、靄の広がりが少しだけ弱まった。

 

 時間がない。さっさとこいつを倒してタルラ達に加勢して一緒に撤退しないといけないんだ。動揺している今がチャンス。

 

 綱渡りなタイトスケジュールだが、やるしかない。

 

「行くぞ!!」

「「「「「「おう!!」」」」」」

 

 盾兵が列を成して進軍する。目標は前方、皇帝近衛兵。

 

 距離を詰める俺達に対して、奴は黒い槍を顕現させ投擲の構えを取る。

 

「総員、構え!」

 その姿を捉えた盾兵が一斉に足を止め腰を落とす。

「無駄だ」

 槍が放たれた。それは一直線に飛来し先頭の盾に突き刺さる。

 

 途端、戦車の砲撃でも喰らったかのような轟音が辺りに響き渡り、盾兵全員が苦悶の声を上げる。そのあまりの威力に保っていた陣形ごと後退させられた。

「先頭は後列と交代、盾は刺さった槍ごと廃棄しろ!」

 だが流れるような動きで陣形を修正し、再度前進する。

 役目を果たした盾が遠くに投げ捨てられ、重い金属音が響く。

 

「あと9枚か」

 迫る盾兵の列に微塵も緊張せず、人どころか枚数で数えてやがった。

「その盾が尽きた時が、お前達の最後だ」

「抜かせ、前進!!」

 

 再び歩みを進める俺達。

 後ろの戦士達がアーツやボウガンで援護し時間を稼ごうと試みる。

 

 だがそれも片手間に弾かれ、切り裂かれ、ほんの僅かな猶予しか生み出さない。

 

 再び、人から放たれたとは考えられない重い一撃が先頭に直撃する。

 盾兵が悔し気に盾を放り投げ、後列に加わる。

 

 彼我の差は徐々に埋まっていく。

 だがそれは必ずしも良いことばかりではない。

 

「ぐうっ!?」

 槍の一撃を受け止めた盾兵から再び苦悶の声が上がる。

 今までに無いほど激しい反応に、見ればその腕は明らかに折れていて、肘から先が人体の想定を外れた方向に向いていた。

 急いで陣形を組み直す、負傷した盾兵はそれでも退くどころか後列で支える役目を譲らない。

 

 さっきから投擲の威力が上がっている、いや、近づいているからか!

 距離が近づくにつれ威力の減衰が無くなっているんだ。

 

「構うな!」

 こちらの消耗と接近のスピードを再計算していると盾兵の1人が奮い立った。

 俺の肩に手を置き、心配することはないと強く力を籠める。

「我らパトリオットに鍛え上げられた誇り高き遊撃隊盾兵、背中に守るべき者がいる限り、決して砕けることはないっ!!!」

 そういう彼も先程あの一撃を受け右手を庇っていたはずだ。肩に置かれた手は今も痺れのせいか小刻みに震えている。

 

「滑稽だな」

 奴はそんな俺達を見てやせ我慢だと断じていた。

 

 一歩進む度、放たれる槍の威力と靄の未知への恐怖で足が重くなっていく。

 それに抗いながら歩を進める間にも、刻一刻と盾が削れていく。

 やがて俺達を隔てる距離はなんとか10メートルにまで縮まった。

 しかし。

 

「さて、貴様で最後だ」

 

 こちらはもう限界だった。

 10人いた盾兵も、リーダーを除いた全員が盾を砕かれ何らかの負傷を負っていた。

 それに加え何度も槍の直撃を受けたことで、既に満身創痍だ。

 アーツやボウガンで援護していた戦士達も衝撃波をもろに喰らい気絶している。

 

「来るならばこい。我ら遊撃隊の盾兵、決して破られはせんぞ!」

 盾兵リーダーが吠える。他の盾兵らも半ば寄りかかる様にして先頭の彼を支える。

「もういい。沈め」

 聞き飽きたとでも言わんばかりに、奴は彼らを終わらせるべく形成された槍を握りしめ振り抜く。

 今までで最高の威力を内包したそれを、盾兵達が一丸となって受け止める。

「うおおおおおっ!!!」

 盾兵リーダーの唸り声が盾を擦る嫌な金属音と混ざり合う。

 拮抗する槍と盾。それはやがて槍の勢いが減衰したことで勝敗を決した。

 構える盾は確かにひび割れ、槍の先端が食い込んでいた。

 それでも、彼らの盾は一度たりともその背後に攻撃を通さなかった。

 

 矛盾のパラドックスに照らし合わせれば、盾こそが勝者だと称えられただろう。

 だがこれは現実の戦い。

 最後まで立っていた者が勝者だ。

 

「ぐっ」

 遂に耐えられなくなったのか、盾兵リーダーが膝をつく。

 対する皇帝の利刃は悠然とこちらを見下ろしている。

 

「ウルサスの盾よ、お前達は脆くなった。何故か分かるか?」

 ゆっくりと、誇示するように、恐怖を示さんとこちらに歩み寄る。

「貴様らはウルサスを真に背負う者だったからこそ、その盾足りえたのだ」

 だが、と奴は続ける。

「今やその背に庇うのは中途半端な落伍者達。国の為ではなく、己の為ばかりに動く卑怯者どもだ。言葉一つで容易く信ずる者を変え、大した力も持たず夢想する愚か者ばかりだ」

 それこそが過ちだったのだと、傲慢に突きつけた。

「やはりあの時代を再来させねばこの国に未来はない。強く、皆が1つとなって地の果てまで切り拓いていったあの栄光の時代を」

「拓かれた土が、血で赤く染まってもか?」

「・・なんだと?」

 

 盾兵リーダーは震える足で立ち上がる。

「これまでに幾度も戦争を繰り返した。外敵だけではない、我らは同じ国旗の下殺しあったこともあった」

「奴らはこの国を内から亡ぼす身中の虫、排除するのは国の為当然だ」

「違う! この国が彼らを蜂起に追い立てたのだ!」

 纏う鋼鉄の鎧をものともせず、揺らぐ体に鞭を入れ立ち上がり、見上げることなく反論する。

 

「我らが脆くなっただと? 上から物を言うな。この盾は確かに守るべきものを守った」

 そして槍が突き刺さったままのそれの縁を掴む。

「我らレユニオン! 貴様の語る血に塗れた未来など、断じて許容できん!」

 もはや盾としては役目を果たさぬ鋼鉄製のそれを、あろうことか皇帝の利刃に投げつける彼。

 しかし一歩及ばず、大重量のそれは皇帝の利刃の眼前に突き刺さり、あえなく地に伏せた。

 

 

 

 この時、皇帝の利刃はかつて肩書だけとはいえ並んでウルサスの繁栄に貢献した彼らの末路に深く失望していた。

 

 彼らが背に庇うのは、ウルサスに何も齎さない、それどころか国家に反旗を翻さんとする輩だ。

 ウルサスの盾ともあろうものが、あろうことか苦し紛れに盾を手放す始末。

(ふん、大したこともなかったな。かのボジョカスティ殿が率いたとあって期待していたが。あの不気味な男も、何もできずに倒れたか)

 

 戦闘前、こちらに不遜な物言いをしていた男を思い出す。

 私達近衛兵について知っているだけならばまだ分かる。だが奴はあろうことかこの悪魔の力の源泉すら理解しているそぶりを見せた。

 生かしてはおけん。いや、どこでそれを知ったのか奴を尋問しなくては。

 

 倒れ伏す不遜者どもを見下ろす。

 だが、そこで違和感を覚えた。

 

(待て。奴はどこだ?)

 

 おかしい。目前に倒れ伏す盾兵の中にも、その後ろに横たわる力なき戦士どもにもその姿は認められない。

 いくら驕っていたとはいえ奴らから目を離してはいない。どこかに隠れる隙など無かった。

 

「おい。あの男はどこだ?」

「ふっ、どこだろうな?」

 最後に私の一撃を受け止めた盾兵を問い詰めるが、その答えは神経を逆撫でするだけだった。

「無為な抵抗は貴様の苦痛を増やすだけだ」

 丁度いい。この国土で侵せば口を割るだろう。

 

 簡単だ、この男に触れるだけでいい。

 膝立ちの盾兵に向けて手を伸ばそうと近づく。

 

 

「無駄なんかじゃねえよ」

 

 

 その声は、私の背後から聞こえた。

 

 

(後ろだと!?)

 

 咄嗟に振り返る。

 見れば先程苦し紛れに投げられた盾が起き上がっていた。その後ろに気配を感じる。

 

(そうか、この状況を最初から狙っていたか)

 

 だがな。

 

(声を上げたのは失策だったな!)

 

 まだ奴は盾の後ろから姿を現していない。

 既に迎撃する態勢は整った。

 左右に飛び出る、あるいは後ろに引く。どう動いてもこちらの軍刀が先に奴を切り裂くだろう。

 情報を引き出せないのは私の不手際だが、仕方あるまい。

 

 こいつからは、ここで逃がせばウルサスの手に負えなくなるという()()()を感じる。

 

 1秒が無限に感じられるほど引き延ばされた感覚の中、盾の後ろの気配に集中する。

 だが、奴は想定していたどの方向からも姿を現さず。

 

 あろうことか、盾から光輝く剣が生えてきた。

 

 予想外の方向からの攻撃に動揺し、太刀筋が鈍る。

 だがそれもほんの一瞬。すぐに迎撃しようと剣を振るう。

 

 だが、迎撃を選んだこと。それ自体が間違いであったと悟る。

 

 振るったはずの軍刀が、()()()()()()()()()()()()

(ばかなっ!)

 

 自分の失態に気付いたと同時、魂を焼かれるような痛みとともに意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ、ぐっ!」

 起き上がらせていた盾を手放し、荒れる呼吸を整える。

 万が一にも靄を吸い込んだりしないようにずっと呼吸を止めてたから、マジできつい。

 ああ、酸素、こんなところにいたのか! 愛してるぅ!!

 感動の再会に涙が出るぜ。息が苦しくて咽てるだけだけど。

 

「やったのか?」

「ああ、ナイス位置、だったぜ」

 親指を立てて作戦の成功を伝える。

 本当よくここまで近づいてくれた。咄嗟のアドリブで盾の裏側に隠れてそれを放り投げてもらったが、うまくいって良かった。

 それにしても鋼鉄製のこの盾に俺の体重も加わったそれをよくぶん投げられたものだ。

 

 なんにせよ、無事俺達だけで皇帝の利刃を1人倒すことができた。

 だがこのままゆっくりもしていられない。すぐにタルラ達を追って加勢しないと。

 

 息も絶え絶えに、盾兵達の下へと足を引きずるようにして歩く俺。

 

 

 だが、戦いはまだ終わっていなかった。

 

 後ろで、ゆらりと立ち上がる気配がした。

 背筋が凍る。

 見れば、全身から靄を立ちのぼらせた悪魔がそこにいた。

 

「やば」

「貴様、は、生かして、おけん!!」

 

 想定よりも遥かに早く意識を取り戻した皇帝の利刃が猛り、奴の操る靄、国土が辺り一面に広がっていく。

 逃げようにも、力を使い果たした俺はまともに足を踏み出せず倒れこんでしまう。

 

(まずい。息が)

 

 先程までの呼吸苦が改善しないまま、遂には視界がぼやけてきやがった。

 さらに最悪なのは、その暗くなった視界の中見えるのが、こちらに狙いを澄ませ軍刀を振り上げる悪魔ということだ。

 

「イグナス!!」

「ウルサスに、栄光あれ!!」

 

 そうして振り下ろされる軍刀が、やけにスローモーションに見えた。

 ゆっくりと、俺の首目掛けて近づいてくるにつれ、様々な光景が思い浮かぶ。

 

 この世界に生まれ落ちた日。

 新しい家族に囲まれて健やかに育った日々。

 タルラと出会った日のこと、アリーナ、エレーナ、パトリオット、サーシャにイーノ、レユニオンの皆んな。

 目に焼き付けた、幸せな光景。

 

(走馬灯ってやつか。冷静なもんだな俺)

 

 そうしている間にも、罪人の命を刈るギロチンのようにその刃は俺の首目掛けて吸い込まれていく。

 頭は冷静だが、体は動かせそうもない。ただ引き延ばされた意識が、猶予を与えてくれているだけ。

 

 そして思い出す、タルラの縋るような瞳。

 

『なら約束を果たすその時まで、ずっと私の傍にいてくれ』

 

(わりい、守れそうにねえわ)

 

 この謝罪が彼女に届かないことを悔いながら、せめてあがこうと両手で首を庇う。

 思わず目を閉じてしまった俺を、吹き飛ばすような衝撃が襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら、俺はうつ伏せで倒れているらしい。

 地に伏した俺の視界に、両手が映り込む。

 立ち上がろうと握りこんだ拳を見るに、どうやらまだ繋がっているらしい。

 右手で首元をなぞるが、血の跡もない。首も刎ねられていないようだ。

 

(なにが、起こった?)

 

 視線を上げれば、何故か俺と奴の間には距離ができていて。

 

 

 そんな俺達を隔てるように、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 複雑な機構を備えたそれは、俺のよく見慣れた赤いアーツの残滓を残し、周囲に漂っていた国土の靄を吹き飛ばしていた。

 

 それは俺がある人に鎧とともに贈ったものだ。

 これがここにある意味に辿り着く前に、俺達の間に空からさらなる乱入者が現れる。

 

 

 足元の雪が落下の衝撃で散乱し、たなびくマントとともに彼を白く染め上げる。

 そのマントの内にある体躯は、今は新しい白銀の鎧に包まれていた。その所々に見える鎧の隙間からは、SFの近未来型スーツのようなものがのぞいており、それがただの金属塊ではなく高度な技術の結晶であることを主張していた。

 彼の立ち上がる所作に呼応して、まるで鎧自身が息をするかのように白煙が噴出する。

 噴出に合わせ、()()()()()()()裏地のマントがたなびいた。

 

 白銀の鎧も相まってまるでカジミエーシュのペガサスのようだ。

 だが彼とは違い、その身には黄金の鎖とそれらにつながる紅の源石をいくつも纏い、頭部には鎧兜などより遥かに立派な自前の双角が目立っている。

 

 その姿はシャーマン、あるいはその荘厳さと彼の出自を考えると”王”と言えるだろう。

 

 その後ろ姿を見て、俺は妙に新鮮な気持ちになった。

(そういえば俺、パトリオットの背中ってあまり見た事なかったんだな)

 いつも、横に並ぶか、対峙してばかりだった。

 前世の分も含めて俺が精神的に年取ってるってこともあり、庇われるってことがなかった。

 だが改めて思う。

 

 

(でっけえ背中だ・・・)

 

 

 こんなすごい人が俺の仲間なんだと思うと、なんとでもなるような気さえしてくる。

 

「すまない、遅れた」

 

 そう謝罪する彼は、続いて口にした。

 

「あとは、任せろ」

 

 そのあまりにも頼もしすぎる申し出に俺は

 

「ああ、頼んだ!」

 

 そう頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

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