明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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第二十一話 帰結

 

 対峙するパトリオットと皇帝の利刃。

 彼らの間に沈黙が広がる。

 

「パトリオット・・どうやって?」

「この槍のおかげだ」

 

 そういって俺が贈った槍を掲げる彼。

 

「便利なものだな。アーツの噴射による加速で、走ってきた」

 

 

 ??? ちょっと何言ってるのか分からないです。

 

 

 確かにその鎧と槍には色々な機構が備わっていると聞いた。

 アーツの噴射による槍の加速機構。

 喉の鉱石病の症状を和らげるための呼吸補助機能。

 近代スーツによる身体機能向上に加え、汚染地帯でも活動可能な浄化能力。

 その他さまざまな機能が山盛りの超高性能武装。

 

 かの龍殺しの剣や大量破壊兵器水鉄砲(笑)、ジェシカの完全防護服やスカベンジャーのピッチピチスーツの作成を手掛けた、二重の意味で変態企業のレイジアン工業製の一品。その性能は折り紙付きだ。

 

 だからといって誰がそんな使い方しろなんて言ったよ。

 お前はモンハンのランス使いか? 強走薬でも飲んだんか?

 いや、そういえばダッシュで突っ込んでくるサルカズ突撃兵なんてのもいたしな。一兵士にできて人類最強にできないことなんてあるわけ無いわ。

 

 俺はそこで思考停止した。

 

 

 

「ああ、ウェンディゴ。ウルサスの伝説よ!」

 

 そんな人類最強を前にして、奴は歓喜に震えていた。

 だが、俺達を庇うように立つ彼に、疑問の声をあげる。

 

「なぜこのような夢想家とともに歩む? あなたならば覚えているはずだ、当時のウルサスの栄光を。種族を問わず、皆がウルサスの名の下団結し、数多くの敵をこの刃と大砲で打ち砕いた、あの強く誇らしい偉大な帝国を!」

 

「夢想家か。ではお前は、どれほどの勝利と敗北を積み重ねてきたのだ、若造?」

 

「・・・そうだ。確かに我々はまだ経験が浅いと言えるだろう」

 

 そういう奴は、パトリオットに向けて手を伸ばす。

 

「ならばあなたを勧誘しよう。元ウルサス軍大尉、ボジョカスティ。あなたとならば、我々は真にこの国を復活させられる」

 

 開いた口が塞がらないとはこのことだろう。盾兵がたまらず反論する。

 

「貴様、ふざけているのか!?」

 

「無論、あなただけではない。このレユニオンとやらも存続させよう。確信した、あなたの下ならばあの者どもも適切に力を振るい、国家の礎となるだろう」

 

 開幕無言襲撃したことを忘れているのだろうか。

 奴はどこか高揚した様子のまま、勧誘を続ける。

 それこそが正しいと、断られるなどとは微塵も考えていないようだ。

 

「2つ、訂正しよう」

 

 律儀に奴の言葉を聞き終えたのち、パトリオットは淡々と告げた。

 

 

「レユニオンのリーダーは、私ではない、タルラだ。その提案は、彼女に直接するがいい」

 

 そしてもう1つ、と。先程までとは比べ物にならないほどのプレッシャーが辺りを包む。

 

「私達はウルサスの、国家の為に戦っているのではない」

 

 だが奴はその発言の意図を理解していないようだ。

「何を言う? あなた達はウルサスの感染者の為に立ち上がった。ならば、彼らを仲間と認め、ともにウルサスの栄光に供すれば私達に争う意味など」

「私達は全ての感染者と、非感染者がともに手を取り合える未来の為、戦っている」

 こちらを懐柔しようとする奴の言葉を遮り、パトリオットは言う。

 

「既に一国家などという、小さいものでは動かん。真に”大義”のため、レユニオンは立ち上がったのだ」

 

 パトリオットの言葉を、奴はただ茫然と受け入れていた。

 いや違う、まるで何を言っているか分からないとでもいうような反応だ。

 その意味を咀嚼し終えてもなお、奴の顔は未だに信じられないとでも言いたげだった。

 

「・・・あなたは若者を贔屓するという噂は本当だったのか。よもやそこまで甘い未来を信じるようになるとは。愚かな学徒でさえ、そのような妄言は口にしない」

「眼が曇っているのはそちらだ。お前達は先帝の時代を美化しすぎている。真に団結していたのであれば、陛下にあのような死は訪れなかっただろう」

「ならばあなたは、正義のもとにあると確信していると?」

 

 問いかけられたパトリオットは、一度背に庇った俺の方を振り返る。

 こちらをじっと見つめる彼のマントが風に揺れる。風にあおられ、内側の透き通るような青の色彩が映える。

 その眼差しにかつてのような澱みはない。

 堂々と振り返るその様すら、どこか威厳を感じた。

 

「私の迷いは、既に晴れた」

 

 どこまでも清々しい顔だ。

 パトリオットは眩しいものを見つめるように、天を見上げる。

 だが、そこには何もない。相変わらず、雪を振りまく淀んだ曇り空が見下ろしていた。

 

「何を」

「曇天の上にも、変わりなく蒼穹は広がっている。彼らを覆う暗雲を、晴らすことこそ、私の正義だ」

 

 それだけ言うと、パトリオットは構える。

 槍を逆手に持ち、深く腰を落とす。

 その左手は、狙いを澄ませるように目標へと向けられていた。

 

 彼から感じる圧が膨れ上がる。

 彼の操るアーツの残滓が周囲を漂い、張り詰めた弓のように纏う鎧が唸りを上げる。

 

 かつてのパトリオットからは出せなかったほどの出力。

 だが、彼の纏う装飾品、それに嵌め込まれた紅の源石がそれを補う。

 

 あれは彼が用いていた”祭壇”を再現したもの。

 

 今のパトリオットは、要塞であり神殿。

 

 正に世界最強の一騎当千(ワンマンアーミー)

 

 槍の刃の根本部分、そこに備えられたブースターから赤黒い粒子が噴き出す。

 白に染まった大地の上に、赤い彗星が妖しく光る。

 

「ボジョカスティ・・・」

「最後通告だ。命が惜しくば、退け」

 

 

 もはや話すことはない、言外にそう伝えるパトリオットに、かつて彼に憧れた近衛兵は惜しみながらも受け入れた。

 俺達の協力はありえない。わかっていたことだ。

 

 

「タルラはいずれ気付く、その後ろに続くものがただの偶像に目が眩んだ愚者であることに。吹雪より残酷な現実に、奴らは打ちひしがれ、矛先を求めるだろう」

 

 眼前から感じる圧にマスクの下で冷や汗をかきながら、呪いを残すように奴は俺達に言って聞かせる。

 最悪な捨て台詞だな。

 

「刃を突き立てるのは、何も敵だけとは限らない。彼女はいずれそれを悟り、コシチェイの座を受け継ぐだろう」

「そんなこと、させるものか」

 

 声を上げる俺に注目が集まる。

 うつ伏せのまま見上げたんじゃ恰好悪い、痛む四肢に力を籠め立ち上がる。

 

「俺が、させない」

 奴を睨みつける、奴も俺を忌々し気に見つめ返してきた。

 おう、なんだやるのかこらぁ? こちとらパトリオット大先生がいるんやぞ?

 

「・・貴様も、どこで知り得たかは知らないが、恐怖するがいい。貴様を敵だと認めよう。次こそは、処断する」

「同胞に、手は出させん」

「俺なんてただの非戦闘員だから無視してくれていいんだぞ?」

 さすがに目つけられたか。油断を誘うためとはいえべらべら喋りすぎたな。

 

 なら喋りすぎついでに1つ、対策しとくか。

 

「お前達は大嫌いだが、天災から国を守ってるってのはちょっとばかし感謝しているんだぜ?」

「・・・やはり怪しいやつだ。それをどこで知った?」

「企業秘密」

 原作知識です、なんて言えねえしな。

 

「そんなお前達にアドバイスだ」

 

 これはそう、時間稼ぎと、あり得るかもしれない結末への保険。

 

「世界を覆う天災は、なにも山からとは限らない」

 

 だから、俺なんかに構ってないで、真の()()だけ倒しててくれ。

 

()()()()()()()()()()()()()。脅威は至る所に転がっている」

 

 

 最後まで返答はなく、奴の姿はパトリオットの放った渾身の一撃にかき消された。

 

 

 砲撃なんてレベルですらない。天災とすら錯覚するほどの衝撃と爆風に顔を背ける。

 それが収まった時、奴が立っていた場所を中心にクレーターができていた。

 

 

 ・・・隕石でも落ちたかな?

 

 

「逃がしたか」

 そう言う彼はなんてことないようにクレーターの中心に向かい、そこに刺さる槍を引き抜いた。

 

 うわっ・・・うちの幹部、強すぎ・・・?

 

 絵面が完全に強者だ。いや実際に強者なんだけどさ。

 ほんの些細な動作すら絵になるってずるくね?

 

「パトリオット、他の遊撃隊は?」

「彼らには私の後を追い、接敵すれば順次倒し、内側から包囲を抜けられるよう、命じてある」

「よし、よくやってくれた」

 

 ナイス判断だ。こっちに合流するよりも外から敵を削ってくれる方がありがたい。

 

 ならタルラ達に伝えないと。内外から挟み込むように攻撃すれば、突破も容易だ。

 

「ならパトリオットは俺と一緒に来てくれ。盾兵達は戦士達を連れて、他の仲間に合流だ」

 

 そうして一足先に、俺達はタルラが向かった方へと走る。

 しばらく走ると、拠点から暫く離れた場所にタルラ達を見つけた。

 

 周囲はタルラのアーツの影響だろう、雪の下に隠れていた地面がむき出しになり、至る所から煙が上がっていた。

 だが今は皇帝の利刃達を相手している様子もなく、全員が外縁部の一点を凝視していた。

 警戒中の彼女らに声を掛ける。

 

「タルラ!!」

「イグナス!? 無事か!」

 

 走る俺にタルラが駆け寄ってくる。

 走る勢いそのままに、俺の両肩を掴んだ彼女は全身に目を凝らす。

 

「怪我はしていないか! 出血はないな、打撲は?!」

 目立った外傷はないはずだが、切羽詰まった声で体中ペタペタと触られる。

 

 このままじゃ肌も見せろと服を引っぺがしかねない。

 タルラの肩を掴み返し、一度落ち着かせる。

「大丈夫だ、怪我もない。俺達全員、生きてるよ」

 それを聞いたタルラはやっと俺を掴む力を抜く。

 強張っていた手が俺の胸へと下り、シャツをくしゃりと握りこむ。

 その力は、普段の彼女からは考えられないほど弱弱しい。

 

「よかった、本当に」

 

 そう呟き、正面から俺の胸に額を当てる。

 額から伝わる命の脈動に、ようやく彼女は安心したようだ。

 

「皇帝近衛兵はどうした?」

「分からない。追い詰めはしたのだが、先程何故か退いていった」

「なるほどな」

 

 俺達が相手した奴が指示したのだろう。そりゃそうだ。今の完全武装パトリオットなんて相手してられない。

「他の皆んなは?」

「近衛兵との戦闘に巻き込まないよう、別動隊に連れて行かせた。戦士達が護衛してくれている」

 ならそっちに急がないとな。もし応援に来た軍の奴らに接触していたらまずい。

 

「お前達、無事か!?」

 丁度そのタイミングでエレーナ達スノーデビル小隊が合流した。彼女らも近衛兵を相手にしていたところ、奴らが退いたので戻って来たらしい。

「タルラ、エレーナ。俺達で非戦闘員を護衛している別動隊に合流するぞ。合流し次第、外から援軍に来た遊撃隊と包囲網を内外から挟撃して突破する」

 

 俺の指示を聞いた2人はすぐに隊員をまとめる。その間に俺はパトリオットに向き直る。

「パトリオットは遊撃だ。応援に来た軍の進行を少しでも遅らせてくれ」

「了解した」

 

 それだけ言うとパトリオットはアーツの推進力を得て拠点外縁へと向かった。

 

 隊員をまとめ終えた俺達は、別動隊が向かっていったという方向を目指して移動する。

 ここらもまだ森林の中で見通しが悪い。だが幸いにも、積もる雪が彼らの方向を示してくれる。

 別動隊達のものであろう足跡を見失わないよう慎重に辿っていく。

 

 すると暫く進んだ先、水の流れる音に混じって爆発や銃弾の音が聞こえ始めた。

 

 近づけば、谷川の上流側から軍の奴らが攻撃を加えていた。

 彼らの視線の先、下流側には川辺に転がる岩石を盾に必死で抵抗する戦士達がいる。

 

「総員、軍を撃退せよ!」

 

 タルラの号令に合わせ上流側から一気に責め立てる。

 背後を突かれた軍人達は成すすべもなく倒されていく。

 こちらが苦戦していないことはいいことだが、いつになってもこの光景は慣れない。

 

(恨むんならこんな命令して自分達だけさっさと逃げた皇帝近衛兵を恨んでくれ)

 

 ほんとなんでついでに撤退させなかったんだ。

 俺は頭を抱え倒れ伏す敵兵を無理やり叩き起こす。

 

「おい、お前」

「な、なんだ?」

「既に近衛兵は退いてる。撤退命令は出なかったのか?」

 恐怖か、あるいは敵兵に情報なんてくれてやるかという意地なのか。

 口を割らない男に、短剣をかざす。

「ああ、分かった、言うよ! そうさ、無線で撤退しろと報告があった!」

「ならなんで退いてない!?」

 無駄な血が流れていることにイラつきながら聞き返す。

 だが、その返答は最悪のものだった。

 

「既に戦闘に入ってたんだ! 指揮官が勝ち戦を逃すなど臆病者のすることだとか色々言って、命令を無視して続行したんだ!」

 そのあまりにもあんまりな理由に、つい頭に血が昇る。

 こんなところでアークナイツしてんじゃねえよ!

 

「くそったれ! その指揮官はどこだ!?」

 迫る俺に、男は震えつつ指を差す。

 見れば、岩にもたれかかるようにして無駄に華美な勲章を胸に飾った軍人が頭から矢を生やしていた。

 おそらく即死だろう。

 

「~~~!! 指揮権を引き継ぐのは!?」

「あいつらも全員頭に血が昇ってる! 誰も退く気なんてねえんだ!」

 だから俺は嫌だったんだ、そうぼそぼそと呟くだけになったそいつを放り投げる。

 

 くそ、もう止められない。

 これは殲滅戦だ。おそらくこちらが勝つだろうが、胸糞悪すぎだろ。

 

 澄み切っていた谷川に、血に染まった水が流れていく。

 挟撃していた戦士達に加勢しようと近づくが、今も前線を維持し軍を迎撃する彼らはこちらに気付くと思わぬ要請をした。

 

「タルラ、イグナス、俺達はいい! 早くこの先に向かってくれ!」

「どうした!?」

 

 彼の切羽詰まった声は、戦場でもいやによく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この先にいるアリーナ達を、追いかけてる兵がいる!」

 

 




帰結
最終的にある結論・結果に落ち着くこと。また、その結論・結果
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