明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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第二十六話 入港

 

 俺が目を覚ましてから数日後。

 

 ようやく俺が補助なしで歩けるまで回復した頃、シャイニングさん達から話があると言われた。

 

 彼女達は俺を治療するのと並行して、拠点の襲撃で傷を負った戦士達や非戦闘員も治していたらしく、すっかり好意的に受け取られていた。

 原作で感染者を救いたいという同じ目標を持ちながら、様々なすれ違いから敵対ばかりしていたのを考えるととても良い傾向だ。

 

 ロドスはさすが製薬会社ということもあり、医療アーツを始め専門家らしくその技術は高い。俺達の術師だけでは助からなかった命もあった。

 まあ、薬学だけではなく臨床医学や戦時救護、果てには戦闘能力まで兼ね備えた集団がただの製薬会社と言い張るのは無理があるだろうが。

 

 さすが、小国となら全面戦争できると言わしめる主人公達である。

 

 

 ともあれ、彼女らから伝えられた内容はこうだ。

 

 いわく、この医療支援はあくまでも一時的、契約前の挨拶のようなものでありこれから先の契約については実際に会って決めたいとのことだ。

 そういうわけで、手紙の差出人である俺とあと護衛の数人で一緒にロドス本艦に訪れてほしいらしい。

 

 俺はそれに頷いた。彼らとの協力関係を締結するのに俺の存在は必須だし、予想していたことでもある。

 リハビリ期間中、商会の奴が特注してくれた片眼鏡もようやく馴染んできた頃合いだ。遠出するのも問題ない。

 問題は誰を護衛として連れていくかだったんだが。

 

「私が行こう」

 

 レユニオンの主要なメンバーを集めた部屋の中、いの一番に手を挙げたのはあろうことか我らがリーダー、タルラだった。

 こめかみを抑えながら、タルラに言う。

「あータルラさんや」

「どうした、イグナス?」

「お前はレユニオンのリーダーな訳。そこんとこお分かり?」

「ああ。君に誓った通り、私はレユニオンのリーダーだ」

「じゃあなんで大事な組織置いて俺についてこようとしているわけ?!」

 

 何を言ってるか分からないって顔で首をかしげるな!

 かわいいな!

 

「これから協力関係を結ぶかもしれない組織だ。実際にこの目で確かめるべきだと思うんだが?」

「そうかもしれないが、それは俺がやっとくから!」

「そもそも、君が私達に何の相談もなく話を進めていたのが悪いと思うんだが。大体、彼らの事をどう知ったんだ?」

 

 突かれたくない所を突かれ、言葉に詰まる。

 現在のロドスの知名度はそこまで高くはない。前身のバベルから変わってまだ数年しか経っていないし、それまではカズデルで内戦を治めることに注力していたからだ。

 そもそも。俺達の事を助けてくれて好感度が上がったからいいものの、冷静に考えて医薬品会社を名乗ってるくせに軍にも負けない私兵組織を抱えてるとかどこのバイオテロ組織だって感じだ。他の似たような理念を掲げる団体の多くは感染者を食い物にしようとしている奴らばかりなのだからその不信は正当っちゃ正当なものだ。

 

 そこは俺の商人としての腕と情報収集能力を信じてもらうしかない。

 

「君だってレユニオンの重要な幹部の1人だ。なら私が行っても構わないだろう?」

「俺は鉱石病の診断と治療も兼ねてるからいいんだよ」

「なんだ、私に言えないような事情でもあるのか? まさかまた1人で無茶をしようとしているのではあるまいな」

 どんどん顔が険しくなっていくタルラに口を濁す。

 

 まあ展開次第ではちょ~~と危ないかもしれないが、大丈夫だ。

 普段通りの商人ポーカーフェイスで乗り切る。

 

「・・・そんな訳ないだろう?」

「決めた。何としても一緒についていってやる」

「何もねえって!」

 

 

 そんなこんなで、タルラが俺についてくると言って聞かないのだ。

 くそ、前よりも距離の詰め方に遠慮が無え。

 

 

「お前らからも何か言ってやれ!」

 埒が明かなくて他のメンバーに助けを求める。

 というか何で誰も仲裁しねえんだよ。リーダーのご乱心だぞ!

 

 言い争う俺達を傍観していたレユニオンメンバー達は、互いに目を合わせ言った。

 

 

「「「俺(私)達、何見せつけられてるんですか?」」」

「何でも言っていいとは言ってねえよ?!」

 

 全員でなに呆れた顔してるんだ?

 

 

 あの夜、俺とタルラは互いに想いを打ち明け、晴れて生涯をともにすると誓った。

 だが今はまだレユニオンのことでやらなければいけないことがたくさんあるし、俺の身体のこともある。

 

 だからあれから数日、未だ恋人らしいことなど全くしておらず、ましてや俺達がそうなったなどと言いふらすこともない。

 彼らが俺達の関係について知ることなどないと思っていたんだが。

 

「夫婦喧嘩はよそでやってくださいよ。独り身の奴だっているんですよ?」

「ふっようやくか」

「兄さんと姉さん、仲良しだね!」

 

 ご覧の有様である。

 俺達に向けられる生暖かい視線がつらい。

 というか誰もタルラが一時的とはいえ離れることに何の躊躇いも見せていない。

 なんでだよ?!

 

 頼りにならない仲間達に軽く絶望していると、彼らの中から手が挙がる。

「おい、イグナス」

「なんだエレーナ? もしかしてお前が来てくれるのか?」

「彼らロドス・アイランドという製薬会社は、確かに私達と志をともにする者達なんだろう。あのニアールという騎士やその他の者から聞いた話からもそれは伺えた。だが、そこまでして彼らに拘る理由はなんだ?」

 

 それは皆んなも同じ思いのようで、全員から視線が集まる。

 だが、それに即答することはできなかった。

 

「私達には、言えないことか?」

 

「まあ、な。言えないっていうより俺の直観による部分が多いっていうか」

 

 俺は前世で()()()()やってたからいいが、ほかの皆んなは違う。

 

「これに関しては、勝手に話を進めてた俺が悪いと思っている。でも、彼らは俺達の良き隣人になってくれる。これだけは、信じてほしい」

 

 そう言って頭を下げる俺。

 

 視界いっぱいに広がる床面。

 やがて頭上から、ため息が聞こえた。

 

「まあいい。お前が言うなら、そうなのだろう」

「信じて、くれるのか?」

「お前の突拍子もない発言は、今に始まったことではないからな」

 憎まれ口を挟むエレーナ。信用されてるんだかされてないんだか。

 ともあれ、ロドスへの信用に関しては問題もクリアしたようで。

 後はついてくると言って聞かないこのわがまま娘をどうにかできればオッケーだ。

 

「だからタルラもさ、ここはどーんと俺に任せてくれれば」

「イグナスさん?」

 俺を呼ぶ、聞き馴染んだ声。

 優しい、けど芯を持った声が部屋に響いた。

 

 ギギギと、声がした方を向く。

 見れば、アリーナが笑顔で俺を見ていた。

(あ、終わった)

 

「お、はようアリーナ。どうしてここに?」

「私はレユニオンの教師代表ですよ? 除け者にするなんてひどいじゃないですか」

「いやー病み上がりに会議はキツイかな、なんて」

「じゃあイグナスさんもベッドに縛り付けておかないとですね」

 言い訳も速攻論破された。

 まずい、冷や汗がツーとこめかみを流れていく。

 この流れは良くないぞ。

 

 なんとか彼女を説得できないか頭をフル回転させる俺。

 だが、どんな言葉を用意しても論破される未来が見える。

 おかしい、彼女はただの村娘だったはず。

 なんで商売で海千山千をくぐってきた俺より弁論が上手くなっているんだ?

 

「タルラ、彼のことよろしくね」

「任せてくれ。しっかり見張っておく」

「いや、だから」

「何か言いました?」

「いえ、何でもありません。はい!」

 

 いつの間にか俺の事を置いて進んでいく話。だが、介入することは許されない。

 

 基本的にこの世界は、なぜか女性が強い。

 それは戦闘力だけではなく、その意志も含めて女傑が多い。

 

 結局、俺の護衛にはタルラが1人でついてくることに決まったらしい。

 

 なんで1人? と思うが、まあ護衛としてならむしろ過剰戦力だからだろう。

 そうに違いない。

 なんか周りが変に遠慮して2人きりにしてやろうみたいな気を回したんじゃないと信じたい。

 

 

 それにしても、タルラには留守の間やって欲しい事があったんだが、仕方ない。

 他の人に頼むか。

「エレーナ、ちょっといいか?」

「どうした?」

「やってほしいことがある」

 そう言って、具体的な内容を伝える。

 

「分かった。だが、随分急だな」

「元から計画はしてたんだがな。大丈夫、会ってレユニオンに勧誘してくれればいい」

 俺はその相手がいると思われる場所と特徴を伝えた。

 

 それを聞いたエレーナは、その意外な場所と知らない名前に困惑していたが、1人納得し了承してくれた。

 

「・・・まあいい。お前の妙な勘の良さは今に始まったことではない。任せておけ」

「助かる」

 

 

 そういったすったもんだを経て、俺達はロドスへと出立したのであった。

 

 

 

 今世では滅多にできない、貴重な空の旅。

 だが、その乗り心地は色んな意味で悪かった。

 

 ロドスの航空機の中は、やはり前世で乗っていた飛行機とはそもそも作りが違うらしい。

 映画で見たような、積載用のハッチが閉じて坂になっていて、その両脇で向かい合うように座席が固定されていた。

 

 俺達は今、ロドス側とレユニオン側に分かれるように向かい合って座っている。

 

(気まずい)

 向かい側、シャイニングさんは目を閉じ折り目正しい姿勢を貫いているし、ニアールさんはウォーハンマーを床についた状態で俺をなんとも微妙な目で見ている。

 ナイチンゲールさんは逆に興味津々といった様子で、チラチラこちらを盗み見ているし、他のロドスの医療スタッフ達も彼女同様、時折こちらに視線を送っていた。

 

 なぜこんなことになっているのか。

 

「タルラ」

「? なんだ?」

「手」

「手がどうした?」

 

 そういって俺の右手をまた弄る彼女。

 

 航空機といえど、それは前世で乗った民間旅客機とは違い、どちらかというと輸送機といったコンセプトのようで。

 それ故乗員の乗り心地よりもスペースの確保が優先されるわけで。

 

 何が言いたいかというと、それだけ固定された座席間は狭い。

 ふとした拍子に手が触れてしまうほどに。

 

(さっきから、明らかにわざと触れている)

 

 俺の右側に座るタルラは、右膝にがっしりと固定された俺の右手に左手を触れさせては小指を絡めようとしたり、指先で突いてきたりする。

 

 彼女はかわいいいたずらのつもりなんだろうが、周囲の目が痛い。

 

 なんでこんな付き合いたてのカップルみたいなことしないといけないんだ!

 

 

 今も、俺の小指が絡めとられ、指切りげんまんの形になる。

 体も僅かにだが左に傾け、2人の肩が触れ合った。

 

(ああ、ああ。向かい側のペッローの女の子、真っ赤じゃないか)

 

 俺達の空気にあてられたのか、頬を朱に染め俯いている。

 俺だって恥ずかしい、熊耳とは別についた人間の耳は真っ赤っかだ。

 

 

 ついごまかすように、視線を外に向けた。

 丸い形をした窓からは、雲よりも低く飛行しているおかげか地上の様子がよく分かった。

 ガラスの向こう側。そこはすっかりウルサスを越えていたようで一面に荒野が広がっていた。

 

 どれだけ助けを求めて視線を向けても、機体の外には羞恥に体温が上がった俺達を冷やしてくれるようなものは何もなく。

 生暖かい目が俺を囲み、茹で上がりそうだった。

 

 

 さらに悪いことは重なるようで。

 

 さっきから視界がぼやける。

 瞼が意思に反して落ちていき、思考に靄がかかっていく。

 

(また眠気が。鉱石病の影響か)

 

 鉱石病になって以来、俺は頻繁に睡魔に襲われるようになった。

 

 シャイニングさんいわく、脳に近い箇所が病巣になっているため意識障害が出やすいのではないかとのことだ。

 

 性格が豹変したりとかは今のところないので良いが、商人として取引中に寝てしまったりとかが怖い。

 前世で居眠りかました時の嫌な記憶が頭をよぎる。

 学生時代、鬼教師にしこたま怒られた時はこの世の終わりかと思ったもんだ。

 

 なんとか睡魔に抗っていると、右側から頭に手が伸び、引き寄せられた。

 

 タルラが自分の肩に俺の頭を乗せ、枕にしている。

 

「寝ておけ。私が起こしてやる」

「・・わる、い・・・」

「気にするな」

 

 小さい声で、役得だしな、なんて聞こえたが気にする余裕もない。

 

 かすかに伝わる体温に後押しされ、眠りについた。

 

 

 

 

 

 機体を大きく揺らす振動に、自然と目が覚めた。

 

 見れば窓の外には荒野はなく、鋼鉄の塔や誘導を行う人々がいた。

 飛行時独特の浮遊感も無く、無事ロドス本艦に到着したのだろう。

 

 僅かに右に傾いた体を起こす。慌てて口元に手をやるが、どうやら涎を垂らすような失態は起こしていないようだった。

 

「悪い、寝すぎた」

「いや、丁度着いたところだ。むしろもっと寝ていてもよかったんだぞ?」

 

 枕になってくれていたタルラに礼を言う。

 タルラはこう言ってくれるが、それはさすがに申し訳ない。

 

「そうなったらどう運ぶんだよ?」

「安心しろ。私が抱えて運んでやるさ」

 

 自信たっぷりにそう言うタルラ。

 僅かに上がった口角も相まって、物語に出てくる王子様のようだ。

 眠る俺をお姫様だっこしながら歩く様が簡単に想像できる。

 

 いや、その場合俺の尊厳が木っ端微塵だな。

 自分で起きれて良かった~。

 

 

 男のプライドが無事保たれたことに安堵していると、向かい側の面々が目に入る。

 俺の視線に気が付いたのか、一斉に目を逸らす彼女ら。

 

 え、なにこの空気。

 俺なんかした?

 

 隣のタルラに目をやる。

 なぜか、意味ありげな眼差しで見返された。

 

「タルラ、何かした?」

「ふっ、何もしていないぞ?」

 

 絶対なんかしたな。アーツ使わなくたって分かるぞ。

 

 まずいな。今の内心浮かれポンコツタルラが何をしたのか予想できない。

 

 せめて取引先である彼女らに変な偏見を持たれないようなものであったことを願いつつ、降りる準備を進める。

 

 やがて、大きな駆動音とともに機内へ光が差し込んでくる。

 

 開いたハッチの向こう側。

 そこには、画面の中でしか見た事がなかった景色が広がっていた。

 

 降りた先で広がるそれらの光景、音、臭い。

 全てが新鮮で、圧倒された。

 

(俺、遂にロドスに来たんだ)

 

「ようこそ、ロドスへ」

 

 そんな俺達を歓迎するように、ニアールさんが手を広げていた。

 




前話は皆さん存分に悶えていただけたようでなによりです。

なお、私個人の意見としましてはあの龍の風習のようなものは他の種族にも絶対にあると思っています。

例えば。
アスランやループスは獲物を決して逃がさない、あるいはこれは自分のものだと主張するために首筋に噛み跡等をつける。
アダクリスやフィディアは冷え性気味なので寝る際は必ず体を寄せ合って寝る。
クランタは気を許した相手にだけ足に触れることを許し、足をケアしあう。

こういうのはロマンよ。


ちなみにイグナス君が寝ている間何があったかは、またいつか載せれたらと思います。
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