明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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第二十七話 条件

 

 ロドスに案内された後、まず俺達が通されたのは医務室だった。

 

 そこで簡素な検査着に着替え、採血や身体検査、さらには俺をすっぽりと覆うほどの巨大な機械にも入り、代わるがわる検査が行われた。

 

 さっき会ったペッローの少女も検査器具の操作を行っており、人は見かけによらないなと感心したものだ。

 

 そうした退屈な検査も終わり、元の服装に戻った俺達はロドスの中を歩いていた。

 契約を結ぶ以上、自分達もロドスがどんな組織なのか知っておきたい。

 そんなタルラの要望に応え、ニアールさん達がロドス艦内を案内してくれているのである。

 

 こんなに良くしてもらって申し訳ないが、交渉の件はいいのだろうか。

 不安になってニアールさんに聞くも、どうやらあちらもまだ準備が整っていないらしく丁度良かったそうだ。

 

(それにしても、準備ねえ)

 

 思うところはあったが、まあそれは置いておこう。

 今なにかできることも特にないしな。

 

 俺の歩調に合わせ、ゆっくりと施設を見学していく。

 

 

 ロドスの食堂、植物園、トレーニング場。

 色々な所を見て回った。

 アニメでちらっと見たような光景もあれば、こんな作りになっていたのかと驚くようなところもあり中々に楽しい。

 

 すれ違う人の中には、見知ったオペレーター達もいて思わずテンションが上がる。

 あ、今こっちに手振ってるのカーディとメランサか! 相変わらず仲がいいんだな。

 

 彼女らに手を振り返すニアールさんとシャイニングさん。

 ナイチンゲールさんはどうやら俺の診療結果についてやることがあるそうで席を外している。まあこれだけ連れまわすのも申し訳ないからいいんだがな。

 

 

 そうしてとある一画に立ち寄った際、ふとタルラが少し遅れた場所でじっと立っていることに気が付いた。

 戻って彼女の視線の先を見ると、まだ幼い子ども達が集まって絵本の読み聞かせを受けていた。

 彼らの簡素な入院着の下には、黒い結晶が見て取れた。おそらく、全員が感染者の子どもなのだろう。

 タルラはその光景を何も言わず、ただ眺めていた。

 

 声を掛けようとして、すぐ近くに人の気配が近づいていることに気付いた。

 俺が曲がり角に立っていたこともあり、角を曲がってきたフェリーンの女の子が俺の腰に勢いよくぶつかる。

 

 咄嗟に腰を引いて衝撃を逃がしたおかげか、彼女は赤くなった鼻を擦りながら俺を見上げた。

 だが、見知らぬ男、それも顔の半分が源石に覆われた俺にびっくりしたようで、あうあうと言葉に詰まっていた。

 

「大丈夫か?」

 タルラが助けに入る。

「ご、ごめんなさい。私、その・・」

 しどろもどろにしか喋れていないこの子にタルラは膝を折り視線を合わせる。

 

「大丈夫、彼は怒っていない。君こそ怪我していないか?」

「うん、平気」

「そうか、それならよかった」

 

 やはりこういうのは女性の方が上手いらしい。

 あっという間に打ち解け、仲良く話している。

 

「ぶつかってごめんなさい、お兄さん」

 俺の方に向いてしっかりお辞儀する彼女。

 よほど優しい環境で育ったのだろう、その所作からは子ども特有の無垢なあどけなさを感じた。

 

「おう、心配すんな。でも危ないから廊下は走っちゃだめだぞ?」

「ごめんなさい、でもレンジャーおじさんのお話聞きたくて」

 

 彼女の視線の先には、俺達もさっき見ていた読み聞かせの会場があった。

 珍しいアルビノのサヴラが子ども達の視線を集めている。

 

 

 あまり引き留めても可哀そうだ。手を振る彼女を見送る。

 律儀に早歩きで部屋に入っていった彼女は、他の子ども達に迎えられ皆と同様、目を輝かせながらレンジャーの話に聞き入っていた。

 

 

 

「あれくらいの少女が、ああも無邪気に笑えているのだな」

 タルラは眩しいものを見るような目でそう呟いた。

 

 レユニオンにもああいった年代の子ども達はいる。

 サーシャやイーノもそうだし、それ以外にも多くの子どもを抱えているが彼らの多くは俺の知る前世の同年代の子よりずっと大人びている。

 

 いや、大人にならざるを得なかったというべきか。

 

 夢を持ち、それに向かって努力するのは良い事だと思う。

 実際俺はそれを推奨してきたし、それが将来逆風に晒されるだろう彼らの助けになると信じている。

 

 それでも、ああして純粋な”子ども”として生きることを楽しんでいる子達を見ると、やはり眩しく感じる。

 

 これは別にどっちがいい悪いという話でもない。

 むしろ、俺達の想いは1つ。

 

 彼らに良い未来がありますように、と。

 

 そう願っている、この大地における同胞なのだ。

 

 

 タルラが再び歩き出す。その足は以前よりも軽くなっているように見えた。

 俺はそれについていく。

 

 最初は連れてくるつもりもなかったが、ここにも同じ思いの同志がいるのだと教えることができた。

 

(連れてきて正解だったな)

 

 彼女に遅れないよう、少し歩みを速めながら、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして、いくつもの階段やフロアを見て回った俺達が辿り着いたのは、ロドス艦のデッキスペースだった。

 荒野を航行する方舟には強い風が吹いていて、デッキ上の俺達の髪を激しく揺さぶった。

 

 ニアールさんが耳元の通信機に手を添える。何回か問答を繰り返した後、困ったような顔で俺達を見た。

 通信を終えたニアールさんは、申し訳なさそうに眉尻が下がっていた。

 

「ここに君を呼び出した我らのリーダーがやってくるそうだ。それまで待機していてほしい」

「会談を行うにしては、随分風通しが良いようだが?」

 さすがにおかしく思ったのかタルラが指摘する。

「それに関してはすまない。だが、ここで話すと彼女が頑なでな。さすがに来客を冷たい風に当て続けるのは忍びない、彼女達が来るまでは屋内にもどっていてくれて構わない」

 

 タルラの怪訝そうな問いに、ニアールさんも申し訳なさそうに返す。

 元より騎士として自分を強く律している彼女からすれば。俺達を外で待たせるのは本意ではないのだろう。

 

「だが」

「まあいいじゃないかタルラ。あちらも仕事が立て込んでる中予定を空けてくれたんだ、外で気分転換でもしたいんだろう」

 

 幸い、俺達は寒さには嫌というほど慣れている。

 体を打つこの風も、寒いというには足りない。

 未だに納得のいっていない様子のタルラを宥め、ニアールさんには気にしていないと告げる。

 

 ほっとした様子のニアールさんを置いて、外の景色を見てくるとデッキの縁に行く。手すりに掴まりながら、1人思考に沈む。

 

(なるほど。()()()()()()()()()()()()()

 

 悟られないよう、慎重にアーツを発動する。

 

 全ての物質の輪郭がとけ、その分だけ魂の放つ光が鮮明になっていく。

 景色を眺める素振りを見せながら周囲の状況を確認する。

 

 すると遥か遠く、コンテナとロドス艦橋のアンテナ付近。その2箇所に人の気配がした。

 

 普通そんなところに人がいるはずもない。

 おそらくロドスの狙撃手、それもこの距離だとエリートオペレーターだろう。今の時期を考えるとStormeyeとScout、あるいはOutcastあたりだろうか。

 

 ニアールさんの言うリーダーとは十中八九あのケルシー女医だろう。用心深くあらゆる場面を想定する彼女ならば、それだけの対策をしてもおかしくない。

 

 

 それだけ、俺がロドスへと送った手紙は劇薬そのものだった。

 

 

 狙撃手の位置や、会談の際のシミュレーションをしていると、艦橋付近の階段から人が近づいてくる。

 

 コツン、コツンと靴底が鳴る。

 足音は、2人分。

 

 見れば、前世でみた姿のままの2人がそこにいた。

 

 1人は緑を基調とした露出の多いワンピースの上に白衣を着たフェリーン。前世から謎だったがなんで足元が透明なエナメル生地なんだ?

 パンツ見えるぞ?

 

 そして、もう1人。

 

 その背丈に見合わないロドスの制服に身を包むコータスの少女。

 幼いとすらいえる外見にも関わらず、その瞳には強い意志を感じる。

 

 つい癖でアーツを発動しようとして、止めた。

 いや、()()()()()()()()()()

 

(あれは、視れば焼かれる)

 

 一瞬覗いただけで、溢れ出る情報の渦に意識を持っていかれかけた。

 悲嘆、狂気、そして耐えがたいほどの怒り。

 パトリオットを視た時の何倍もの重圧。

 それがあの小さな体に納められているのだと思うと、ぞっとする。

 

(これが、()()、か)

 

 俺は彼女の正体について知っている。

 その身に背負うにはあまりにも重すぎる業。

 この大地の遥か昔から引き継がれてきた、人類の記憶。

 それを担う覚悟を持った、強い少女。

 

 敬意を込めて、こちらから名乗りを上げる。

 

 

「お初にお目にかかります。私が手紙の差出人であり、感染者自衛組織レユニオン・ムーブメントの幹部の1人。イグナスと申します。そして、彼女は私達のリーダー」

「タルラだ。よろしく頼む」

 

 2人は丁度ニアールさんとシャイニングさんを間に挟むように、少し離れた場所で立ち止まった。

 

 どこか険しい顔で、フェリーンの女性が名乗る。

「私はこのロドスの医療部総責任者兼CEO相談役のケルシーだ。そして」

 一歩、コータスの少女が前に出る。

 

「はい。私はロドスCEO、アーミヤといいます。よろしくお願いします、タルラさん、イグナスさん」

 

 

「さっそくだが本題に入ろう。イグナス氏、君の手紙にあった取引内容についてだ」

 ケルシーは白衣のポケットから俺がロドスに送った手紙を取り出した。

「そちらの要求については理解できる。感染者の自衛組織が鉱石病治療を専門とする私達に医療支援を要請するのは理に適った要求だ」

「ええ。そちらのご厚意のおかげで、私も命を拾いました」

 

 本当にナイスタイミングだった。あれがなければ恐らく死んでただろう。

 俺の純粋な感謝に、ケルシーは顔を顰めたままこう続けた。

 

 

「だが、不可解なのはそちらが提示した見返りだ」

 

 思わず力が入ったのか手紙に皺が刻まれる。

 その視線が鋭さを増し、真偽を見極めんと殺気にも近い気迫が伝わってくる。

 隣に立つアーミヤも、僅かに不安そうにしながらもこちらを真っ直ぐ捉えていた。

 

 

 そう。

 これは取引。

 助けてもらうのだったら、当然見返りが必要だ。

 

 俺が提示したのは、まず医療支援に対する正当な金銭的報酬、それからウルサス内でしか分からない情報の継続的な提供。

 

 

 そして。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは一体どういうことなのか、説明してもらおうか?」

 

 

 今、運命の会談が始まる。

 

 

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