明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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遂に、課金をしてしまいました。

だが、悔いはない!

なぜなら、そこに我らが光(耀騎士)があるからだっ!!

ヴィヴィアナさんと仲良くしてね?
あとすり抜けで来たホルハイヤ、君は後で話があります。


第二十八話 明日の方舟へと至る道

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは一体どういうことなのか、説明してもらおうか?」

 

 空気が重い。

 荒野を吹き抜ける風も、今この瞬間は俺達を避けているように感じる。

 

 向かい側、手紙を握りしめたケルシーと不安に目を揺らすアーミヤの視線は俺だけに注がれていた。

 

 

 息を吸い、それよりも少し長く吐く。

 大事な時、心を落ち着かせるための俺のルーティーンだ。

 

 

 ケルシーはロドス医療部のトップであり、主人公であるドクターが救出されるまでは実質的な統括者として運営を主導してきた切れ者だ。その力はあの龍門のウェイ長官との交渉時にも伺えた。

 対してこちらは戦力はある程度揃ってきたとはいえまだまだ社会的な後ろ盾を持たない自衛組織に過ぎない。タルラも俺も、そんな彼女に立場的に劣勢な状態で交渉を有利に進められるとは断言できない。

 

 話の流れを持っていかれるわけにはいかない。

 主導権を握られたら最後、俺が打った布石は全て俺達を殺す猛毒へと変わる。

 そのためにも、これから俺が用意してきた手札をどれだけ有効に切れるかが重要だ。

 

 

「どういうこともなにも、そのままの意味ですが?」

「惚けようとしても無駄だ。今知っていることをすべて話さないのならば、君は望む結果を得られることはないだろう」

 

 明言を避けるも、それはケルシーに両断される。

 彼女もどうやら焦っているのか、御託はいいと言わんばかりだ。

 

「ならこの場で全てお話しましょうか? 黒い棺とは何か、彼とは誰を指しているのか、それらは全て私達の間での共通認識だと思っていたのですが態々口に出す事柄でしょうか?」

 

 動揺を表に出さないよう必死で取り繕う。

 ケルシーも今ここで過去の悲劇の詳細を語られるのは避けたいようで口を噤んだ。隣で俺達の話し合いを見守っているアーミヤも口を出したいのをなんとか堪えているようだった。

 

 一方、事情を聞かされていないタルラやニアールさん達は困惑していた。

 それもそのはず。これはあくまでも医療支援についての会談だったはずが、事情を知らない者からすれば意味をなさない暗号のような言葉が飛び交い、俺とケルシー達の間には今にもはち切れんばかりの緊張感が漂っているのだから。

 

 

 今回、俺がこんな取引の条件を提案したのには理由がある。

 

 まず1つに、ロドスからの医療支援をより確実なものにするためだ。

 先程考えたように、俺達はあくまでもウルサスという国の方針に逆らう感染者自衛組織だ。いくらロドスの理念が感染者を救い最終的に感染者問題そのものを解決する事とはいえ、外交問題にまで発展しかねない事態に態々首を突っ込みたくはないだろう。

 時期的にそろそろドクター救出作戦を計画している頃合いだと思ったから余計その可能性はあった。

 だからこそ、俺は特大の餌を用意する必要があった。それこそ、罠かもしれないと思っていても無視できないような餌が。

 実際、あそこで救援が間に合ったのはこれのおかげだろう。

 

 2つ目に、無事原作の主人公であるドクターを救出し原作の流れに沿うためだ。

 原作では偶々ドクター救出作戦とレユニオンによるチェルノボーグ事件が同時に起こったが、もしチェルノボーグ事件でウルサスの警察や軍がその鎮圧対応に追われていなかったら、彼らの救出作戦の成功も難しかったかもしれない。

 もし作戦途中の彼女らが見つかってしまうようなことがあれば、只でさえ感染者弾圧が激しいウルサス、どうなるか分からない。

 

 

 彼、ドクターは原作と同様記憶喪失となるだろうがそれでも鉱石病治療の研究成果を今後思い出すかもしれないし、そうでなくともその優れた指揮能力は各国の感染者問題を解決するのに必要不可欠だ。

 ロドスとレユニオンの掲げる感染者と非感染者の共存、そのためにも懸念材料は潰しておきたい。

 

 勿論、あのチェルノボーグ事件を再現しようとは思わない。無抵抗の市民を虐殺する非道などタルラ達には絶対させない。

 それでも、チェルノボーグ内の行政体制を一時的に麻痺させるような工作は必要かもしれない。

 

 

 そのための協力の申し出だったんだが、するとなんで俺がそれを知っているという当たり前の疑問が出てくる。

 ロドス側からすれば外部に情報が漏れていた可能性があり、最悪スパイの存在すら疑わなければならないだろう。

 しかもこの情報がもしウルサス側に漏れてしまえば、もう二度とドクターの救出は望めないかもしれない。

 俺を見る2人の真剣な眼差しも、然もありなん。

 

「お2人の懸念はごもっともです。ですが、私は誓ってそちらから情報を抜き取ったりなどはしていませんし、この情報を他所に漏らす意思もありません」

「情報源も明かさず、その言葉で納得しろと?」

「誤解です。なにぶん荒唐無稽な話であることは自覚していますので、下手に話すよりは誠意を示しそれ以外の部分で信頼を得ようかと」

 

 俺の言葉に不機嫌さを隠そうともしない。

 それはまさしく遠い前世で見た、気難しい彼女そのもので少し笑いそうになってしまった。

 

「貴方方の素早い医療支援のおかげで、私含め多くの命が助かりました。本当に感謝しています。彼女らが来てくださらなければ、多くの命が雪の下に埋もれていたことでしょう」

「ああ。こちらとしても()()()()提携相手だ。先行投資と思ってくれていい」

「ええ、勿論。投資された分はきっちりと返させていただく所存です」

「是非そうしてくれ。だが」

 

 ケルシーが一歩前に出る。

 ほんの僅か、アーミヤを隠すように。

 

 

「関係構築のためには、信頼関係が大切だとは思わないか?」

「ええ。ごもっともな意見だと思います」

 

 

 俺の言葉に埒が明かないと考えたのか、ケルシーの目が一瞬アーミヤへと向けられる。

 アーミヤはそれを受け小さく頷くと、今度は俺を見た。

 彼女の意識が俺に集中するのが分かる。

 

(やっぱり使ってくるか。だが好都合だ)

 

 アーミヤはその身に宿した魔王の力によって相手の感情や記憶を感じ取ることができる。

 原作で数多の敵を理解し通じ合おうとした力が今、俺に向けられていた。

 

 だが残念、俺もその道のプロだ。タダ見を許すわけにはいかない。

 俺はそれを知覚した瞬間、アーツを用いて自分の魂を薄い膜で覆った。

 

 俺から何も感じ取れないことに気が付いたのだろう、アーミヤは見るからに動揺していた。

 

 

「覗き見とは、感心しないな」

「「「「「!!!!」」」」」

 

 

 俺の言葉に、肩を跳ね上げ目を見開くアーミヤ。

 そしてそんな彼女を俺から守る様に庇い、着ていた白衣をはだけさせ背中を露にするケルシー。

 

 そんな彼女らに異変を感じたのだろう。

 少し遅れて戦闘態勢に入るニアール、シャイニング、そしてタルラ。

 

 

(やっべ、やりすぎた)

 

 

 あくまで牽制のつもりで放った言葉は、思いの外刺激が強かったらしい。

 

 人気の少ない広い甲板の上、一触即発の雰囲気が辺りを漂う。

 そんな中、俺を背に庇い直剣を構えるタルラを手で抑え、ケルシーに目を向ける。

 

 その目は驚愕と困惑、そして僅かな未知への恐怖に染まっていた。

 

「誰にだって探られたくない過去の1つや2つはある。それを無理矢理暴こうというのは、少々信頼に欠けるのでは?」

「・・・・・そうだな。すまなかった」

 

 とりあえず矛は収めてくれたようで、白衣を直すケルシー。

 場の空気が弛緩する。

 

「謝罪を受け入れます」

 

 こっちから挑発しておいて申し訳ないが仕方ない。このお返しは無事仲間になってからいくらでもするから許してほしい。

 

 これで少しはこちらが会話の主導権を握ることができるだろう。

 そうと決まれば、早々に敵意がないと理解してもらおう。

 

「ここまできてなんですが、私達は本当にこれからも同じ理想を追い求める同志として良い関係を築きたいだけなのです。それだけは、ご理解願いたい」

「・・・すぐには判断しかねるな」

 

 だが、俺達への警戒は相変わらず解かない。

 それもそうか。機密事項を何故か知っていてしかもそれに協力すると言っていて、果てにはアーミヤの力にも勘づいている謎の男。

 そりゃ不気味だろう。今すぐ狙撃手に射撃命令を出していないだけラッキーと言える。

 

 なら、矛先を変えてみるか。

 

「実は、その手紙を出したのは私の独断でして。他のメンバー、そしてリーダーであるタルラでさえその内容については把握していないのです」

「それは本当か?」

「ええ。こちらに来る際もそのことでこっ酷く叱られました」

 

 俺の言葉に、思案顔になるケルシー。

 先程のやり取り、事情を把握している俺達と違い、ニアールさんとシャイニングさんとタルラの動き出しが一瞬遅れたのは見ていたはずだ。

 その前の、そもそも取引内容の話に対する反応からも、タルラがこれに関わっていない事に聡明なケルシーなら気付くだろう。

 

 彼女らの注意をレユニオン全体から俺個人へと誘導する。

 そうすればレユニオンへの医療支援は、むしろ不確定要素な俺を縛る鎖になる。取引通り医療支援を行う限り、俺が下手な真似をすることはないと踏んでくれるはず。

 それにどのみち、俺は鉱石病の検査やら治療やらで暫くロドスに滞在することになるんだ。

 身柄を抑えているならケルシー達も安心できるだろう。

 

 だが、それでも首を縦に振るには不足のようで固まったまま動かない。

 アーミヤも、俺にアーツを看破された衝撃から未だ立ち直れていないようだった。

 

(仕方がない、切り札を切ろう)

 

 

「もう1つ、貴方方にメリットを提示できます」

 

 俺の言葉に注目が集まる。

 とっておきだ。存分に食いついてくれ。

 

 

「もし私達と友好な関係を築いた場合、貴方方は()()()()()()()()

 

 

 誰もがその内容に疑問符を浮かべていた。

 ただ1人、その理由に心当たりがあるタルラを除いて。

 

 

「といっても、正確にはその長であるウェイ・イェンウー長官にですが」

「どういうことだ?」

 はっと俺を見るタルラの横に立ち、その肩に手を置く。

 

「彼女、タルラは故あってウェイ長官が長年探していた人物なのです。彼女を保護したと言えばかの豪傑も必ずや報いるでしょう」

「・・なぜ、ウルサスの感染者団体のリーダーを龍門の統治者が探す? そんな話は聞いたこともないが?」

 にわかには信じがたいようで、疑うケルシーに言葉を返す。

「それはこれが龍門の暗部に抵触する恐れのある機密事項だからです。この件は龍門のごく一部しか知らず、その根本にある事件についても闇に葬られました」

 

 言外にこれ以上を知りたいのなら遠慮なく巻き込むと言って反応を伺う。

 

 傍からみれば今回の取引、俺自身がそりゃもうとんでもなく怪しい人物だということ以外はあちらにメリットしかないはずだ。

 抑制剤取引の大口顧客を手にするだけでなく、やりようによってはテラの大地の中でも大国であるウルサスと炎国(龍門)に太いパイプができる。

 

 俺が出来るのはここまでだ。

 後はロドスにそれら全部を飲み込むだけの度量があるか。

 

 

「・・・少し、時間をくれ」

「ええ、どうぞ。こちらとしては、良い回答をお待ちしています」

 

 苦渋に満ちた顔で告げるケルシーに笑顔で答える。

 

 彼女らが内々で話している中、俺をじっと見つめる視線があった。

 

「なんだ?」

「なぜ・・・」

「約束したからな。()()()()()()()()

「! だが、どうして知っているんだ?」

 

 タルラは困惑した顔で俺に問うた。

 

(ま、そりゃそうだよな)

 

 彼女が俺に話したのはあくまで妹が龍門にいるということだけ。

 その家庭の内情や、なぜ引き剥がされたのか。それを俺は知らないはずだった。

 

 本当は、墓場まで持っていくつもりだったんだがなあ。

 だけど、交渉を無事成功させるためにもあと一手が欲しかった。

 それに俺自身、タルラに隠し事をするのがきつくなってきたのもある。

 

 柄にもなく、タルラには俺の全てを受け入れてほしい、だなんて。

 そんな思いが、俺の背中をそっと押した。

 

「タルラ」

「なんだ?」

 

 俺の呼びかけに答えるタルラ。彼女の方を向けば、真っ直ぐな瞳が俺を写していた。

 そこには俺自身への疑念や不信なんて一切ない。

 ただ純粋に、知りたいという思いがそこに込められていた。

 

 その瞳の輝きに、安心した。

 

「言ってなかったことがあるんだ」

「それは、私もだ」

「だから、色々片付いたら、話がしたい」

「だめだ」

 

 ・・・この流れで拒否る?

 

 

「今夜話せ。幸い、時間はたっぷりとある」

 どうやらもう我慢ならないらしい。

 拒否しようにも、逃がさないとでも言わんばかりの眼光が俺を捉えていた。

「・・・お手柔らかに」

 

 

 

 俺の今日の睡眠時間にさよならグッバイしていると、話し合いが終わったのかあちらから声がかかる。

 だが、その相手は今まで沈黙を貫いていたアーミヤだった。

 

 

「イグナスさん。私は貴方の言葉に、嘘偽りはないと確信しています」

「それはよかったです」

「だからこそ、教えて欲しいんです」

 

 俺を正面から捉えている。

 アーツを使われた感覚はない。

 それでも気圧される。

 

 あの瞳、見たことがある。

 覚悟を決めた人間の瞳に宿る、高潔な光。

 

 そうだよな、アーミヤ。

 俺も、画面の外からだけど、よく見ていたよ。

 

 君はそうやって色々な人に手を差し伸べ続けた。

 その手から零れ落ちたものばかりだったけど、それでも何度だって立ち上がった。

 

「貴方はどうして、そこまでするんですか?」

 

 なら、それに応えるのがかつてドクターだった者(オレ)の、そして今ともに戦う同胞の義務ってもんだ。

 

 

「今度な、レユニオンの奴らに子どもが生まれるんだ」

 

 俺がキューピットになったカップルの1組だ。

 当然彼らは感染者同士。生まれる子も鉱石病を引き継ぐだろう。

 本来祝福されるべきその子は、生まれながらに呪いを背負うことになる。

 

 それでも、生みたいのだと。

 愛して、育んで、そしていつか巣立ってほしいのだとそう言っていた。

 

「生まれてくるその子に、今生きている仲間達に、そしてどこかでまだ助けを求めている感染者達に、俺は幸せな未来があるんだってことを教えてやりたい」

 

 アーミヤは俺の右目を見た。

 そこにある黒い煌めきに、アーミヤは俺に覚悟を問うた。

 

「鉱石病を患っても、ですか?」

「関係ねえよ」

 

 アーミヤを、ケルシーを、その傍に控えるニアールさん達を見返す。

 頼もしい仲間に、俺は笑顔で断言する。

 

「それにお前達がいつか、鉱石病に効く薬を開発してくれるんだろう?」

 俺の自信満々の言葉に、彼女らは開いた口が塞がらないようだった。

 

「どうして、そこまで私達を、信じてくれるのですか?」

 

 知ってるからだが、言えるわけもない。

 だからこそ、俺の口からは慣れ親しんだ文言がするりと出た。

 

「商人だからな。人を見る目はあるんだよ」

 

 そう言ってアーミヤに近づき、手を差し出す。

 

「色々思うところはあるだろうが、俺達はこの広い大地の上で同じ景色を夢見る数少ない同志だ。仲良くやっていこうぜ」

 

 差し出された手を見るアーミヤ。

 未だその手は差し出されず、しかし躊躇いながらもぴくりと動いたのを俺は見た。

 

()()()()()()()()()()

「!」

 

 俺の顔を見上げるアーミヤ。

 やがて僅かに笑みを浮かべた彼女は、俺の手に彼女の手を重ねる。

 

「アーミヤ」

「大丈夫です、ケルシー先生。彼は、信用できます」

 

 注意するようケルシーが声を掛けるが、それに自信をもってそう返す。

 ほんと、我らがCEOは頼もしい子だ。

 

「よろしく頼む」

「はい。タルラさんも、これからはよろしくお願いします」

「ああ。よろしく頼む」

「細かい話は後にしよう。契約書を書こうにも、ここじゃ風で吹っ飛んじまうからな?」

 

 そうですねと俺の言葉に微笑むアーミヤ。

 

 こうして無事、俺達の運命を決める会談は成功に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 風がたなびく甲板の上、私は一人離れた場所で耳元の無線機に手を伸ばした。

 

「ケルシーだ」

「どうだい?」

「彼自身に敵意はないと判断した。警戒態勢を解け」

「了解した」

「まあ効果があったかは微妙なところだけどね」

 

 事前に待機してもらっていた2人に撤退の指示を出す。

 もしもの場合、射撃してでも彼を捕らえるつもりだったがそれも無駄に終わった。

 1人は指示を聞き、その場を離れる準備を始めたのに対し、もう1人は所感を呟いた。

 この場では一番古株のエリートオペレーター、Outcastの言葉に疑問を覚える。

 

「どういうことだ?」

「あの坊主、どうやら私達に気付いていたみたいだよ」

 

 その言葉に、あり得ないと答える。

 

「馬鹿な。1キロ先の、しかも複雑な構造の合間を縫ってだぞ?」

 

 待機していたサルカズのエリートオペレーター、Scoutも不可能だと断じる。

 こういった遠距離狙撃に関してはStormeyeの方が専門だったが、彼らにとっても不可能ではない。

 そんな彼の意見に対し、より経験豊富なサンクタの女傑はこう述べた。

 

「目がね、合ったのさ」

「・・・奴は鉱石病で視力が落ちたんじゃなかったのか?」

 

 作戦決行前、検査で測定されたデータには事前に目を通していた。

 常人には不可能、いや超人でも事前に知らされでもしない限り気付くことはないだろう。

 

 だが、彼女のこういう意見は外れたことがない。

 

「そうか。それも含めて、考慮しておく」

「私はいい男だと思うけどね? このご時世中々いない好青年さ」

「・・・・」

 

 彼女の言葉に答えることなく無線を切る。

 

 私はデッキの手すり近くで話すアーミヤとイグナスという青年に目を向けた。

 彼女らの距離はかなり縮まったようで、あわあわとするアーミヤをイグナスが揶揄っているようだった。

 その姿は、どこにでもいる陽気な青年だった。

 

(よくわからん奴だ)

 

 あの日のことを思い出す。

 

 今から数週間前、ペンギン急便から荷物が届いた。

 渡されたのは手紙が一通だけ。しかもロドスの責任者に直接渡してほしいと依頼されたらしかった。

 毒や爆発物の類は検出されず、表にあるのは差出人の名前だけ。

 だがいざ中身を読んでみれば、それらの方がまだ良かったと認識を改めた。

 

 アーミヤ含む一部にしか共有されていない、ドクターの救出任務が漏れている。

 しかも、彼が眠っているウルサスの地に。

 

 すぐにエリートオペレーター含む幹部を招集し対策を練った。

 そしてまずは要求に従おうという事になり、ニアール達を向かわせてみればさらに事態は思わぬ方向に進んだ。

 

 ここに来る前、医療部から上がってきたカルテに目は通した。

 そのあまりの内容に、医療オペレーターの目の前で顔を顰めてしまったのは失敗だった。彼女からはまた気難しい女だと思われてしまう事だろう。

 だがそれも仕方がない。合わせて読んだニアールからの報告書もあって、彼という人物が掴めなかった。

 

 非感染者にも関わらず、感染者の自衛組織に継続的に力を貸しその補給面を支えてきた人格者。

 仲間内からの信頼も厚く、本人も商人として有能だった。

 

 そして、仲間の1人を救うため、自ら感染者となったと。

 

 1人の医者として、彼の行動に思うところは多々ある。

 それでもOutcastの言葉通り、この世界にまだそんな人間が存在したのかと言えるほどの人格者だ。

 いっそ、異常なほどに。

 

 だが、彼があの手紙でこちらを半ば脅迫してきたのも事実。

 その意図を直接探るため会って話をしてみれば、アーミヤの力すらも知っているようで彼の危険性は益々増した。

 

(あれはさすがに肝が冷えたな)

 

 結局分かったのは、彼が報告書通りの人格者であること、そして私達について予想を遥かに超えるレベルで知っているという事だ。

 

 どう扱うべきか、未だに悩んでいる。

 アーミヤは既に彼に心を開いているようだが、その分私がしっかりしなければ。

 

 幸い、彼以外は救出作戦のことについて知らない様子だった。

 しばらくは鉱石病治療のためここに滞在する予定だし、手綱はこちらが握っている。

 今思えば思考を誘導されたようにも感じるが、今のところ問題はない。

 滞在期間中、じっくりと話を聞かせてもらえばいい。

 

 

 今後のことについて思考を巡らせていると、アーミヤがこちらにやって来た。

 

「お待たせしました、ケルシー先生」

「アーミヤ。あまり彼に心を許すな、危険だ」

「ごめんなさい。それでも」

 

 アーミヤは来た道を振り返る。

 そこには、タルラという龍人と一緒にニアール達と談笑する彼の姿があった。

 

 まるで何年も一緒にいたかのように、彼の姿は馴染んでいた。

 

「なんだか、他人と思えなくて」

「・・・・・」

 

 正直なところ、それは自分も感じたものだった。

 あの時の、信じていると語った彼の表情。

 曇り一つなく、心の底から信頼している者にみせるあの眼差しが、頭から離れなかった。

 

「やはり彼も、私と似た力を持っているようです」

「! 本当か?」

「はい。先程、イグナスさんが自ら教えてくれました」

 

 齎された情報に困惑する。

 なぜ自ら話した? 奴の狙いは何だ?

 

 だが、打ち明けられた本人はあろうことか笑みを浮かべていた。

 

「アーミヤ?」

「ふふ、すみません。でも、ケルシー先生が考えているようなことはないと思います。ただイグナスさんは、人生の先輩として、助言をくださっただけです」

「助言だと?」

 

 ええ、とアーミヤが頷く。

 

『どんな力だろうが、それは振るう者次第だ。その経緯や意志まで背負うのは悪くねえが、自分自身の気持ちを見失うなよ?』

 

 そう彼はアーミヤに語ったらしい。

 

 余計、分からなくなった。

 

 今の言い方、恐らく魔王の力の経緯についても知っている。サルカズでもないのにだ。

 だが理性が明らかな警鐘を鳴らしているにも関わらず、心の奥底では彼を敵だと思えない。

 

 結論として、やはり今後も見極めていくしかないのだろう。

 悩みの種が増えたが、彼らがこちらに協力的ならば救出作戦の成功率が上がることも事実。

 うまくやるしかないだろう。

 

 先にロドス艦内に戻る彼らを、アーミヤが追う。

 彼女を待って振り返る彼に、一瞬あの男の姿が重なった。

 

「!」

 

 だが目を再び開けば、そこにいるのは顔の右半分を源石が覆ったウルサスの青年だった。

 顔を覆うマスクもフードも、そこにはない。

 

「・・・あとで仮眠をとるか」

 

 ここ数日働きづめで疲れているのだろう。休息をとればこの違和感も解消する。

 

 彼らの後を追う。

 既にアーミヤは決心した。彼らを信じると。

 

 ならば私にできることはそう多くない。

 

 この出会いが、良きものとなることを願うだけだ。

 

 

 





 とある2人の会話

 会談も無事に成功し、俺は緊張で重くなった胃を休めるため1人黄昏ていた。

 ほんっとうに冷や冷やした!
 俺の交渉如何によっては仲間になるどころか全面戦争ものだったし、そうなれば物語が始まる前に終わっていた。

 最後にアーミヤちゃんが俺の言葉に納得してくれたから良かったものの、ケルシー先生だけだったら間違いなく突っぱねられるかヘッドショット決められてた。

 感じる悪寒に身震いしていると、後ろから誰かが近づいてくる気配がして振り返る。
 そこにはアーミヤがいた。
「おう、お疲れさん」
「いえ、お気遣いいただきありがとうございます」
「改めて感染者自衛組織レユニオン・ムーブメント幹部のイグナスだ。これから仲良くしようぜ、CEO」
「はい! 改めて製薬会社ロドス・アイランドCEOアーミヤです。若輩者ですが、よろしくお願いします」

 相変わらず固いな。

「喋り方・・」
「ああ、こっちが素でな。一応商人だからあれは余所行きの口調。フランクでいいだろう?」
「ふふ。はい、なんだかエリジウムさんを思い出します」

 俺をあのロドス1の三枚目陽キャと似てると申すか。
 だがそう言って口元を隠すその笑顔は年相応で、なんともかわいらしい。
 誰だよ前世でこの子の顔が曇るのが癖とか言ってたやつ。パトリオット殴りこませるぞ?
 
(でも実際、そうなってたかもしれないし、これからもその可能性はあるんだよな)

 レユニオンが仲間になったことでロドスももっとできることが増えるだろうし、少なくともチェルノボーグ事件で多くの仲間を失ったりはしないだろう。

 だが、テラの大地はそんなことお構いなく万人に試練を課す。

 俺の原作知識が万能でないことはこの間の皇帝の利刃の件で思い知ったし、既に暗躍している勢力も存在する。
 だからこそ、相変わらず多くの苦難を乗り越えなければならないこの少女に、何かしてあげられないかと思った。

「さっそくで悪いんだが、さっきのあれだ」
「? なんのことですか?」
「・・・あんたも、人の中身が視えちまう性質か?」
「! ・・・はい。イグナスさんも、なんですね」
 長い沈黙の末、彼女は俺に話してもいいと思ったようだ。

「あんま気にすんな。色々と苦労があるだろうが、視えすぎるからって全てに手が伸ばせるわけでもねえ」
「ですが、私は託されました。今まで多くの人に繋いでもらって、ここまで生きてきました。なら、私にはそれを背負う義務があります」
 そう言う彼女は先程と同様、覚悟の据わった目で断言した。
 まだ成人もしていない、ただの少女が。

 ほんとこの世界、どいつもこいつも重すぎるんだよ!
 そりゃ命が軽いなんてもんじゃない詰みかけの世界だなんだ言われてたアークナイツだが、それでも責任だ使命だ背負ってばかりで悲しすぎんだよ! 少しは楽しいことに目を向けろや!

「気負い過ぎだ。自分のするべきこと、したいこと。両方ちゃんとわかってれば合格点だ。あとは趣味だとか、次の休日何しようだとか、そういったものにもしっかり目を向けな」
「ですが」
 口答えする生意気な後輩の頭に手を置いてわしゃわしゃとかき混ぜる。
 ぼさぼさになった髪で呆然と見上げた彼女に、しっかりと教えてやる。

「それは必ず、お前をまた立ち上がらせてくれる」

 俺よりだいぶ下から見上げてくる瞳に、俺はどう映っているだろうか。
 どうか今だけは、少しは威厳ある大人に見えててほしいもんだ。

 人間戦ってばかりだと疲れるからな。
 たまには息抜きして、労わってやらんと体も心も持たん。

 だからアーミヤちゃん。ドクターに「まだ休んじゃだめですよ?」なんて言わないであげてね?

「イグナスさんは、もうわかっているんですか?」

 乱れた髪を整えながら、アーミヤが聞いてきた。
 自分のするべきこと、したいこと。自分の目標、そして守りたいもの。
「おう。全部あそこにある」
 視線をアーミヤから外す。彼女は今もニアールさん達の輪に入り朗らかに談笑していた。
 凛々しく咲くその笑顔に、彼女が愛しいと再認識する。

 アーミヤは俺の視線をたどり、その先に何があるのかを悟って数秒後ほんのりと頬を赤らめながら呟いた。

「・・・いいなあ」
 羨むその声に、俺のカプ厨センサーが反応する。
「お? 何アーミヤちゃん好きな人いるの? いいじゃん俺大好物だよそういうの! 相性占ってあげようか?」
「い、いえ。そういうわけではなく!」

 慌てふためく彼女は、やっぱりどこにでもいる普通の女の子だった。
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